そのニ
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その後は泊まっていけとルフィが誘うものだからムナカは一晩世話になることにしたようだ。
料理の仕込みと見張りがあるサンジはやたら彼にまとわり付くルフィを思い出しフと笑った。
ルフィは何がなんでもムナカを仲間に引き入れたいようだ。
一度言い出したら聞かない船長に捕まってしまった彼に哀れみの念を送っていると、キッチンの扉が控え目にノックされた。
「誰だ」
「夜中にごめんね、僕、ムナカ」
入るよ、言葉の後に控え目に扉が開かれムナカが入ってきた。
「一体どうしたんだ?」
「そろそろ行こうかと思ってね」
「行く?イッテーどこにだ」
「ん?次の島だよ。皆は寝てるから、起きてるサンジ君に伝えておこうと思って」
ムナカは笑うと仕込みをしていたサンジに近付く。
「今日はありがとうね、美味しい食事もいただいちゃって」
「あ、ああ…それより、本当にもう行くのか?夜中だぞ?」
「皆が起きてたら引き留められちゃうからね」
ムナカはそう言うと、頭を軽く下げてから踵を返した。
「じゃあ、またどこかで会えたらいいね」
「ああ…」
「その時はまた美味しい食事、お願いするね」
笑うムナカに片手を上げたが、スッと下ろした。
「なあ」
その背に声をかけるとクルリとムナカは振り向いた。
「なんだい?」
「ルフィの勧誘を断る理由、聞いてもいいか。アイツの納得する理由じゃねェと、アイツは諦めねえぞ」
「納得…ね」
考えるムナカをテーブルに誘うと紅茶を出した。
自分の分も用意して向かいに座るとズズッと一口飲む。
「そうだね…僕には麦わらの一味で戦う理由がない」
「理由?」
「ルフィ君達と遊ぶのは楽しいし博識なナミさん達と話すのも楽しい、ゾロ君と共に鍛えるのもいいが、彼等が襲われたり死にかけたとしても助けようなんて気が起きないんだ」
ムナカはフフッと笑う。
「この船が壊されかけようと僕には関係ないから戦わない。仲間になれと言われても、この一味に僕は魅力を感じていないんだ」
「魅力…?」
初めて言われた言葉にサンジは少し驚いた。
良くも悪くも人の注目を浴びてきたこの一味に魅力を持たないとハッキリ言ったのはムナカが初めてだった。
「まあ、サンジ君の料理には魅力を感じたけどね。でもそれじゃまだ理由にならない。僕は、僕が思う、大切にしたいモノの為にしか戦わない」
賞金稼ぎは別だけどね。
紅茶を飲むムナカをジッと見た後、サンジは溜め息を吐いた。
「あーあ、ナミさんにあんたを引き留めるよう言われたけど、そこまで言われたら無理だな」
「僕を誘ってくれたのは凄く嬉しいけどね」
「毎日飯の注文聞いてやんぞ」
ナミさんの頼みだ!!何としても引き留めねば!と躍起になりだしたサンジはあーだこーだと言い始める。
「フッ…サンジ君がお嫁さんになってくれるかい?」
「は?」
「そしたら毎日美味しい料理食べれるし、君を守るためにこの船にもいるよ?」
ニコニコ笑うムナカに鳥肌が立つ。
「おれは!!女が好きだ!!」
「見てたらわかるよ?それに男に触られたりしたら嫌でしょ?」
こんな風に、と手を握られる。
瞬間、固まったサンジにムナカは肩を震わせて笑い、手を離した。
「ククッ…残念だけど、僕をクッ…引き留めるのは失敗、ククッ…」
声を圧し殺しながら笑うと、ゆっくり立ち上がった。
「ふー笑った笑った。ま、そういう事で、またね」
ヒラヒラと手を振りムナカはキッチンから出ていった。
暫くサンジは固まっていたが、フッと意識を取り戻し、からかわれていた事に気付いて大きく舌打ちをした。
