天下は彼のモノ
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「ふぅ…」
さっき見つけた洞穴にたどり着き、彼を一旦座らせる。
桜は結んでいた服の帯を解いた。
ぼーっと見ていた彼も、慌てた様子で顔を背ける。
そんなこと気にせず、一番上に着ていた着物を地に敷いた。
「ちょっとすみませんね」
「!?」
一応謝りをいれ、再び立たせる。
少し歩かして、敷いた着物の上に寝転がす。
慌てて飛び起きようとした彼を、表向きはやんわりと、手に込める力はそこそこ強く、抑えつけた。
「だから、私は何もしません。だから今はゆっくり体を休めて…」
ください。と続く筈の言葉は彼の手に遮られる。
「?」
ぱくぱくと口を動かし、彼は何かを伝えようとする。
読唇術の出来る桜には、何を言いたいかわかったが、あえて困ったように笑う。
「えっと…なんですか?」
桜がそう言うと、彼は何かを考えだす。
その間に、彼の兜を外そうと手を伸ばす。
「!!!!!」
しかし、あと少しのところでそれは阻止された。
「これ、外したいのですが」
ふるふると首を振る彼に、溜め息を吐く。
「確かに、素性もしらない上に怪しさ満点の私に素顔を見せるのは嫌かもしれません」
こうやって身を委ねてるのも。
「ですが…看病出来ませんので、我慢お願いします」
にっこり笑い、素早く兜を奪い去った。
ふわりと髪が靡き、現れた整った顔は驚きを浮かべていた。
コトリと兜を置き、彼の服も脱がしにかかる。
「ちょっと、暴れないでください」
本気で抵抗にかかる彼だが、あまり力が入ってない為に服はあっという間に脱がされ、この時代の下着、褌一枚になった。
怒った様子で睨む彼を無視し、自分も一枚服を脱ぐと、彼に被せ、立ち上がる。
「?」
「すぐそこに小川があったので、貴方の汚れた服を洗ってきます。だから…私が帰ってくるの待ってて下さいね」
そう言い、洞穴を出た。
「ふぅ…」
川でジャブジャブと服を洗い、着物の袖を破って濡らし、後は洞穴に帰るだけなのだが…気が重い。
なんでこうなったんや。
なぜ、なぜ、なぜ!!
考えても考えても、答えは見つからない、誰も教えてくれない。
最初こそ夢だと思ったが、感じた血の臭い、彼の体温、彼の存在。
それらが此処は現実だと、教えてくれた。
立ち上がり重い足取りで洞穴に戻ると、彼は大人しく眠っていた。
「只今戻りました。服は入口で乾かしていますので」
一応声をかけ、傍らに座る。
濡らした布をそっと額に置いた。
さてと…
他にも濡らしておいた布を使い、汚れた彼の体を拭いていく。
細かい傷は鍛錬かなにかの時についたと考えて…この傷は?
腕に刀で斬られたような傷があった。
(最近出来た傷、これが原因やな…)
炎症が起きて熱が出てるんじゃないのか?
「そういえば」
彼の少ない荷物の中に携帯用の薬箱があった。
悪いとは思いながら、それを開き、薬を取り出す。
(起きたらこれ飲ませたらええか)
既に温くなってしまった額の手拭いを取り替えるとお腹が鳴った。
「おなか減った…」
そういえば、何も食べてない。
(なんか狩るか)
桜はすっと立ち上がり、その場をあとにした。
「………」
パチリと目が覚め、バッと起き上がる。
たしか、森の中に変な女がいたから後をつけていたら…
「起きられましたか?」
声をかけられ、首を動かすと間着の女が火を焚いてなにか焼いていた。
香ばしい匂いからして、魚などだろう。
ジッと女を見ていると、体がふらつく。
「大丈夫ですか?」
慌てて近づいて来た女は俺の額にそっと触れた。
「さっきよりはマシですが、まだ熱がありますね」
布を手にとり、俺の頬に流れる汗を拭く女。
何者だ?
そんな考えは、女の腹の音でかき消された。
「あの…魚食べます?毒とか入ってませんので!」
そう言いながら焼いた魚を持ってくる女。
女は座ると魚を口に含んだ。
「どうぞ、食べて下さい。何か食べないと体に毒ですし」
女の様子からして、本当に毒は入ってない。
差し出された魚を手にとり、口に含んだ。
(とりあえず、食事はしゅーりょー)
桜は後片付けをすると、彼の前に座る。
「?」
なんだ、と見てくる彼に微笑む。
「私は若葉桜と申します。よければ、お名前教えて下さい」
「………」
「お願いします」
頭を少し下げた後、彼を見る。
少し躊躇った後、彼は口をぱくぱくと動かす。
が、桜はわざと困った表情を浮かべた。
「えっと…貴方のお口から、ちゃんと声を出して聞きたいのですが。声が出ないわけじゃないですよね?」
「!!!」
「何故って表情ですね。貴方がお名前を教えて下さったら、お答えします。だから、教えていただけませんか?そして…」
(困った俺を助けて)
桜がジッと彼を見つめる。
彼は溜息を吐くと、口を開いた。
「風魔小太郎」
桜はにっこり笑った。
END 弐