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鴾は困っていた。
上司、及び想い人である男の顔が眼前にあり、離れようにも身動きが出来ずに距離が取れない状態だったからだ。
「よもや…これはしてやられたな」
そう呟いたのは炎柱である煉獄だった。
「炎柱様、申し訳ございません…」
「いや、俺も油断していたのが悪い。そう気に病むな」
眉尻を下げて言った煉獄に申し訳なくなり、鴾はもう一度「申し訳ございません…」と呟いた。
今、何が起きているか、簡単に言えば私達は鬼の血気術によって閉じ込められていた。
柱も同行する事になった何名かとの合同任務。
鬼の強さは疎らだが、如何せん数が多く山全体に鬼が潜んでいるとの事で柱も駆り出されたのだ。
群れる事を好まない鬼が群れているなど珍しい事もあり、二人一組で行動していたこの任務で、私は炎柱である煉獄様と行動をしていた。
順調に鬼達の頸を斬り、任務は問題なく進んでいた。
すぐに終わりそうだと思っていたら別の隊士の鴉が助けを求めながら飛んできて、顔を見合わせると煉獄様と鴉が案内した場所に向かった。
辿り着いた場所には、大小様々な大きさの箱が点在しており、鬼の血気術かと警戒しながら辺りを見渡していると、煉獄様の足元に四角い枠が現れたのが目に入ったのだ。
「炎柱様!」
「むっ!」
慌てて煉獄様を助けようとその背を押したが、枠は大きくなり壁が現れて二人纏めて四方を囲まれてしまった。
やばいと、閉じ込められる前に飛びあがろうとしたが時すでに遅しで上空にも壁が現れた。
ならば壁を斬りつけるしか無いと刀を抜こうとしたら急に壁が迫って来て、あっという間に二人して箱詰め状態にされたのだ。
その結果、冒頭でも言ったように密着した…困った状態に陥っていた。
「くっ…びくともせんな」
壁を押している煉獄の言葉に、鴾もすぐ横の壁を押してみる。
全く動かない壁に苛立っていると、外から笑い声が聞こえた。
「ケケケ!捕まえた捕まえた!また鬼狩りを捕まえた!」
聞こえてきたのはこちらを嘲笑う声。
恐らく血気術を使った鬼だろう。
「他の鬼狩りも捕まえよう。捕まえて弱らせて、頭から食ってやる!!」
楽しそうな声でそう話しながら去って行く気配に溜息を吐くと、ちらりと煉獄を見た。
「ふむ…隙間もなく、強度もかなりのものだ。この狭さでは刀も抜けそうに無い。君はどうだ?」
「……すみません、抜けそうに無いです」
何とか刀を抜いてみようとするが、壁に当たって最後まで抜けなかった。
「そうか」と煉獄の言葉を聞いた後、鴾は顔を逸らした。
壁に背を預けている鴾の足の間に煉獄の体があり、煉獄は鴾の顔横に手をついて体が引っ付いてしまわないように気を付けてくれていた。
それでも、距離は近い。
改めて言うが、今眼前にあるのは想い人の顔なのだ。
相手は勿論そんな事は知らないし、照れている状況でも無いのはわかっているが、そこは許して欲しい。
兎にも角にも、状況的にも気持ち的にも大変困ったこの状況を、何とか打破したい。
鴾が小さく息を吐いて体をもぞりと動かしたとき、背にゴリッと何かの感触がした。
「……あっ」
「どうした?」
「あの、背に…小刀を仕込んでいるのを忘れていました」
「なんと!」
笑みを浮かべた煉獄に鴾は頬を赤くしながら「すぐに思い出せずに申し訳ございません」と告げると、腕を動かす。
が、今の体制では上手く小刀が抜けそうになかった。
鴾は視線をキョロキョロと動かした後、申し訳なさそうに煉獄を見上げた。
「炎柱様。申し訳ございませんが…上手く抜けそうに無いので、刀を抜いていただいて良いでしょうか?」
「うむ。それでは失礼する」
そう言って煉獄は片手を鴾の背に回す。
「腰の少し上辺りにあります」
その言葉に従い煉獄が手を動かすと、一瞬手が体に触れた。
その感触に鴾は「ひぇ…!」と大袈裟に体を揺らしてしまい、煉獄は目を丸くした。
「も、申し訳ありません…」
は、恥ずかしい…変な声が出た…
鴾は顔を真っ赤にして目をギュッと瞑った。
(よもや…)
その反応に困ったと眉尻を下げたのは、煉獄だった。