「えームナカ行っちまったのかー」
頬を膨らますルフィにサンジは口を開く。
「この一味には魅力を感じないらしい」
「魅力…?」
頭を捻るルフィに、昨晩の話をする。
「んーなら今は仕方ねえか」
ルフィは話を聞くとあっさり引き下がった。
ただ‘今’はしつこく勧誘しないだけであって、諦めるつもりはなさそうだ。
相変わらずの船長に笑っていると、少し離れたところから煙が上がってるのが見えた。
「ん?なんだ?」
「行ってみっか!!!」
興味津々のルフィの指示で船の進行方向を変える。
近付くに連れて見えたのは先日も見たような光景。
壊滅した海賊船とその近くに小舟が一隻。
そこにはムナカともう1人、見たことのある人物がいた。
「あ!エース!!!」
「ん?おお!!ルフィじゃねェか!!」
ニカッと笑ったのはルフィの兄、エースだった。
「二人で何してんだ?」
「エース君が絡まれてたから、僕とエース君で返り討ちにしたってところかな」
そう言ってムナカは笑った。
(という事は…ムナカは戦ったのか)
サンジはタバコをくわえると、火を付けた。
(ムナカが魅力を感じているのはこの男か、男が所属する海賊団か、それとも両方か)
ぼんやりと考えていると、ムナカと目が合い微笑まれる。
なんとなく気まずくて視線を反らした時、肩を叩かれた。
「おいサンジ、聞いてたか?」
「あ?」
ウソップに声をかけられたが、何の事か解らず聞き返す。
「だから、ムナカとルフィの兄ちゃんも誘って飯にしねえかって」
作るのはサンジだから、聞いてんだよ。
サンジは回りを見渡すと「ああ」と頷いた。
「やったな!!エース!ムナカ!上がって来いよ!!」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「またお邪魔しちゃってごめんね」
2人が船に上がってくると、ルフィは嬉々と近寄る。
サンジはその光景を見た後、キッチンへ入っていった。
「ふめへまほらゃ!!!!」
「はろ?!!」
「エース君にルフィ君、口の中の物を飲み込んでから話しなよ」
笑うムナカは二人に水を渡す。
口の中がパンパンの二人は水を飲み干すとまたがっつきだす。
よく食べるよく食べる。
サンジを手伝わなくていいか気になるものの、ゾロやナミが大丈夫だと言うから食事を続ける。
「なあなあ!」
「ん?」
服を引かれて隣を見るとフォークを握ったチョッパーと目が会う。
「ムナカとルフィの兄ちゃん仲いいのか?」
「仲良いよ。彼の所属している海賊団の人達とも仲良しだよ」
ニッコリ笑うとチョッパーの頭を撫でる。
「なあなあ、ムナカはエースと白ひげのおっさんとこに魅力感じてんのか?」
唐突に尋ねてきたルフィにムナカは少し驚いたが頷いた。
「凄く魅力を感じてるよ。白ひげさんには特に。彼に命を預けてもいい」
「だろ?やっぱりオヤジはスゲーよな!!!」
嬉しそうに笑うエースに対し、ルフィは頬を膨らましていた。
「なあなあ、どうやったらおれ達に魅力感じてくれんだ?」
「なんだルフィ、ムナカを仲間に誘ってるのか」
「おう!!!」
ニッと笑うルフィにエースは目を丸くした後、ムナカを見た。
「相変わらず、すげェ人気だな」
「そんなにムナカは人気者なのか?!!」
キラキラとした目を向けてくるチョッパーを撫でる。
「僕はそうは思わないんだけどね」
「何言ってんだよ。赤髪の所にも声かけられてるくせに」
「シャンクスもか!?」
負けねーぞ、と気合いを入れるルフィに次々と海賊団の名を出すエース。
ムナカは苦笑すると、食事を続ける為に顔を反らした。
「…ほらよ」
「ありがとうサンジ君」
出されたのは先日大絶賛したスープ。
