森
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この小説の夢小説設定イビト山に登って落ちた成人済女性(ニンゲン)。
ある目的のために地底を冒険することになる。
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「ここのパズルはゲージュツになってしまった! だから、オレさまがちゃんとメモをのこしておくよ!」
胸の辺りを強く叩いたパピルスは、目にも留まらぬ速さで紙とペンを取り出した。そのままペンを走らせ、得意げにパズルの近くにメモを設置する。
「あんしんしてッ! つぎのパズルは、よそうもつかないぞ! ニャハハハ!」
私たちの視線をどう受け止めたのか。パピルスは上機嫌で告げ、さらに奥へと進んでいく。サンズによると仕込みがあるらしい。お披露目を楽しみにしているパピルスのためにも、すこし時間を置いたほうが良さそう。
「あ、そう言えばフリスク、ケータイ持ってたよね。電話、かけてみたら?」
「……ママに?」
「うん。フリスクの声が聞きたいんじゃないかなあ」
二つ返事で頷くかと思っていたら、フリスクは神妙な面持ちで言葉を呑み込んでいた。予想外の反応に言葉を探していると、ややあってフリスクが小さな唇を開く。
「……、……きっと、お花のお世話で忙しくて、出られないと思うよ」
ママから受け取った電話なのに、遺跡を出てから一度も電話が鳴っていないのがその証拠だ、とフリスクは零す。弱気な姿勢が垣間見えた。トリエルとの別れが尾を引いているのかもしれない。
だからこそ、このままには出来ないと思った。トリエルは最初から別れのときまで、私たちを案じてくれた思いやりのあるモンスターだ。連絡が来ないことにも、きっと理由がある。
「トリエルも、きっかけがほしいんじゃないかな。私たちからの連絡を待ってるのかも」
「……………………」
押し黙るフリスクは、唇を硬く真一文字に結ぶ。
「もちろん、無理にとは言わないよ」
「……、ううん。かけてみる」
覚悟を決めたのか、フリスクは首を横に振り、トリエルから委ねられたケータイを取り出す。
「スフィアおねーちゃん、手、握ってくれる?」
「お安いご用だよ」
安心させるように頷いて、ちいさな手のひらをそっと握る。
無機質なコール音がケータイから響いた。フリスクの緊張をほぐすように、何度も何度も大丈夫だと伝える。
コール音の回数が重なるにつれ、フリスクの緊張はほぐれていくようだった。こうなることが当然だと言うかのように。
「出ないみたい」
安堵に似た表情を浮かべ、フリスクが呟く。そのままケータイから耳を離そうとした寸前。
「――フリスク!!」
あまりにも力強い、そして懐かしい声が轟いたのだ。
大きな声量に、オワライチョウが目を回して退散していくほど。近くにいたサンズでさえも、大音量に呆然としているみたい。
「マ、ママ!?」
「ええ、ええ……、そうよ。無事なのね、良かった……」
フリスクと繋いだ私の手は既に離れていた。ケータイを持ち直したフリスクは、両手でしっかりとケータイを支え、トリエルの言葉に耳を傾けている。
互いにうれしそうな声で、私まで同じ気持ちにさせてくれる。
「ああ、話したいことがたくさんあるわ……」
「うん、ボクも……」
「いまはどこ? まだ森にいるのかしら……、そこは寒くない?」
「うん、いまは森の中だよ。でも、もう少しでまちに着けるみたい。寒くないよ、大丈夫。パピ……、親切なモンスターがね、手袋をくれたんだ」
「そう……、スフィアも無事なのね?」
「うん、いまも一緒にいるよ! かわる?」
フリスクが電話を渡してきそうな気配があったので、ゆっくりと首を振る。お互いがお互いに声を聞きたかっただろうから。いまは、私が変わる番じゃない、そうでしょ?
