天下は彼のモノ
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さて、どうしよかな。
あの様子じゃ風魔はもう大丈夫そうやし。
テクテクと呑気に歩いていると、少し離れた所から悲鳴が聞こえた。
(なんやなんや、山賊でも現れたんか?)
服を何枚か脱いで先程より体の軽くなった桜は走りだす。
その走るスピードはとても速く、あっという間に騒ぎのあった場所に辿り着いた。
そこには座り込む老人と、老人を囲む黒装束の男達。
見たところ忍の様な姿にも見える。
桜は見てみぬフリは出来ず、声をかけた。
「たった1人の老人相手に、多勢に無勢とは、呆れますね」
「!!?何奴!!!」
桜の声に黒装束の視線は一気に集まる。
「ただの通りすがりですよ」
にこりと笑った次の瞬間、桜の姿は消えた。
「なっ!!」
「どこを見てるんですか?」
背後から声が聞こえて黒装束の男達は慌てて振り返る。
そこには老人を地に下ろしながら話す桜の姿。
「この女…」
「貴様!!ソイツを庇う気か!!」
リーダー格の男がソイツと言いながら老人を指差す。
老人はひぃっ!!と悲鳴を上げて桜の背後に隠れる。
「そうです、と言ったら?」
「生意気な…かかれっ!!」
男の号令で男達は襲いかかる。
人数は5人。
呑気に眺めていると、服を引かれる。
「こりゃ!!眺めてないで逃げるぞ!!」
「…大丈夫ですよ」
にこりと笑って手をやんわりほどくと、懐から鉄扇を出した。
バッと広げると、高く飛び上がり鉄扇を振った。
「ぐはっ!」
「うがぁぁ!!!」
鉄扇から放たれたのは鉄の玉で、男達に命中した。
まさに一瞬の出来事。
桜が地に降り立つと、男達は悲鳴を上げて倒れた。
(準備運動にもならんわ)
桜は鉄扇を閉じると、懐に片付け老人に振り返った。
「大丈夫ですか?」
「あ、あぁ…大丈夫じゃ」
何が起きたのかわかってないのか、間抜けな表情の老人の手をとる。
「家までお送りします」
「い、いいのか?」
「はい」
にっこり微笑むと、老人は満面の笑みを浮かべた。
「あの…ここが家ですか?」
「そうじゃ!!」
辿り着いたのは立派なお城だった。
「すみません、貴方のお名前は?」
「おお、紹介が遅れたわい。儂は北条氏政じゃ。この城の主じゃ」
「!!!」
(やたら身形が良いと思ったら、殿様だったとはなぁ…しかも名前が北条氏政、完璧に俺はタイムスリップしたようやなぁ)
色んな意味で衝撃を受けて固まる桜。
「ほれ、何固まっとる、中に入るぞぃ!!」
「え、いや私は…」
「礼ぐらいさせぃ!!」
強引に腕を引かれ、城の中に連れられる。
(ん~まぁ、別にいいか)
桜は頬を掻くと、溜息を吐いた。
あれから風呂に通され、女中さん達が体を洗おうとしたがなんとか断って1人で風呂に入った。
風呂から上がるとさっきまで着ていた服はなく、高級そうな‘女性’物の着物が置かれていた。
(こりゃ完璧に勘違いされとるな~まぁ、ええけど)
着物に袖を通し、外に出ると女中さんが立っていた。
「あらあら、とってもお似合いですわ!さ、氏政様が待っておられますよ」
「はぁ…」
間抜けな返事を返すと、目を輝かす女中さんに腕を引かれる。
辿り着いたのは大きな部屋で、女中が中に向かって声をかけると、襖が開いた。
「おおっ!来たか!ほれ、入れ入れ」
「お邪魔します」
部屋の中に入ると氏政と向かい合わせの状態で座らされる。
「さて、さっきは助かった。改めて礼を言うぞっ!!」
「いえ、困ってる人を助けるのは当たり前のことですので…」
「ほほっ、謙虚な奴じゃわい。それでの、何か礼をと思ったのじゃが…何か望みはあるかのぅ?」
覗き込むように見てくる氏政から少し視線を逸らす。
(礼なぁ…そうや!!)
