ニンゲン夢主の名前
中編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
地上に出てからの毎日は新鮮で、めまぐるしくて、オレさまはこーんなにも目を大きくして驚いてる! たいようが落っこちたら、ほんものの星も見えるんだ! はじめて地上に出たときのことは、いまでも忘れられないよ。ちゃんと日記に残して、フリスクと写真も撮ったからねッ!
オレさまは、フリスクのそばで上手なマスコットとして立派にお仕事をこなしてるよ! オレさま、学校の人気者なんだ! 校庭にあるオレさまの形に刈り取られた植木で有名! フリスクのともだちのモンスターの子もオレさまの真似して仲良しなんだ! トリエルは先生として忙しそうだけど、すっごく楽しそう。たまにアンダインが体育の先生として招かれるんだけど、今度一緒に行かないかって誘われてる! ウヒョウ! 星占いは解けなかったけど、たくさん友達ができるって内容は大当たり! 持ち回りの用務員を務めるイヌたちは、地上は暑いって文句を言ってるけど楽しそうだよッ!
そうそう! イヌの夫婦は、ニンゲンの子どもを養子にしたみたい! イヌはオレさまのホネを持って行くから警戒しないといけないけど、ニンゲンなら安心ッ!
だけど、偶然イヌの夫婦に会ったときに言われたんだ。思いがけないことをね!
「ああ……、地上のお店に売ってるホネもいいけど、スノーフルに落ちてたホネも恋しいッス……」
オレさまを見ながら言うんだ! 信じられないッス! 隣のイヌッサも、うんうん頷いてて、オレさまは驚きすぎてアゴが外れる心配をしなきゃいけなくなった。
「ちょっと! オレさまのホネはあげな――」
「ちていにはホネがおちてるんだ! すごい!」
イヌの夫婦のうしろにくっついてたニンゲンの子どもが顔を覗かせて、目を輝かせる。名前は、ええと……そう、たしかブラン! フリスクよりも小さな身体で、身振り手振りで喜んでる。嬉しそうに話しているから、オレさまは屈んで視線を合わせることにした。イヌッサにお説教する前に、ブランに説明しなきゃいけない。誤解させちゃったら悪いからね。
「落ちてないよ! イヌの夫婦が勝手に取ってるけど、オレさまのホネッ!」
でも、ベッカはわかっていないみたい。なんて説明したらわかるかな? うれしくないけど、オレさまのホネがイヌに人気ってところから話したら伝わるかな? むずかしいかな? たぶん、兄ちゃんなら上手に説明してくれる。よし、早速電話しよう!
「このやり取り、懐かしいッス」
「(またプレゼントを用意したいサ)」
「おとーさんもおかーさんも、おホネがすきなんだねえ」
オレさまが決心している間に、イヌの夫婦の手には一本のホネが握られていた。いつの間に。あれ? まって。あの赤いシミ、見覚えがあるぞ?
ここでオレさまは重大な事実に気付いてしまった! スパゲティに入れたホネを持っていかれてる!
オレさまは電話から慌てて離れて、イヌの夫婦に近付いた。
「オレのホネを勝手にとるな!」
取り返そうとしたら、イヌの夫婦は急に笑い出した。ニンゲンの本には、ハシが転んだらおかしくて笑っちゃうって書いてあったけど、いまの状況はまさにそれ! でも、ハシってなんだろ? ホネのことかな?
「(『お決まりのパターン』なのサ)」
イヌッサのそばで、釣られたようにブランも笑ってる。それがちょっとおかしくて、オレさまもニャハハと言いかけた。あぶない。オレさまはホネが転がってもわらう年頃じゃないぞ!
「笑ってないで返してッ!」
「パピルスも笑ってるッス」
「この顔はもとからだよッ」
言い返すと、ベッカがまた楽しそうに笑う。仕方ないから、オレさまも釣られて笑ってやった。
ベッカは中々見所がある。イヌの夫婦からオレさまのホネを取り返してくれた。きっとスケルトンのことがだいすきなんだな!