「ママ、あのね……、」
言い募ったフリスクは、けれど、言葉を続けなかった。言うべきか、悩んでいるのだろう。私が助け船を出すべきか悩んでいる間に、フリスクは結論を出したみたい。
「ううん、なんでもない。……また、電話してもいい?」
「ええ、大歓迎よ。私からはフリスクの状況がわからないから……、キケンがないときにかけてちょうだいね」
「うん、ありがとう、ママ。……またね」
そこで電話は切れる。フリスクの横顔はすこし寂しそうだったけれど、胸の内にある感情は、それだけじゃないはず。
「良かったね、フリスク」
「うん!」
元気溢れる返事に釣られて、頬が緩む。
「ねえ、サンズ。パピルスの仕込みってどれくらいかかりそうなの?」
「さあな、オイラにはさっぱりさ」
「そっか、あんまり待たせるのも悪いけれど……、」
「それなら、この先でゆきイヌを作ろ?」
「ゆきイヌ?」
「雪で作るの! おねーちゃん、はやくはやく!」
フリスクは溢れんばかりの元気を総動員して、さらに奥へと駆け出す。慌てて後を追うと、見覚えのある小屋が見えてくるよりも先に、雪原に崩れ落ちた白い柱が視界に飛び込んだ。よく観察すると、雪を固めて出来ている円柱のほかに、雪像が無造作に転がっている。雪像には、イヌを模した彫刻が施されていた。
「ゆきイヌの頭だ……、崩れちゃってるね」
先に到着したフリスクは屈み、雪像に視線を落として呟く。相変わらず聞き慣れない言葉だけれど、雪で作られたイヌを「ゆきイヌ」と呼ぶのはしっくり来た。実物らしきものを見たほうがわかりやすい、と関心しつつ柱を注視する。
「ゆきイヌって存在するんだ……」
わりとポピュラーなのかもしれない。
一帯にある雪の塊は、ゆきイヌを作ろうとした痕跡みたい。むしろ完成形が崩れた気配を感じるけれど。初めて見るから、原型は予想することしかできない。
崩れたゆきイヌの頭や土台の脇をそうっと通り抜け、無人の小屋を覗き込む。床には「イヌじるしレーズン」の箱が落ちている。この小屋も、普段はイヌが滞在しているのだろう。
立て看板には『イヌにちゅうもく』『ナデナデしてくだちい』の文字。
「イヌを見つけたら撫でてあげて、ってことかな」
「きっとそうだよ。いままでも、撫でてあげたら喜んでくれたもん」
「言われてみれば……」
不可抗力で撫でられなかったイヌのカップルを除けば、出会ったイヌたちはみんな、撫でると態度が変わった。喜んでいた……のだと思う。たぶん。
「じゃあ、ゆきイヌを作ろ!」
「へっ!?」
驚く私をよそに、フリスクは近くの雪を掻き集め、雪玉を作ってさらに力を加えて固める。
「おねーちゃんもどう?」
屈託のない笑みに誘われて、戸惑いながら頷く。同じようにして雪を集めて、形を整えて。作りたいものがあったわけじゃないから、漠然と楕円の形になった。
すこし考えてから、つい先程の出来事を思い返す。作るのはトリエルの形にしよう。
ウサギにも似た耳の形を作るために、雪を増量して造形。目と鼻と口の形を思い描きながら、ひと思いにくり抜く。足すのも引くのも一苦労だった。
試行錯誤の結果。なんとか作り上げたトリエルの雪像は、私の両手に乗る程度のサイズになった。押し固めて作ったから、特徴的な耳の柔らかさを表現できていないのがマイナスポイントだけれど、ちいさな角も良く出来ているし、初めてにしては上出来だと思う。フリスクも褒めてくれた。意外と私にも才能があるのかもしれない。……なんて。さすがに自惚れだってわかってる。
それに、夢中で作っていたから気付かなかったけれど、手のひらは真っ赤で、指の先の感覚は麻痺してる。腕の中で抱えるようにして持ち替えて、慎重に歩く。せっかく作ったから、崩れるところは避けたい。
身近な小屋はいまは誰もいない。けれど、勝手に置くのは憚られた。
