変わった買い主
名前変更
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「こんな事を聞くのも変ですが、ここでの生活には慣れましたか?」
「まあ、ある程度は…」
「それは良かった」
笑いながら手が伸びてきて首の輪に触れられる。
「これがなければもっと快適だとは思うのですがねぇ…外してあげれないですしね」
すりすりと輪に触る手が時折首に触れて恥ずかしくなり、ツイッと少し距離をとると申し訳なさそうに手が離れた。
「ところで、あんたあのチビと寝たりしないのか?随分と可愛がってるみたいだしよ」
「小さくてもレディですからね。可愛がっていたとしても強要は出来ません」
空気を変えるために出した話しに笑いながらそう答えられたが大丈夫だ、あのチビは喜んでお前と寝るだろう。
「そういえば、私はマルコ君の話をあまり聞いた事がないですね…色々、聞かせていただけないですか?」
「おれの話を?」
はい、とニッコリ笑って返事した男を訝しげに見る。
何か情報を聞き出してオヤジ達を襲うつもりじゃ…
そう考え口を閉ざして睨んでいると、慌てた様に手をパタパタと振った。
「すいません、何かを聞き出すつもりは微塵も無いですが、どこで誰が何を聞いてるかもわかりませんし、私も貴方の信用には価しませんよね」
申し訳ないですと眉尻を下げるテイトに溜め息を吐いた。
(そんな顔をするなよい)
絆されてしまった今、そんな表情をされると罪悪感に苛まれる。
「どうしてマルコ君がそんな顔をするのですか?」
「そんな顔?」
「悪いことして、後悔してるような顔ですよ」
貴方は何も悪いことを言ったわけでもしたわけでもないのに。
そう言いながら頬を撫でるテイトに頬の熱が上がる。
「よし、お話はやめましょう。チェスはいかがですか?」
テイトが立ち上がった事により頬から熱が離れる。
それを少し勿体無く思った自分にあり得ないと首を振った。
幾ら絆されてきてるからって、こんな事…
(こんなドキドキするなんて)
いや、おれは悪くない、誰だって多少はドキドキするだろあんな―熱っぽい視線で頬に触れられたら。
(おれには解らない)
コイツがあの少女と同じくらいおれを気にかけている理由が。
「あったあった」
チェスを持って戻ってきたテイトは嬉しそうに座った。
「マルコ君はチェスは強いかい?」
「さあ?普通だと思うよい」
「そうか、私はあまり強くないんだ」
お手柔らかにと彼は笑った。
「………だ、大丈夫かよい」
チェス勝負の結果はテイトの惨敗。
想像以上にテイトは弱かったのだ。
項垂れるテイトは恨めしげにマルコを見た。
「マルコ君の強さと私の弱さが合わさってボロボロだ…」
拗ねた様に口を尖らすテイトに思わずドキッとした。
「い、いや。あんたも十分強かったよい!」
「ふふっ、マルコ君は優しいんですね」
そう言って笑い、時計を見たテイトは目を丸くした。
「もうこんな時間、そろそろ眠りにつかないといけませんね」
チェスを片付け出したテイトを手伝おうと駒に手を伸ばすとテイトの手と触れた。
「わ、悪い」
「いえ」
慌てて謝り引っ込めようとした手が掴まれる。
「今日は一緒に寝ますか?」
ジッとこちらを見てそう言ったテイトに思わず目を見開いた。
「なーんて、冗談です」
すいませんと笑って立ち上がったテイトに見られないよう下を向き顔を掌で覆った。
(くっそ…!!)
急になんてこと言いやがる。
「マルコ君?気分でも悪いのですか?」
「違うよい」
顔を覗き込もうとするテイトを避けると、足早に部屋を出た。
「……怒らせたかな?いや、照れかな?」
チェスを片付け終えソファに座るとクスリと笑った。
「あんなに顔を真っ赤にして…」
去り際に見えたその顔は赤く、思わず勘違いしてしまいそうだ。
「貴方は知らないでしょうね、私が何故こんなにも貴方を気にするのか」
(貴方は知らないでしょうね、私が貴方を前から知っていたなんて)
海上で見かけた綺麗な蒼い炎の虜になってしまったなんて。
貴方を人間オークションで見たときは随分と驚きましたよ、まさか捕まるなんて。
それと同時に嬉しくも思いました。
(短い間でしたが、とても幸せでした)
数日後、帰ってきた時には貴方はきっと私に近寄らなくなるでしょうから。
自嘲気味に笑うと、ゆっくりと目を閉じた。
「おはようございます」
「……おう」
「早いですね?お見送りにでも来てくださったのですか?」
翌日早朝屋敷を出ようとしたらマルコ君が扉に凭れて立っていた。
嬉しくて笑みを浮かべて近寄り挨拶をした。
「……悪いかよ」
「!!?…いえ、とても嬉しいです」
ニコリと笑うと、マルコの手に触れ持ち上げた。
「それでは、行ってきますね、マルコ君」
手の甲に唇を落としてニコリと笑った。
顔を真っ赤にして口をパクパクさせるマルコを後目に、テイトは屋敷を出た。
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