獣達の世界
名前変更
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「では、部活に行ってくるが…本当に気を付けて帰るんだぞ!!!」
「ありがとう、かすがちゃん」
放課後、心配して中々部活へと行かないかすがに「上杉先生が待ってるよ!」と言って部活へ向かわせると、自分も帰ろうと下駄箱へと向かう。
(今日のご飯は何かなー)
呑気に靴を履き替えて外へ出る。
面倒くさいサッカー部と野球部に見つからないように校門へ向かっていると、人が門の片側を避けるように外に歩いていく。
何だろうと目を凝らすと、長曾我部元親が立っていた。
ヤバイ、面倒な奴がまだいたと思い引き返そうかと悩んだが、ここで引き返せば色々と目立ってしまいそうだ。
雅は深呼吸をすると、そのまま何食わぬ顔で歩く。
なんとか校門へ辿り着き、「よし、いける!」と心の中で思ってそのままスタスタ歩いていくと、誰かによって体に急ブレーキがかかった。
「!?」
「おっと、見逃すとこだったぜ」
急ブレーキがかかったのは誰かに腰から抱き込まれたからのようで、耳の近くで聞こえた声にゾワっと悪寒が走った。
恐る恐る振り返ると、そこにはニヤッと笑みを浮かべる長曾我部の顔があった。
雅は冷や汗が流れるのを感じつつ、とりあえず下を指差す。
「あの…離していただけないでしょうか…」
「あ?離したらどうせ逃げるだろうが」
「に、逃げないから!」
長曾我部は少し考えた後、雅から腕を離した。
雅はホッと一息吐いた後、長曾我部を見上げる。
「何か御用でしょうか…」
「お前が先祖返りってやつか?そんな風には見えなかったが……随分上手く隠してたんだな」
本気で感心した様子の長曾我部を、雅は訝しげに見る。
長曾我部は雅を観察した後、ニイッと笑った。
「面白え奴だな……」
(あ、食われる)
本能的にヤバいと思った。
雅は今すぐ逃げ出そうとしたが、逃げないと言った手前ここで走り出すのは自分が言ったことを曲げることになるからなんとか耐える。
「逃げねえのか?」
「とりあえず、アンタが何もしないなら」
「そうか」
長曾我部は表情を引き締めると、雅の手を取った。
「お前、俺と婚約しろ」
「……え?」
急な言葉に頭が付いていかない。
雅が固まっていると、長曾我部は頭をガシガシと掻く。
「なんだ、お前は知らねえかもしらねぇが先祖返りってのはな「いや、斑類に関しては詳しいから大丈夫」……そうか」
「あの、アナタと婚約しろってどういう事?」
「そのまんまだ。あー、なんていうか……無理やりモノにしてお前の気持ち考えねえのも、違うだろ?」
意外な言葉に、雅は目を丸くする。
(さっきの真田君が気を使ってあんな言い方をしてたのは何となく分かったけど、まさかこの人も気を使う人とは思わなかった…)
見た目や噂とは違い強引な様子を見せない長曾我部に、雅は少し肩の力を抜く。
「えっと…お気遣いはありがたいけど、婚約はお断りします」
「何…?」
「いや、睨まれても……」
雅は頬を掻く。
「普通に考えてさ、希少種だから急に婚約を申し込まれるって、私自身を見てるわけじゃないでしょ?ごめんだけど、私が特殊なだけでごく普通の家庭で育ったから、お家の為にとか割り切れない」
普通に恋愛していきたいと思っている。
雅の言葉を聞いていた長曾我部は少し考えた後、頷いた。
「それもそうだな…悪かった。俺も家がデケェから、少し焦った。まずはダチからってのはどうだ?」
ニッと笑った長曾我部の表情は、先程までの悪い笑みではなく人懐っこい笑みに見えた。
雅は再び目を丸くした後、フッと笑って頷いた。
「お友達なら、良いよ」
「お!そうか」
そう言って差し出された手に驚いていると、ギュッと握手をされた。
「とりあえず長曾我部って呼び辛いから名前で呼んでもいい?」
「おう、いいぜ。俺もお前の事名前で呼ばせてもらうわ」
「うん、わかった」
少し和んだ空気に微笑んでいると後ろからピリッと、背筋を走る電気のようなモノを感じた。