まちまで、あとどれくらいだろう。自然と足が歩みを進め、倣うようにフリスクが隣に並ぶ。
「もっていくの?」
「うん。どこかにいい場所があったら置かせてもらいたいなって」
「ステキなアイディアだね。それなら……、この先に、」
フリスクが指差す方角に視線を向けると、小屋の近くに立っていたシカによく似た風貌のモンスターと目が合った。
「さっき、イヌが走ってきたわよ。目をキラッキラさせて」
「イヌ……?」
「そう。「ゆきイヌ」を作って、自分の気持ちを表現しようとしてたわ」
道中いろんなイヌに会ってきたので、脳裏に次々とイヌたちの姿が浮かぶ。もしかしたら、まだ会ったことのないイヌかもしれない。
「でも、作ってるうちに、テンションあがってきちゃったみたいで……」
「へ?」
「クビをどんどん長くし始めて、そのまま雪をドンドン盛り続けて……、それで……」
話の雲行きが怪しくなると同時に、崩れ落ちたゆきイヌの謎も解き明かされる。
「……なんだか、ちょっと、かわいそうだった。でも、目を逸らすことはできなかったわ」
「イヌって……、もしかして、私たちが撫でたイヌのこと……?」
小声でフリスクに問いかける。戸惑いを隠せないフリスクは、首を傾げ、ぎこちなく頷いてみせた。たぶん、という一言を添えて。
「喜んでたみたいだから、気にしなくていいんじゃないかな?」
崩れ落ちたゆきイヌを見るに、気にしないというのは難しいけれど。フリスクがそう言うのなら、まるべく気に留めないように努めよう。
「そう言えば話の途中だったね?」
「あ、うん。きっと、この先なら置けるんじゃないかな」
「たしかに、ここは置き場所がないし、戻るのもパピルスたちに悪いもんね」
またカンカンに怒ったパピルスが呼びに来るかもしれない。見たくない、と言えばウソになるけれど。さすがに良心が痛む。ここは素直に先に進もう。
――We don't know what's around the corner.
角を曲がったところに何があるかはわからない、とは言うけれど。
まさか、滑る氷の上で、そのまま足を滑らせて崖下に落っこちるなんて。思いも寄らなかった。
足下にたしかに感じていた氷の感触は潰え、悲しいほど真っ直ぐに重力に引っ張られる。浮遊感に見舞われる最中、フリスクに対して何を口走ったかさえ記憶が曖昧だ。心配させまいと声を張り上げて、でもフリスクまで落っこちたら大変だから、動かないように伝えたはずだけれど。咄嗟のことで、言い方がきつかったかもしれない。
後悔が渦を巻く。ただ、悪いことばかりでもなかった。
少なくとも、雪がクッションになってくれたおかげで、大事には至っていないのが不幸中の幸い。すこし腰が痛いような気もするけれど、身体が冷えたせいだと思い込むことにする。
抱え込んだままのトリエルの雪像も、角以外は無事みたい。後から接着したから脆くて、落下の衝撃で角が落っこちてしまったのだろう。あとで直さないと。
それも大事なことだけれど、いまは状況の確認が先決。
身体を起こして、上を見上げる。首は問題なく動いてくれた。
落ちてきた方角にフリスクの姿は見えない。二次災害は未然に防げたようで一安心。
問題はどうやって上に戻るか。
周囲を見渡していると、視界にパピルスを模した雪像が飛び込んできた。しっかりと作り込まれて、ポーズまで取っている。傍らには、無造作に集められた雪の塊があった。赤いマーカーでサンズの名前が書いてある。造形の違いは、さながら彼らの性格を物語るよう。私たちが中々来ないと言っていたから、ここで時間を潰していたのかもしれない。
雪像を飾っているエリアには僅かにスペースが空いているから、スペースを間借りすることにした。トリエルの雪像を静かに置く。サンズが使った赤いマーカーが近くにあれば、借りてトリエルの瞳を塗ってあげられたけれど、見当たらない。ないものは仕方ないので、先に雪で角を作ろう。
