獣達の世界
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「うぉおおおおおおおお!結城殿ぉ!大丈夫でござる……か?」
突進してきたのは真田で、目の前の光景を見て首を捻った。
「……某、結城殿が政宗殿に襲われているように見えたので助けに来たのだが………?」
座り込んでいるのは伊達で、自分は見間違えたのか?と悩む真田に苦笑する。
「真田君、ありがとう。そのなんていうか…先祖返りは強い、ってやつだよ」
「そうであったか!」
なるほどと頷いた後、真田は雅の手を掴んだ。
「結城殿!お怪我はござらぬか⁉」
「う、うん。大丈夫」
「そうでござるか」
安心したように真田は笑うと、フッと何かを思い出したのか雅をジッと見つめた。
「真田君?」
「先日、婚約を申し込んだ件でござるが…あれは決して、結城殿が先祖返りと知ったからではござらぬ」
「え?」
「いや、切っ掛けはそれを知ったからではあるのだが」
ゴニョゴニョと話す真田に、雅は首を捻る。
「じゃあ、なんであんなこと言ったの?」
「その……」
真田は忙しなく視線を動かした後、真っ赤な顔で雅を見た。
「ず、ず、ずっと前から好きだったのだ!だが俺は真田家の人間で重種。相手に軽種はダメだと言われていた。だから…結城殿が先祖返りと知った時、これなら家の者にも納得してもらえる。自分の気持ちも…伝えられると思い、つい言ってしまったのだ…」
後半はゴニョゴニョとなにを言っているのかよくわからなかったが、要するに真田が以前から自分の事を好きだったという事は理解した。
(………え?)
「前から…私を?」
無言で何度も頷く真田に雅が頬を赤くすると、近くで見ていた長曾我部が雅をグイッと引き寄せた。
「おいおい幸村、お前もう抜け駆けしてたのかよ」
「ぬ、抜け駆けではござらぬ!」
「ったく…俺はダチになったばかりだってのによ…」
ぶつくさと長曾我部は文句を言うが、もう雅の耳には入ってなかった。
(えっと、ヤンキーと友達になって、重種とバトって、同級生に婚約だとか好きだと言われて…)
とりあえず今言えることは。
「ごめん、疲れたし帰る」
その一言だった。
「…………」
頭が痛い。
布団の中で目が覚めた雅は、自分の頭を抑えた。
(昨日は本当に色々ありすぎたと思う)
特に1番キツかったのは…放課後の伊達政宗とのやりとりだろう。
(まじでふざけんなよ……いやほんと、まじで!!!)
苛々しながら学校へ行く支度をして、家を出る。
(こんな時は本を読むに限る!)
いつもより早く家を出て、学校へと向かう。
かすがちゃんには連絡済みだ。
自分も行くから少し待てと言うかすがに大丈夫だと返事を入れた頃にはもう学校に着いていた。
(……早く来たのはいいが、果たして図書室は開いているのだろうか?)
その辺りの事をなにも考えていなかったなと思いつつ、北条先生は朝も早そうだしきっと開いてるだろうと思い足を進める。
「お、おはようございまーす……」
図書室に着き、控えめに挨拶をしながら扉に手をかけ横に力を入れると、音を立てて扉は開いた。
(……開いてた)
よしっと思いながら中を覗くと、そこには誰もいなかった。
それを不思議に思いながらも、まあいいかといつも通り読みたい本を手に定位置である奥の席へと向かうと、そこには先客がいた。
「あ、風魔先輩。おはようございます」
そう声をかけると、風魔は(おそらく)こちらに視線を寄越したあと、頷いた。
(風魔先輩、いっつもこんなに早く来てるんだ)
朝強いのかな?と思いつつ風魔の向かいへと座り本を開くと、トントンと机が叩かれた。
風魔が行う合図に顔を上げると、こちらをジッと見ている様子の風魔が目に入る。
「あ、もしかして…お邪魔でしたか?」
雅の言葉に風魔は首を振った後、体を前のめりにして雅に手を伸ばした。
(なに…⁉)
驚いて固まる雅の額に手を当てると、少しして風魔は口元をへの字に曲げる。
「熱はないみたいだが…体調が、悪そうだ…」
「…え?」
そう言われて、自分を案じてくれている風魔に苛々していた気持ちが少し安らいだ気がした。
「あの…少し聞いてもらえますか?」
そう言った雅に、風魔は頷いた。
そこからは昨日の事を風魔に話す。
怒涛の勢いで話す雅に対し、静かに聞いてくれる風魔に全て話し終えると、ふうっと息を吐き出す。
「ほんと、マジで信じられないです…」
元はといえば大谷のせいで、そこから話は広がって、昨日はあんなに胸糞悪くて…
そう話していると、また頭が重くなってきた。
その様子を見ていた風魔は、片肘をついた体制で雅に手を伸ばしてその頭を撫でた。
「……落ち着け」
そう言って少し笑った風魔に、雅は頬が熱くなるのがわかった。
(は、恥ずかしい…)
子供のように頭を撫でられているのも恥ずかしいが、風魔先輩の笑みが向けられるとは思ってなくて不意打ちで攻撃を受けた気分だ。
雅は深呼吸すると、自分の気持ちを落ち着かせた。
「あの、すみません…もう大丈夫です」
雅がそう言うと、風魔は頭から手を離した。
少し気まずくなって頬を掻いていると、目の前に何かを差し出された。
(……羽のアクセサリー…?)
目の前にあるのは数枚の鳥の羽が束ねられたアクセサリーだった。
「その……俺の羽だ」
「先輩の?」
「……俺の匂いをつけておけば、少しはマシかと思ってな」
そう話す風魔も気まずいのか、少し視線を逸らしている(様に見える)
匂いをつける、という事は要するに私はこの人のものですよ!という事を他の斑類に知らせる行為でもある。
少なくとも階級が下の斑類には効果はテキメンだ。
(うーん、確かに先祖返りというのが知れ渡ってから重種以外の人達からも物凄く視線を感じる事は増えたけど…)
だからと言ってこの提案を受け入れてもいいものなのか。
私達はお付き合いしてますよ、もしくはそういう事をした仲ですよと言うのと同じだ。
周りを盛大に勘違いさせる事になる。
(普通に考えたら風魔先輩に迷惑かかるしなあ…)
うーんと頭を悩ませていると、風魔が雅の手を取った。
「…⁉」
「俺は…前からお前の事、気にかけてたぞ」
風魔はそう言って笑うと、立ち上がった。
「…時間だ。それはいらなかったら捨ててくれ」
「あ、はい…」
そろそろ教室へと向かわなければいけない時間になり、風魔は羽のアクセサリーを置いて去っていった。
残された雅は羽を見つめてどうするべきか悩み、とりあえず教室へと持っていく事にした。
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