天下は彼のモノ
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「ここ……何処や?」
あれ?俺って確か舞台が終わって、楽屋に戻って…
「あっ、そういえば」
楽屋で化粧を落として着替えようと立ち上がったら浮遊間に襲われて、落ちた。
「いやいやいや、落ちたって…」
頭をう~んと捻り、ふと自分の格好を見た。
歌舞伎の舞台が終わった直後で着替える前だったので、女の打掛を着たままだった。
歌舞伎の舞台で女形の役者として出演していたから、仕方がないが、かなり動きにくい。
それに、ここはほんまにどこや。
スっと意識を辺りに張り巡らす。
(とりあえず…ここら一帯は森みたいやな…ん?)
なにかの気配がする。
(動物…否、人)
只の通りすがりの人なら、なーんの心配もないが。
どっかの刺客やったら…
スッと目を細めた時、背後の木の上から人の気配がした。
(下手に動かん方がいいな)
相手は此方の動きを観察しているのだろう。
そのまま動かないでいると、別の気配を感じた。
大量に。
(なんや…?)
大量に感じる気配は、時々1つずつ消える。
少し気になり、ふらふらと歩き出した。
動きにくいわぁ。
打掛の裾を擦って汚してしまわないように、上に持ち上げて結んだ。
かさばる為、少々歩きにくくなる。
それよりも気になるのは、ずっとついてくる気配。
(俺に何の用やねん)
苛つくのを隠し、まだ歩き続けていると、森を抜けた。
「うっわぁ…」
抜けた先は崖になっていた。
危うく踏み外さないようにしっかりと地に足をつけ、眼下に広がる光景を見て絶句した。
「な…に?戦?」
戦国時代にでも来てしまったのか。
いやいやいや、そんな馬鹿な事あるかいな。
目の前の光景が信じられないが、慣れた血の臭いに目を細める。
(違う、馬鹿は俺や)
これは現実だ。
血の臭いが、それを実感させた。
なぜ、こんな事に。
なぜ、こんな時代に。
理由なんかわからない。
戻れるかもわからない。
頭の中がぐちゃぐちゃになる。
桜はとりあえず落ち着く為に1つ溜め息を吐いた。
それと同時に背後でドサリと、何かが落ちる音がした。
「!!?」
慌てて振り返ると、何かが倒れていた。
「人?…だ、大丈夫ですか!?」
慌てて駆け寄る。
顔の半分以上は兜で顔が隠れており、赤のかかる髪が目立つ男。
服装は白と黒で統一された彼は微かに見える頬を紅潮させ、荒い息を吐いていた。
熱が出ているのだろう、それも高熱。
頬に手を伸ばすと、強く睨まれ、殺気と同時に、苦無を向けられる。
「大丈夫、私は貴方に危害を加えるつもりはありません」
「………」
「信じろ、とは言いません。が、その物騒な物はなおして頂けないですか?私が不審な動きをしたと思ったら切り捨てていただいても構いませんから」
(とりあえず熱を計らせてくれんかな)
ジッと彼を見ていると、苦無は下ろされる。
「ありがとうございます」
ニコリと笑い、彼の頬に手を伸ばす。
ビクリと震え、警戒心剥き出しの彼だが、構わず頬に触れた。
(だいぶ熱いなぁ…相当な高熱や。どこか体を休める場所…)
ふと思い出したのは、ここに来るまでに見たちょっとした洞穴。
「すみません、失礼しますね」
「!!!?」
彼の腕を肩に回し、ぐっと立ち上がる。
警戒しつつも、体がダルいのか、もたれかかってくる。
「とりあえず、貴方は体を休めないといけません。ここに来るまでに洞穴があったのでそこに向かいます。すぐそこなので我慢してくださいね」
「………」
何も言わない彼にそう告げ、ゆっくり歩き出す。
本当は担いだり抱き上げた方が早いが、一応今は女の姿だから止めた。
「………」
無言で見てくる彼を気にしないようにして、桜は歩を進めた。
END 壱
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