拾参
名前変更
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「ただいま」
「おお…!!」
相模へ戻り、氏政の元へ向かった。
にこやかに迎え入れてくれた氏政の前に座ると頭を撫でられた。
「怪我はないかの?」
「うん、ない。心配ありがとな、じっちゃん」
桜は照れ臭そうに笑った。
タイミングを見計らって小太郎がお茶を持ってきた。
受け取って一服すると、変わったことはないかと聞かれた。
「変わった事…ん~織田に自分が男だって言ったくらいかな」
「ふむ、織田にのう…織田に?」
「うん。濃姫さんがな、スッゴい健気で可愛い人やったから、俺は女ちゃうから嫉妬しやんでも平気やでって言いたくてな」
一瞬気が揺らいだ小太郎が気になってそちらを見る。
「なんか…あったん?」
「…………」
スラスラと紙に書かれたのは漆黒の風と見目麗しいと言われている女は同一人物で、更には女みたいな容姿なだけで正体は男、そんな話が出回っているとの事だ。
「ふ~ん…まぁ別に困る事ちゃうしな。隠してた訳じゃないし」
「ふむ…確かにのう。この城の者は皆知っておるしのぉ」
ズズッと茶を飲むと、そっと湯飲みを置いた。
チラリと小太郎を見て彼が頷いたのを確認すると、氏政を守るように抱え込んだ。
「な、なんじゃ!?」
「ぐっ…!!」
「くっ…!」
氏政の慌てた声と重なる様に呻き声が2つ。
「…敵襲かな?」
氏政を背にしながら小太郎の方へ振り返ると、金と橙が小太郎により床へ取り押さえられていた。
「上杉のかすがちゃんに武田のおかんか」
「おかんじゃない!!」
かすがは小太郎を睨み、佐助は桜へツッコミを入れた。
「なんでここに?じっちゃんに手を出すつもりか?」
ひっ!!と悲鳴を上げる氏政を背に2人をキッと睨む。
「ち、違う!!私は謙信様から預かった文を届けに来ただけだ!」
「俺も、お館様から文を預かったんだ!!」
そう言った2人に近づくと、かすがの首に当てられた刀を退けてもらい手をとり座らせる。
「これは俺も見て大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
かさかさと開いて目を通すと、氏政へ渡す。
「ふむ…茶を」
「親睦を深める為に?」
「…あぁ」
茶会の誘いの文にうーむと考える氏政に笑った後、かすがに微笑む。
「わざわざ届けてくれてありがとうな。怪我してへん?」
「あ、ああ。それにしても…随分と話し方が違うのだな」
「こっちが素かな」
ニッと笑うとかすがは頬を赤くして目を反らした。
(かすがちゃんやっぱり可愛いなぁ)
ニコニコ微笑んでいると、隣から咳払いが聞こえた。
「あのさーいちゃついてないでさっさと風魔退けてくんない?俺様も文預かって来たんだけど」
「だってさ小太郎」
「…………(こいつは信用ならん)」
「おかんの事は信用ならんってさ」
「あんた風魔の気持ち解るの?ってか、俺様はおかんじゃない!!猿飛佐助って名前あるんだけど!」
ムッとした佐助にククッと笑い、首に刀を宛がう手に触れた。
「小太郎」
「……(離せと?)」
無言の言葉に頷くと、小太郎は渋々刀を引いた。
素早く起き上がった佐助は小太郎を睨みつつ桜に文を渡した。
「俺も見ていいの?」
「うん」
文を開いて目を通すとマジか…と呟いた。
「どうしたのじゃ?」
「武田の文の内容も、お茶のお誘いやわ」
文の内容を知らなかった忍の二人は驚いて互いをチラリと見た。
そして始まるのは桜争奪戦。
「漆黒の風、越後に来い!謙信様の点てるお茶は最高級だ!!お茶菓子も最高級の物を用意しよう!」
「それぐらいなら俺様も用意できるよ!ねぇ甲斐に来なよ」
「え、じっちゃんじゃなくて俺?」
桜は驚いて2人を見る。
「恐らく…謙信様は貴様に興味をお持ちだったからな」
「お館様もやたらあんたの事気にしてたしね~」
忍同士が睨み合う。
桜は氏政を見た。
「…どうする?」
「ふむ…お主が呼ばれておるから…お主が決めるのが一番じゃろう」
氏政は微笑んだ。
「俺が…うん、ならお言葉に甘えて」
まだ歪み合っている2人の手を取ると、微笑む。
「私はこの相模国へ貴方達の主君を招きとうございます」
「っ…」
桜の微笑みにかすがの周りに花が咲き、佐助の周りにも侵蝕した(勿論幻覚)
「出来れば、そうお伝え願えませんか?」
「け、謙信様にワザワザ相模まで来いと?」
「えぇ…私は無闇に動けません」
「なんで?」
桜は女の笑みを崩すと、ニヤリと笑った。
「織田に軽く喧嘩売って帰ってきたからな」
そう言った後、再びニコリと微笑んだ。
「いつ彼らが攻め行って来るか分からない今、無闇に動けないのです」
ですので、此方に来て頂くようお伝え下さい。
その言葉を背に、忍2人は部屋を追い出された。
「来るかな」
「どうかの…」
「………(来るだろうな)」
三人は互いを見合った。
それから数日後、同じ日に彼らは現れた。
「おや?」
「うむ?」
謙信と信玄は互いの姿を見つけると、少しの間固まり、急に笑いだした。
「ハッハッハッハ!!まさか同じ日に現れるとわの」
「わたくしもおどろきましたよ、かいのとら」
ハラハラするかすがと幸村と佐助を余所に、2人は笑う。
「お待ちしておりました」
迎えの者の声が聞こえるまで、二人は笑っていた。
案内された場所は豪華な茶室。
そこに氏政、小太郎、桜は居た。
「先日は文をいただきありがとうございました。そして本日はワザワザお越しいただき、感謝いたします」
ニコリと笑みを浮かべると、深く頭を下げた。
桜の素を見たかすがと佐助は変わりように感心していた。
「さて、今日はお茶会との名目ですが…どうせなら、こっちの方がええでしょ?」
クイッと何かを飲む仕草をした上に話し方の変わった桜に他の三人は目を丸くした。
「ああ、聞いて無かったんですか。まあ…性別の事は流石に耳に入ってるやろうけど…とりあえず、話し方はこっちが素なんです。以後よろしくお願いします」
ニコッと笑う桜に信玄と謙信も笑みを溢した。
「ハッハッハッ!!!!見事な化けっぷりじゃ!!」
「すっかりだまされました」
一方で驚いて口をパクパクさせる幸村。
桜は女中に酒の用意を頼んだ時、それに気付いた。
「どうしたんですか?幸村様。話し方に驚いたんですか?」
「ほ…」
「ほ?」
「本当に男でござったかぁぁぁぁあ!!!」
バッと立ち上がり庭に出ていった幸村。
ぽかんとしていると「あー」と佐助が気まずそうに口を開いた。
「一応伝えたんだけどね、まぁ傷付いたみたいで…」
初恋みたいなもんだったし…
と、ゴニョゴニョ言う佐助の言葉を聞いてあちゃーと頭を抱えた。
稀にこうやって人を傷付けてしまうのだ。
桜は立ち上がると、幸村を追って庭に出ていった。
「どこ行ったんや」
てっきり目の前の庭にいると思ったがそこにはいなかった。
庭を探索していると、丁度角に位置する場に幸村は頭を抱えてしゃがみこんでいた。
「幸村様?」
声をかけると、ビクッと大袈裟に肩を揺らしゆっくり振り返った。
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