天下は彼のモノ
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奥州へ向かう途中、色々考えていたのだが、やはりこの世界の時系列はおかしかった。
いる筈の武将がいなくて、いない筈の武将がいる。
この事から俺はただ単にタイムスリップした訳では無さそうだ。
トリップもしたみたいだ。
しかし、それはそれで面白い。
まだ齢19と判明した伊達政宗を目指し、桜は馬を走らせた。
「ここが奥州か…」
賑わいを見せる城下町を見て小田原を思い出す。
(じっちゃん、もう少し頑張れよ)
決して小田原の城下が賑わいがない訳ではない、奥州が賑やかすぎなのだ。
馬に乗りながら城下町を見て回り、少し日が暮れかけてきた時。
「待ちやがれ!!!!」
どこからか怒声が聞こえ、辺りを見渡すと馬に何かがぶつかった。
くるりと振り返ると、そこには蒼い着物を着た青年が尻餅をついていた。
「っ…」
「!!すいません!お怪我はございませんか?」
慌てて馬から降り、青年へと手を伸ばす。
「あ、あぁ…」
青年は素直に手を伸ばし、顔を上げたと思えば固まった。
「あの…?」
「やっと追い付きましたぞ!!」
不思議に思って青年に声をかけると、別の人物の声が被さってきた。
視線をそちらに向ければ、髪はオールバック、顔に傷のある厳ついいかにもアレな方がいた。
その男も同じように桜を見ていた。
「………」
「………」
そのまま互いを観察していると、間に挟まれ尻餅をついていた少年が立ち上がり、桜をギュッと抱き締めた。
「Hey小十郎、俺のdestinyと見つめ合うな!!!」
「は?」
「え?」
厳つい男と桜は同時に間抜けな声を出した。
「ですてぃにー…とは?」
「運命って意味だ。この場合は運命の人、だがな」
「あの…その運命の人…とは?」
「もちろんHoneyの事だ!!!」
ニィっと笑ってこちらを見る青年に頭が痛くなった。
「えっと…あの…」
「政…藤次郎殿、そちらの女性が困っておられるので離れてあげてはどうかと…」
「おお、そうだな」
藤次郎と呼ばれた青年は体を離した。
(手は繋がれたままか…)
そう思った桜だが、フとあることに気付いた。
(小十郎…藤次郎…藤次郎は伊達政宗の別名…の筈)
桜はハッとして青年の顔を掴んだ。
「な、なんだ!?」
「おい!?」
(隻眼…藤次郎…)
「貴方が…」
「え?」
桜は手を離して一歩下がると、頭を下げた。
「伊達政宗様と片倉小十郎様とお見受けいたします」
「あ…?」
「貴様…何者だ!!!」
途端に警戒心丸出しになる2人に内心でほくそ笑む。
「先日、風魔小太郎が手紙を届けてくれたと思うのですが…」
「風魔が…?まさかお前!!」
「漆黒の風…か?」
ご名答、そう言って笑った。
「で、貴方達は伊達政宗様と片倉小十郎様で合っています…よね?」
「ああ」
藤次郎…否、政宗が返事をした。
「それはよかったです。では改めまして、最近なにやら噂をされている‘漆黒の風’と申します」
柔らかな笑みを浮かべて頭を下げた。
再び頭をあげて彼等を見ると、2人とも固まっていた。
「あの…」
「女…だったのか」
そう言われれば、自分は今女の着物を着ていたな。
桜は否定も肯定もせず、ただニッコリと笑った。
「ハッ…Mydestinyが漆黒の風…最高じゃねぇか!!!!」
政宗は桜を再び抱き寄せた。
「あの…「Hey小十郎、城に帰るぞ」
「もしや、漆黒の風も連れて行く気じゃ…」
小十郎の言葉に政宗はニッと笑い、桜が乗ってきた馬に飛び乗った。
「その、もしやだよ」
顔の青くなる小十郎を余所に、政宗は馬を走らせた。
(あれ、俺拉致られてるやん)
桜はそう思ったが面倒くさくなり、そのまま政宗に連れられて行った。
「…………」
「……あの」
「あ?」
「少し離れていただけませんか?」
城に着き、女中や家臣達から声をかけられるも、政宗は適当な返事をして彼の自室へと真っ直ぐ向かってきた。
部屋に着いて下ろされたかと思うと、至近距離で顔を見詰められ、そのままの体制で彼は固まっていたのだ。
「何恥ずかしがってやがる」
「いえ、恥ずかしいというか…」
「これくらいで照れてちゃこの先保たねえぜ?」
