お嫁さんになりたい
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宝を見つけてから数日、モビー・ディック号は久しぶりに大きな街のある島に停まっていた。
ログが溜まるまでは3日と短かったが、必要な物を買い出しに行ったり、個人の時間を過ごすには充分だった。
「よしっ、宝でも売りに行くか!」
「おれもおれも!」
甲板でそう楽しそうに話をする船員達を横目で見ながら、エースは自分も宝を売りに行こうと荷物を取りに一度部屋へ戻る。
(あいつも、誰かと街に行くのかなー)
ヒスイの事を考えながら甲板に戻ると、ジェシーとヒスイが2人で話していた。
「それじゃあ、良い子にね」
「うん!」
ジェシーは微笑むとヒスイの頭を撫でて船を降りて行ったり
「あれ?一緒に行かねえのか?」
「わっ!びっくりした…エース君か。うん、私は行かないの。ちょっと用事があって」
「用事?」
エースは聞き返すが、ヒスイは何も言わずにニコニコと笑っているだけだった。
「あ、それよりエース君は早く街に行かなくてもいいの?」
「まあ1人だし急いではねェけど……」
「エース隊長!」
ヒスイと話していると、後ろから誰かに声を掛けられる。
振り返るとそこには、最近よく絡んでくるナースが私服姿で立っていた。
体に自信があるのか、胸を強調し足を曝け出した服装はセクシーさをアピールしており、ヒスイとは全く違うなと考えていると腕を組まれた。
「街に行かれるのですか?ご一緒しても?」
ギュッと、腕に胸をワザと当てるように距離を詰めてくるナースに、エースの口元が引き攣る。
(なんだコイツは…!?)
怪我をするたびに世話にはなっているが、こんな事をする間柄ではない。
正直、困る。
エースが困ってどうしたものかと考えていると、ヒスイは首を捻る。
「街に行かないの?」
「え?いや、行くけどよ…」
「なら、一緒に行ったらいいじゃん!気をつけてね」
ヒスイはそう言って微笑むと、くるりと踵を返して船内へと向かった。
エースがそれに呆気に取られていると、ナースが腕を引っ張る。
「ほらエース隊長、あの子もああ言ってる事だし、行きましょうよ」
「ちょ、おいっ!」
グイグイと引かれ、エースは歩き出す。
一度、後ろを振り返ったがもうヒスイの姿は無く、エースは溜息を吐いた。
あの後、エースはしつこく絡んでくるナースを振り切ると1人で行動した。
宝を売り、手に入った金で美味しいご飯を食べ、酒場で遭遇したサッチ達と飲む。
楽しい時間を過ごしていたが、1人、また1人と人数が減っていることに気付いた。
(ああ、もうそんな時間か)
いつの間にか酒場には女が溢れており、気に入った女を買って宿へと向かったのだろう。
サッチも気に入った女がいたのか、必死に口説き落としているところだった。
それを見て笑うと、エースは立ち上がる。
「おれはもう帰るわ」
「エース隊長、帰られるんですか!?」
「おう。気にせずに楽しんでこい」
女を買ったことが無いとは言わないが、滅多に買わない。
今日もただ、気分が乗らなかっただけだ。
夜も遅くなったが、街にはまだ明かりが溢れており、道が見えなくなるなんて事は無くて安心する。
暫く歩くと海が見えてきて、モビーが目に入った。
家に帰ってきたとホッと息を吐くと、浜辺で火を起こして酒を飲みながら海を見るマルコが目に入った。
「マルコ?」
近付いて声をかけると、少し驚いた様子でマルコが振り返った。
「エース。帰ってきたのかよい。ナースと出掛けたんじゃ?」
「いや、出掛けたっていうか…無理矢理連れて行かれただけだ。途中で振り切ったし」
そう言ってマルコの横に座ると、なんとなく事情を察したのかマルコは笑った。
「で?マルコはここで何してんだ?」
「あぁ…あいつのお守りだ」
「お守り?」と首を傾げると、マルコは海の方を顎でクイッと差した。
マルコが差した方を見ると、海の上に突き出た岩場に、ヒスイが座っていた。
「海を泳いでたみたいでな。はじめはオヤジが見てたんだが、おれが交代したんだよい」
マルコはそう言った後、エースをチラリと見る。
「おれは書類の整頓の為に戻ってきたんだがよ、エースに任せてもいいか?」
「お、おれが書類の整頓なんて出来るわけないだろ!」
「なら、ヒスイの事は?」
マルコの言葉にエースは慌てて手を前に出して無理だとアピールしたが、ヒスイの事を言われて手を止める。
「あいつのことなら…大丈夫」
「なら、任せるよい」
「あ、ちょっと待ってくれ!」
立ち上がろうとしたマルコに少し待てと言うと、エースは立ち上がり船内へと向かう。
自室に荷物を放り込むと、甲板に置いていたストライカーに乗れる準備をしてからマルコの元へと戻った。
「ん、準備オッケーだ」
エースが戻ってくると、マルコは「頼んだぞ」と言って船へと戻って行った。
その背を見送ると、エースはストライカーへと乗り込み、ヒスイの元へと向かう。
