花魁少年
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正午を告げる鐘が鳴る。
その音に釣られるように、1人の青年が起き上がる。
「んっ…お昼か」
欠伸を噛み殺し、ゆっくりと立ち上がる。
普通遊廓とは毎日毎晩開いているのだが、この遊廓は月に一回、休みがあるのだ。
思い思いの1日を過ごす為に、朝早く起きて出掛ける者もいれば、彼のように昼頃に起きてくる者もいる。
「胡桃~」
「は~い」
普段のようにキビキビした態度ではなく、少し気の抜けた返事を返し、部屋にやってきた胡桃。
「起きるの遅くなってごめんな」
「胡桃は気にしてませんよ!」
にっこり笑う彼女の頭を撫で、ん~と伸びをした。
「さて、今日はどこ行こうか」
紅杏は優しく笑いかけ、胡桃の返事が来るのを待った。
「胡桃、そんなに走ったら危ないぞ」
「久しぶりのお出掛けで、嬉しくて」
えへへ、と頬を赤くして笑う彼女に、頬が緩む。
今2人は、昼ご飯を食べる為に、赤べこに向かっていた。
赤べこに到着して、扉を開けようとしたら中が騒がしいのに気づく。
「胡桃、なんか危なそうだから、俺から離れないように」
「わかりました」
胡桃を自分の後ろに隠すと、胡桃は紅杏の着物をキュっと握った。
それを確認し、赤べこの扉を開く。
「あ、紅杏君に胡桃ちゃんやないの、いらっしゃい」
にこりと笑って出迎えてくれたのは妙さん。
「こんにちは」
「こんにちはっ!!」
「2人共久々やね~ほら、座って座って」
妙が2人を席に通すと、燕が茶を持ってきた。
「ありがとう、燕ちゃん」
「い、いえ…///」
燕は頬を赤くしながら去って行った。
「さて、今日はどないします?」
「えーっと、いつものでお願いします」
「かしこまりました~」
妙はニコッと笑い、奥に向かった。
お茶を啜り、辺りを見渡す。
(さっきは何で騒がしかったんだ?)
今はどちらかというと、静まり返ってる。
理由はもちろん紅杏が店に入ってきたからなのだが。
不思議に思いながら胡桃と話始めると、ヌッと影が出来た。
「??」
不思議に思って横を見ると、如何にも酔っ払ってます、な感じの男が3人、ニヤニヤしながら立っていた。
「よう、姉ちゃん。ちょっとお酌してくれよ」
中性的な顔立ちをしており、今までにも幾度も絡まれたことがある為、紅杏は落ち着いて胡桃を自分の後ろに隠す。
「生憎、俺は女じゃない。それに誰が手前らに酌なんざするか」
「なに…?」
ピリピリとした空気が店内を包む。
おろおろとしだす燕のもとへ、胡桃を向かわす。
「あっちに行っとけ」
「はい」
小走りで去る胡桃が燕のもとに行くのを見ていると、突然酒をかけられる。
「お前、なに余所見してやがる!!」
「………」
濡れた前髪を払いのけ、眼前の3人を見る。
「お前ら…喧嘩なら買うぜ?」
「この優男が…!!表出やがれ!!」
1人の男が叫んだ時、紅杏は不敵に笑った。
表に出て男達と向かい合う中、周りにはギャラリーが集まる。
その中にはあの剣心組も混ざっていた。
「いったいなんの騒ぎでい」
左之助がギャラリーの1人に尋ねる。
「酔っ払った男達が他の客に絡んでそっからこの騒ぎさ」
ふーんと返事をしながら、騒ぎの中心を見ると、左之助は目を見開いた。
「紅杏じゃねぇか」
「紅杏で御座るか?」
「嘘っ!?」
「アイツが絡まれた客なのか!?」
4人が口々に話す中、酔っ払いの1人が動くのが見えた。
「おるぁ!!!」
体格のいい男が殴りかかる。
紅杏はそれをひらりと躱すと、足払いをかけて相手を転がした。
「酔っ払って足がもつれたのか?」
「このっ…!!」
挑発的に笑う紅杏に苛つき、男は懐から短刀を取り出す。
「刀に頼らねえと喧嘩も出来ないのか」
「うるせー!!!!」
再び突っ込んできた相手を躱し、短刀を持った腕を蹴り上げた。
カランと地に短刀が落ちたと同時に、全体重をかけた肘鉄を相手の顔に当てた。
「ぐっ……」
ピクピクっと痙攣を起こし、男は倒れた。
「あんたらもやるのかい?」
「お、覚えてやがれよ!!」
捨て台詞を言い捨て、男達は去って行った。
わーわーと歓声が上がる中、心配そうに見守っていた胡桃が駆け寄ってきた。
「紅杏様…お召し物が…」