「ニャハハ!」
地上はあったかくて、綺麗で、風が気持ち良くて、スノーフルとはちがう。だけど、たまにオレさまのまちにいるような気分になるんだ。イヌッスの言う懐かしいって、これのことなのかも?
『もしもし? パピルスか?』
「あっ、兄ちゃん!」
携帯電話の向こうから、兄ちゃんの声がした気がして急いで拾う。
そう言えば、相談しようと思って電話をかけてた! 兄ちゃんはたまに的確なアドバイスをくれるからね!
ありのまま起きたことを話していると、オレさまより大きな柱のそばをフリスクが通るのが見えた。今日の『大使』はおしまいみたい! フリスクとベッカはトモダチだから、きっとパズルの話で盛り上がってるに違いないッ!
そう思ったら、急に何を話してるか気になって……、兄ちゃんに待ったをかけて、ふたりの会話を聞いてみる。けど、フリスクが言った言葉にオレさまは耳を疑った。オレさまに耳はないけど!
「あのホネ、まるで当たりくじみたい」
「えッ!? ホネに当たりがあるのッ!?」
知らなかった! オレさまのホネは当たりかな!?
「もしかして、オレさまのホネって一等賞!?」
「その当たりボネ、カミさんに贈りたいッス!」
フリスクに聞いてみたけど、答えを言われるより先にイヌッスが動いた。
そこからは、ホネ取りゲームの始まりッ!
イヌの夫婦とオレさま、それからベッカとフリスクが当たりのホネに飛び付く。勢いに押されて飛んでいくホネをフリスクがキャッチして、素早くニンゲンの子どもにパス! 即座にイヌの夫婦がフェイント含めた連携を見せつけて、ホネを掴む。次はどうなるんだろう、ってワクワクの場面で、なんとウザイ雰囲気のイヌが乱入。オレさま、目が回っちゃいそう!
気を取り直したところで、ニンゲンの子どもが照れくさそうに腹ペコだと主張したので、白熱したゲームは一時中断になった。
いつの間にかやってきた兄ちゃんは、ホットドッグスタンドを開いてる。みんなを案内して、一斉にブレイクタイム! なぜか兄ちゃんもあのイヌも一緒に食べてたけど、……あれ? ホネはどこにいったんだろう?
気になったけど、ホットドッグを食べながら動くのはお行儀が悪いからね! ちゃんとご馳走さまを言ってから四方八方を見渡したよ! そうしたら遠くからアンダインが走ってやってくるのが見えた。アンダインは足が早い! あんなに急いで、誰かに用があったのかな?
アンダインはぐんぐんと速度が上がって、オレさまたちの間近に迫ってる。勢いはそのまま。そしてアンダインは……足元に埋まっていたホネを遠くまで蹴飛ばして……、そして、立ち止まった。
「ちょっと! オレさまのホネッ!」
「あー……悪い、パピルス」
「どうして蹴飛ばしちゃうのッ」
信じられない。
そう言葉を続けると、目を伏せたアンダインがちらりと後ろを振り返った。視線を追いかけると、遠くでアルフィーがつらそうに走って、メタトンが並走している。こっちに来るみたい! あれっ、今日ってパーティの日だっけ? でも、お祭り騒ぎはいつだって大歓迎!
「その……こないだアルっちと棒倒しをしたんだ……」
「ぼーたおし? アンダイン、それってどんな遊び?」
オレさまは聞き返しながら、器用に思い出を振り返る。棒と聞いて真っ先に浮かぶのは、初めて会ったときのフリスクの手に握られていたあの棒切れ。茶色くて良い硬さがあって、適度な長さで魅力的なフォルム、イヌたちはすっかりメロメロだった。……もしかして、オレさまはホネの代わりに棒をたくさん用意しておけば良かったのかな?
