花魁少年
名前変更
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「ですから…困ります」
「煩いぞ、爺さん!!さっさと呼べ!!」
朝から騒々しい遊廓。
困った様子の爺。
目の前には、柄の悪い屈強そうな男。
その2人を囲むように、様子を窺う花魁や禿達。
たまたま足を運んでいた左之助は何事かと周りの花魁に声をかける。
「いったい何があったんでぃ」
「部外者には関係ないわよ」
焦ったような、怯えてるような様子で彼女はそう言った。
「俺は部外者じゃねぇ、紅杏とダチだ!!」
左之助の言葉に、花魁は目を丸くした。
「紅杏さんの…そう」
彼女は爺と男をチラリと見た後、左之助の耳に口を寄せた。
「彼、ここのお客様だったんだけど、通いつめてる花魁に惚れててね」
「それが何か問題あんのかよ」
「紅杏さんの友達ならここの変わったルールも知ってるでしょ?身請けの」
花魁の言葉に、左之助は何かを思い出すように頭を捻る。
「確か…普通の遊廓と違って、金より気持ち優先、だったか?」
「そう、正解よ。彼、凄い大金持ってきてるんだけどねぇ…」
「女の方が断ったと」
花魁は頷いた。
「で、男は逆上か…」
左之助はそう言って目を細めた。
「なら、俺の出番だな。一丁締めてやる」
「バカ!!部外者は手を出すんじゃない!」
花魁に叱られ、うっと後ろへ下がった。
「そうですよ、部外者は黙ってなさい」
ポン、と肩を叩かれて、首だけを横に向けると杏の姿。
「紅杏…」
「今は杏です」
そう言って微笑んだ後、キッと男を見た。
「ちょいと、そこのおまえさん」
「あぁ?!」
爺に向かっていた男は振り返った。
杏は臆す事なく、男の前まで歩く。
「わっちがいない間に、えろう騒いでたらしいですなあ」
「あんたは…杏さん」
「何騒いではったんか、よう聞かせてもらえますか?」
いつもと違った態度に言葉、左之助は鳥肌がたった。
「爺、取り巻きを解散させなさい。彼と話します」
「しかし…」
「わっちの傍にはあの坊や置くさかい、安心しなさい」
杏の言葉に、爺は頭を下げると、取り巻きを解散させる為に声をかけ始めた。
「さて、お客さんにもちょっと移動してもらいますよ」
「あ、ああ…」
杏の雰囲気に圧倒されながら、男は頷いた。
「左之、行きますよ」
「わ、わかった!」
左之助もその雰囲気に呑まれながらも、返事をした。
「さてさて、事情は聞かんでも察しております。身請けの事でしょう?」
「あぁ、そうだ」
「その事でしたら、彼女は何度も断ってると思いますが?」
杏の言葉に男は言葉を詰まらせる。
「これ以上しつこいようでしたら、わっちは容赦しませんえ?」
杏からは殺気にも近い何か強い気配が発せられる。
男が完全に圧倒され、言葉を失った時、フと杏は笑った。
「なぜ彼女が貴方のもとへ行くのを嫌がるか、解りますか?」
「…いや、わかんねぇ」
「聞いた話では、家は代々続く問屋。景気もいい。家柄にも問題なし。親御さんも貴方がうちの花魁と一緒になるのに文句は言ってない」
杏の口からつらつらと出るのは、男を褒めるような言葉ばかり。
不思議に思った左之助は、悪いと思いながらも口を挟んだ。
「いってぇソイツの何がいけねぇんだよ」
「……酒癖が、悪いそうで」
杏の言葉に男は肩を震わせた。
「彼女は貴方が酒を飲んだ後、とても怖いと言ってました。すべては語りませんでしたが、暴行紛いの事もされましたね?」
ゆっくりと頷いた男。
「それが原因ですよ。彼女が断るのは」
「だ、だけど、彼女は俺と一緒になってくれるって…!!」
「一度は言ったそうですね。だけど、そんな事されたら考えなおすのは当たり前でしょう?」
「……」
肩の力も抜け、完全に脱力する男。
杏は少し動き、男の傍へ寄ると、その手をとった。
「まだ、彼女は迷っています」
「え?」
顔を上げた男に、微笑む。
「御自分の悪い部分、わかってらっしゃるなら、治してからまた来なさい。その時は、きっと…」
優しく微笑む杏に、男は勢いよく頭を下げた。
「さ、騒いですまなかった…」
「いいえ。ほら、立って」
男を立たすと、襖まで歩く。
「向かいの部屋に、彼女がいます」
「え?」
「話をしたら、今日はお帰りなさい」
男は頭を下げると、部屋を出た。
「あんた…すげぇな」
「なにがですか?」
「何か…はわかんねぇが、強いよ、あんた」
喧嘩だけじゃなく、精神的にも強く、頼れる存在。
「私が強い…?」
「あぁ。少なくとも俺はお前が強いと思う。なんでそんなに強くいられるんだよ」
左之助の言葉に、杏は眉間に皺を寄せた。
その後、左之助の前に座り、しっかり彼の目を見た。
「ここが…皆の家だから」
「家?」
「理由があって家を出たもの、捨てられた子供。そんな者達が花魁の汚くも綺麗な世界に惹かれた。そんな者達が自然と私のもとに集まり、家族とも呼べるほどの絆を築いた。だから…この家を、家族を守る為に強くいられる」
そう言って、笑った。
あまりに綺麗に笑うものだから、左之助は恥ずかしくて目を背けた。
「さて…私はそろそろ客人が来る頃だと思われますが…左之助はこれからどうしますか?」
「え?客が来るのか?」
「来ますよ?そういえば…左之助はなんで
「お、俺はだなぁ、その…」
ごにょごにょと言葉を濁す彼に何か気づく。
「私に…会いに来ました?」
「うっ…//」
図星だったのか、左之助は恥ずかしそうに頬を掻いた。
「それは客として?それとも友として?」
面白そうにしながら、左之助の顔を覗く。
「俺は……お前に惚れた1人の男として来たんだよ」
「え?」
唇に触れるだけの口付け。
左之助はニカッと笑った後、よっしゃ!!と言いながら立ち上がった。
「覚悟しとけよ!!じゃあな」
左之助は早足で部屋を出ていった。
呆気にとられていた紅杏は我に戻ると、クスリと笑った。
「覚悟しとけ、か…その言葉、そっくりそのまま返してやるよ」
俺を抱きたきゃ精々頑張りな。
紅杏はゆっくり立ち上がると、部屋を出ていった。
END 彼の強さ