天下は彼のモノ
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(とりあえず…ここで終わりやな)
馬の背を撫でながら城下町を歩く。
この戦国で畏怖される存在、第六天魔王と呼ばれる男が治める尾張国。
(聞いた話では…信長の下にいる家臣が随分可笑しいとか…)
血狂いの変態がいるとかなんとか。
面倒な事にならなければ…と考えていると、町の片隅が煩い事に気付いた。
「お前のせいで落ちたんだ!!とっとと買ってこい!!」
「ほんと煩い餓鬼ですねえ…斬りますよ?」
少年と男性の声。
ちらっと視線を向ければ少年の足下には金平糖が散らばっていた。
(あーあ、あのガキ半泣きだし)
男もさっさと謝って新しいのを買えばいいのに。
すぐそこに金平糖売ってる店あるんだからさ。
そう思いながら通り過ぎようとしたが男はただ苛つくばかりで少年の騒ぐ声も止まらない。
桜は溜め息を吐くと、店に近づいた。
「大体、食べながら歩くのが悪いのですよ」
「その前にお前がぶつかってくるから悪いんだろ!!」
益々ヒートアップする2人を町の住民は恐ろしい者を見るように遠くから見ていた。
それもその筈、2人は織田信長の配下である明智光秀と森蘭丸であるのだから。
そうとは露知らず近付くのは裾にいくにつれ赤いグラデーションがかかった黒い着物に身を包んだ女性…基桜。
「すみません」
「なんだよ!!」
蘭丸は大声で叫びながら振り返る。
しかし次の瞬間目に入ったのは柔らかく微笑む女性でグッと息を飲んだ。
(濃姫様みたいに綺麗…)
頬を少し赤らめて黙った蘭丸に首を傾けながら桜は持っていた袋を差し出した。
「はい」
「え?」
「金平糖落としちゃったんでしょ?私は食べないから、良かったら貰ってくれないかなあ?」
蘭丸は金平糖と言う単語に食い付いたが直ぐには受け取らず袋と桜を交互に見た。
「い、いいのか…?」
「勿論。反対に貰ってくれないと困っちゃうな」
その言葉にゆっくり出された両手に金平糖の入った袋を乗せた。
「こ、こんなにいっぱい…!いいのか!?」
「うん」
「へへっ…ありがとな!ねーちゃん!!」
ニカッと笑った蘭丸に少し和んで思わず頭を撫でた。
驚いたものの撫でさせてくれる蘭丸に微笑んでから手を退けようとしたとき、手を掴まれた。
「貴方…どこから?」
今まで黙っていた光秀だ。
白髪でおまけに肌も白い男に思わず心配になるがその心配も直ぐに吹き飛んだ。
「貴方…何処かの軍の者ですか?」
「…何故?」
「とても甘い…私の大好きな血の匂いがします」
ペロッと舌舐めずりをした光秀の手を払うと、ジッと彼を見た。
「貴方…明智光秀ですね」
白髪の血狂い。
「如何にも」
薄く笑った光秀から蘭丸に視線を移した。
「貴方も織田の…?」
「うん、森蘭丸だよ!!」
あぁ、偶然にも出会っちまったか。
桜は出そうになった溜め息を飲み込み、2人を見た。
「私は相模が北条軍に所属致します。字は漆黒の風」
どうぞお見知り置きを。
微笑んだ桜を光秀は面白そうに、蘭丸は驚愕の目で見詰めた。
「以前手紙にも記したように挨拶へと参りました」
信長殿にお会い出来ますか?
その言葉に嬉しそうに返事をして手を引いたのは蘭丸だった。
「此方でお待ち下さい」
「わかりました」
信長のいる城へと連れてこられ、その一室へと通された。
なんだか、暗く、脅威を感じる。
(久々に震えるわ)
それ程の人物なのだろう。
キュッと手を握ると、足音が聞こえた。
「濃姫様!!待って下さいよ!!」
「帰蝶、何をそんなに慌てているのです?」
「少し黙ってて、光秀」
会話の後にスパン!と襖が開かれた。
そちらを見ると、スリットの入ったなんとも色っぽい着物を着た綺麗な女性と先程の2人がいた。
「貴女が…漆黒の風?」
「如何にも」
頭を下げると、女性は近付いてくる。
「想像と違うわね…」
女だなんて思って無かったのに。
呟かれた言葉を聞きながら、彼女は誰だと瞬時に頭を働かせた。
(あの2人を引き連れて現れたし、蘭丸が濃姫様って言ってたから…聞いていた信長の妻か)
桜はチラリと彼女を見て、心の中でじたんだ。
(なんでこんなにも綺麗な女性ばっかなんや!!!)
俺も綺麗な妻欲しい!!!
