君を思う
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「懐かしいな…」
サンジはニッと笑った。
2年の時を経て、サンジは再びシャボンディ諸島に降り立っていた。
2年前と違い、髭は生え髪の分け目も変わっていた。
久々に会った仲間は皆頼もしくなっていた。
ナミさんやロビンちゃんの美貌も増していて、二年も女性を見てなかった為、思わず鼻血で貧血を起こしたのはついさっきの事だ。
仲間にツッコミを入れられながらも、まだ再会出来てない2人を思い浮かべた。
ルフィとムナカ。
彼らはどのように成長しているのだろうか。
楽しみにしながら、シャボンディ諸島を歩いているとテーマパークへ辿り着いていた。
自然と、ムナカとの思い出の場所へ来ていたみたいだ。
フッと笑みを溢すと、自分と同じようにテーマパークを眺めている人物が目に入った。
ボロボロのマントを身につけ、フードを被るその人物がやけに気になった。
ジィっと眺めているとその人物が振り返り、驚いたような様子を見せた後、唯一見える口許が微笑んだ。
なんだ?とその人物を眺めているとゆっくり近付いてきた。
敵意は感じられないので、ジッとその人物を見ていると、自分の目の前で止まり、ゆっくりフードを脱いだ。
「なっ…!?」
「やあ、久しぶりサンジ君。随分男らしくなったね」
「ムナカ!!」
名を呼ぶと、ニコリと彼は笑った。
短かった髪は少し伸びて、後ろで短く括っており、顔つきは優しい雰囲気は変わらないが、精悍な雰囲気が加わり、体つきも逞しくなっていた。
「一番にサンジ君に会えて嬉しいな」
「おれが一番…か」
サンジはフッと笑った。
ムナカはサンジに手を伸ばす。
サンジの表情が一瞬引き攣ったが、気付かなかったふりをして首にかけられたネックレスに触れた。
「まだ付けてくれてたんだね、ありがとう」
笑うムナカにサンジも笑い返すと、手は下ろされる。
「皆と合流しないとね。そろそろルフィ君も来てるだろうし」
ムナカはそう言うと歩き出した。
一瞬、自分の手を見たことにサンジは気付いていたが、気にせず歩いた。
シャボンディを歩いている途中、サンジは次から次に女性を見てはメロリン状態になっていた。
苦笑するムナカだったが、イワンコフからどこにいたかを聞いていたので、何も言わなかった。
それでもやっぱり気にはなるので、見ないように目を背けた。
その後、さっそく騒ぎを起こしているルフィと再会し、どたばたしながらも麦わらの一味は船を出航させ、新世界を目指した。
筈だったのだが、新世界に入る前に、シャボンディから近くの島へ移動していた。
再会の宴でもしよう、との提案が出たので、食料等を調達するために移動した。
その間、ムナカは何故かサンジに近付かなかった。
誰にも気付かれぬ様に、不自然に思われぬ様に、サンジを観察するように、離れた場所から彼を見ていた。
サンジはそんなムナカに気付かず、気にせず、ナミやロビンだけではなく、あっちでメロリンこっちでメロリン。
二年間、女性に会っていなかったのだから仕方ないと言えば仕方ないが、寂しいなとムナカは苦笑していた。
「おい、あれいいのか?」
ウソップが肘でつつきながら聞いてくる。
「いいんじゃないのかな?この2年女性に無縁だったみたいだし」
「でもよー酷すぎやしねェか?」
フランキーはそう言いながらサンジを見る。
「まあ、しょうがないよ」
ハハッと笑うムナカにウソップ達は不満そうだったが、彼がそう言うならばともう何も言わなかった。
「相変わらずウッメーな!!!」
次々と運ばれてくる料理をルフィは平らげながらニカッと笑った。
上陸地点で麦わらの一味は宴をしていた。
いつもの様にサンジは料理を作り、作っては運ぶ。
ルフィやウソップにチョッパーにブルックやフランキーが取り合いしながら平らげる。
ナミやロビンは優雅に食事をし、ゾロは酒を煽る。
「おいムナカ、食ってんのか?」
「うん、食べてるよ?」
そんな彼らをただ微笑んで眺めているだけのムナカが食事をしている様子はなく、声をかけるが返ってきたのはそんな返事。
まあ、本人が言うなら…と別段気にする訳でもなく、サンジは再び料理を取りに戻ろうとしたとき、首に何か衝撃が走った。
「!?」
驚き回りを見渡し、首に手を当てたが別段違和感もなく、気にする事なくサンジは料理を取りに戻った。
悲しげに背中を見つめるムナカに気付かず。
翌日、ムナカは一人島の街を歩いていた。
皆も好き好きに行動しており、誘われたが断った。
今日は一人でいたい気分だったのだ。
色々考えながら街を探索していると、小さな噴水広場が見えた。
(…久々にやろうかな)
フと笑い、噴水の前に立つ。
「さあさあ、良かったら見ていって。水芸の始まりだよ」
その言葉と共に水は踊り出す。
直ぐに興味を持って集まってくる人々に微笑み、次々と芸を披露する。
蝶が舞い花は踊り動物は跳び跳ねる。
その楽しい様子に子供達だけではなく、大人達も楽しんでいた。
(ああ、楽しいなぁ)
微笑みながら集まった人達を眺めていると、その中にサンジと仲良く話す女性を見つけてしまった。
気付かなかったフリをし、視線を反らし、ぐるぐると沸き上がる何かを押さえ付け自分の決めた最後までやり通した。
数日後、新世界へ旅立つ前日にルフィは見張りをしていた。
「ん~ねみーな…」
瞼が落ちそうになるのを我慢しながら見張りを頑張っていると、誰かが近付いてきた。
「ん?」
「やあ、ルフィ君」
大丈夫?とクスクス笑うムナカに、頼りない返事を返す。
「ルフィ君、ごめんね」
「へ?何がだ?」
突然謝るムナカにルフィは首を傾ける。
「僕は新世界に一緒に行けない」
「……降りるのか?」
珍しく真剣な表情でルフィが問い掛ける。
それに頷くと、ルフィは眉間に皺を寄せた。
「なんでだ?おれはお前に降りて欲しくねえぞ」
「うん、その気持ちは嬉しいし、僕も出来るなら船に乗っていたいけど、辛いかな」
「辛い?」
んん?と頭を捻るルフィに微笑む。
「詳しくは説明出来ないんだけど、苦しいんだ」
「苦しい?」
「ごめんねルフィ君」
「んー仕方なくねえけど、仕方ねえなぁ…」
頭を捻るルフィの頭をぽんぽんと撫でると、ムナカは踵を返した。
(じゃあね、サンジ君)
君にとって大切な女の子、見つけるんだよ。
そう思った後にここ数日間のサンジを思い出し、大丈夫だろうと苦笑し、掌にあるネックチェーンの付いた指輪を握り締め、船を降りた。
「っ…」
嫌な夢を見た。
どんな夢かは覚えてないのに、とても嫌な感じで、そう、悪夢。
「嫌な目覚めだぜ…」
サンジは頭を振ると、胸元に手を当てた。
「……?」
あるはずの感触がなく、不思議に思い首回りに触れる。
「……ない」
ない、ナイ、無い!!!