「大丈夫だ、胡桃。天気もいいしすぐに乾くさ」
にこりと笑い胡桃の頭を撫でると、店内に戻る。
「紅杏君、大丈夫やったかいな」
「まぁ、大丈夫ですよ」
お手拭きをくれる妙さんに笑いかけながら、席に座る。
「相席してもよろしいでござるか?」
声をかけられ、上を向くとそこにはニコリと笑う男。
「剣心さんか。別にいいぞ。胡桃、こっちおいで」
「はい、兄様」
胡桃を自分の隣に座らせると、剣心一向である4人も席についた。
「ところで…」
「あっ?」
一息ついたところで薫と弥彦が興味津々な目で見てくる。
「兄様って…どうゆうことでい。まさか兄妹なのか?」
「め、滅相も御座いません!!!私と兄様は「兄妹だよ」
慌てて否定しようとした胡桃の言葉を遮る。
「可愛い妹さ、この子は」
優しく胡桃の頭を撫でる。
涙を溜めて紅杏を見る胡桃。
そんな2人を見て、何かを感じ取った4人は口を閉ざした。
「はい、おまちどおさん」
タイミングがいいのか悪いのか、頼んだ料理を妙が持ってきた。
「ありがとう、妙さん。さ、食べるか」
「はい!!」
胡桃はにっこり笑い、お箸を持った。
それを見て紅杏も箸を手にした。
「いやー悪いな、ご馳走になって」
「ほんとに良かったの?」
「あぁ、金ならあるさ」
紅杏はニッと笑った。
赤べこで食べた食事代を全部紅杏が出したのだ。
「かたじけないでござる」
「なんか礼させろよ!!」
弥彦の言葉に他の三人は頷く。
「礼…?」
ん~と紅杏は考えた後、着ていた着物をヒラヒラさせた。
「風呂と着替え貸してくれねーか?」
「おやすいごようよ!!」
薫は笑顔を浮かべた。
「早速帰りましょう!!」
「薫の家はどの辺りなんだ?」
「神谷道場よ!」
知ってる?と尋ねてくる薫に頷いた。
「じゃあ、薫は師範なのか?」
「うーうん。師範代よ」
「へぇ~女剣客か…なんか、いいな」
へへっと笑う紅杏を見て、薫は頬を染めた。
「むっ!!」
それを見た胡桃はすかさず紅杏に抱き付いて一言。
「兄様はまだ誰にも嫁がせませんよ」
胡桃の一言に、皆は爆笑の渦に囲まれた。
「薫、いい湯だった。ありがとう」
「どういたしまして♪」
まだ少し濡れた髪を拭きながら、皆のところへ戻る。
薫に礼を言うと、胡桃が近づいてきた。
「兄様、髪を拭きます」
ジッと見上げてくる胡桃に微笑み、頭をポンポンと撫でた。
「今日はそんなことまでしなくていいんだ」
団欒の輪に入り、その場に座る。
胡桃を自分の膝に乗せると、剣心と左之助がこっちを見てるのに気づいた。
「なんだ?」
「いや、そうやって髪おろして笑ってたら杏だなっと思ってな」
「そりゃ、同一人物だしな」
ククっと笑うと頭にハテナを浮かべた弥彦がこっちをジーっと見ていた。
「杏って誰だ?って顔だな」
「よ、よくわかったな!!」
考えてる事がバレバレで恥ずかしかったのか、弥彦はそっぽを向いた。
「杏ってのは、俺が遊廓にいる時の名前」
「遊廓に…」
薫の表情が曇る。
そんな薫の手をとり、微笑んだ。
「俺は別に売られてきた訳じゃない。働くのも苦痛じゃない。なにもあんたが、そんな表情をする理由なんてない」
「でも…」
「ったく…嬢ちゃんは遊廓に偏見を少なからず持ってるみたいだな。だけど、俺のところの遊廓はちぃとばかり違うぞ?」
「違う?」
「皆、好きで働いてる。他の遊廓みたいにドロドロした汚ぇもんなんざ一切ない。一度来てみるといい。皆生き生きして、キラキラと輝いてる」
誇らしげに話す紅杏に、剣心は微笑んだ。
「あの遊廓が、皆が大切なんでござるな」
「もちろん」
にっこりと紅杏が笑った時、どこからか1羽の鳥が飛んできた。
「ん?」
手を上げると鳥は素直に止まった。
その足には一枚の手紙が結ばれていた。
鳥の足から手紙を外して鳥を空に放ち、手紙の内容に目を通した。
「………!!!!」
紅杏は目を見開いた後、フッと笑った。
「薫、頼みがある」
「頼み?」
「胡桃を今日1日頼んだ、後で爺が迎えにくるから」
紅杏はそう言うと、ゆっくり立ち上がった。
「兄様?」
「なに、心配ない。いつもの人が来たそうだ」
「鬼さんですか?」
「そうだ。とりあえず俺は先に帰るな。ちゃんといい子にしてるんだぞ」
サラッと胡桃の頭を撫でると、踵を返した。
END たまにの休日