「ああ! 倒したほうが勝ちというゲームだ!」
「でもここにあったのはホネだよ?」
アンダインが蹴飛ばしたのは棒じゃないけど、これって誰が勝ったことになるの?
「ボーン倒し、ってことだな」
「さむっ。兄ちゃん! ちょっと静かにしててッ!!」
フリスクが何か言いたげな顔でオレさまを見てるけど、それよりもアンダインが気がかりだった。
「それで思い出して……、つい……蹴飛ばしてしまった……」
いつも自信に満ちたアンダインが、ほんの少し縮こまってるように見える。だから、オレさまは話題を変えることにした! スケルトンのオレさまは寒さを感じないけど、アンダインはきっと寒いに違いないからね! だって、ぽっぺたが真っ赤だったから!
「えーと、アンダインは、オレさまのホネを飛ばすために来たの?」
「いや。アズゴアからホームパーティーのお誘いを預かってきた」
「えっ、パーティーのお誘い!? ……ねえ、どうしてこんなに厳重なのッ?」
手渡された招待状を開けようとしたけど、びくともしない。前にアンダインがフリスクに託した手紙よりも頑丈で、オレさまは眉をしかめる。
「だって、途中でイヌが持っていくかもしれないだろ!? トリエルもフリスクも、イヌに電話や宝を持っていかれたって言ってたからな。簡単には開けられないようにしたんだ」
「でも、これじゃあ中身が確認できないよ?」
「あ……、あ、安心して、パピルス! ラボに行けば、その手紙も開封できるよ!」
いつの間にかアンダインの隣で呼吸を荒らげていたアルフィーが、代わりに答えてくれた。そう言えば、フリスクから聞いたことがあるかも! ラボってすごい!
「らぼ?」
その言葉に興味を示したのは、フリスクと遊んでいたブラン。ラボには馴染みがないみたいだ。おめめがお星さまみたいに輝いてる。地上ではラボじゃなくて、ホスピタル……病院って言うんだって!
「あ、あ、あのね! ラボは地底にあるんだ」
「ちてー! おホネがおちてるとこ!」
「オレさまの話聞いてッ! ホネは落ちてないよ!」
そうだ、兄ちゃんに説明してもらおうと思ってたのに忘れてた。振り返って兄ちゃんを探すと、ホットドッグスタンドにら『ほねやすみ中』の立て看板がある。兄ちゃんの姿はどこにもない。もう! また仕事をサボって!
「わたしも、ちてー、いってみたい!」
オレさまたちが地上に夢を見ていたように、オレさまたちを見たニンゲンも地底に興味を持ったらしい。うむッ、たしかに実際に地底を見たら、ホネが落ちてるっていうのは誤解ってわかるかも! 道案内したほうがいいかなッ?
「おホネをひろってね、パパとママにおくるの!」
その言葉を聞いたイヌ夫婦は、目頭をおさえて震えてる。ちょっと! オレさまのホネを勝手に持っていこうとしないでッ!
「それで……ホネはいまどこに行ったんだ?」
アンダインの質問に指差して答えたのはフリスク。その先をゆっくり辿ると、そこにいたのはあのウザいイヌ! 咥えているのは……、オレさまのホネッ!!
「つまり! ホネを取ったら優勝なんだな?」
再開したゲームで真っ先に動いたのはアンダイン。誰よりもリード! その後をイヌッスとイヌッサが追いかける! 風が唸り声をあげて、オレさまの胸も弾む。こんな特等席で見られるなんてッ!
オレさまがワクワクしながら観戦する近くで、アルフィーは慌てて、その場でくるくる回ってる。新しい踊りかな? アルフィーのダンスを間近で見ていたメタトンは、指先を二回往復させると、お手本みたいに華麗なダンスを踊ってくれたよ! これってもしかして生放送!? カメラ回ってるッ?
