お嫁さんになりたい
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ヒスイがエースの嫁になりたい発言をしたその夜、モビー・ディック号では宴が行われていた。
ナースのジェシーは昔からヒスイの面倒を見ていたそうで随分と懐かれており、ジェシー自身も妹のようにヒスイを可愛がり、周りの男たちから守っていた。
その様子を離れたところで見ていたエースは、手にした酒をちびちびと飲んでいた。
「よおエース、今日は大人しいな」
ニヤッと笑みを浮かべながら隣に座ったのは、イゾウだった。
「イゾウ…そりゃ大人しくもなるぜ」
エースはそう言って項垂れる。
「助けてもらったのはありがたいが、嫁ってなんだよ…しかも普通の人魚とは違うみたいだしよ……なんか訳ありか?」
エースはチラリとイゾウを見る。
煙管を吸うイゾウは煙を吐き出すと、楽しそうに笑うヒスイを見た。
「アイツの口から聞けばいいさ」
イゾウはそう言って笑うと、大声でヒスイを呼んだ。
呼ばれたヒスイはピッと立ち上がると、パタパタと駆け寄ってきた。
「イゾウさん!どうしたの?」
「ほれ、エースと少しは話せ。嫁になりたいんだろ?」
「うん!」
ニコニコ笑うヒスイをエースの横に座らせると、イゾウは笑ってどこかに去っていく。
「あ、ちょ…イゾウ!」
エースは慌てて手を伸ばしたが、隣のヒスイを見て頭をガシガシっと掻いた。
「あー、その……ヒスイ」
「はい!」
「改めて、今日はありがとな。助かった」
「いえいえ。たまたま通りかかっただけだし」
そう言って微笑んだヒスイに、エースも少し笑うと足を指さす。
「なあ、なんでもう足があるんだ?人魚…なんだろ?」
「はい、人魚ですよー」
足をぴょこぴょこと動かすと、ヒスイはそっと足を撫でた。
「んーっと…私のお父さんは人間、お母さんは人魚なんだけどね、私はちょっと人間の血が濃いみたいなの」
「濃い?」
「うん。足がある状態で産まれて、わー!この子は人間なのね!って両親は育ててくれてたんだけど、私が5歳くらいの時かな?海で遊んでいたら、私の足が引っ付き始めて、最終的には尾になっちゃったの!」
そこでお医者さんに色々調べてもらったら、人間の血が濃くて人間としての特性も強いが人魚だって事が判明したの。
そう言ってヒスイは手にしていたお酒をチビっと飲んだ。
「人魚だけど、人間の特性が強いせいで普通の人魚とは違って、昔から足が生えてる状態。要するに変わり種?突然変異?ってやつかな」
そのせいか知らないけど、友達も少なかったなぁ…とぽそりと呟いたヒスイから、エースは気まずそうに視線を逸らして酒を煽った。
「あー、その…おれは便利でいいと思うぜ。小さい頃から海でも陸でも遊び放題ってやつだろ?」
エースの言葉にヒスイは笑顔で頷いた。
「海のことはお母さんが教えてくれて、陸のことはお父さんが教えてくれて、同じ歳の子より沢山色んなものが見れてとても楽しかったよ!」
「そうか。そりゃ楽しそうだな」
「うん!」
ヒスイはニコニコと笑いながら手にしていたお酒を置くと、エースの空いている手をギュッと握った。
「エース君のことも聞きたい!」
「え?おれ?」
「うん!私、お嫁さんにして欲しいほどエース君の事好きになっちゃったから、色々教えてほしいの」
キラキラとした目で見てくるヒスイに、エースは少し頬を赤らめる。
ソッとヒスイの手を離すと、ポリポリと頬を掻いた。
「おれの、話なぁ…」
「ダメ?」
「ダメというか、何を話せばいいかわかんねえ」
そう言ったエースに、ヒスイはにっこりと微笑む。
「なんでもいいの。好きな食べ物とか、趣味とか。色々知りたい」
「……わかった。話せる範囲で話す」
エースは少し頬を緩めると、酒をグイッと飲んだ。
「かーっ!若いっていいねえ」
「おっさんがいるぞ」
「お前もおっさんだろうが」
少し離れたところでエースとヒスイを見守っていたマルコとサッチ。
はじめは笑顔が少なかったエースも、打ち解けてきたのかよく笑うようになった。
「それにしても、エースの嫁にか…」
「なんだお前、もしかしてヒスイの事狙ってたのか?」
「いや、そうじゃねえけどよ。妹のように可愛がってた女の子が誰かの嫁になりたいだなんて…ちょっと寂しいじゃねえか」
「センチメンタルになっちゃう」と言ったサッチをマルコが冷たい目で見ていると、イゾウがやってきて隣に座った。
「あのおひいさんと出会ってもう…10年近くか?デカくなったもんだな」
「たしかに、初めて会った時はチンチクリンだったのに、今ではあんなに綺麗になっちゃって」
幼少期のヒスイを思い出して、3人は懐かしく思う。
「まあ暫くは船に乗っているだろうし、昔みたいに守ってやらないとな」
「この船にはケダモノが多いからな」
「あら、アタシからすれば隊長達もケダモノですよ?」
そう言いながら現れたのはジェシーだった。
「おいおいジェシー、よしてくれよ」
「サッチ隊長、ずっと鼻の下が伸びてますよ」
「なにっ!」
パッと口元を隠すサッチに笑うと、ジェシーはヒスイを見る。
「一波乱起きなければいいですが……ヒスイの事をよく知らない船員も増えてます。なるべくアタシも気にかけますが、隊長達もよろしくお願いしますね」
「ああ…任せろい」
真剣な表情で言ったジェシーに、3人は頷いた。
「なあなあ、気になってたんだがよ」
会話が盛り上がっていたところで、エースはフと気になった事があるとヒスイを見る。
「なあに?エース君」
「ヒスイはオヤジとどこで知り合ったんだ?昔からの知り合いみたいだけどよお」
その問いにヒスイは少し困ったように微笑んだ。
何か聞いてはいけない事を聞いてしまったかもしれないとエースは「やっぱりいい」と言おうとしたが、先にヒスイが口を開いた。
「白ひげのおじ様には、10年ほど前くらいに助けてもらったの」
「助けて?」
「うん………私のせいで家族が人攫い屋に襲われていたところを、助けてもらってね」
その言葉に、エースはハッとした。
「女の人魚は高く売れるからね。加えて…私は若い人魚なのに足もあるから。色々と“お楽しみ”が増える、そうだよ」
そう言って足を抱え込んで座り直したヒスイは、白ひげを見た。
「家族も失っちゃって…1人になった私を、白ひげのおじ様が保護してくれたの。その後は私が落ち着けるところを探してくれて…おじ様とはそうやって知り合ったの」
足にコテンと頭を乗せて、エースを見る。
「楽しくない話をしちゃって、ごめんねエース君」
「……いや、おれも悪いな」
エースがぽんぽんっとヒスイの頭を撫でると、ヒスイは嬉しそうに微笑む。
「気にしないで。お嫁さんになるなら、ちゃんと知っておいてほしいから」
「よ、嫁になるとは決まってないだろ」
「むぅ…」
頬を膨らますヒスイに、エースは笑って頬を突く。
「まずは……友達からでいいか?」
「…!?うん!お友達から、よろしくね」
嬉しいと頬に手を当ててヒスイは笑った。
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