拾四
名前変更
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「ところで伊達様、先ほどから仰られてるHoneyとは誰の事で?」
「お前…南蛮語がわかるのか!?ますます気に入ったぜ…Honeyが誰か?そんなのお前に決まってるだろ?」
「南蛮語は少し…そうですか…それは残念です」
桜の言葉に政宗は眉間に皺を寄せる。
「どういう事だ」
「‘俺’は貴方のHoneyではないからです」
笑う桜に政宗と小十郎は言葉を失う。
その一方で小太郎はほくそ笑んでいた。
「俺…だと?」
「Hey、Honey。女が俺なんて使うもんじゃねえぜ?」
「はぁ…お分かり頂けないですか…」
桜は溜め息を吐くと、前をはだけさせる。
「見ての通り、俺は正真正銘の男や。本来の喋り方もあんな丁寧やないんですわ」
笑う桜に二人は呆気にとられる。
「改めて、よろしくお願いするわ」
桜はニッコリ笑う。
はじめは固まっていた政宗だったが、ニィッと笑った。
「男だろうと構わねぇ、あんたを俺の小姓にしてやる」
政宗の言葉に氏政は目を見開き、小太郎は刀へ手を伸ばしかけた。
桜は目を丸くしたが直ぐに笑った。
「あんたの小姓に?死んでも嫌やわ。片倉様やったら考えるけどな」
「なっ!?貴様何言って「俺じゃなくて小十郎ならなんでいいんだ?」
眉間に深い皺を刻む政宗に笑う。
「いきなり襲わん、尋ねに来た城の城主に乱暴しやん、人をいきなり小姓にしようとしやん」
その後も言われる指摘に政宗はどんどん縮こまる。
さすがの小十郎も助け船など出せるはずも無かった。
「等々ですが?」
悪いところを散々述べた後、爽やかに笑う桜に政宗はげんなりした顔で口を開いた。
「悪い、本当に悪かった。だからそれ以上はやめてくれ…」
今にも泣きそうな政宗に桜は再び目を丸くする。
(ちょっとかわええかも)
そんな事を考えたが直ぐに振り払い、微笑む。
「ご自分の悪いところを反省し、直すよう心掛けてください」
「ああ…」
「なら、もうこのお話は終わりにしましょう。そうです、折角やし、城下をお二人で見て回られたらどうですか?」
「城下をか…桜が案内してくれんの…いや、案内してくれないか?」
「!?………いいですよ」
桜は政宗に微笑んだ。
釣られて笑った政宗は立ち上がると桜の手を掴んだ。
「早速行こうぜ」
「わかりました」
「あ~なんて言うか…敬語使わなくていい」
「…うん、わかった」
一連の流れを見て小十郎は何か言いたげだったが、首を振ると笑った。
氏政もその光景を見て笑うなか、隣で小太郎は胸にモヤモヤとしたものを感じていた。
「あそこの茶屋のお団子は絶品やで。あっちの店の店主が手掛ける櫛は凄い良い細工でな~伊達様もきっと気に入るような品があると思うで」
店を色々紹介しつつ、城下を歩く。
相変わらず手は繋がれたままだが、見た目は男女なので誰も気にしていない。
後ろにいる小十郎は少し苦笑いだったが、何も言わず着いて来ていた。
「少し疲れたな…茶でもしないか?」
「ああ、気付かずに申し訳ない、さっきのお勧めの茶屋に行くか」
疲れたと言った政宗にそう言って笑い、茶屋へ向かう。
中に入ると、いつも良くしてくれるおばさんが出迎えてくれた。
席に案内され茶と団子を頼む。
出されたそれらを食していると、政宗から次々と質問をされる。
「歳は?」
「二十」
「いつから相模に?」
「ん~いつからやろ…」
「なんで南蛮語がわかるんだ?」
「なんでやろおな~」
質問を適当に躱しながら団子を頬張る、うん、うまい。
「答える気ねえな?」
「おう」
素直に頷いてやれば政宗は面白そうに笑うが、今まで黙っていた小十郎が口を開いた。
「さっきから、何故政宗様の質問にちゃんと答えねぇ」
苛立った様子の小十郎をちらりと見る。
「片倉様、落ち着いて考えてみてください?俺が素直に答えて伊達様の言うことを聞いていたら俺は奥州に連れて帰られるんですよ?」
そう言うと、小十郎はハッとしたように政宗を見た。
「お疲れですか?」
「なぜそう思う」
「片倉様は頭のキレる方だと伺っているので、悪巧みしてる伊達様を見抜けていなかったのを見ていると、疲れていらっしゃるのかと…」
「……意外と洞察力は優れているようだな。それより、政宗様に敬語を使っていないのに、この小十郎に敬語を使うな」
眉間に皺を寄せる小十郎にきょとんとした後、笑った。
「おう、わかった」
桜の笑顔を見て小十郎はフイと視線を反らした。
