拾参
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「小太郎、ごめん」
「何故謝る」
「慰めようとしてくれたんやろ?気付かんと夢中になってもうたわ」
申し訳なさそうにする桜に小太郎はカッと腹の中が熱くなった。
怒りだ。
だけど何故、今自分が彼に怒りを感じたのか、それ以外にも感じるこのモヤモヤした感じは何なのか、彼は解らない。
困惑する小太郎を下ろすと、兜を付けてやる。
「ありがとうな、落ち着いた」
「……そうか」
「そろそろ寝よかな…」
「…………(誰か来る)」
眠ろうとした桜に目を向ける。
彼も気付いたみたいで、忍ばせた鉄扇に手を伸ばしていた。
「誰だ」
低い声が響く。
初めてそんな声を聞いたことに驚きつつ、小太郎は背中の刀の柄を握り締めた。
「……」
ふらふらっと現れたのは幸村だった。
「幸村?」
「桜殿…」
幸村は小太郎に目もくれず、桜に近付くとその胸に抱きついた。
「え?」
「桜殿、桜殿」
嬉しそうに擦り寄る幸村に困惑する。
序でに隣の小太郎の機嫌が急降下でさらに困惑する。
「え、なになに」
へらへら笑う幸村とは会話にならなくて、困って小太郎を見たが顔を反らされてしまう。
(どうしろゆうねん)
困って頭をわしゃわしゃっと掻くと、幸村の肩を掴んで引き剥がす。
「幸村?どうしたん?」
「桜殿、お慕い申してるでござる…」
「は?」
急になんだというのだ。
幸村とは今日を含め二回しか会ってない。
それなのに急に慕ってると言われても。
(…ああ、酒入ってるから何か混ざってんだろうな)
熱の篭った視線から目を反らし、小太郎を見る。
「幸村だいぶ酔ってるみたいやし、寝かしてくるわ」
その言葉に幸村はイヤイヤと首を振り桜の服を掴む。
「某、桜殿といたいでござる!!」
「いやいや、幸村そんなん言われても…」
「桜殿は…どうしても某を寝かしたいのでござるか?」
「え、うんまあ…大分酔ってるみたいやしなぁ…」
寝てくれたら助かるけど。
幸村はジッと桜を見詰めた後、勢いよく体重をかけた。
「うわっ!?」
突然の衝撃に耐えれず、桜は幸村と二人倒れる。
「桜殿、一緒に寝ましょうぞ」
「え?」
「それなら…某は桜殿といれて、眠れます…」
既に眠気で目がとろんとしている幸村。
桜は退く気のない幸村にため息を吐くと、子をあやすようにその背を撫でる。
チラリと小太郎を見ると、口パクで幸村の布団の準備を頼む。
至極嫌そうにする小太郎に何度も頼み、彼が立ち上がったのは幸村がすっかり夢の国へ旅立った時だった。
「うっ…!!!?」
人の気配を感じて目を開ける。
目の前に広がったのはニコニコと笑う男の顔だった。
「おかん…何してんねん」
「だから、おかんじゃないって言ってるでしょ」
頬をつねられ桜は目の前の佐助を睨んだ。
「さっさと退いてや」
「はいはい」
何故か体の上に乗っていた佐助に退いてもらい、体を起こす。
「なんの用や?」
「昨日は旦那が迷惑かけたみたいだからねぇ~一応謝罪にね」
「あ~別に気にしてないからええよ」
伸びをすると着替えを始める。
「ほんまにそれだけ?」
「…いや、まだあるよ。お館様達が呼んでる」
「…マジか」
ああ、昨晩の事でも怒られるのだろうか。
色々考えながらの着替えは中々進まなかった。
「失礼します…」
着替えが終えてやって来たのは先日の茶室。
部屋に戻りたい気持ちを一心に抑え中に入ると、一枚の書状を前に信玄と謙信が座っていた。
「桜、此方へ」
かすがに言われ、二人の前に座る。
沈黙が訪れる。
「おはようございます」
その沈黙を破ったのは謙信だった。
「あ、おはようございます…昨夜はよく寝れましたか?」
「うむ、ぐっすり眠ったぞい」
ニッと笑う信玄にホッと息を吐く。
「早速で悪いんじゃがの、これを見てくれ」
信玄は目の前の書状を指差す。
桜はそれを手に取り、目を見開いた。
「これは…」
「わたしたちで、どうめいをくみませんか?」
そう、書状には三ヶ国の同盟の意が書かれていた。
「急に、何故」
「ふむ…昨日のお主の意見を聞いての、ちと反省したんじゃ」
「反省?」
「何も、儂らとて兵達の命は軽んじてないし、皆がいるから戦が出来る事も解っとる」
「しかし、そのいっぽうでかいのとらとのいっきうちがしたいがために…いくさをおこしていたことをひていできません」
「民の事も勿論大切にしておる。しかし、残された者達の気持ちを解っていなかったのかもしれぬ…そこでじゃ!!!」
信玄はガシッと桜の肩を掴む。
「儂らが同盟を組み、より強固な戦力になるのじゃ」
「はぁ…」
「わたしたちがどうめいをくむということがどういったことをしめすか…わかりませんか?」
謙信に見つめられるが、さっぱり解らない。
助け船を出してくれたのは、ずっと黙っていた幸村だった。
「今一番恐れられ、天下に近いと言われてるのは悔しいながら尾張の織田…しかし、その次に近いのはお館様!!そして、越後の上杉殿」
「要するに、強い国が同盟組んで回りに威圧をかけるのは分かった。それが昨日の話にどう繋がるんや?」
「容易に攻め行ってくる国が減るでしょ?そしたら民や兵が傷付く回数も減るでしょ?」
「…そこで謙信様と甲斐の虎が一騎打ちをするのだ」
佐助とかすがの言葉に目を丸くする。
「え、あ、うん。言いたい事は解りました、けど、二人が一騎打ちなさってたらその間誰が国を?」
「そこでじゃ!!」
笑う信玄に冷や汗が流れる。
「漆黒の風と風の悪魔に協力願いたい」
そういうことか。
なんとも面倒くさい、しかし、これを引き受けると相模に来る敵も減る。
(…背に腹はかえれん)
小太郎を見ると、彼は小さく頷いた。
ずっと黙っていた氏政も頷く。
「この同盟…喜んで」
その言葉に、目の前の二人は笑った。
END 拾参