獣達の世界
名前変更
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
(ほんと、あの生徒会の奴らは…)
痛む頭を抑えていると、ヌッと誰かが現れた。
「!?」
驚いて歩みを止めて現れた人物を見る。
「…………」
「………なに?毛利君」
そこにいたのは同じ学年の毛利元就だった。
「…貴様が先祖返りか」
「あーもー、またその話か」
毛利の口から出た言葉に、頭を抱える。
「また?」
「さっきまで生徒会の人に捕まってたの」
ヤダヤダと言うと、毛利を見上げる。
「で、何か用?」
「今日は…貴様を見に来ただけだ。いずれ…我の家の為に協力してもらうかもしれぬからな」
「…ああ、そう。毛利君も大変そうだもんねー絶滅危惧種だし」
「なに…?」
雅の言葉に、毛利は眉間に皺を寄せた。
毛利元就は普段隠しているが、私は実は知っている。
彼が犬神人で絶滅危惧種と言われている重種の狼である事を。
「まあ、私が誰かに協力することもないと思うよ。では」
毛利に雅はそう言うと今度は走ってその場を後にした。
(早く教室に戻ろう)
かすがの近くにいれば周りも近づいて来ないだろうと思ったのだ。
本当は廊下を走ってはいけないが気にせず走っていると、横からニュッと顔が出てきた。
「そんなに慌ててどこいくの?」
「えっ?」
ニコニコ笑って雅と並走しているのは、3年の猿飛佐助だった(ちなみに犬神人の中間種)
「なにか御用でしょうか」
「 今話題の子を一目見ようと思ってね」
その言葉に雅は今日何度目になるかわからない溜息を吐いた。
「皆さん暇なんですね」
「まあ、今休み時間だし」
「たしかに」
そう、今は休み時間なのだ。
なのになぜ私はお昼も食べず走っているのだろう。
いやまあ、捕まれば面倒くさい人から逃げる為ではあるが。
雅は自分の教室が見えてきたのを確認すると、走るのをやめた。
「新聞部の先輩に質問なんですけど」
「ん?俺様に質問?」
「私のこと、どれくらい広まってるんですか」
雅の言葉に、猿飛はうーんと首を捻った後「知らない人はいないと思う」と言った。
「ですよねー」
「だねー」
雅は項垂れると、やっと帰ってこれた教室へと入った。
「雅!どこに行っていたのだ!」
帰ってくると同時にかすがが駆け寄ってきて、肩の力が抜けた。(猿飛先輩はかすがに手を振ると去っていった)
気付かないうちに気を張っていたみたいだ。
「ちょっと色々あって…」
「全く…気をつけるんだぞ!」
その言葉に頷くと、自席に戻る。
今度こそお弁当を食べようと机の上にお弁当箱を置いた時、チャイムが鳴った。
(……食べ損ねた)
雅は自分の昼休みを邪魔した面々を思い出し、怒りを募らせた。
(5限が自習でよかった)
なにやら先生の都合とやらで5限は自習になった。
これ幸いとお弁当を食べようとしたらかすがちゃんに睨まれたから渋々校舎裏へと移動してきた。
ここならきっと誰にも見つからないし。別にサボりじゃないよ…うん。
雅は手入れされた花壇や畑の横に余っている煉瓦へ腰掛けると、膝の上でお弁当を広げる。
「いただきまーす」
手を合わせてお弁当を食べ始める。
うん、走ったせいでぐちゃっとしてるが味は美味しい。
黙々とお弁当を食べていると誰かの足音が聞こえてきた。
(え、誰か来る?)
先生だったらやばいかもと焦っていると、現れたのは学生らしからぬ学生だった。
「…………」
「……こんなところでなにしてやがる」
人がいたことに少し驚いた様子を見せた後、声をかけてきたのは3年の片倉先輩だ。
ちなみに犬神人の半重種だ。
「………おい、聞いているのか?」
「あ、すみません。ちょっと色々あって…お昼ご飯食べ損ねて」
「授業はどうしたんだ」
「自習になったので、勉強してる人の横で食べるのもアレだし、抜けてきました」
そう言うと、片倉はため息を吐いて畑へと近寄った。
この人も自習なんだろうか?
そういえば今から何をするのだろうかと見ていると、片倉は畑の手入れを始めた。
「…………ここの畑、片倉先輩のなんですか?」
「…いや、学校のだ。教師から頼まれて世話してる」
「へぇ………」
野菜の成長を確認している片倉をジッと見た後、お弁当の残りを食べ始める。
(片倉先輩は、とりあえず変な目で見てこないな)
それだけで少しホッとした。
猿飛先輩が言うには知らない人はいないと思う、との事だからきっとこの人も私のことは知ってるはず。
なのに、変な目で見てこないということは雅にとっては気を張らなくていいから嬉しいことだった。
お弁当を食べ終えてお弁当箱を片付けていると、こちらを片倉がジッと見ている事に気付いた。
「…何か?」
「いや、そのだな……平気か?」
「えっ?」
片倉の言葉の意味がよく分からず、首を傾げる。
「…昼休み、生徒会の奴らに捕まっていたんだろ?その……無理は強いられなかったか」
なんとも言えない表情をした片倉のその言葉に雅はああ、と理解した。
この先輩は生徒会の人間に襲われなかったかを心配してくれているのだろう。
(やばい、嬉しい)
殆ど接点のない先輩だけど、今急激に私の中で株価上昇中。
「大丈夫でしたよ。すぐに逃げましたし」
「…………そうか」
片倉はそう言うと、畑の手入れを終えたのか道具を持って立ち上がった。
「………俺が言うのもなんだが…気を付けろよ」
「えっ?」
「斑類である俺達にとってお前はどうしても手に入れたい存在だ。色々な手を使うだろう。それこそ、強硬手段もな…」
片倉はそう言うと、その場を去っていった。
残された雅は片倉をキラキラとした目で見ていた。
(何あの人、ムッチャいい人…)
その本音はどうなのか何て、わかりもしないが根は絶対いい人だ。
雅はもっと早く知り合いたかったと思いながら教室へと戻っていった。
→