ピキっと青筋がたったのは気のせいじゃないだろう。
(この馬鹿殿はなに言ってやがる)
固まる桜を照れていると勘違いしたままの政宗はそのまま距離を詰めようとしたが、それより早く桜が動いた。
「……!!」
身を後ろに引き、ふわりと飛び上がると政宗の背後に立った。
「手の早い殿方は好みではないので」
ニッコリ笑い、襖を開いて部屋を飛び出た。
「まったく、あの方は…」
少し遅れて城にたどり着いた男、片倉小十郎は垂れた前髪を後ろに撫で付け、溜め息を吐いた。
(漆黒の風を連れ帰るとは…いったい何をお考えなんだ)
相手は女と言えど北条の人間。
そんな人間を連れ帰るなんて…
ぶつぶつと文句を言いながら城主のもとへ向かう途中、前方からアイツが歩いてきた。
「っ…漆黒の風!!!」
名前を知らない為、通り名で呼ぶと彼女は気付いて此方に駆け寄ってきた。
「あの!!!私の馬はどこですか?」
政宗様をどうした!!と怒鳴り付けようとしたが、随分心配そうに馬の事を聞くもんだから「馬屋だ…」と答えた。
ほっと安心した様子で彼女は笑い、そうだ、と手をポンと叩いた。
「いきなり人の事を拐った挙句襲おうとした馬鹿殿様なら自室にいらっしゃいますよ」
「………すまない」
本来なら自分の主を馬鹿殿呼ばわりされたら怒るところだが、今回は此方に非がある。
いきなり拐った挙句、襲おうとしたなんて…
小十郎は1つ謝りを入れた。
「いえ…それでは、私はそろそろ行こうかと…」
隣を通り過ぎようとするソイツの手を取った。
「あの…「お前、本当に何の目的もなく
その問い掛けに、ニッコリ笑った。
「勿論です、無駄な争いは嫌いですからね」
まぁ、戦いを仕掛けて来た人には容赦ないですけど。
言葉とは違い柔らかな笑みを浮かべる桜に、小十郎は呆気にとられた。
「俺抜きで仲良くなろうなんて、随分ひでぇじゃないか」
「政宗様!!」
縁側の柱に凭れながら、政宗がニィっと笑っていた。
「しかし、捕まえた事は褒めてやる」
捕まえた?
何をと思ったが、今自分は漆黒の風を掴んでいた。
小十郎はフと気付いて手を離し、彼女を見た。
「お前、名は?漆黒の風じゃ呼び辛いだろう」
「なら、風と呼んでいただいて結構です」
ニッコリと笑って名を教える気のない彼女に小十郎は顔をしかめた。
桜はそれに気づき、小十郎をジッと見た。
「貴方に名を教えたくない訳ではないのです。ただ、貴方に名を教えたらあの馬鹿殿様に仰るでしょう?それが嫌なのです」
「馬鹿殿だと…?おいおい、まさか俺の事じゃねぇだろうな」
「貴方以外に誰が?」
ニッコリと微笑みながら言うと、政宗からピシリと音が聞こえた(ような気がした)
「片倉様、馬屋へ案内お願いしてもよろしいでしょうか?」
「あ、あぁ…」
有無を言わせない笑顔でそう言うと、小十郎は思わず頷いた。
「しかし、もう夜だぞ」
「ですね」
「何処で寝る気だ?」
「野宿でもしようかと」
そう答えると、誰かが鼻で笑った。
「此処に泊まったらいいじゃねえか」
ニヤニヤと笑いながら政宗はそう言った。
「なんなら夜伽の相手でも、してやろうか?」
(………ほんまに馬鹿やろ)
桜は少し黙った後、政宗に微笑んだ。
「っ…///」
「私にお構い無く。それに…夜伽をするなら片倉様の方がいいですわ」
「なっ!?///」
小十郎の腕に自分の腕を絡ませてクスリと笑った。
「なんだと…?俺を虚仮にしてんのか」
不機嫌になる政宗を真っ直ぐに見返す。
「はじめに私を虚仮にしたのは伊達様ではないですか?急に連れ去り、抱こうとし。私が軽い奴にでも見えましたか?」
そう言い返すと、政宗は「うっ…」と一歩下がった。
その様子を見て、桜は少し笑った。
「何か仰る事があると思いますが?」
「………すまなかった」
「何ですか?」
「…わ、悪かった!!!!」
謝った政宗にフゥと息を吐いて近付いた。
俯くその顔をそっと包み込み、覗き込んだ。
「よく言えました」
「~~~~~////」
ニコリと微笑むと、政宗は顔を真っ赤にして視線を反らした。
その態度に満足して手を離し、小十郎を見た。
「今晩、お世話になってもよろしいですか?」
「あぁ」
笑った小十郎に、桜も笑い返した。
END 漆