お嫁さんになりたい
名前変更
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「エース君、おはよう!」
「おう、おはよう」
「今日は何するの?」
翌日からヒスイは白ひげの船で手伝える事をしながら、エースを見かけた時や、自分の空き時間とエースの空き時間が被った時は、必ずエースの元へと向かった。
はじめは戸惑っていたエースも、少しすれば慣れたように挨拶を返して共に過ごすようになっていた。
「今日は2番隊全員で訓練だな」
「そうなんだ!私も筋トレだけ混ざってもいい…?」
こちらを伺うように見上げてくるヒスイに、エースはニカっと笑う。
「おう、問題ねえ」
「わー!ありがとう」
ヒスイは笑顔を浮かべると、パッと自分の服装を見る。
「ワンピースじゃ出来ないね。すぐに着替えてくる!」
「おう」
パタパタと走っていくヒスイを見送り、くるっと振り返ってエースはギョッとした。
「…………」
「な、なんだよ」
そこにはジトッとした目でエースを見る2番隊の連中がいた。
「エース隊長、いいなぁ…」
「な、何がだよ」
「あんなに可愛い人が、嫁さんだなんて……」
「よ、嫁じゃねえよ!」
「“まだ”ですよね?」
「うるせえぞお前ら!」
絡んでくる隊員を蹴散らせていると、パタパタと駆け寄ってくる音がした。
「エース君、お待たせしました!」
ヒスイはぴょこっとエースを後ろから覗く。
「……待ってねえよ。さっ、始めるか!」
エースはそう言って隊員達に声をかけて、甲板で訓練を始めた。
「はふー…疲れた」
「始めたばっかりだろ?」
ぷるぷると震えながら腹筋を10回行ったヒスイはパタンと仰向けのまま手足を投げ出す。
その様子を見てエースは笑うと、水の入ったボトルを渡す。
「ありがとう、エース君」
ヒスイは起き上がってボトルを受け取ると、水を飲んで微笑んだ。
「美味しい…」
「そりゃ良かったな」
そう言ってエースは立ち上がる。
「おれは組み手をしてくる。巻き込まれないように気をつけろよ」
「うん」
ヒスイが頷くのを見てエースはその場を離れようとしたが、何かを考えた後にヒスイを見た。
「エース君?うわっ…」
名前を呼ぶと、目の前が暗くなりヒスイは慌てる。
「それ、被っとけ」
その言葉に頭に手をやると、何かを被せられていた。
去っていくエースを見ると、被っていたテンガロンハットがなかった。
ヒスイは自分が被せられたのがエースの帽子だということに気付いて満面の笑みを浮かべて頷いた。
「随分と嬉しそうだな」
「あ、ビスタさん。うん!エース君が帽子を被せてくれたのが嬉しくて」
ニコニコとするヒスイの隣に座ったのは、ビスタだった。
「今日は天気がいいからな。熱中症にならないようにというエースなりの気遣いだろう」
「熱中症…そっか、気にしてくれたんだ」
えへへ〜と頬を緩ませるヒスイに、ビスタは笑う。
ヒスイは何というか……緩い奴だ。
話し方、考え方、雰囲気。
芯が無い訳ではないが、悪い事をしても思わず許してしまうし(そもそもヒスイはしないが)、すぐに絆されてしまう。
昔からヒスイを知っている者達は皆、絆されているし、最近だと…エースも絆されてきているようだ。
離れたところで部下達と組み手をするエースを見て、ビスタはフッと笑う。
「ヒスイ」
「うん?」
「エースの事、頼んだぞ」
「もっちろん!」
にっこりと笑ったヒスイの頭を撫でると、ビスタは去っていった。
ビスタの背にヒスイが手を振っていると、どうやら組み手が終わっていたようで1人立つエースの周りに船員達が座り込んでいた。
「全く、手加減してくださいよ隊長〜」
「手加減したら意味ねえだろ」
そう言って笑い合う皆を見てヒスイは立ち上がると、パタパタと小走りで近付く。
「皆さん、お疲れ様!何かしてほしいことあるかな?お水とか運んでくるよ!」
そう声をかけると、「膝枕してー!」やら「労って〜」なんて声が聞こえてきて思わずクスクスと笑ってしまった。
「お前らは何言ってんだ!あー、ヒスイ。悪いけどナースを呼んできてくれないか?組み手後の応急処置を頼みたいって言えば伝わるから」
「うん、わかった!」
エースの言葉に頷くと、船内の医務室へと向かう。
一時期乗せてもらっていた事もあり、医務室にすぐに着いたヒスイは扉をノックしようとしたが、中から聞こえてきた声にピタッと手を止めた。
「あの女、なんなの?」
その声は、自分がまだ話したことがないナースの声だった。
「エース隊長のお嫁さんになりたい!って、本気で言ってるのかしら」
「本気でなれると思ってたら、笑っちゃうわね」
「ちょっと2人ともやめなさいよ」
中には3人のナースがいるようで、「ああ、自分の悪口を言われているのだ」とヒスイは気付き、胸元で手をキュッと握りしめた。
「やめなさいって言いながら、アンタ口元は笑ってるわよ」
「まあ、そりゃ…笑っちゃうよね。頭緩すぎて」
「それに、あんなについて回って…迷惑って思われてるってわからないのかしら?」
そう言って笑うナースの声にその場から逃げたくなったが、ヒスイは小さく息を吐くと扉を叩いた。
「すみません、どなたかいますか?エースさんからの伝言があります!」
そう声をかけると、ピタッと話し声が止まり、少しして扉が開いた。
「はい?」
出てきたナースに少し緊張しながら、口を開く。
「あ、急にすみません。エースさんから伝言で“組み手後の応急処置を頼みたい”との事だそうです!」
なるべく、普段とは違い丁寧な話し方を心がけて伝えた後、ヒスイはペコリと頭を下げた。
「わかりました」
「よろしくお願いします!」
そう言うと、ヒスイは急いでその場を離れる。
(あー…聞いちゃいけない事聞いちゃったな)
自分をよく思っていない人はいるだろうとは何となく考えていたが、実際に目の前にするととても怖かったし落ち込んでしまう。
小さく息を吐いて甲板に戻ると、ヒスイに気付いたエースが手招いた。
慌てて近寄ると、ぽんっと頭に手が置かれる。
「ナース、いたか?」
「うん、いたよ。ちゃんと伝えてきたからすぐにくると思うよ」
そう言ってニコッと微笑んだ時、ナース達が船内から出てくるのが見えた。
ヒスイは少し気まずくて視線を逸らした後、そうだと帽子を脱いでエースに渡した。
「エース君、帽子ありがとうね!お陰で暑くなかったよ」
「そうか。なら良かった」
ニッと笑ったエースに微笑み返すと、「着替えてくるね!」と言ってその場を離れた。
いつもならばまだ近くをウロつくヒスイが離れていく事を不思議に思ったが、エースは特に気にせずに帽子を被った。
一方、与えられている部屋に戻ったヒスイは扉を背にその場に座り込んでいた。
(はぁ…怖かったー)
甲板に出てきたナース達の自分を見る視線は、嫌悪を含んだものだった。
といっても、その辺の隠し方は上手いのだろう。
一瞬で引っ込んだその感情に、誰も気付いていなかった。
(やっぱり……エース君に馴れ馴れしいから怒ってるのかなぁ…)
でも、自分は本気でエース君のお嫁さんになりたいと思っているから、彼の近くにいたい。
どうしたらいいのだろうかとヒスイはうーんと悩むが、元々考えるのが好きではない。
まあいいかと思うと立ち上がり、着替えるためにクローゼットへと近付いた。
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