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「おい、そっちはどうだ」
「む、無理です師範…」
壁を押してプルプルと震えながらそう言った継子に、宇髄は小さく溜息を吐いた。
鬼の血鬼術により、箱に閉じ込められた宇髄と継子の鴾。
任務で共に行動していた二人は鬼を斬って一息付いたところを、気配を隠すのに長けた別の鬼により、攻撃を受けてしまった。
どうやら閉じ込めること以外の能力は無いらしく、二人が弱るのを待つつもりの鬼は何処かへと行ってしまった。
まさかの展開に不甲斐ないと宇髄が溜息を吐くと、鴾も同じことを考えていたのか溜息を吐いていた。
「虹丸がすぐに飛んでったから、今は待つしかねえな」
それにしても硬いなこりゃ、とコンコンと壁を叩く宇髄から、鴾は視線を逸らす。
(いやいやいや、いくらなんでも落ち着きすぎて困るんですけど)
鴾は再び出そうになった溜息をグッと我慢した。
箱に閉じ込められた今の体勢、ご存知ですか?
胡座を組む師範の足の上に、跨るように私が座っているんですよ。
わかりますか?この密着度が!!
しかも付け加えるならば、私の隊服はあれだけ変えろと言っているのにも関わらず、変えてもらえずスカート型となっている。(流石に恋柱様ほど短くはない)
要するに、狭い密室で、男女が、近い距離で、しかも女の方はスカートが若干捲れ上がっているにも関わらず…目の前の男は平然としている!!!少しは意識してよ!
……はい、ここまで言えばわかりますよね。
私は、師範である音柱の宇髄天元様をお慕い申しております。
あ、だからといってどうこうなりたいとかないですよ?
雛鶴さん、まきをさん、須磨さんという美人なお嫁さんが三人いて、その三人に全力で愛を注いでいる様子を見ているだけでお腹はいっぱいだ。
そこに入りたいなんて気持ちは、微塵もない。
いやこれ本当に。
三人のお嫁さんに可愛がられて、師範に稽古をつけてもらう。
これだけで十分だ、でも想い慕うだけなら…誰の迷惑にもならないから、いいでしょ?って考えだ。
それとは別で、今の状況に平然としている目の前の男に少しムッとしてしまうのは仕方がない。
どんな相手であれ、よっぽど嫌ってないならば少しくらいは気になるものだ。
なのに、無、無なのだこの男。
女として見られていない事に関してはわかっていたが、微塵も気にされなければそもそも女としての自信を無くしてしまいそうだ。
まあ…別にいいけれどもと鴾は小さく息を吐くと、宇髄と同じように周りを見渡す。
(本当に硬い壁…日輪刀ならどうにか出来そうだけど、そもそも抜けそうに無いしなぁ…)
そう考えた後、ハッとして宇髄を見る。
「師範、何か隠し道具とかないのですか?」
「悪いが無いな。今日は全部置いてきた」
「なんと…」
「そういうお前は持ってねぇのか?」
そう言われて自分の体に触れる。
元忍である四人は、身体中に暗器を仕込んでいる事が多い。
自分も色々と教えてもらい、暗器を持ち歩くようにしたのだ。
藤の花の毒を塗ったクナイとか、かなり便利だ。
いつも隠している襟周り、胸元、袖、腹部などを触るが、何も入ってなかった。
「今日は忘れたみたいです…」
「派手に使えねーな」
「むっ!それは師範もですよね?」
笑う宇髄をキッと睨むと、ぽんっと頭を撫でられた。
「そう怒るんじゃねえよ」
「全く…師範は頭を撫でれば私の機嫌が治るとでも思っているんですか?」
いつもいつも子供扱いして…と言いながら自分の足の上に手を置いた時、ゴリっと硬い感触があった。
「……えっ?」
「あん?どうした」
「なんか、持ってるみたいです」
そう言って手を伸ばそうとして、ピタリと止めた。
硬い感触から恐らくクナイか何かなのだが、スカートの中にソレは仕込んでいる。
スカートを捲るわけでは無いが…中に手を入れて取るところを見られるのは、少しばかり恥ずかしい。
というか、なぜ唯一ここにだけ仕込んでたんだ私…
「師範、少し目を瞑ってください」
「何だ?誘ってんのか?」
「こんな時になに言ってるんですか!」
鴾が顔を赤くして声を上げると、宇髄はくくっ…と笑った。
「派手に顔が赤いぞ」
「もう、師範!」
揶揄ってくる宇髄に声を大きくすると、するりと足を撫でられる感触がした。
「ちょ、師範!!」
「あ?」
「あ?じゃなくて、何してるんですか!」
撫でられる感触、というか実際に撫でられていた。
慌てて宇髄の手を止めると、何をするんだと言いた気な視線を向けられた。
「なんか持ってんだろ?それ取ろうとしただけじゃねえか」
「いやいや、自分で取りますから!」
「まあ遠慮すんな」
いや遠慮も何も本当に恥ずかしいからやめてほしい。
抵抗虚しくスカートの中へと侵入してくる手に、ぞわりとする。
「師範、ほんと、に…自分で取りますから…」
殆ど抵抗になっていないが止めようと宇髄の手を押さえると、侵入してくる手は止まった。
「だったら、早く取れよ」
「うっ…」
本当は目を瞑って欲しいが、仕方ない。
鴾はスカートの中へと手を入れると、足に巻きつく帯革に触れた。
それをパパッと外して取り出すと、鴾はパアッと笑みを浮かべた。
