獣達の世界
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後日、雅は数日ぶりの図書室に来ていた。
この前、気合を入れたもののその日は勇気が出なかったのでとりあえず登校時の迎えは必要ないことを風魔に告げてから帰宅した。
告げた時は風魔は驚いていたが、何かを言わせる前に詰め寄り了承させた。
それから、暫く図書室に行くのはやめて風魔を観察してみた。
本当に自分に気があるのか調べるためだ。
結論から言うとこれはわからなかった。
廊下で遭遇しても話しかけて来たり、話しかけてこなかったり。
勿論、わざわざ会いに来るなんてことはなかった。
これも作戦のうちなのか?と疑う日もあったがまあいいかと思うことにした。
相手がどんな気持ちであれ、自分は彼が好きなのだから。
そして今日、久しぶりに来た図書室の前で雅は緊張していた。
(先輩いるかな)
放課後、学校には部活動をしている生徒の声が響き渡るが図書室は静かだ。
北条先生がいたら賑やかなのだがここまで静かと言うことは先生はいないのだろう。
ましてや、他の生徒もいないのかもしれない。
雅は色々考えていたが頭を振ると、深呼吸をして扉を開いた。
「し、失礼しまーす…」
恐る恐る中を覗くが、そこはガランとしていた。
中に入るが、誰もいない。
戸締りもせずに皆帰ってしまったのだろうか、それとも奥に人がいるのだろうか。
キョロキョロとしながら、自分が定位置として座っていた奥の席へと向かう。
(あっ…)
そこに風魔はいた。
風魔と話をしようと思ったがいざとなると緊張して上手く声が出ない。
また後日にしようかと悩んでいると、風魔がこちらを見た。
「……座ったらどうだ」
「は、はい!」
緊張して声が裏返ったがそれどころではない。
ドキドキしながら風魔の向かい側へと座ると、風魔が読んでいた本を閉じて机に置いた。
「………」
「………」
そこからはどちらが話し出すわけでもなく、沈黙が流れた。
(どうしよう、なんて切り出そう)
「今日は……どうした」
気まずくなっている雅を他所に、風魔が口を開いた。
「えっ、いや、あの…」
雅は視線をキョロキョロさせた後、深呼吸をしてキュッと目を瞑った。
「私、風魔先輩が…好きです!!」
思ったより大きな声が出てしまって、頬が熱くなる。
少しして…雅は恐る恐ると目を開いた。
風魔の反応が無くて、気になったのだ。
風魔をチラリと見ると、風魔は固まっている様子だった。
「……えっと、先輩?」
「っ……そう、か。俺のことが、好きか」
そう言って口元に手を当てて風魔は顔を隠した。
その行動がよく分からなくて雅は思わずジッと見つめる。
「……少し待て。あまり見るな」
そう言って顔を背けた風魔の耳は赤かった。
雅もなんだか恥ずかしくなって目を逸らした。
「その…本当に俺が好きなのか?俺のせいであてられてしまったなら、今のうちに言ってくれ」
あてられる、と言うのは重種が持つフェロモンにあてられるということだろう。
その言葉で、雅は風魔を疑うことをやめた。
彼は私を先祖返りだからと見ているのでは無く、ちゃんと見てくれている。
それが分かり、思わず微笑んだ。
「それなら…大丈夫ですよ。幾人もの斑類を騙してきたんですから、今更あてられるとかないです。寧ろ…何かしようとして来た相手は返り討ちですね」
そう言うと、風魔は笑った。
「それもそうだな」
「……本当は、風魔先輩が私を好きだというのは先祖返りの力が魅力的だからだと思ってました。そうだとしてもいいと思ってたんです。でも…風魔先輩がそうじゃないというのがわかって、本当に嬉しいです」
ふわりと笑った雅を見て、風魔は手を伸ばすと雅の手を取った。
「俺は…お前が猫又でもなんでもいい。お前が気になったんだ」
「…ありがとうございます」
手を握り返すと、恥ずかしくて俯いた。
少ししてガタリと音が鳴り顔を上げると立ち上がった風魔が隣へと来ていた。
「もう、逃さないぞ」
「…こっちのセリフです」
風魔はフッと笑っと顔を近づけて来た。
(あ、目があった)
そう思った時には唇が重なっており、ソッと目を閉じた。
あの後、風魔に自宅まで送ってもらい、色々あって頭がパンクしていた雅は早々に眠りについた。
後日、朝から迎えに来てくれていた風魔と共に学校へ行くと教室で質問攻めにあった。
それをかすがと真田がおさめて改めてどういう事かと聞かれたので付き合いだしたことを伝えると二人は開いた口が塞がらなくなっていた。
「某…諦めませんぞ……!」と言って教室を出て行った真田にあはは…と笑っているとかすがからは「良かったな」と言われて微笑んだ。
その話は斑類の中で瞬く間に広がり、生徒会や伊達など諦めの悪い面々が昼休みに教室まで押し掛けてきていたが風魔が追い払ってくれた。
「えっと、ありがとうございます」
「…ああ。無事でよかった」
そう言って微笑んでくれる風魔にほわほわしていると、ガッと誰かに肩を組まれた。
「よっ!おめでとさん」
「慶次!…ありがとう」
肩を組んできたのは前田で、礼を言う。
「幸せになれよ」
「うん…慶次、本当に色々とありがとうね」
そう伝えると頭をわしゃわしゃと撫でて前田は去って行った。
「…えっと、お弁当食べましょうか」
「そうだな」
二人で図書室へと移動すると、弁当を広げる。
(本当は図書室での飲食は禁止だが北条先生が特別に許してくれた)
他愛無いことを話していると、風魔がピタリと話すことを止めたのでチラリとそちらを見ると、優しい笑みを浮かべていて頬が熱くなった。
「雅…お前に会ってもらいたい人がいる」
「会って…?」
「ああ、俺の…両親だ。お前の両親にも会いたい」
その言葉はつまり、そういうことなのだろうか。
雅がぽかんとしていると、フッと笑って頬を突かれた。
「昨日の今日で?と思われるだろうが…俺はこの先お前意外と一緒になるつもりはない」
スリっと頬を撫でられ、顔が熱くなる。
「どうだ?」
「…はい、私も会いたいし、会ってほしい」
そう伝えると、風魔は笑った。
「これからも、よろしくお願いしますね」
雅がそう伝えると、風魔の手に自分の手を重ねると、風魔は顔を近づけた。
目を瞑り、唇が重なるのを感じて胸が暖かくなった。
これから先も色々あるだろうが、この人となら私は幸せに生きていけるだろう。
そう思いながら、二人で顔を見合わせて笑った。
END
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