獣達の世界
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「雅、どういう事だ!今朝よりも匂いが強くなっているではないか!」
ホームルームも終わり、後は帰るだけだというタイミングでかすがは超高速で雅の元に来ていた。
机をバン!と叩きながらそう言ったかすがに、雅はビクビクと怯えながらかすがをチラリと見る。
「い、いや、そのね…」
「その話、俺も聞かせてもらいたい」
いつもより真剣な表情の真田もやってきて、逃げ場がない事を悟り、雅はひとつ深呼吸をした。
「え、えっと…ね、その………」
口を開き、図書室での事を掻い摘んで話すと二人の表情がみるみる変わるのがわかった。
「よし、わかった…風魔の息の根を止めればいいんだな?」
「俺と佐助も手を貸そう」
「ちょ!待った待った!」
そう言って今にも出て行きそうな二人を止める。
「なぜ止めるのだ!」
「そうでござる!」
「いや、二人の気持ちはありがたいけど、流血沙汰は嫌だから落ち着いてってば!」
雅が大声を出すと、二人はハッとして徐々に落ち着く。
「わ、私は…逃げれたのに逃げなかった。すっごくドキドキして…恥ずかしいような、この時間が続いて欲しいような…よくわからない気持ちになった」
雅がそう話し出すと、2人はピキッと固まる。
「これが、同じ翼主が相手だからか、どうかはわからない…けど、今回すぐに逃げ出さなかったのは私が悪い。だから、落ち着いて欲しい」
ね?っと2人を見ると、かすがと真田はバツが悪そうにしていた。
「……雅がそういうならば…」
「………某、風魔殿には負けないでござる」
真田はそういうと、雅の髪を一房取り、唇を落として部活のために教室を出ていった。
残されたかすがと雅はその様子にポカーンとしていたがすぐにハッと我に帰り、かすがも慌てて部活へと向かった。
(……私も帰ろう)
今日も凄く疲れた。
なんというか…本当にキャパオーバーです。
昼間のことを思い出して、また頭から湯気が出そうになるくらい恥ずかしくなったが、なんとか振り払い立ち上がった。
翌日、私が家を出るとそこには人がいた。
「あ…れ?」
「……おはよう」
そこにいたのは風魔だった。
「お、おはよう…ございます。あれ?何でここに……?」
雅が混乱していると、フッと風魔は笑う。
「俺に絆されて欲しいと、言っただろ?」
その言葉に昨日の事を思い出してドキッとした。
「ほ、本気ですか?」
「ああ、本気だ」
学校に行こうと、歩き出した風魔の後ろを雅は追いかける。
(ほ、本当に本気なのかな……?)
前を歩く風魔を見るが、その考えは読めない。
雅はグルグルと回る頭を落ち着かせるために、息を吐いた。
(落ち着こう、落ち着いて考えよう)
風魔先輩は確かに以前から良くしてくれていたが、ここまで行動に出す人では無かったはずだ。
切っ掛けはなんだ?
そう……私が先祖返りと分かってからだ。
そこまで考えればもう簡単だ、彼は……私の先祖返りの希少性に目をつけているのだ。
そこまで考え、すっと冷静になる。
なんだ、そういうことかと。
ここ最近の事で常にいっぱいいっぱいで頭が回っていなかったが、自分は重種にとって魅力的なのだ。
その、繁殖力が。
「……どうした?」
歩みの遅い自分に気付いたのだろう、風魔が振り返る。
「いえ…なんでもないです」
そう笑顔で返すと、風魔は何も言わずに前を向いた。
雅は風魔から視線を外すと、バレないように溜息を吐いた。
学校に着くと風魔とは早々に別れ、図書室へは向かわずに教室へと向かった。
「はぁ~~~…」
自席に座り大きくため息を吐くと、項垂れる。
すっごくドキドキしたこの気持ちも、自分の中で育てていつかぶつけようと思っていたがその前に砕かれた気分だ。
一人で沈んでいると、誰かが教室に入ってくる音がしたが顔を上げずにそのまま項垂れていると、自分の前の席に入ってきた人物は座った。
「………」
「………」
(え、誰?)
