サクラノツヅキ
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なんとか初日の授業が終わり、桜はホッと息を吐いた。
(やっと帰れる…)
今日1日でどっと疲れた。
いやもう皆が前世の記憶持ちなのは予想ついていたけど、だからって休み時間になるたびに入れ替わりで元新選組幹部が来るのも困ったし、風間達鬼の一族もやってきて言い合いを始めるから気が気じゃなかった。
(これさ…もう普通に登校したくないんだけど)
なんとか一緒に帰ろうとする面々を巻き、家に帰ってきた桜はリビングのソファにどさっと座り込んだ。
「桜、随分とお疲れのようね」
夕飯の準備をしていた母にそう声をかけられ、苦笑する。
(…少しくらいならいいよね)
「いや、なんか…一部変な人がいてさ」
「変な人?」
「そう…会ったこともないのに久しぶりとか、まるで私を知っているかのような口振りで話す人とか、ついでに前世がどうとか言ってたし…」
大きなため息を吐くと、母が困ったような表情を浮かべていた。
「仮にね、例え本当に前世で知り合いだったとして、それ今関係ある?って思っちゃうよね…お母さん達みたいに、親子関係とかだったら違うのかもしれないけれど。知り合いに関しては前世で知り合いだったからと言って今世でも知り合う必要は別にないと思うし、私はそんなの記憶にないから前世ありきで話されても困るんだよね…」
桜は「皆、ごめん!」と思いながらも怪しまれないように母親に話をする。
ただこれは本当の気持ちでもあったりする。
皆、私のことは放っておいて今度こそ千鶴と良い感じになって欲しい。
その様子を見ていた母親は、夕食の準備をしていた手を止めると隣へ来て座った。
「桜…ごめんね」
「え?」
突然謝った母親を驚いて見ると、泣きそうな顔をしていた。
(なんで、そんな…)
再び、ごめんと謝る母親を見ているとそっと抱きしめられた。
なんでそんな表情をするのか、わかったのは日付が変わってからだった。
夜中に目が覚めて、トレイに行こうとした時リビングの明かりがついていた。
そっと中を覗くと、そこには両親がソファに並んで座っていた。
(どうしたんだろうか)
気になっていたが、2人が真剣に話していたからリビングには入らずに声が聞こえる場所に隠れて話を聞くことにした。
「桜を…転校させたのは間違いだったわね。あんなに…困らせるなんて」
「…君だけの責任じゃない。俺も勧めたからな」
そう言い落ち込む母親の肩を抱く父親に、桜は表情を歪ませる。
(お母さん…)
そんな泣きそうな顔しないでほしい。
桜はぎゅっと手を握りしめた。
正直、今まで自分の意見を尊重してくれていた2人が、千鶴の件があったとしてもニコニコと勧めてくるのはかなり不思議ではあった。
(…2人の考えを、聞かないとね)
桜は深呼吸すると、リビングへと足を踏み入れた。
「2人とも」
「桜…!」
驚いたように振り返った両親に微笑むと、2人の前に座って膝に手を置く。
「なんでそんなに悲しい顔してるか、ちゃんと教えて?」
その言葉に2人は顔を見合わせた後に桜の手を取った。
「…ごめんね、気を使わせちゃって」
そう言って笑った母親に、ううんと首を振って笑った。
「…実はね」
話し出した内容は、思わず「あぁ…」と言いたくなる内容だった。
『私たちは前世でも親子で、雪村さんのお家とも縁があって、薄桜学園にいる皆さんはあなたと関わりがあったの』
『今世でもきっとあなたを大切にしてくれると思ったから、転校を勧めたの』
『あなたの気持ちを全然考えてなくてごめんね』
母親の言葉に桜は息を吐いた。
(私を思ってくれてるのはわかってたけど)
前世で大切にしてくれていたからと言って、記憶がない場合はどうなのかということまでは深く考えてなかったみたいだね…
桜は少し痛む頭に手を当てた後、目の前の2人を見た。
(…腹括るか)
目の前で大きく深呼吸を行った桜を、両親は不思議そうに見ていた。
「あのね、2人とも…私……」
前世の記憶があるの。
その言葉に、両親は目を見開いた。
「全く…言うつもりなかったのになぁ」
「桜…記憶があるって、本当なのかい…?」
「……うん。黙っててごめんね」
父親の言葉に、眉尻を下げながらそう言うと母親がガバッと抱きついてきた。
「ああ…そうだったのね」
震えた声でそう言った母親の背中をポンポンっと叩くと、父親をチラリと見る。
「あのね、黙ってたのはね一応理由があるんだよ」
前世は前世、今世は今世と分けて生きたかった。
その言葉に、父親は困った表情を浮かべた。
「私たちは…その思いをうらぎってしまったんだな」
「いやいや、そんなんじゃないから!その…2人の考えもわかったし。はじめから打ち明けていなかった私も悪かったし」
「いや、桜の考えもあったようだし…もっと早く、お互いに気づいて話せておけばよかったな」
そう言って2人で苦笑していると、母親がゆっくり体を離した。
「色々考えてあげれていなくて、ごめんね。そして…また私達の子として生まれてきてくれて、ありがとうね」
母親の言葉に首を振ると、お互いにぎゅっと抱きしめあった。
(…2人には、話したけれど)
他の皆にはどうしようか。
まだまだ考えることはあるなと頭は痛めつつ、喜んでいる両親に今は考えなくていいかと、微笑んだ。
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