花魁少年
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遊廓に戻ると、入口には爺と1人の青年と女性が立っていた。
「宗次郎、由美さん」
名を呼ぶと、ニコニコと笑う青年━宗次郎と綺麗な女性━由美が振り返った。
「お久しぶりです」
「相変わらず可愛い顔ね」
「いえいえ…」
由美は紅杏の頬を撫でた。
「今日はお二人だけですか?」
「ええ、他の方はそれぞれ用事で出払ってますので」
ニコニコ笑う宗次郎に笑い返すと、爺が口を開いた。
「胡桃はどうされました?」
「神谷道場の方に預かってもらった。後で迎えに行ってほしい」
「承知しました」
爺は頭を下げると、その場を去って行った。
「さて…由美さん達はどうなされるのですか?」
「そうね…私達は明日まで、町でもぶらぶらしてるわ」
「わかりました。では、失礼します」
紅杏は微笑んでその場を後にした。
「…………」
「坊や?」
そんな紅杏を見つめる宗次郎に不思議に思い、由美は声をかけたが、彼はただ笑っただけだった。
「失礼いたします」
手早く着替えて薄化粧も施し、綺麗に着飾った紅杏は、杏の表情を浮かべた。
「よう…遅かったな」
「これでも早く準備したのですが…」
窓際で外を眺める彼に苦笑する。
「いつも突然、休みの日にくる志々雄様も悪いのですよ?」
「はっ!!違いねぇな」
志々雄真実はニィと笑い、近くに来た杏の腕を掴むと、自分の膝に乗せた。
「お前、晩飯は食べたか?」
「いえ、まだですが」
「………」
志々雄は無言で近くにあった箱を引き寄せると、杏に渡した。
「これは?」
「由美と宗次郎の奴が土産を渡せってうるせぇから」
「開けても?」
「勝手にしろ」
煙管を口に加えて外を眺める彼に少しもたれながら、箱の包みを開けた。
中から現れたのは八つ橋で、それを1つ手にとると、口にした。
「ん…甘い…」
「甘いのは苦手なのか?」
「あんまり得意ではないですね。でも、たまに食べるのは好きですよ?」
そう言って、食べかけの物を全て口に含み、飲み込んだ。
そのタイミングは見計らって、志々雄は杏の顎を持ち上げると口付けた。
「んん…」
口内を荒々しく犯す舌になすがままにされていると、志々雄は口を離してニヤリと笑った。
「確かに、甘いな」
「もう…」
杏は溜息を吐くと、八つ橋を片付けて隅によけた。
「食わないのか?」
「後でゆっくりいただきます」
にこりと微笑むと、志々雄はフッと笑い、杏の頬を撫でた。
その後、志々雄は煙管を吸うのを止めると、ごろんと寝転び、杏の膝に頭を乗せた。
「志々雄様、男の膝に寝転んで痛くないのですか?」
「お前のは痛くねぇよ」
目を瞑りながら、そう答えた。
(ったく…)
眠る志々雄の頬を撫でると、外に視線を移した。
「………」
パチリと目を覚ますと、空にはもう月が登っていた。
(随分寝ちまったな…)
志々雄はまだ残る眠気を振り払い、視線を上に向けた。
そこには壁に凭れて眠る杏の顔。
志々雄はニィっと笑うと、起き上がり、杏の顎を掴むと口付けた。
「ん…」
少し眉を動かして反応したが、起きる様子はない。
無防備に開く唇に舌を侵入させたところで…杏の目は開いた。
「…!!!んっ!!」
驚いた杏は志々雄の胸を叩いた。
志々雄はその手を掴むと、更に引き寄せて口付ける角度を変えた。
(苦し…!)
杏の息が続かなく、表情が歪んだ時、唇は離された。
「っ…はぁ…酸欠、させるおつもりですか?」
「お前はそれぐらいで死なねえだろう」
志々雄は右手の指を杏の指に絡ませ、その指に唇を落とした。
「それに…お前の事は殺しはしねぇ」
真剣な声色に一瞬ドキリとしたが、杏はすぐに笑ってみせた。
「私も、貴方には殺されてあげませんよ」
「はっ!!」
鼻で笑った志々雄は、杏に再び唇を重ねた。
スルリと服の間から入ってきた手にピクリと反応し、志々雄の服をギュッと握った。
「ん…」
杏はゆっくりと目を開いた。
何故か志々雄に抱き締められており、所謂抱き枕状態。
(この人は本当に…)
ここに来るのは一年に一度。
来た時はいつも俺を抱き締め、刻むように幾度と抱き、慈しむように何度も口付けを交わす。
(なんの為に由美さんがいるんだか)
志々雄の好意がいつしか自分に向けられていたのは気づいていた。
それを告げないのは志々雄の、答えないのは俺の、全て分かっていてそれでも志々雄の傍にいる由美さんへの配慮。
(この男も、由美さんみたいないい女捕まえてんのに…)
杏が溜息を吐いた時、志々雄がもぞりと動いた。
「志々雄様?」
「…寒い」
そう言ってギュッと抱きしめてくる志々雄を抱きしめ返した。
杏は彼の頬を撫でると、目を閉じた。
END 客その参、悪鬼