獣達の世界
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朝、私の1日は今は亡きおばあちゃんに手をあわせる事から始まる。
その後は身形を整え、魂元の確認を行い朝食を食べる。
そして早めに家を出て学校へ向かう。
学校に到着して下駄箱で靴を履き替えると教室へ向かう前に図書室へと寄る。
朝礼が始まるギリギリまで、静かな図書室で過ごすのが1つの楽しみだった。
「おはようございます」
「おお、おはよう」
「…………」
図書室司書の北条先生と手伝いをしている風魔先輩に何時ものように挨拶をして、何時もの定位置へ向かう。
奥の方にある窓際の席。
校庭の裏側で活動しているとしたら美化委員の人が花に水をあげてるか、野菜作りをしてる人くらいなのでかなり静かだ。
雅は借りている本を取り出すと、束の間の楽しみを堪能する。
暫く読書に没頭していると、トントンと机が叩かれた。
顔を上げると、風魔が立っていた。
「もうそんな時間か…ありがとうございます」
風魔は気にするなと首を振って踵を返す。
風魔が机を叩くのは、朝礼開始の五分前である合図。
雅は手早く本を直すと、北条に頭を下げて図書室を出た。
「おはよー」
「おはよう」
教室に着くと、かすがに挨拶をして自席へと向かう。
自席は窓際の最後尾。
色々な人に羨ましがられる席だ。
雅が着席すると、担任が入ってきた。
今日も何事もありませんようにと願いながら、雅は起立の号令に立ち上がった。
(今日も今の所は平和だなぁ)
雅は屋上で1人、昼食を食べ終えて空を見上げていた。
何故かこの学校は屋上が解禁されている、が結構人は少ない(日差しが強ければ肌は焼けるし、風が強ければ正直座ってられない)
雅は1人でのんびりしたい時は屋上へとくるのだ。
(それにしても、風魔先輩って凄いよねぇ)
毎朝図書室で顔を合わせる風魔は翼主だ。
それを隠していない。
私を含めて希少種の斑類は危険を回避する為に結構隠していたりするのに…
「凄いなぁ…」
そう呟いてゴロンと寝転ぶと、頭上に影が出来た。
「…………」
「悪い、先客か?」
ニッと笑ったのは隣のクラスの長曾我部元親だった。
ちなみにこの学校の番長だそうだ。
「いえ、大丈夫ですよ」
雅は驚いた事がバレないように起き上がると荷物を持って立ち上がる。
彼も斑類で重種だ、あまり関わりたくない。
そそくさと去っていく雅を、長曾我部はジッと見ていた。
階段を駆け下りていると、同学年の前田や他にも伊達や真田達とすれ違った。
どうやら今日は屋上に集まるみたいだ。
(集まる前に立ち去れてよかった)
雅がホッと息を吐いたとき、曲がり角から誰かが現れるのが見えた。
(やばっ…!)
何とか急ブレーキをかけたが、相手も気付いたのが遅れたみたいで残念ながら…ぶつかってしまった。
「あいたたたた…」
聞こえたのは女の子の声で、慌ててそちらを見る。
「だ、大丈夫!?」
「は、はい…」
女の子の正体は、1年生の鶴姫ちゃんだった。なんでもカリスマ占い師らしい。
初めてこんなに接近した。
「ごめんね、こっちの不注意で」
「いえ!わたしも慌てていたので……あ、すみません!!」
お互いに頭を下げてその場を去ろうとしたら、ガシっと手を掴まれた。
(えっ?)
振り返るとそこには鶴姫しかいなくて、手を掴んでいたのも勿論鶴姫だった。
「あの…」
「もしかして、貴女は結城雅さんですか?」
「そうですけど…」
真剣な表情の鶴姫に思わず敬語で返答すると、その表情は瞬く間に笑顔になった。
「貴女が……!宵闇の羽の方と同じ…!そしてわたしとも同じの、翼主!」
「…………え?」
今、この子なんて言った?
雅は目を丸くした。
「あ、突然すみません。わたしは1年の鶴姫と申します!翼主の鶴です!」
鶴姫は自己紹介をした後、ズイッと顔を近づけてきた。
御告げで、先輩が翼主であるという事を卑弥呼様から言われて、更には色々と面倒なことに巻き込まれるとの事でしたのでご忠告に来ました!
そう笑顔で言った鶴姫に、開いた口が塞がらなかったが、なんとか正気に戻る。
「あの……鶴姫ちゃん」
「はい!」
「あなたは私をどう感じる?私…猫又なんだけど」
そう言うと、あれ?っと鶴姫は首を傾げる。
「確かに……そうですね…うーん、御告げが外れるなんて、そんな事ないのに…」
雅の言葉に、鶴姫は考え出した。
(よし、誤魔化せるかも)
雅が心の中でガッツポーズをした時、フワッと体が浮いた。
「えっ?」
「ふむ、ぬしが翼主か」
聞こえてきた声に振り返ると、そこには大谷吉継がいた。
(やばい奴に見つかった)
騒ぎの種を撒くことで有名な彼に見つかるとはなんとも運が悪い。
そして、そのどういう仕組みかわからない謎の力で私を浮かせないでほしい。
雅は流れる冷や汗をそのままに、口を開く。
「いや、大谷君も私が猫又ってわかるよね?」
斑類なんだし。
何とか翼主の事を誤魔化そうとするが、大谷はニヤッと笑うだけだった。
「理性が本能を上回れば、その言葉の真意がわかるかもなあ」
「えっ」
大谷がちらりと廊下の奥を見たかと思うと、雅の体は物凄い速度で放り投げられた。
「えええええっ!!!?」
いきなりの事に悲鳴をあげる。
(やばい、え、ちょっ)
迫り来る壁に焦るが、魂現を出してはいけないと何とか自分を律する。
しかし、徐々に迫り来る壁に恐怖は隠せなくて。
「うわあああああ!!!」
雅の変え魂は遂に解かれてしまった。
ギュッと目を瞑って衝撃に備えたが、いつまでも衝撃はやって来ず。
恐る恐る目を開けると、いつの間にか自分は大谷の元へと戻って来ていた。
「ふむ…翼主で大鷲とは…これはまた大層な。更に…先祖返りか」
(ああ、バレてしまった)
周りに舞う羽根は恐らく慌ててバタついた私の羽根だろう。
そして、理性が一瞬飛んでしまった事によって先祖返りが持つ能力の強さを感じ取られてしまったのだろう。
絶望する雅とは反対に、大谷はとても楽しそうだった。
彼は雅を下ろしてヒヒッと笑うと、愉快愉快と去っていった。
そして、その場に残された雅と鶴姫は、沈黙に包まれていた。
「…………」
「あ、あの……」
いたたまれない空気に鶴姫が声を掛けて来た気もしないが、それよりもただ私は言いたい。
「大谷の、馬鹿野郎ーーーー!!!!!」
突然叫んだ雅に鶴姫はビクッと肩を揺らしたが、気にしていられない。
(ああ、終わった…)
今この時、私の長年の努力が水の泡となってしまったのだ。
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