新生活・3日目
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「ふう…」
一息入れる為、朱雀は楽器を置く。
持ってきたコーヒーを飲むと、何かに気付いたように、朱雀は扉の方へ視線を向けた。
「………」
「………」
僅かな隙間から覗く慶次を見つけ、朱雀は驚いたが、フッと笑った。
朱雀はカップを置きながら立ち上がり、扉に近づいた。
「や、やぁ…」
扉を開けると、慶次は苦笑した。
「覗くなら入れ」
「い、いいのか?」
朱雀が頷くと、慶次は嬉しそうに笑った後、部屋に入った。
「慶次、髪は降ろしてるのか?」
「あっ、そうだ!!紐が切れちまって…何か留める物あるかい?」
朱雀は考えた後、近くの机を探った。
「ゴムならある」
「ゴム?」
「…結んでやる」
自分の前に慶次を呼ぶ。
「おっ、悪いねぇ」
慶次は笑うと、朱雀に背を向けて椅子に座る。
朱雀は慶次の髪に触れる。
手慣れた様子で髪を纏めると、何時も慶次が結ってるように仕上げた。
「慣れてるんだな」
「まぁ…仕事で髪はいじったりしてたから」
「へえー」
留められた髪を触りながら、慶次は顔を見上げて朱雀を見た。
「…なんだ?」
「朱雀はいったいどんな仕事をしてるんだい?この部屋を見てもまったく検討つかないしさ」
興味津々な様子の慶次を見て、何か考えた後、フッと笑った。
「今晩教えてやるよ」
「お、ほんとかい?」
首を縦に振ると、慶次は嬉しそうに笑った。
朱雀も釣られて笑いながら、楽器を再び持つ。
「ところで朱雀」
「ん?」
「それは一体なんだい?」
楽器を指差しながら、慶次は首を傾げる。
「これ?これはベースって言うんだ」
「べーす?なら、あれもべーすかい?」
「違う、アレはギター」
「ぎたー?」
似たような形の楽器2つを見比べ、頭にハテナを浮かべる。
朱雀はフッと笑い、ギターを近くに寄せ、ベースと並べた。
「見ての通り、ベースとギターでは大きさが違う。持った時の重さも違うし、奏でる音も違う。後は、弦という、ここに張ってある糸の数も違うんだ」
へ~っと、朱雀の説明を聞く慶次。
楽器の話をするのが好きな朱雀は、部屋の奥を指差した。
「あそこにあるのは、ドラムって太鼓。周りにある金の平らな板はシンバル。その横にある四角い箱はアンプって言って、ベースやギターの音を大きくする絡繰りだ。俺はここにある楽器で音楽を奏でる仕事をしてるんだ」
「へ~。朱雀は凄いなぁ」
感心した様子の慶次に笑った。
「どんな感じに活動してるかは今夜ビデオ…映像を見てもらって説明する。大事な話もあるし」
「わかった」
朱雀は一息入れると、スッと立ち上がった。
「さて、俺はまた仕事するから、相手出来ないぞ?」
「おっ、そりゃ残念だなぁ…なら、俺もそろそろ道場に戻るよ」
ニッと笑った慶次に手を上げ、後ろ姿を見送った。
(…さて)
朱雀は携帯を取り出す。
(誰がいいかな…)
後輩を何人か頭に思い浮かべ、確か明日主催ライブを開く後輩がいたのを思い出す。
アドレス帳を開き、メールを作成。
送った後に、コーヒーを飲み干すと、近くにあったDVDを一枚手にし、立ち上がった。
「お先に失礼したでござる!」
風呂から上がってきた幸村が、元気にそう言った。
「なら、次は俺が入るぜ」
そう言って立ち上がったのは政宗。
皆、鍛錬やなんやらで汗を流し臭かった為、先に風呂に入ってもらっているのだ。
「まったく、旦那ってば…」
政宗と入れ違いで部屋に入ってきたのは無理矢理一緒に風呂に入らされた佐助。
「幸村、おいで」
佐助に苦笑しながら、大人しく寄ってきた幸村の髪にドライヤーをあてる。
「ところで朱雀。なんで俺達を急に集めたんだ?」
「あぁ…俺の仕事の事を教えようと思って」
そう言うと、幸村がくるりと振り返った。
「誠でござるか!?」
「本当だから、前向いて」
くるりと頭を前に向かせ、ドライヤーを続ける。
「俺もいつまでも休んでられねぇし、それに、家をしばらく空ける時もある。だから説明しとこうと思って」