直向きに鍛練を行い、実直に任務と向き合い、礼儀も正しく周りからも評判のいい彼女を煉獄はかねてより好ましく思っていた。
そんな彼女の可愛い反応を目の前で見せられたのだ。
柱である前にただの男である煉獄の中で、もっと見てみたいという気持ちが膨らんだ。
(こんな状況で、何を考えているんだ)
煉獄が自分の中の煩悩を振り払おうとしていると、「炎柱様…?」と上目遣いでこちらの様子を窺う鴾に、煉獄はピキリと体を固まらせた。
固まってしまった煉獄に困惑したのは鴾で、どうしたのかと考える。
(変な声を出してしまったから…煉獄様の気分を害してしまったのかな…)
やっぱり自分で小刀を抜こうと腕を動かすが、上手く腕を回せずにやはり抜く事は叶わなかった。
「あの、炎柱様…少し、失礼致します」
そう言って体を少しだけ倒して体制を変える。
(あ、これならば腕が回りそうだ)
鴾が良かったと小刀を手に取った時、トンっと体を押されて壁に背がついた。
「……炎柱様?」
この状況で自分を押せるのは目の前の煉獄のみで、どうしたのかと視線を向ける。
「…すまない」
「えっ?」
煉獄が一言謝ったかと思うと、鴾の目の前には煉獄の顔があり、唇には柔らかな感触があった。
あれ?私今口付けされてる…?と考えているうちに煉獄の顔が離れた。
(やってしまった)
煉獄は目の前でぽかんとしている鴾を見て、己がした行為に頭を抱えた。
小刀を取るために体を動かした鴾。
距離が近付いた時に自分の鼻を彼女の甘い匂いが掠め、気付けばその唇に触れてしまった。
「あ、その、炎柱様…今……」
ハッと我に帰った鴾は、顔を真っ赤にして胸元で小刀をぎゅっと握りしめた。
その様子に胸がきゅうと締め付けられる感覚がして、それと同時にもう一度唇を合わせたい欲に煉獄は駆られる。
「君。いや…鴾。こんな状況で言うことでは無いのはわかっているが言わせてくれ。俺は君を好ましく思っている」
「え?へっ…!?」
突然言われた言葉に更に顔を赤くする鴾に思わず笑みが溢れる。
「君はとても愛いな…嫌でなければもう一度だけ…触れさせてくれないか?」
「あ、あの…」
忙しなくなる視線と様子に落ち着くのを待っていると、チラリと視線を向けてきた鴾が「私も…炎柱様のことを、お慕いしております。触れられるのも…嫌ではないです」と告げた。
その言葉に煉獄は笑みを浮かべると、その頬に触れた。
「名を呼んでくれ」
「れ、煉獄様…」
まあ、今はそれでいいだろうと煉獄は笑みを浮かべると、顔を近付けた。
目の前に迫った煉獄の顔に、ギュッと目を瞑る鴾が可愛くて、はじめは触れるだけだった唇を、軽く食むとピクリと肩が震えた。
その様子に可愛いと唇を何度か合わせた後、名残惜しそうに顔を離した。
「煉獄様ぁ…」
顔を赤くして肩で息をしながら見上げてくる鴾に煉獄はゴクリと唾を飲んだ後、頭を振って鴾が胸元で握り締めている小刀に触れた。
「…貸してもらえるか」
その言葉に頷いて煉獄に小刀を渡すと、鞘から刀を抜く。
「むっ、これはもしや…」
「はい、日輪刀と同じ玉鋼で出来ています」
これはこれはと小刀を眺めた後、煉獄は壁へと小刀を突き立てた。
炎の呼吸を使い、ガッと斬られた壁は崩れ去った。
「な、なにぃ!!!」
壊れた箱に驚いた鬼は隙だらけで、地を蹴った煉獄に一瞬で頸を斬られた。
鬼が塵となって消えた後、あちこちにあった箱は崩れ、中からは意識を無くした人達が解放された。
山に散っていた隊士達も他の鬼を倒したらしく、任務は終わった。
(…誰一人欠けることなく、無事に終わってよかった)
鴾はそう考えながら、先程のことを思い出して唇に触れた。
(私、煉獄様と…)
顔が熱くて頬を手で覆うと、ぽんっと頭に手が置かれた。
顔を上げると、隠に指示を出し終えた煉獄が目を細めてこちらを見ていた。
「鴾」
「は、はい!」
「そう緊張するな」
ピシッと背筋を伸ばした鴾に煉獄は笑うと、そっと手を取った。
「もし君に時間があるなら…この後、少し付き合ってくれないか?……先ほど君に告げたこの気持ちを、改めて伝えさせてくれ」
その言葉に鴾は顔を真っ赤にすると、手を握り返しながら頷いた。
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