ムナカに貰った指輪が無い!
お守りと化していた大切な指輪。
戦闘の邪魔にならないようにと、ネックチェーンに通しておれにくれた指輪。
(……まさか)
昨日感じた首への違和感、あの時に落としたのか。
それならまだ船にあるかもしれない。
サンジは寝室を飛び出した。
(くっそ…)
どこにもない。
船を隈無く探したのに、落ちていない。
起きてきた皆に尋ねても誰も知らないと言う。
ああ、ムナカが起きてくるまでに見付けなくては。
今日に限り寝坊したのか、なかなか出てこないムナカ。
しかし、却って好都合だ。
おれの首に指輪がかかってないのを見ると悲しむだろう。
そんなことは避けたい。
焦っていると、ルフィがふらふらと近付いてきた。
「サンジ、何してんだ?」
「ああ…探し物だ。チェーンの付いた指輪、見なかったか?」
「それならムナカが持ってたぞ」
「ムナカが?」
聞き返すと、眠そうなルフィは頷いた。
(ムナカが拾ってくれたのか)
それなら安心だと一息吐いてキョロキョロと辺りを見渡した。
「ムナカは?」
「いねえぞ。船を降りた」
「…………は?」
腕を組んで頬を膨らまし怒った様子のルフィを凝視する。
「どう…いうことだ?」
「そんなのおれも知らねえよー朝見張ってたら一番に起きて来て新世界に一緒に行けないって言われたんだ」
(ムナカ…何故?)
思考が追い付かない。
何故何も言わずに消えたのか。
「そういえば、辛いから降りるって言ってたぞー」
「辛い?」
一体何が辛かったのか。
「………クソコック、てめェ自覚ねえのか」
「何だとクソマリモ!!おれが原因って言いたいのか!!」
「そうよサンジ君」
「ナミさん…!?」
ゾロに自覚がないと言われ怒ったが、ナミに肯定されサンジは目を丸くした。
「もしかしてよ…再会してからのここ数日間の自分の行動、解ってねぇのか…?」
ウソップが恐る恐るそう言った。
「サンジ君、ここ数日間貴方の記憶にムナカはいたかしら?」
そう言われ、振り返る。
記憶にいるのは女の子女の子女の子…
(あれ?)
ムナカがいない。
再会してから、全然一緒にいなかった。
「ムナカよーお前が女にばっか行くから、悲しそうだったぜ」
「それに、サンジさんに近付こうとしないのでお尋ねしたら、女の子と居たいだろうからね、って仰ってましたね」
フランキーとブルックの言葉に、顔面蒼白になる。
「考えてみてサンジ君。大切な恋人が他の人にメロメロになってるの見てていい気分だと思う?」
「思わ…ない」
「それにムナカは優しいから、きっとサンジ君が女の子が好きなのを解ってるから、身を引いて消えたんだと思うわ」
ナミの言葉に苦虫を噛んだような表情になる。
(おれは…何も考えてなかった)
オカマ地獄から抜け出せたからって、ムナカが何も言わないからって、久しぶりに関わる女性に舞い上がりすぎてたのかもしれない。
ムナカはそれを解って、なにも言わず、消えて…
「ねえサンジ君。貴方はまだムナカが好きなの?」
(正直…解らない)
「傍に居なくてもいいの?」
(それは…寂しいし悲しい)
「このまま離れ離れになっていいの?」
(そんなの…)
「嫌だ…」
「じゃーあ、ムナカを探して来てちょうだい」
ナミはニカッと笑った。
サンジは何か決めた様に頷き、くるりと踵を返しタバコに火を付け歩き出したが、ピタリと止まった。
「そういやナミさん、ムナカを恋人って…」
「あら?忘れたとでも?まあ、そこの二人はまだ解ってないと思うけど」
ナミは笑ってルフィとチョッパーを指差した。
と言うことは、他の皆は知っていて、覚えているという事になる。
サンジは顔を真っ赤にし頭から煙を出しながら走り去った。
END その六