どこかぎこちないサンジに、先日からかった事により嫌がられたのかと思う。
「サンジ君」
「あ?」
「先日はからかってごめんね?」
謝ると、サンジは目を丸くした後、フッと笑った。
「別に気にしちゃねえよ」
「そう?良かった」
ニコリと笑ってスープを口にする。
うん、美味しい。
先日夜中にこっそり出ていったのは意味があったのかと頭が痛くなる。
今日も泊まる事になったのだ。
エースとルフィは兄弟仲良く眠っている。
他の面々も寝ている中、ムナカは寝付けず船首に座っていた。
なにも考えるでもなく、ボーッと空を見上げていると、背後に人の気配を感じて口を開く。
「今日も見張りかい?サンジ君」
「ああ、そうだ」
振り返るとタバコをくわえたサンジがニヤッと笑った。
「風邪ひくぞ」
渡されたマグカップを受け取る。
中にはホットワインが入っていった。
「ありがとう」
礼をいうとサンジは笑ってマグカップへ口を付けた。
「寝ないのか」
「眠れなくてね」
「そうか…今日は夜のうちに行かないのか?」
「勝手に行ったらエース君に怒られるからね」
笑うムナカにサンジは眉間に皺を寄せた。
「どうかしたかい?」
「いや、別に」
「そう?」
そこでパタリと会話が無くなり、波の音だけが耳に入る。
「なあ」
「ん?」
「白ひげとどういう関係なんだ?」
「ん~飲み友達、かな。白ひげさんスッゴい飲むんだよ」
フッと笑ったムナカにモヤッとする。
飲むだけならうちのマリモもよく飲むし、器のデカさなら船長も負けてない、他にも優秀な船員ばかりだ。
頭に浮かぶのは張り合うような考えばかり。
あぁ、なんで自分はこんなに必死になっているのだろう。
(ナミさんに言われたからだ)
本当に?
(ああ、ナミさんがムナカを気に入っているからだ)
自問自答をしていると、隣で動く気配がした。
「……どうした」
「ん?サンジ君が何か悩んでるみたいだから、気が紛れて元気になってくれたらいいなと思って」
ムナカが笑って手を動かすと、空中に水の塊が出来る。
ジッと見ていると、それは蝶に、犬に、花にと形を変える。
「ん~サンジ君は何がいいかなあ、やっぱり女の子かい?」
笑いながらムナカは手を動かす。
水の質量が増え人型をとれるほど大きくなった塊が女性の形になる。
「どうだい?」
フフッと笑うムナカにサンジはフッと笑った。
「ああ、やっと笑ってくれた」
「やっと?」
「サンジ君、笑ってるつもりみたいだったけど、ちゃんと笑えてなかったよ?」
大方僕のせいだとは思うけどねと苦笑するムナカにサンジは眉間に皺を寄せた。
(バレていたのか)
別に先日からかわれた事に関してはもうなんとも思っていない。
ただ、目の前で他の人物を褒めてるムナカを見て不快に感じたのだ。
(何故だ?わからない)
サンジの表情は顰めっ面でとても険しいものだった。
「サンジ君、ほら、そんな顔しないで。ごめんね、そんなにちょっかい出されるのが嫌だった?」
謝るムナカにサンジは首を振る。
「違う…ムナカは関係ない、気にしないでくれ」
「ん~わかった」
ニコッと笑ったムナカに釣られサンジも笑った。
「またな~!!!」
ブンブンと手を振るルフィの視線の先にはエースとムナカ。
2人は朝食を食べた後、各々用があるため船を降りた。
それを見送っているとムナカと目が合った。
驚いて振っていた手が思わず止まる。
そんなサンジに不思議そうにしたが、ムナカは口パクで何かを伝える。
(元気でね、またね)
ああ、あの男は本当に優しい奴だ。
フッと笑ってタバコの煙を吐いた。
男は好きではない、特に仲良くしたいと思わないが、ムナカとは仲良くしてもいいと思った。
END その二