花魁少年
名前変更
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「ふぅ…」
あれから数回、斎藤の気が済むまで抱かれていると、あっという間に彼等が来る時間が近づいていた。
「そろそろね…」
乱れた髪を結い直し、立ち上がる。
先ほど遊廓を出た斎藤の背中を眺めていると、来訪者達がやって来たのが見えた。
杏は身を翻し、その部屋を出た。
「よう、爺さん」
「ん?おお…貴方達でしたか」
番頭をしているお爺さんに声をかけると、にこりと笑った後、後ろの襖を少し開けた。
「胡桃や、例の客人じゃ。お部屋にお連れしておくれ」
「分かりました!
元気の良い返事が帰って来た後、1人の禿が出てきた。
「お部屋の方にご案内致します」
「よろしく頼むでござる」
にっこりと笑う少女に釣られ、剣心も笑みを浮かべた。
「この部屋です」
長い廊下を歩き、二階に上がって一番奥の突き当たりの隣に当たる部屋。
そこで一度止まり、胡桃は口を開く。
「お客様をお連れしました」
「…どうぞ」
少し間があった後に返って来たのは凛と透き通った声。
ほんとに昼間会った奴か?と不思議に思いながら中に入ると、そこにいたのは杏だった。
「こんばんは。さあ、どうぞ?」
敷かれた座布団に客を促す。
促されたまま、座布団に座ると、杏が口を開いた。
「後のお二人は?」
「もう夜も遅いし、嬢ちゃんは此処が遊廓だと解ると顔を真っ赤にして倒れたから置いてきた」
そうですか…と呟いたあと、杏は手をつき、頭を下げた。
「お初にお目に掛かります。この少し変わった遊廓の主であり、花魁をさせていただいております杏と申します」
「少し変わった…?」
「そちらについては後々…私のまたの名を」
頭を上げ、目の前の2人を見る。
「またの名を、紅杏と申します」
「「えっ?」」
ニッコリ笑う彼とは対照的に、来訪者の剣心と左之助は口をポカーンと開けた。
「えっと…」
「今…なんと?」
驚く2人に笑いかけ、結っていた髪を解き、高い位置で結い直す。
改めて前を向くと、目を見開いた2人の顔があった。
それにクスリと笑い、再び口を開く。
「またの名を、紅杏と申します。って言ったんだけど?」
ニィっと笑った彼の顔は、まさしく昼に見た紅杏の顔だった。
「嘘…だろ」
「本当ですよ」
髪を下ろし、手櫛で整えたところで外から声がかかる。
「お茶をお持ちしました」
「ありがとう。入って」
はい、と返事をしたのは胡桃で、2人にお茶を出すと出て行った。
「どうぞ」
「お、おう」
「いただくでござる」
2人は動揺を隠しきれない様子で茶を飲む。
「何から聞きたいですか?」
「とりあえず、あんたが本当に紅杏かどうか」
「後は…少し変わった遊廓と言うのも気になるでござる」
紅杏はニッコリ笑った。
「まず、左之助さん、私は正真正銘紅杏です。剣心さん、少し変わった遊廓というのはですね…」
紅杏はゆっくり口を開いた。
「なるほどな…」
「男も花魁として…」
「はい。自分で言うのはなんですが、私はこの遊廓で一番人気の者で遊廓の主でもあります」
剣心は話を聞いた後、顎に手をあてて何かを考える。
「…紅杏殿」
「私がこの格好の時は杏と呼んで下さい」
「…杏殿は以前京都にいたでござるか?」
剣心の言葉に杏は目を見開く。
「…確かに、以前は京都の遊廓で、太夫の地位に就ける人気がありました」
「太夫!?」
「しかし、私は男ですし…色々あってその遊廓にはいれなかったのですよ」
苦笑した杏は、外に視線を移した。
「そうでござったか…」
「…さて、辛気臭い話は終わりです。折角ですので、楽しんで行って下さい」
杏がニッコリ笑うと、襖が開いた。
「手の空いてる遊女達がお相手さしていただきます。代金は勿論いりませんので。では、失礼します」
「あ、おい!」
呼び止める左之助をよそに、そそくさと部屋を出た。
(参ったな)
京都にいた事を知ってる奴がいるなんて。
そう言って自分の目を真っ直ぐに見てきた男、彼の目は何かを見つけた目。
(あぁ…あの目は知ってるや)
番頭の爺の所へ向かいながら、ポリポリと頭を掻いた。
(人斬り抜刀斎)
トリ頭の左之助は…
(確か、斬左)
その道の人には一応名の知れた有名人。
「爺」
番頭に着くと、声をかける。
「どうされました?」
「頬に傷のある男。アイツ…人斬り抜刀斎だ」
「なんと…!!?」
まさか東京に来ていたとは思わなかった、と2人はため息を吐いた。
「向こうはうっすらと俺の面影を覚えている。この姿の時の」
「厄介な事に…」
はぁ、と2人してため息を吐く。
「本当…私の周りには厄介な方ばっかり集まる」
「確かに、そうで御座いますね…」
あぁ、溜め息が止まらない。
爺と2人してうなだれていると、誰かの足音と声がした。
「杏」
名を呼ばれて振り返ると、コートを靡かせて1人の男が立っていた。
「まぁ…お久しぶりで御座います、四乃森様」
杏は玄関口に立つ四乃森蒼紫に笑いかけた。
「遊びにいらしてくれたのですか?」
「あぁ」
杏は蒼紫の手をとると、爺の方に振り返る。
「爺、彼等は任せました」
「かしこまりました」
「四乃森様、お部屋に参りましょう」
ニコリと微笑み、歩き出す。
蒼紫もそれに続いて歩き出した。
END 来訪者