拾参
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「……すんません、えらいショック与えたみたいですね」
「しょっく?」
「あ~衝撃?」
幸村の後ろにしゃがむと、頭にあてられた手を握った。
「申し訳ありません」
「桜殿…」
俯いて謝る桜に幸村もぷるぷると震えながら俯いた。
「いや、桜殿は別に悪くないでござる」
そうは言ったものの悲しそうな幸村の頭を撫でた。
「俺はね、二つ仕事をしてたんや」
「二つ?」
「一つはお芝居、女性の役をしてた。もう一つは…人を殺す仕事」
「!?」
桜は目を瞑る。
「女の格好の方が都合いいからこんな姿してて、誰かに惚れられ、幸村様みたいに傷付けてまうんですよ…」
「桜殿…」
幸村はきょろきょろと視線を泳がせ後、桜の肩を掴んだ。
「桜殿、桜殿がその様な姿をしているのは充分理解しもうした。今もその仕事を?」
「いえ、両方もうしてません」
「そうでござるか…身に染み付いたものは中々抜けないでござる。某、もう平気でござるから、笑ってくだされ!!」
「幸村様…」
「どうぞ、幸村と。話し方も普段のように」
笑う幸村に桜も笑った。
「おおきに」
「おおきに?」
「ありがとうって意味や。おおきにな、幸村」
微笑む桜に幸村の顔は赤くなる。
ジッと見ていると、幸村は少し瞳を潤ませた後、ゴクリと唾を飲み込み、肩を掴む手に力を込めた。
「幸村?」
「………」
赤い幸村の顔が段々近付いてきた…かと思えば次の瞬間誰かに抱えられ幸村から離れていた。
「ん?」
「なっ!?」
顔を上に向けると、小太郎の顔が見えた(ほとんど兜だが)
どこか不機嫌そうな小太郎に首を傾げていると、幸村の隣に誰かが降り立った。
「全く、風魔ったら~イイトコで邪魔するんだから」
「さ、佐助!?」
驚く幸村と佐助を交互に見た後、小太郎を見た。
「イイトコ?」
「……(わからないのか?)」
「え?うん」
肝心なところで鈍い桜に小太郎は溜め息を吐いた。
「は?なんで溜め息なん」
「……(戻るぞ)」
「え?ちょっ!!!」
小太郎に抱えられたまま、その場を離れた。
「佐助、いつからいたでござるか」
「ん~桜が旦那に声かけたくらいかな」
「始めからではないか!!!」
「いやぁ…桜が気付いてるからてっきり旦那も気付いてるだろうな~って」
「………佐助、減給だ」
「なっ!?ちょっと旦那!?」
スタスタと歩き出した幸村を佐助は慌てて追い掛けた。
夜になり、すっかり皆は酔っていた。
酒を煽る煽る。
氏政は体に悪くない程度に飲むと言っていたが早い段階で夢の中。
幸村は信玄に散々飲まされべろべろだ。
佐助とかすがは酔いこそしてないように見えるがよく分からない。
小太郎に至っては全く分からない。
信玄は顔を赤くし、謙信はいつも以上に微笑みが堪えない。
なんて、色々思ったが…
(皆かなり酔ってるな)
謙信はとんでもない酒豪だ。
それに付き合わされ空いた酒樽は数知れない。
桜も顔には出ないが少し酔いが回っていた。
(まぁ、しかしなんと言うか)
「信玄様と謙信様は仲がええなぁ。好敵手やとお互い認め合うだけあるわ」
「うむ?」
「わたしととらが?」
「うん」
桜はニコッと笑った。
「なかよーして戦なんか止めはったらええのに」
「戦を…」
「うん。なんというか…話に聞いたことしかないからわからんけど、あんたらの戦はあんま良くない気がするんや」
そこまで言って桜はシマッタと口を閉ざした。
「…どうぞ、あなたのかんがえをきかせておくれ」