桜は何か閃いたように、キラキラした目で氏政を見た。
「私を…俺を拾ってください!!」
「そうかそうか、お主を拾って…拾って?」
「はい!!!」
「なっ…なんじゃとぉ!!!!!」
叫ぶ氏政をどうにか黙らせ、桜は理由を話し始めた。
「って訳なんですが…」
小太郎に話したことと同じように話した。
その間にもいくつか質問があったので答えたらすっかり黙り込んで考えだした。
(職業が殺し屋で性別が男って言った時は凄く叫んでたが)
桜は氏政をジッと見つめ、返事を待つ。
「ふむぅ…その話が本当にしろ、嘘にしろ、主は行く宛てがないんじゃな」
「はい」
「そうか…なら、ここに住むがいいぞ」
「えっ…」
氏政の言葉に一瞬固まったあと、桜は氏政の手をバッと握った。
「じっちゃん!ありがとう!あ…」
突然のじっちゃん呼びと関西の訛りに氏政は驚いた表情を見せる。
慌てて座り直すと、改めて氏政を見た。
「すみません…つい興奮してしまって」
「嫌、別に良いのじゃが…それより、そっちが素かの?」
「……はい、こっちの喋り方が素ですわ」
少し俯く桜に対し、氏政は微笑んだ。
「よいよい、素で話すといい。それに、もう一度じっちゃんて呼んでくれんかのぉ?」
「北条様…いや、じっちゃん。堪忍な。こんな俺やけどほんまに拾ってくれる?」
「もちろんじゃ」
「……ありがとう」
桜は嬉しそうに微笑んだ後、頭を下げた。
「ところで、俺は何をしたらいいんかな?足軽?女中?それとも忍?」
「何を言うとる!別に何もせずにここにいたらよいじゃろ」
「でも、なんかせーへんかったら気がすまんわ」
少し頬を膨らませながら氏政を見つめる。
「ふむぅ…とりあえず今は生活に慣れるのが先じゃ」
「…はーい」
「ほれ、そんなに膨れるでない」
「じっちゃん…」
「生活に慣れる、それから何をするか決めてもよいじゃろう?」
「…うん、そやな、おおきに」
氏政はニコリと笑ったあと、ポンと手を叩いた。
「おお、そうじゃ、奴を紹介しておくかの。これ!!風魔!!」
(風魔?)
黒い靄とともにシュっと現れたのは、今日会った忍、風魔小太郎だった。
「!!!!」
小太郎も桜に気付いたのか、少し驚いた様子を見せた。
「風魔、こ奴は儂の命の恩人でな、可愛い儂の孫になった」
「………」
「名前は若葉桜じゃ。これでも男なんじゃぞ?」
氏政はほほっと笑った。
「ほれ、2人共親睦を深めるために隣の部屋で何か話してくるとよい。あ、桜や、今日はそこで寝るとよいぞ」
氏政は早口でそう告げると、2人を部屋から追い出した。
「「…………」」
追い出された2人はとりあえず隣の部屋に移動し、ちょこんと座った。
「えっと、改めて自己紹介します…若葉桜、素性は今日話した通り、性別は男、関西出身やから素では訛りが出る、で、氏政じっちゃんの孫になった。以上」
「………」
「何か質問ある?」
「………ない」
「そうか、んで、明日からお世話になります」
「………」
無言の彼に苦笑する。
「もしな、俺が…その…じっちゃんにとって害あるもんやと思ったら、殺していいから、とりあえず一旦警戒心解いてくれへんかなぁ?」
スッと小太郎の手をとり、ギュッと握った。
「!!」
「俺、殺し屋やっててさ、殺気とか警戒心とか色々感じながら生きてきたけどさ、あんまり好きじゃないんだよね、警戒されるの」
「………」
「それに、風魔さんとは一番初めに会った人やから仲良くしたいし」
ジーッと見つめていると、小太郎が溜息を吐いた。
それと同時に雰囲気が柔らかくなる。
「…変に疑う事は止めてやるが…まだ信じた訳じゃないからな」
「うん、おおきにな、小太郎」
「!!!」
小太郎は驚いた様子を見せると、その場から消えた。
それを見て桜はフッと笑うと、その場に仰向けに寝転んだ。
ゆっくり目を閉じたら、疲れていたのか眠気がすぐやってきた。
そのまま桜は眠りに落ちた。
END 肆