「隊長! あのさきっぽが赤いホネが当たりッス!」
「(アンダインはもう隊長じゃないのサ)」
「そうだったッス……」
「気にするな! 私も気にしていない!」
「(すがすがしいのサ)」
「勝負なら、負けないッス!」
「待ってッ! 持ってかないでッ、オレさまのホネ!」
オレさまがメタトンのダンスに目を奪われている間に、アンダインたちはどんどんゲームを進めていく。みんなの頭上や足元すれすれをオレさまのホネがあちらこちらと吹き飛んで、思わず汗が滲んじゃう。オレさまのホネは一体どうなるの!
「このゲームの優勝は……」
長かったホネ取りゲームも、ついにおわりを迎えるときが来た……。
イヌッスの言葉に、誰もがドキドキしてる。本で見たことある! 犯人はこの中にいるんだ!
最後に当たりホネを掴んでいたのが誰か、ゆっくりとひとりひとりを確認していく。優勝は、アンダインでもなく、イヌ夫婦でもなく、あのウザいイヌでもなく……、ニンゲンでもなかった!
「ほねっこジャーキーのにおいを嗅ぎつけてやって来た……レッサードッグッス!」
勝ち取ったレッサードッグはホネを口に咥えて、アンダインが強く引っ張っても離さないッ!
「二ェーッ? それはジャーキーじゃないぞ……?」
カルシウムはたしかにたっぷりだけどね! あッ、もしかして、オレさまのスパゲティはジャーキーによく似たにおいなのかな……?
「そのホネを離せ、レッサードッグ!」
「ええと……かわいがると……離してくれる…………、かも……?」
「本当か、アルフィー! よし、全員でかわいがるぞ!!」
アンダインの号令を受けて、みんなはレッサードッグを猫可愛がる作戦に出た! うん? オレさまは参加してないよッ! だって、フリスクのナデナデはとてもすごくて、レッサードッグはあっという間にホネを離しちゃった! オレさまの出番はナシッ!
「よし! これで私の勝利だな!!」
でも、落っこちるホネを掴んだのはアンダイン! つまり、最終的な優勝はアンダインになった!
「アンダインなら、オレさまのホネを任せられるよ……。大切にしてね…………」
「ん? あー…………。パピルス、ホネは返すよ」
「えッ? アンダインが優勝したのに? オレさまにホネを返してくれるのッ?」
手渡されたホネは、いつもの何倍も煌めいて見えた! オレさまは世界で一番幸せなスケルトンだ!
「ありがとう、アンダイン! 友情を再確認できて、オレさま、すっごくうれしいッ!」
感動したオレさまは、イヌたちにホネを持っていかれないように大事に握り締める。至って普通のホネが特別に見えてきた。今日はこのホネと一緒にベッドで寝よう!
「え、ええと、話は変わるけど……。無事に終わったみたいだし……、みんなでラボに行く……?」
そう言えば! ホネで忘れてたけど、招待状の話があったんだったッ!
「はーい!」
元気良く返事をしたのはブランで、勢いよく手を挙げたのはフリスク。そう、横しまシャツのふたり!
道がわからないベッカのために、アルフィーとフリスクが先導してくれてる。そのうしろをイヌの夫婦が歩いて、オレさまたちは最後尾。
王さまからの招待状には、一体なにが書いてあるんだろう!
「やれやれ、まるで遠足だねえ」
メタトンはどんなセリフでも格好良いッ! でも、アンダインはちょっと不機嫌そう。ホットランドは暑いから行きたくないってよく話してるもんね。それでも付き合ってくれるなんて、アンダインは本当に面倒見がいいッ。そんなアンダインとトモダチになれて、オレさまは最高に幸せものだ!
「ホネのおにーちゃん! はやくはやくー!!」
「お、オレさまが……にーちゃん……!!」
さらに追い打ちを掛けるようにベッカはオレさまを兄と呼ぶ。オレさまの幸せゲージが限界を突破しちゃいそう! でも、間違ってるってことは早めに伝えないといけないよね?