なんて考えながら彼女を見た。
「濃姫様、どうされました?」
「いえ…なにもないわ。それより名前…」
「蘭丸様がそう呼んでらしたので」
にっこり笑うと、どこか焦った様子でギリッと歯を噛み締めた濃姫にはて?と首を傾げた。
その様子は、男を捕られる女の態度に見えたから。
そこで思い出した、自分は今(見た目が)女だ。
氏政に与えられた着物も合わさり、女形の名残でずっと女性でいたのだ。
2人からの報告を聞いた彼女は、信長の関心が此方に移るのではと心配して、少し乱れた髪にも気付かずに、慌てて此処まで来たのだろう。
桜は可愛らしい彼女にクスッと笑い、その手に触れた。
「!?何を…!!」
「濃姫様、髪が乱れております」
座って下さい、と微笑んでジッと見詰めると、彼女は銃を取り出して桜の額に当てた。
「怪しい行動をしたら、撃つわよ」
「構いません」
濃姫はジッと桜を見た後、座った。
失礼しますと声をかけ、向かい合ったまま乱れた髪を整えていく。
「濃姫様」
「何かしら」
「織田信長様の事、よっぽど愛してらっしゃるのですね」
「なっ…!!」
途端真っ赤になる濃姫に微笑む。
「漆黒の風が女と聞いて、慌てて来られたのですよね?」
見抜かれていた事に濃姫はバツが悪そうな顔をしたが、桜はただ笑うだけだった。
「濃姫様、ご安心下さい」
「何をかしら」
「私は男に興味など御座いません。私が興味を持つのは異性である女性のみ」
「異性って…貴方、女じゃない!!」
濃姫は訝しい視線を向けた。
「確かに、私はこのような成り立ちをしておりますが、正真正銘男ですよ」
そう言って平らな胸をチラリと見せた。
濃姫が驚いて目をぱちくりさせていると、低い笑い声が響いた。
「私はこの様な見目麗しく自分を想ってくれる妻を持つ貴方が羨ましいですよ、織田信長様」
その言葉に対する返事の様に、襖はスパン!と気持ち良く開かれた。
「貴様が漆黒の風か」
「如何にも」
「女と聞いていたが…実は男とな?」
「ええ、別段隠しているわけではありませんが、皆間違えてしまうようで」
頭を下げたまま話す。
濃姫や他の2人は信長の傍に控えたのだろう。
「面を上げい」
桜は禍々しくも強い視線を感じながら顔を上げた。
「ほう…?」
ニヤリと信長は笑うと、徐に刀を抜いて桜に斬りかかった。
間一髪で手にした鉄扇で刀を塞ぐと、ジッと信長を見た。
「何をなさるのですか」
「ふん…その顔に傷を付けてみたいと思っただけだ」
信長は離れると、先程まで座っていた場所へ戻った。
「明日から余へ付いて参れ」
「はい?」
「やったな!!一緒に信長様のところで戦しような!!」
無邪気に笑って近付いてきた蘭丸に困惑する。
「ところで名前、なんて言うんだ?」
「名前の前に1つ質問を」
「どうされました?」
不思議そうにする光秀を見る。
「私に織田軍へ入れと?」
「何を言ってるの?貴方はもう織田軍よ」
上総介様が気に入ったのですから。
その言葉にチラリと信長を見る。
彼はただニィと笑った。
「何ぞ不満があるのか」
「私は…相模が北条の者。そう勝手に決められては困ります」
「ならば北条を潰すまでよ」
その言葉に桜は苛立った。
ダン!!と音を立てて立ち上がると、鉄扇を信長に向けた。
「その言葉は聞き捨てならんな。ふざけるな」
「ほう…?そちらが本性か?」
「そんなんどうでもええやろ。それより、今北条を攻めいるんやったら…あんた、殺すで」
桜の言葉に皆武器を手にして信長の前に立つ。
「なんだよ急に!!そんな怒る事ないだろ!!」
「俺の居場所作ってくれた人の国を潰すって言われたら、誰でも怒るやろ」
悲しげな声で呟いた彼を、蘭丸は揺れる瞳で見た。
「俺はただ、漆黒の風は俺だと挨拶に来ただけや。帰らせてもらうわ」
「そう易易と帰すとでも?」
光秀がそう言うと全ての襖が開かれ、兵達が現れた。
「逆に聞くわ、帰られへんとでも?」
桜は不敵に笑うと、煙幕を繰り出した。
ゲホゲホと皆が咳をし、暫くして煙が消えると桜の姿は無かった。
途端、信長は楽しそうに笑った。
「益々気に入った」
その言葉と共に、信長は部屋を出ていった。
「ふぅ…」
小太郎から貰ってた煙幕玉、ほんまに使うとは思わんかったわ。
馬に乗りながら大分離れた尾張を見る。
「話の通り、危険な奴や」
桜は去り際に合った鋭い眼光を思い出し、1つ身震いした。
END 拾弐