「…うん。二人は互いの楽しみの為に戦をする。一種の趣味のように。勝てばそりゃ負けた方の国を支配できるかもしらんけど、二人はそんなん抜きでも戦をしてる様に思う。そんなんじゃ…死んでしまった兵が可哀想や」
「…可哀想」
「殿の為に頑張ったのに肝心の殿は楽しみ、相討ちだと笑い帰っていく。もしかしたら兵達はそれでいいかもしらんけど、家族のおるもんは、残された者はどないなる?それに、二人がそんな感覚で戦繰り返してたら…死者が増えるだけや。それやったら二人だけで戦えばいいのに…」
どこか悲しそうに笑う桜はとても殺し屋をしていた様には見えなかった。
「偉そうにすみません、飲みすぎたみたいで…先に失礼しますわ」
眠る氏政を部屋に運ぶため肩に腕をかけ立ち上がり、会釈をした。
そして部屋を出ていく桜の後ろ姿を、謙信と信玄はジッと見ていた。
(しまったなー偉そうな事言ってもうた)
氏政を部屋に送り、自室へ戻ってきた。
襖を開けて仰向けに寝転び月を眺めながら先程の事を後悔する。
溜め息を吐いて目を瞑り口を開いた。
「なあ小太郎、二人怒ってた?」
「…いや」
目を開くと、月を背に小太郎が立っていた。
起き上がり部屋に招き入れると、小太郎は少し離れて桜の正面に座った。
「怒ってないん?」
「ああ、何か考え込み忍達と話をしてた」
「そうか…明日ちゃんと謝るけど、今怒ってはれへんねんやったら、まだ良かったわ」
ホッとして月を見上げる。
スッと動く気配がして小太郎を見ると、片手を膝に乗せ四つん這いの姿勢で顔を覗き込んできた。
「…どしたん」
「お前もそんな顔をするんだな」
「…どんな顔してた」
「……何かを安じた顔だ」
「まあ、あの二人怒らせて攻め入られたら困るやろ?とりあえずの危険は今は回避したと思ったからな」
そりゃ安心するわ。
微笑んだ桜を見て、小太郎は距離を縮めた。
「!?」
桜は驚き目を見開いた。
(え、キス…?)
ゆっくり離れた小太郎も己の行動に戸惑っているようで、笑えた。
「何故笑う」
「いや、キ…じゃないや、口吸いしてきた本人が戸惑ってるから」
桜は笑って小太郎の兜に手を当てた。
「!?」
今度驚いたのは小太郎だったが、気にせず桜は唇を合わせた。
本当に触れ合うだけの唇。
(ああ、俺確実酔ってるわ)
仕事で男とキスをしたことあるが、基本は女性が好きだ。
なのに、今は目の前の小太郎が可愛く思う。
「小太郎、外すで」
そう言って兜を外すと床に起き、小太郎を見た。
ジッと見つめてくる小太郎の目からは何も読み取れない。
「…小太郎」
「なんだ」
「離れないと口吸いするぞ」
ふざけて言った桜だったが、小太郎からキスをしてきた。
(あ~!!もうっ!!)
離れるどころか引かない小太郎の後頭部と腰に腕を回すと、胡座をする膝の上へ引寄せた。
「ふっ……ん…」
小太郎の鼻から抜ける声に煽られ、口付けも激しくなる。
(やばっ…止まらんわ)
何度も唇を合わせていると、着物を握られた。
その行為が可愛くて、思わず微笑む。
別に唇を合わせるのが久しぶりな訳ではない。
仕事柄キスをする回数は多い方だと思ってる。
なのに、今してるこのキスは止めたくない。
(ああ…でも)
止めないと。
彼はきっと自分が落ち込んでいたのを慰めようとこの手段を選んだのだろう。
何時までも気を使わせるのはダメだ。
桜は唇を離すと、小太郎の頬を撫でた。
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