「師範!」
「ああ。ちゃんと持ってて偉いな」
相変わらずの子供扱いが少し腑に落ちなかったが、まあいいかと手にした物を見る。
ちょうど、さっきも思い浮かべていた藤の花の毒を纏わせたクナイだ。
血鬼術に効くかはわからないけれど、試す価値はありだ。
「師範、お願いします」
自分より力の強い相手に渡した方がいいだろうとクナイを渡すが、宇髄は受け取らなかった。
それに首を傾げていると、また足を撫でられる感触がした。
「ちょっ…!師範、何して…!」
「いやー、そういや嫁達からお前に聞いて欲しいって言われてた事があったのを思い出してな」
「それ、ここを出てからでもいいですよね?!てか、手!手を止めてください!」
撫で続ける手にゾワっとした感覚が背を走ってこれはやばいと思い目の前の男を睨みつけるが、ニヤニヤと笑っているだけだった。
「出てからだと、多分お前は派手に逃げるからな。今ここで聞く」
そう言うと、グイッと顔が近付いてきて鴾は慌てて仰反るが狭い箱の中。
直ぐに行き詰まってしまう。
「お前、俺の嫁に来る気はあるか?」
顔同士が触れてしまうような距離まで近付かれ、ギュッと目を瞑ると聞こえた言葉に、鴾は驚いて目を開いた。
「………はっ?」
「あ?この距離で聞こえてないのか?どんだけ耳悪いんだよ」
「いや、聞こえましたけど…今、何を言ったか分かってるんですか?」
そう問い返すと「分かってるに決まってるだろうが」と言われて鴾は混乱する。
「えっと…お三方が聞いて欲しいと言った内容と、今の言葉、どう繋がるんですか…」
「お前、俺の事を派手に好きだろ?」
言われた言葉に、カチリと体が固まる。
その様子を見て、宇髄は面白そうに笑った。
「あの三人も俺も、お前のことを気に入ってる。いや…ちゃんと言わねぇとダメだな。お前の事を好いている。嫁にこい。あいつらもそれを望んでいる」
あいつらが聞きたいことは、嫁に来る気はないか?だってさ。お前なら四人目に迎え入れてもいいと。
そう言った宇髄の言葉を、鴾はすぐに処理出来なかった。
(…え?そもそも私の気持ちがバレてたのも問題だけど、嫁?嫁にこい?気に入ってる?好いてる?ちょっと意味がわからない)
完全に固まってしまった鴾に宇髄はニヤリと笑うと、止めていた手を再び動かして、あろう事か首をちゅうっと吸い上げた。
「ちょっ、師範!待った!」
慌てて肩を押し返すと、宇髄は「で?どうすんだ?」と楽しそうに見上げてくる。
「いや、どうすんだって…」
「俺もあいつらもお前のことが好きだ。お前も俺のこともあいつらのことも好きだ。問題無いだろ?」
「そ、それは…」
足を撫でる手が止まらなくて、相変わらず背筋がゾワゾワする。
「ほら、決めろよ。無理強いはしねえよ」
そうは言いつつも、こちらを見る目は「逃がすつもりは無い」と言っていた。
「どうすんだ?」
そう問われるものの、もう答えは決まったも同然だった。
「師範達の…天元様のお側に、いたいです」
「おう。俺に派手に愛されな」
宇髄はニイッと笑うと、鴾に口付けた。
「んっ、師範…」
軽いものではなく、舌を吸い上げられて口内を好きなようにされる。
息も絶え絶えに宇髄にもたれ掛かると、頭を撫でられた後にクナイを取られる。
「じゃ、お前も無事に嫁になることだし、さっさと帰るか」
そういうと、宇髄は壁をクナイで壊した。
呆気なく壊れた壁にぽかんとしていると、異変に気付いた鬼が戻ってきたが、簡単に頸は斬られた。
宇髄に抱き上げられていた鴾は近くの石の上に座らせ、てきぱきと指示を出す宇髄を見ていた。
(も、もしかして…)
あの人、はじめっから血鬼術を破れたんじゃ……?というか、私がクナイを持ってるの気付いてたんじゃ…?
そう考えていると、パチっと目があった宇髄がニヤッと笑った。
その笑みは、鴾の考えている事を全て見通しているかのようだった。
鴾はその様子にバッと立ち上がると、指をさして大声で叫ぶ。
「師範!!!私のことハメましたね!」
「ああ?ハメるのは今日のよ「そういう事じゃなくて!」
とんでもない事を言おうとしたので顔を真っ赤にしながら遮る。
「どこから!?どこからですか!?まさか鬼もですか!?」
「んなわけねえだろ。そうだな…」
騒ぐ鴾に近寄ると、宇髄はバッと抱き上げる。
それに「ぎゃっ!」と声を上げる鴾に笑いながら、隠に「後は頼んだ」と告げると地を蹴った。
「師範!いつからだったんですか!!」
「あー、教えてやるから少しは静かにしろ」
宇髄はそう言うと、鴾に先程のクナイを見せた。
「そもそも、この俺様が暗器を持ってないなんてのがおかしいだろ?」
本当は、ちょーっと怪我でもしてお前に看病してもらってる間に丸め込もうと思ってたんだがよ。
その言葉に鴾は一瞬固まった後、深い溜息を吐いた。
(なるほどなるほど…皆さん、共謀してたんですね)
ズキズキと痛む頭に手を当てると、額に柔らかい感触が触れた。
それに上を向くと、すぐそこには師範の顔。
「もうすぐ“俺達”の家だ」
笑うその顔は、相変わらず格好が良くて、頬が熱くなる。
「……ほっとかないでくださいね」
「いやってほど構ってやるから、安心しろ」
そう言った宇髄に頷くと、胸に頬を寄せた。
END