入ってきた人物は何も言わずに、ただ黙って座っていた。
正直気まずい。
顔を上げようか悩んでいると、ポンっと頭に手が置かれた。
それに驚いて恐る恐る顔をあげると、そこには微笑む前田がいた。
「慶次…」
「よっ!雅。随分早いな」
「そういう慶次も」
「まつ姉ちゃんに偶には早く行けって追い出されてよ…」
頬を掻きながら言う慶次に溜息を吐き、体を起こすと頬杖をつく。
「今日は図書室に行かなかったのか?」
「……うん、暫く行かないかも」
「……そうか」
鋭いこの男のことだ。
風魔先輩関係で何かあったと確実に分かっているはずだ。
それでも聞いてこないのはありがたい。
「じゃあ、ちょっと俺と話そうぜ」
それに頷くと、前田はたわいないことを話し始めた。
それがありがたくて、話を聞いてると気分も落ち着いてきて自然と笑いが溢れるようになった。
「もー、慶次は相変わらずだな」
「いやー、笑ってくれて何よりだ」
ニコニコと笑う前田だったが、急に真剣な表情に変わり雅は一体どうしたのかと不思議そうに前田を見た。
「慶次?」
「…お前は、そうやって笑ってる方がいいよ。俺が惚れた笑顔だ」
優しく笑う前田に、頬が熱くなる。
「ははっ!真っ赤になったぞ」
「もう!からかわないでよ」
「バレたか」
そう言って笑う前田の肩をバシッと叩くと、その手を握られる。
「…慶次?」
離してくれない手にドキマギしてると、また真剣な表情に戻っていた前田と目が合う。
「……風魔と何があった?」
「えっ…」
突然の言葉に雅はドキリとする。
「どういうこと?」
「昨日あんだけ風魔の匂いさせて楽しそうにしてたのに、暫く図書室に行かないってなったらアイツ関係だと気付くだろ」
まあ、そうですよね。
雅が深い溜息を吐くと、前田は手を離して肩を叩いた。
「他の生徒が来るにはまだ時間がある。俺で良ければ話してくれ」
その言葉に雅は前田をチラリと見た後、口を開いた。
先祖返りであることがバレた時に自分を心配してくれて嬉しかったこと、伊達との一件後に前から気にしていたと言われて自分の羽のアクセサリーを渡されたこと、俺のモノだと周りに牽制したいと言われた事、自分も風魔が気になっている事を話した。
自分が好きな女が別の男を気にしてるというのに、前田は嫌がらず真剣に話を聞いて首を捻った。
「それ、両想いって事じゃねえのか?雅は何が引っ掛かってんだ?」
「えっと…」
頭にハテナを浮かべる前田に対し、雅は少し悩んだが今朝に思ったことを話した。
自分が先祖返りだから、風魔は露骨に態度に出し始めたのだろうと。
そう言った雅を、ジッと前田は見つめた。
雅は何も言わない前田に体を強張らせていたが、ポンっと頭を撫でられた。
「まあ、突然態度が露骨になったらそう思うよな。他のやつみたいに堂々と言ってくれるならまだしも」
「それはそれで複雑だけどね」
ハハッと笑うと、前田は雅の顎に手を添えた。
「慶次…?」
「雅、俺にしとけよ。俺は前からお前に言ってるだろ?好きだって」
好き、と言われて引いていた熱がまた顔に集まる。
「あの、慶次…」
「ん?」
「その…ありがとう。でも…」
忙しなく視線を動かす雅に、思わず前田は吹き出した。
「目、泳ぎすぎだろ」
「だって!……もー!」
雅はペシペシと前田の肩を叩いた。
そうして二人で戯れあっていると、悩んでいた事がバカバカしくなってきた。
風魔先輩は確かに、私が先祖返りだから急に行動しだしたのかもしれない。
それでも、惹かれたのは自分なのだ。
「……どうだ?気持ちは」
その言葉に、前田を見るととても優しい笑顔を浮かべていて、思わず泣きたくなった。
「慶次……ごめんね。好きになってくれてありがとう。でも、やっぱり…私はあの人が好きみたい」
「……そうか。あーあ、またフラれたか」
両手を頭の後ろに回してそう言った前田に、再度礼を言うと前田は立ち上がって雅の頭を撫でた。
「後悔しないように動けよ」
「うん、本当にありがとう」
そろそろ他のクラスメイトが登校しだす時間となり、前田は手を振ると教室を出て行った。
雅はそれを見送ると、よしっと頬を叩いた。
相手の気持ちがどうかはわからないが、私の気持ちは本物だ。
ならば、行動に移すのみだ。
祖母も母も自分から捕まえに行ったと言っていた。
ならば私も二人に倣って捕まえに行こう。
雅はよしっと気合を入れた。
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