それと反対に政宗は桜の手を掴んだ。
「やっぱりお前を奥州に連れ帰るぜ」
「いや、断る」
「なら力ずくでも…うおっ!?」
政宗が声を上げて距離をとる。
二人の間に小太郎が降りてきたのだ。
「小太郎、ずっと着いて来てたんか?」
覗き込めば顔を反らされたが、肯定の様だ。
「悪いな、そろそろ城に帰るか」
「ちっ…そうするか」
邪魔をされて政宗は舌打ちをしたが、城に戻る事にしたようだ。
城への道を歩いていると、政宗が再び手を繋いできた。
(なんやねん…)
「なあ、お前はどうやったら手に入る?」
直球な質問に目を丸くしたが、直ぐにニッと笑った。
「俺は誰のもんにもならん。強いて言うなら相模のじっちゃんのもんや」
「なら、相模を傘下に加えればお前は手にはいるのか?」
「政宗様!!何を言って…!!」
戦を匂わす発言に小十郎は慌てたが、直ぐに落ち着きを取り戻した。
「傘下?奥州の傘下に相模を入れるってか?そんなんしても俺はあんたのものにならんし。というか、俺が相模は守る、じっちゃんを守る。だから奥州には下らねえよ」
挑発的に笑ってやると、政宗は大声で笑いだした。
城に着くと同時に、気を悪くしたのもあり、繋がれていた手を無理矢理離した。
「悪いけど、俺は本気やで。じっちゃんはわからんけど、俺はぶっちゃけ天下統一とかどうでもいい、力で抑えても直ぐに謀反や一揆が起こるんは目に見えてるし。万一、日本内で争ってる間に南蛮から襲われたら日本は終わりや」
今はまだ先の話でも、いつか戦争が起こるかもしれない、外国から攻め入ってくるかもしれない、そんなときに内部で争っていたら一瞬で日本は終わるだろう。
「そんなん…嫌やからな」
どこか遠くを見て言った桜に、政宗は笑うのを止めた。
「お前は…何を見ている?」
「日の本の行く末を」
そう言って桜はその場を立ち去る。
その後を出迎えに来ていた氏政は追いかけた。
「桜や」
「じっちゃん…」
「主は…未来とやらを知っているから、案じておるのか?」
「うん、それもあるけど…基本的には争いは嫌いや」
殺し屋だって、好きでやっていたわけじゃない
廊下で立ち話も良くないだろうと、近くの部屋に入り氏政を座らせる。
「………ほんまはなぁ、言ったらあかんねんやろうけど、天下統一する人物、知ってるんやわ」
「なんと…!?」
「けど、な。ここは俺の知る日本やない。この時代に同時に存在するはずがない武将がいたり、いるはずの武将がいなかったり…婆裟羅なんて妙な力もあるし、大きくかけ離れとるんや」
桜は氏政を見ると、微笑んだ。
「それならさ、今いる強い武将らと手を組んでさ、強固な日本の地盤を作って未来に繋げてもええよな、俺の世界の日本と違ってもええよなって…思ってるねん」
なにも、戦争に備えてるわけじゃない、戦争が起こらなければ一番いいが、触れあってみて分かったのだ、武将達は(一部を覗いて)皆、安泰を願い、平和を願い、行動しているのだと。
なら、争い領地を広めるんじゃなく、協力して助け合えばいいのではないかと。
そう簡単な事じゃないのはわかってるし、甘い戯れ言だとも解ってるけど、夢くらい見てもいいだろう。
そう語る桜に氏政は微笑み、その髪を撫でた。
「儂は…桜の夢、応援するぞ」
「じっちゃん…」
桜は嬉しくて、笑った。
「俺が信玄様や謙信様の同盟受け入れたんも、そういう理由やねん」
一対一の勝負はするかも知れないが、基本は協力してくれるのだ。
「戦いは、嫌いやなあ…」
1つ溜め息を吐くと、何やら騒がしい足音が近付いてきた。
「じっちゃん、こっちに…」
守るように氏政を引き寄せると、襖が開いた。
「なんか用か」
襖を開いたのは政宗で、不敵に笑っていた。
ずかずかと入ってくると、座る桜の前に自分も座り、間に何か置いた。
徳利と盃だ。
「…なんや」
「桜、俺と盃を交わせ」
「は?」
怪訝そうに睨む桜を気にせず政宗は盃に酒を注ぐ。
「相模を下してもてめぇは手に入らねえんだろ?だったら…同盟と洒落込もうじゃねえか」
ニイッと悪い笑みを浮かべる政宗に目を丸くする。
「何言ってんや…」
「同盟のが可能性あんだろ?それに…お前と幸村が繋がってるのが気にくわねえ」
なぜそこで幸村が?と思ったが、今は別にいい。
「…本当に同盟を組むんだな?」
「ああ」
笑って盃を手にする政宗から視線を外し、氏政を見た。
ゆっくり頷いた氏政に笑うと、盃を手にして政宗を見た。
「よろしく頼む」
そう言って、酒を煽った。
END 拾四