屈んで雪を掻き集めていると、懐からキャンディが飛び出した。
遺跡でトリエルからもらったキャンディだ。拾い上げると、残念なことにひび割れて砕けている。申し訳ない気持ちになるけれど、真っ赤なキャンディを見ていたらひとつ閃いた。
キャンディの欠片をふたつ、雪像の目に嵌め込む。
うん。彩りがあると、ぐっとトリエルに近付く。
「おまえ、よっぽど落っこちるのがすきなんだな」
「……っ!?」
次は角を、と行動を起こしていると、突然声をかけられた。予想しなかった出来事に、思考がうまく働かない。
視線を戻せば、目と鼻の先にいたのは、遺跡ぶりに出会うモンスター。私に地底の世界のルールを説いて、恐怖心を刻みつけた相手。忘れるはずがない。
その、名前は。
「フラウィ……!」
「ボクの忠告は忘れてないみたいだね?」
せせら笑うようにして、雪原に咲く一輪の花は言葉を紡ぐ。
感情が、指先に熱を巡らせる。じんじんと痛みを伴う熱は、私の鼓動と連動してるみたいだった。
「――忠告、って?」
思いも寄らない単語だった。警戒心を植え付けた当の本人がどの口で、と思わなくもない。訝しみながら、それでも記憶を浚って、たしかめる。
「『ころすか、ころされるか』……ってこと?」
彼が告げたルールを、ゆっくりと吐き出す。決して信条にはしたくない言葉だ。
「それ以外にないだろ」
フラウィの返事は素っ気ない。呆れにも似た感情が窺える。
「……でも。みんな優しかったよ」
殺されそうになったことは一度もない。トリエルのおかげで、フラウィの悪意だって退けられた。フラウィが言っているほど、この世界が殺伐としたものには思えない。
「おまえがニンゲンだってバレてないからだろ? うまく考えたな」
それは、結果的にサンズやパピルスのおかげだけれど。いまは正しい情報を伝えるよりも、優先して確認したいことがあった。
「……フラウィは、私を殺しに来たの?」
「べつに。おまえのことなんてどうでもいいよ」
――本当に?
その言葉を呑み込んで、無言で続きを促す。初対面にも関わらず、命の危機に晒されたのは記憶に新しい。一度刻まれた恐怖を拭いきるのは、そう簡単なことじゃなかった。
「ボクが興味があるのは、後にも先にもひとりだけ。おまえはただのオマケだよ」
どこか遠い目をしたフラウィからは、嘘をついているような気配がなかった。フラウィが興味を示すたった一人の存在。それはもしかして――。
「あの子を、ころすの……?!」
「それもいいかもね」
「!!」
「へえ、そんな顔も出来るんだ」
頭に血が昇って、声が出ない。必死に睨みつけるだけで精一杯だ。
「安心しなよ、少なくともいま、おまえたちに危害を加えるつもりはないから」
「し、信じろって……?」
「得意技だろ?」
小馬鹿にしたように、フラウィは笑う。
「ま、ちょっと前のボクならどうかわからないけど。いまは改心したんだ」
「初対面で嘘ついたくせに……」
「悪かったよ。“勝手”がちがうこと、忘れてたんだ。考えてみたら、必要のないことだったしね」
拭いきれない不信が募る。優しさと母性の象徴のようなトリエルと違って、フラウィは暴力的で、優しささえも騙りで、信じられる要素が微塵もない。
「そんなに不安なら、連れに聞いてみたら?」
「……知り合い、なの? 落ちる前から?」
「いいや、“落ちてきてから”の知り合いだよ」
その言葉に、ウソは含まれていないように感じる。
釈然としないけれど、ここで問答を続けても意味はなさそうだった。
「きみの気が変わらないうちに行くよ」
身体は支障なく動く。付着した雪を払って、ゆっくりと立ち上がった。念のため、断りを入れて。
「さっさと行けよ、間抜け」
「……その口の悪さ……、……いや、なんでもない」
