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「おい太智」
「あぁ白ひげさん。どうしました?」
「マルコの様子がおかしいんだが…何か心当たりねえか?」
太智と白ひげが話す様子を遠目からサッチ達数人は隠れて見ていた。
明らかに恋する少女状態になってしまったマルコに船員は皆原因が太智だと気付いていた。
しかし、本人達に自覚はない。
サッチ達が問い掛けてもマルコは怒るし太智は気付いていないので我等がオヤジ白ひげに頼んだのだ。
ほっとけと言われたが、しつこく頼み込んだ。
「またマルコか…」
太智は溜め息を吐いてチラリとサッチ達がいる方へ視線を向けた。
「あの子ももう子供じゃ無いんだ。放っておいたらそのうち元に戻るだろ」
白ひげに話すというより、サッチ達に向かって話してるようだった。
(ば、ばれてる?)
(いや、大丈夫だろ)
(いや、バレてるね)
(だよな…)
「出てこいよ」
太智の言葉に姿を表したのはサッチ、エース、イゾウ、ハルタ。
「お前らもしつこいな…白ひげさんまで使うなよ」
「だってよ~太智が気づかないから」
「バカエース!!!」
「イッテェ!!」
サッチに頭を殴られてエースは睨み付ける。
白ひげは呆れてその場を立ち去る。
それに続こうとすればサッチに引き留められた。
「ふぅ…サッチ君、次の島まで後どれぐらい?」
「次の島?だいたい2~3日だ」
なんで島の話なんか…
そう思い、ハッとした。
(確か船を降りるって…)
さあぁっと血の気が引く。
ガッと太智の肩を掴んだ。
「だだだだ、ダメだからな!!」
「サッチ?いってーどうした」
慌て出したサッチをイゾウ達は不思議そうに見る。
「サッチ、悪いけど「今あんたがいなくなったらマルコ死んじまう!!」
「いなくなるって?」
「ったくサッチ、落ち着けよ…あ~俺は次の島で船を降りるんだ。ただの客人がいつまでも乗るわけにはいかない」
ハルタは目を見開いた。
「降りるの?」
「おう」
「客人だから?」
「おう」
「なら白ひげ海賊団の一員になればいいじゃねぇか」
エースの言葉にサッチはそれだ!と叫んだ。
「そうすれば「悪いけどサッチ、ここの海賊団も白ひげさんも海賊にしてはいい人なのはわかってる。だけどココに命を預ける理由は俺にはない」
「理由…マルコは大事じゃないのか?」
「大事さ。だけどあの子は俺に守ってもらわないと生きていけないほど弱くない。寧ろ俺の方が弱いし」
あの子なら大丈夫と言った太智の目は相も変わらず子供を見る目で…
(マルコを恋愛対象として意識させないといけない)
4人は互いに見合った。
「あ」
不意に視線を動かしたハルタは目を見開いた。
なんだなんだと視線の先を追えばマルコが立っていた。
その表情からは何も読めない、無表情だった。
「降りるって…ほんとかよ」
「……ほんと、もう少し秘密にしとく予定だったのに」
はぁぁ…と溜め息を吐けばマルコはくるりと踵を返して歩きだした。
「おいマルコ!!どこ行くんだよ」
「報告書の整理だよ」
スタスタと歩いていくマルコから覇気が漏れだしているのは恐らく気のせいではない。
ヤバイと思う4人を不思議そうに見た後、太智はその場を離れた。
相変わらず船内には微妙な空気が流れていて、マルコは太智と話すどころか見向きもしない。
太智はどうせ自分は船を降りるからと気にはなっても声をかけない。
そんな中、運悪く敵船とぶつかってしまった。
白ひげに何か手伝いを、と申し立てたが却下された。
安全な場所に隠れてる様に言われ、外が見える部屋に隠れていた。
別に自分は戦いが好きなわけではないが、楽しそうに、生き生きとした様子で戦う船員達を見ていると内心ビクビクしながらもこっちまで楽しくなってくる。
(やっぱり、どいつもコイツも強いな…)
ぼーっと眺めていると蒼い炎が視界に入った。
空中戦をしているマルコだ。
まるで踊っているかの様に鮮やかに動く蒼い炎。
それに視線を奪われていたが、マルコに銃を向ける敵に気付いた。
(俺以外…気付いてない)
手出し無用とは言われたが出来るなら誰にも傷付いて欲しくない。
餞別にとクザンに貰った銃を構えようとするが間に合わない。
マルコは撃たれてしまった。
不死鳥の彼が撃たれたとしても、傷は治る。
他の船員達も気付いたようだったがマルコを信じて誰も動かず目の前の敵に意識を戻す。
ただ、太智だけは気付いた、マルコの様子が可笑しい事に。
部屋の窓から飛び出すのとマルコが海に向かって落ちていくのはほぼ同時だった。
(炎が上がらなかった)
傷を受けた時に燃え上がる筈の炎が出なかった、それから推測すると海楼石の仕込まれた銃弾だったのかもしれない。
たった1年、されど1年。
自分の記憶にマルコを刻み込み、忘れる事の無かった彼はその異変に気付いたのだ。
気を失っているのか、動かないマルコ。
(くっそ…)
「マルコォオオ!!!!!」
太智の声にやっと船員達は異変に気付いた。
「あ、おい!!」
ザバーンと海に落ちたマルコを追うように、太智も海へ飛び込んだ。
(ここは何処だよい)
ふわふわとした感覚。
(そういえば…)
おれ、戦闘中に撃たれて…海に落ちて…
『マルコォオオ!!!!!』
太智が叫んでた気がする。
どうせいなくなるなら、優しくしないで欲しい。
だけど、本音を言うなら…
「行かないで」
「うん、行かない」
伸ばした手を握られた様な気がした。
「ん…」
「おはよう」
目の前には太智がいた。
優しく微笑む太智が。
「降りたんじゃ…ああ、夢か」
マルコはポツリと呟く。
「夢の中でいいから…傍に居てくれ」
「俺は傍にいるよ」
「太智…好きだよい」
嬉しそうにふにゃっと笑ったマルコは再び目を閉じた。
「マルコ…?」
呼び掛けに返って来たのは寝息だった。
「夢か…」
俺、本物なんだけどなぁ…
繋がれた手をギュッと握り締め、口付けた。
「可愛いヒヨコちゃん、可愛いマルコ。俺も好きだぜ」
「子供として?」
「1人の人間としてだよ、サッチ」
後ろからの問いかけに振り返る。
「俺、ただ可愛い子供に会いたいってだけだと思ってたが…今はどうやら違うみたいだ」
「ほお?」
「実際再会して、数日だが共に過ごして、冷たい態度とらせて…その間スッゴい色々思った。嬉しい、とか悲しい、とか。で、マルコは夢と思ってるみたいだが…今のセリフ聞いて死ぬほど嬉しいし、ドキッてした」
顔を掌で覆った太智をサッチは覗き込み、笑った。
「確かに…顔真っ赤だぜ?」
「うるせー…まぁ…たった数日だが子供から恋愛対象に変わってたみたいだな」
マルコの髪を撫で、何か吹っ切れた様に太智は立ち上がった。
「ちょっと行ってくる」
「あぁ、マルコは俺が見てるぜ。また直ぐ目覚めんだろ」
太智の行き先がわかっているのか、サッチは何も言わなかった。
ただ、輝く眼を見て笑うだけだった。
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