「すまない、ブラン……。呼んでくれるのはうれしいけど、オレさまはキサマの兄にはなれないのだ……」
「ホネのおにーちゃんは、おにーちゃんじゃないの?」
「うん。オレさまは弟だからねッ」
「じゃあ……、ほねの…………おとーとちゃん?」
「それなら合ってる!」
アルフィーとアンダイン、それからフリスクが顔を突き合せて何か言ってたみたいだけど、よく聞こえなかったのだ……。オレさまが素早く訂正したことを褒めてくれてるのかなッ?
「それじゃあ改めて、みんなでラボに行こうッ!」
「おーっ!!」
鮮やかな晴天は、なんかい見上げても気持ちがいい。その話をすると、フリスクもブランも頷いてくれる。話のわかるトモダチがいるって幸せだね! かわりばんこに肩車をしながら、オレさまたちは招待状の謎を解きに、ラボへと向かったのだった!
オレさまは、フリスクのそばで上手なマスコットとして立派にお仕事をこなしてるよ! オレさま、学校の人気者なんだ! 校庭にあるオレさまの形に刈り取られた植木で有名! フリスクのともだちのモンスターの子もオレさまの真似して仲良しなんだ! トリエルは先生として忙しそうだけど、すっごく楽しそう。たまにアンダインが体育の先生として招かれるんだけど、今度一緒に行かないかって誘われてる! ウヒョウ! 星占いは解けなかったけど、たくさん友達ができるって内容は大当たり! 持ち回りの用務員を務めるイヌたちは、地上は暑いって文句を言ってるけど楽しそうだよッ!
そうそう! イヌの夫婦は、ニンゲンの子どもを養子にしたみたい! イヌはオレさまのホネを持って行くから警戒しないといけないけど、ニンゲンなら安心ッ!
だけど、偶然イヌの夫婦に会ったときに言われたんだ。思いがけないことをね!
「ああ……、地上のお店に売ってるホネもいいけど、スノーフルに落ちてたホネも恋しいッス……」
オレさまを見ながら言うんだ! 信じられないッス! 隣のイヌッサも、うんうん頷いてて、オレさまは驚きすぎてアゴが外れる心配をしなきゃいけなくなった。
「ちょっと! オレさまのホネはあげな――」
「ちていにはホネがおちてるんだ! すごい!」
イヌの夫婦のうしろにくっついてたニンゲンの子どもが顔を覗かせて、目を輝かせる。名前は、ええと……そう、たしかブラン! フリスクよりも小さな身体で、身振り手振りで喜んでる。嬉しそうに話しているから、オレさまは屈んで視線を合わせることにした。イヌッサにお説教する前に、ブランに説明しなきゃいけない。誤解させちゃったら悪いからね。
「落ちてないよ! イヌの夫婦が勝手に取ってるけど、オレさまのホネッ!」
でも、ベッカはわかっていないみたい。なんて説明したらわかるかな? うれしくないけど、オレさまのホネがイヌに人気ってところから話したら伝わるかな? むずかしいかな? たぶん、兄ちゃんなら上手に説明してくれる。よし、早速電話しよう!
「このやり取り、懐かしいッス」
「(またプレゼントを用意したいサ)」
「おとーさんもおかーさんも、おホネがすきなんだねえ」
オレさまが決心している間に、イヌの夫婦の手には一本のホネが握られていた。いつの間に。あれ? まって。あの赤いシミ、見覚えがあるぞ?
ここでオレさまは重大な事実に気付いてしまった! スパゲティに入れたホネを持っていかれてる!
オレさまは電話から慌てて離れて、イヌの夫婦に近付いた。
「オレのホネを勝手にとるな!」
取り返そうとしたら、イヌの夫婦は急に笑い出した。ニンゲンの本には、ハシが転んだらおかしくて笑っちゃうって書いてあったけど、いまの状況はまさにそれ! でも、ハシってなんだろ? ホネのことかな?