指摘したところで改善されるとも思えない。フラウィの話す『どうでもいい』については半信半疑だけれど。騙されてないことを祈るしかない。誰かを疑うのは、ひどく疲れるから。できれば、フラウィが真実を口にしていますように。
「ねえ。聞きたいことがあるんだけれど」
「なに?」
そのまま立ち去ろうとして、ひとつ聞き忘れていたことを思い出して足を止めた。
手元に巻いたブレスレットを、もう一方の手で触れる。そのまま振り返れば、フラウィは変わらずそこにいて、薄ら笑いを浮かべて私を見つめていた。
もしかしたら。何も聞かず、このまま話を終わらせておくほうが得策だったかもしれない。その選択肢だってあった。
なのに選ばなかったのは、きっと、フラウィを信じたいから。どう転んでも後悔するかもしれないけれど。だったらなおさら、聞いておきたかった。
「きみは、このチリの持ち主について、なにか知ってる?」
縋る気持ちで、ゆっくりと腕を突き出して、小瓶に詰まったチリを見せた。見やすいように、と添えた手に力が籠もる。真っ白い雪が辺り一面を覆い尽くすから、チリは溶け込んで見えにくいかもしれない。
返答を待つ時間は、とても長く感じた。
「わかるわけないだろ? だれのちりか、なんて」
待ち侘びた回答は、望んだものではなかったけれど。それでも、返答をもらえたことにほっとする自分もいた。
「……そ、っか」
「――誰にもわかりっこない」
「誰、にも?」
チリのことを尋ねたのは、フラウィが初めてじゃない。けれど、尋ねた相手が「わからない」のあとに続ける言葉には、いつも思いやりが満ちていた。
「バカだね」
初めての切り返しに、鼓動が嫌な音を立てる。
「おまえの目的はそれ? だとしたら残念だったね。こんな地底まで足を運んだのに骨折り損だ」
見えない言葉の刃が、心を蹂躙していくようだった。
「一々見分けなんか付くがつくわけがないだろ」
「……でも、みんな、」
「『みんな、優しかった』って? おめでとう。良かったね? その優しさで、おまえは目的も果たせず、いつまでも彷徨うんだから!」
「…………そんな言い方……っ」
善意や厚意を無下にする発言に、思わず食い下がる。優しいことは決して悪いことじゃない。まだ右も左もわからない私からすれば、皆の優しさは支えだ。
「……フラウィの、言ってることが正しいとしても。……私は、信じたい」
道中、モンスターたちの優しさや思いやりに触れてきたからこそ、みんなの行動が間違いじゃないと願う。願ってる。
それに、フラウィの知らない真実がどこかに隠されているかもしれないし。そう考えたら、気持ちに余裕が出てきた。もしもそのときが来たら、フラウィに一泡吹かせられるかもしれない。
「ま、精々頑張れば? 無駄に終わると思うけどね?」
そう言っ放ったフラウィの視線は、私の背後に注がれた。彼は瞬きをしたあと、驚いたような表情を浮かべる。……見間違いかも。私が目を丸くしている間に、彼はこちらを小馬鹿にする微笑みを浮かべていたから。
かける言葉に悩んでいると、フラウィは私の目の前から姿を消した。
「へたくそ」
去り際に、シンプルな悪口だけを言い残して。
「~~~~~~~~~~~~~ッ!!」
遅れて、トリエルの雪像を見ての発言だと気付く。先程までフラウィがいた場所の近くで、一度だけ強く地団駄を踏んだ。そこにフラウィはいないから何の意味もないけれど。苛立ちを発散させるには有効な手段だった。
深呼吸を重ねて、落ち着きを取り戻す。
フラウィに掻き回されたおかげで、感情が忙しない。弱音が顔を覗かせるほどに、心は悲鳴を上げていた。
「……、見つかる、よね?」
帰る方法も。この遺灰の関係者も。
自信をなくした私を嬲るように、吹き荒ぶ風はただ冷たくて。何も答えてくれなかった。