はい、終わりと幸村の肩を叩く。
丁度風呂から上がってきた政宗と入れ替わり、小十郎と慶次が風呂に向かった。
あんな仲良かったか?なんて思いながら、皆のご飯を作る為に台所に立つ佐助のもとへ向かう。
「なんか手伝うか?」
「ん?そーだね、なんかお願いしよかな」
テレビに釘付けになる幸村と政宗をチラリと見た後、どんな感じに説明しようかと考えながら、手を動かした。
(美味かった…)
彼等の作るご飯はなんて美味いんだ。
と、夕食後1人で考えていると、政宗と幸村が目をキラキラと輝かせてこちらを見ていた。
他の3人も、ソワソワしているように見えた。
(あ、仕事の説明か)
朱雀はDVDを持ち、テレビの方へ移動する。
「はい、集合」
朱雀の声に、5人はすぐ集まってきた。
「(犬かよ…)えー、今から俺の仕事について説明をする。簡単に言えば音楽を制作し演奏する、それだけだ。2階とこの階にある仕事部屋は、それらで使う道具があるから絶対に勝手に入らないように」
前にも注意したが、再度注意し、DVDをセットする。
「で、演奏と言ってもあんた達がいた時とは使う楽器も演奏の仕方も違う。だから今からその様子を見てもらう」
だからテレビから少し離れろ、と言うと5人は大人しく下がった。
朱雀も少し離れると、DVDを再生した。
暗い画面が少し流れた後、パッとライブ会場の映像が流れる。
「俺達はあの舞台の上で演奏する。下に立ってるのは観客だ」
そう言ったと同時に、演奏が始まる。
5人が聴いた事もない演奏に見たことのないライブという行い。
圧倒されたように、5人はジッと見ていた。
しばらく映像を黙って見ていた佐助が口を開く。
「ところで…朱雀ちゃんはどこ?」
「…は?」
一瞬間抜けな声を出した後、すぐに納得する。
このライブの時、確か自分は女形に近い格好をしていた。
「俺は左から2番目の…女みたいなやつ。この時は普段と少し違った格好してたから」
そう言ってるうちにDVDは終わり、電源を切る。
「俺の仕事は、こうやって音楽を奏でる事だ。曲を作り、奏でる」
くるりと振り返る5人。
「で、全国を回るんだ」
「全国を?」
「そう。ツアーって言うんだけど、2週間後に控えてる」
カレンダーを指差しながら説明していると、不安そうな幸村がチラリとこちらを見る。
「そのつあー?中、某達はどうすれば…」
「留守番」
「留守番だと!?」
政宗が声を荒げ、朱雀の腕を掴む。
「留守番ってどういう事だ」
「そのままの意味だ。関係ない奴を一々連れて行かない」
腕を離すと、立ち上がって距離を取る。
「お前ら…留守番くらい出来るだろう?」
「一体どれくらい家を空けるんだ」
「はじめは約2週間、1度ここに帰って来て、次はずっと南に下る…その時は3~4週間ぐらいだな」
まだ日にちの感覚をわかっていない5人にカレンダーを見せながら説明する。
「結構長いね~」
「今回は短い方だ。最長では半年以上かけた事もあるからな」
どこかしょんぼりする5人に、ふぅと溜息を零す。
「とりあえず、明日ライブを見てもらおうと思う」
「らいぶを?」
頷くと、時計を指差す。
「俺は明日の朝にはもう出かけているが、知り合いがお前らを迎えに来てくれる。礼儀正しく、自然な素振りを振る舞ってくれよ」
これは決定事項だ。と言う朱雀に政宗は不満そうな表情で見ていた。
小十郎は溜息を吐いた後、朱雀を見た。
「戸締まりとかはどうしたらいいんだ?」
「あぁ…窓とかだけちゃんと閉めといてくれたらいい。入口は知り合いが閉めてくれる」
「随分と親しい知り合いなんだね」
「…俺の仲間だ。演奏仲間」
むぅっと頬を膨らませた佐助にそう説明する。
「なんだ…?嫉妬でもしたのか?」
冗談混じりにそう言い、くくっと笑うと朱雀は立ち上がった。
(なっ…///)
顔をほんのり赤く染める佐助に気づかないまま、朱雀は5人を見た。
「俺は仲間を信じてる。お前らも信じてる。だから、粗相のないように、頼むな」
朱雀はそう言い、風呂に向かった。
5人は顔を見合わせると、溜息を吐いた。
END 新生活・3日目