少しして音に気付いたヒスイが振り返ると、驚いて目を丸くした。
「エース君…?どうしたの?」
「ん?何してんのか気になってな」
ちょっとそっち寄ってくれと言うと、ヒスイは体をずらす。
空いたスペースに「よっ」と移動すると、ヒスイを見る。
「何してたんだ?」
「私は、海の子達と話してたの。音にビックリして引っ込んじゃったけど」
そう言って笑うヒスイに「悪い…」とエースが謝ると、ヒスイは首を振った。
「多分、私が移動してないのがわかれば危険がない事は伝わると思うよ」
そう言ってヒスイはチャプっと、海の中に伸ばした尾を動かした。
ヒスイはワンピースを腰あたりで括っており、時々見える腹部にドキリとする。
「ねえ、エース君」
頬を赤くするエースに気付かず、ヒスイはエースに問いかける。
「ナースさんとお出かけ、楽しかった?」
海を見ながらそう言ったヒスイに、エースは首を傾げる。
「ナース?」
「今日、一緒にお出かけしたでしょ?」
「あー、いや。すぐに振り切ったよ。別に一緒に行くって言ってねェのに随分強引で困ったぜ…」
はぁ…と溜息を吐いたエースを、ヒスイはチラリと見る。
「じゃあ…1人だったの?」
「ん?そうだな。酒場で他の奴らと会うまでは1人だったぜ?」
そう言うと「そっか…」とヒスイはどこか嬉しそうに言った。
「……なんか、嬉しそうだな」
「えっ!?そそそ、そんな事ないよ?」
顔を背けるヒスイが面白くて、覗き込む。
「何で顔背けんだよ」
「な、なんでも無いよ!」
「隙ありッ!」
パタパタと手を振って顔を見られないようにするヒスイの隙を突いて、顔に手を伸ばす。
ぷにっと片手で両頬を掴むように捕まえると、顔をこちらに向けさせた。
「…真っ赤じゃねェか」
「うぅ…」
恥ずかしそうに視線を泳がすヒスイに、ニッと笑う。
「おれが1人だと嬉しかったのか?」
「それは…その……」
離してと、ペチペチ自分の腕を叩くヒスイが面白くて頬をぷにぷにと弄っていると、ヒスイは諦めたように息を吐いた。
「そりゃ…嬉しかったよ。だって私、エース君の事好きだもん。私以外の女の人といたら…気になっちゃうよ」
ヒスイが白状すると、エースはポカンとした後、ハッと我に返って手を離した。
「私は…勝手にエース君に惚れて、押しかけて。迷惑かけちゃってるなーとは思うけど、エース君の事好きだから、色々気になるの!」
ヒスイは叫ぶようにそう言った後「えいっ!」と海へと飛び込んだ。
「ふふっ。海の中なら手出し出来ないでしょ?」
得意気にヒスイは笑ったが、その頬はまだ少し赤かった。
その姿を見てエースは、可愛いなコイツと頬を緩ませた。
その直後、ハッとして自分の頬を叩く。
「わっ!どうしたの?エース君」
(おれ、今…コイツのこと……可愛いって思った)
見た目の話ではなくて、俗に言う愛しさってやつを感じたかもしれない。
それに…
(自分の側で笑ってて欲しいとも思った)
これは…惚れたってやつかもしれない。
黙り込んでしまったエースが心配になり、ヒスイはエースの足元へと移動する。
「エース君、大丈夫?」
海水の付いた手で触れるわけには行かないからとヒスイは岩場に手を置いて下から顔を覗き込む。
至近距離に現れたヒスイの顔にエースは「だ、大丈夫だ!」と慌てて返事をして体を仰け反らした。
「本当に?ちょっと燃えてるよ?」
言われて自分の体を見ると、確かに少し火が出ていた。
(くそっ…!)
それが照れてしまったからだと自分でわかるから、恥ずかしいものだ。
「あー、大丈夫だから気にすんな!それより、遅くなってきたし、船に戻るぞ」
「うん!」
ストライカーに乗ったエースから少し離れたところをヒスイは泳ぎ出す。
人魚と言うだけあってその早い泳ぎに感心していると、あっという間に浜辺に戻ってきた。
その後は迎えに来たジェシーにヒスイを預けると、自分も部屋へと向かう。
「よお、エース。デートは楽しかったか?」
途中、声をかけられて振り返ると笑うマルコがいた。
片手にマグカップを持っているから、コーヒーでも用意していたのだろう。
「デートって…」
「あいつにしてみりゃデートさ」
そう言って隣を通り抜けようとしたマルコを呼び止める。
「そういやさ、あいつに街に行かないのか聞いた時、用事があるって言ってたんだけど、なんかあったのか?」
「ヒスイは教えてくれそうになかったんだよなぁ〜」と昼の事を思い出しながら尋ねると、マルコは「あぁ…」と何かを思い出した後、首を振った。
「おれの口からは言えねェよい。あいつのプライベートな事に関わるからな」
「プライベート?」
「…お前になら、そのうち教えてくれるかもな」
マルコはそう言うと、手を振って去って行った。
残されたエースは頭にハテナを浮かべていたが、考えてもわからなかったのでとりあえず部屋へと戻った。
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