バッと振り返ると、視線の先にはニヤリと笑う男が立っていた。
「Hey!長曾我部…まさかお前もソイツに目を付けていたとはな」
もしかしなくても、ソイツとは私の事だろうか。
こちらに向かって歩いてくる男、伊達政宗は不敵な笑みを浮かべながらとうとう目の前にやってきた。
「お前が噂のヤツか」
「………なにか?」
私はお前に用はないぞ、と言いたいが蛇に睨まれた蛙とはこの事だろう。
この男に見つめられると、嫌な汗が流れて身動きし辛くなる。
この男は重種で、今私にプレッシャーをかけてきているのだ。
「ふーん…見た目は悪くねぇな」
「おい、政宗…手荒にすんじゃねぇ」
雅の顎を掴んでジロジロと見てくる伊達の手を長曾我部が離そうとしたとき、雅が思い切り振り払った。
「やめてくれる?」
「あ?」
思わず睨まれ後退りしそうになるが、それでも睨み返す。
「いきなり品定めみたいな事されるの、不快」
「ハッ!そりゃ品定めするだろ……貴重な先祖返りだぜ?」
ニヤニヤと笑いながらそう言った伊達に雅は文句を言ってやろうと口を開こうとして、その口を閉ざした。
少し息を吸うと、自分でも自覚出来る程の嫌味ったらしい笑みを浮かべた。
「品定めする…つもりで私に品定めして欲しくて来たの?」
「あ……?」
「だって私は貴方達重種からしたら貴重な先祖返りだもんね?そりゃあお眼鏡に適いたいよね?でもそうだなあ…」
雅は伊達の顔をジッと見つめた後、フッと笑って隣にいた長曾我部の腕を取った。
「悪いけど、アンタなんか願い下げ」
そう言った雅に、長曾我部は大笑いし伊達はピキリと固まった。
(やばいやばいやばい、かなりムカついたからとはいえ言っちゃった)
長曾我部に気付かれないように冷や汗を流す雅を、伊達はジロリとその片目で睨んだ。
「願い…下げか」
伊達はゆらりと動くと、雅に近付きその肩を掴んだ。
「ひっ…!」
「いつまでそんな事言ってられるか、試してやるよ」
「おい!政宗!!」
「オレの目を見な」
「は?」
焦った様子の長曾我部を他所に雅は伊達の目を見てしまう。
「うっ…⁉」
途端襲い掛かる違和感、頭を弄られるような感覚がする。
(こ…れは…)
重種による、力。
私を、屈服させる気か。
「こ………んの…」
雅は伊達の顔を何とか掴むと、力を入れた。
「私を…ただの先祖返りと思うな‼」
「なっ…⁉」
雅は先祖返りとして強い力を持つ。
重種としての力を使い、私を屈服させるつもりなら…私はそれに抵抗してやる!!
「おいおい、まじかよ…」
傍で2人のやり取りを見ていた長曾我部は冷や汗を流した。
希少な翼主で大鷲で更には先祖返りという本気を出したらヤバそうな奴をどうにかしようとする伊達もヤバいと思ったが、普通にやり返す雅もヤバいと長曾我部は見ていた。
「お前ら、その辺に…」
そう言おうとした時、バサッと音がした。
雅の魂現が現れていたのだ。
「……ちょっとデカすぎやしねぇか?」
初めて見る雅の魂現はいくら大鷲といえどあまりに大きくて、長曾我部が目を見開いていると蛟の斑類である伊達の魂現がヒュッと消えた。
「ぐっ…」
小さく呻きながら膝をついた伊達に、長曾我部はハッとした。
「ど、どんなもんよ……」
肩で息をする雅に慌てて近くと、フラフラと揺れる体を支える。
「お前、大丈夫かよ⁉」
「元親…へへっ、撃退してやったよ」
ニッと笑う雅に、長曾我部は頷いた後に伊達を見る。
「……お前も大丈夫かよ」
「大丈夫……に、見えんのかよ」
「いや、全然」
雅は支えてくれる長曾我部に感謝を告げて一歩前に出ると、立つ事さえ出来ない伊達の前に仁王立ちした。
「悪い…けど、少なくとも先祖返りになってから数年は経ってるの。何も知らない、何も出来ないと思わないで」
そう言った時、遠くから土埃を起こしながら何かが突進してきた。
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