「(『お決まりのパターン』なのサ)」
イヌッサのそばで、釣られたようにブランも笑ってる。それがちょっとおかしくて、オレさまもニャハハと言いかけた。あぶない。オレさまはホネが転がってもわらう年頃じゃないぞ!
「笑ってないで返してッ!」
「パピルスも笑ってるッス」
「この顔はもとからだよッ」
言い返すと、ベッカがまた楽しそうに笑う。仕方ないから、オレさまも釣られて笑ってやった。
ベッカは中々見所がある。イヌの夫婦からオレさまのホネを取り返してくれた。きっとスケルトンのことがだいすきなんだな!
「ニャハハ!」
地上はあったかくて、綺麗で、風が気持ち良くて、スノーフルとはちがう。だけど、たまにオレさまのまちにいるような気分になるんだ。イヌッスの言う懐かしいって、これのことなのかも?
『もしもし? パピルスか?』
「あっ、兄ちゃん!」
携帯電話の向こうから、兄ちゃんの声がした気がして急いで拾う。
そう言えば、相談しようと思って電話をかけてた! 兄ちゃんはたまに的確なアドバイスをくれるからね!
ありのまま起きたことを話していると、オレさまより大きな柱のそばをフリスクが通るのが見えた。今日の『大使』はおしまいみたい! フリスクとベッカはトモダチだから、きっとパズルの話で盛り上がってるに違いないッ!
そう思ったら、急に何を話してるか気になって……、兄ちゃんに待ったをかけて、ふたりの会話を聞いてみる。けど、フリスクが言った言葉にオレさまは耳を疑った。オレさまに耳はないけど!
「あのホネ、まるで当たりくじみたい」
「えッ!? ホネに当たりがあるのッ!?」
知らなかった! オレさまのホネは当たりかな!?
「もしかして、オレさまのホネって一等賞!?」
「その当たりボネ、カミさんに贈りたいッス!」
フリスクに聞いてみたけど、答えを言われるより先にイヌッスが動いた。
そこからは、ホネ取りゲームの始まりッ!
イヌの夫婦とオレさま、それからベッカとフリスクが当たりのホネに飛び付く。勢いに押されて飛んでいくホネをフリスクがキャッチして、素早くニンゲンの子どもにパス! 即座にイヌの夫婦がフェイント含めた連携を見せつけて、ホネを掴む。次はどうなるんだろう、ってワクワクの場面で、なんとウザイ雰囲気のイヌが乱入。オレさま、目が回っちゃいそう!
気を取り直したところで、ニンゲンの子どもが照れくさそうに腹ペコだと主張したので、白熱したゲームは一時中断になった。
いつの間にかやってきた兄ちゃんは、ホットドッグスタンドを開いてる。みんなを案内して、一斉にブレイクタイム! なぜか兄ちゃんもあのイヌも一緒に食べてたけど、……あれ? ホネはどこにいったんだろう?
気になったけど、ホットドッグを食べながら動くのはお行儀が悪いからね! ちゃんとご馳走さまを言ってから四方八方を見渡したよ! そうしたら遠くからアンダインが走ってやってくるのが見えた。アンダインは足が早い! あんなに急いで、誰かに用があったのかな?
アンダインはぐんぐんと速度が上がって、オレさまたちの間近に迫ってる。勢いはそのまま。そしてアンダインは……足元に埋まっていたホネを遠くまで蹴飛ばして……、そして、立ち止まった。
「ちょっと! オレさまのホネッ!」
「あー……悪い、パピルス」
「どうして蹴飛ばしちゃうのッ」
信じられない。
そう言葉を続けると、目を伏せたアンダインがちらりと後ろを振り返った。視線を追いかけると、遠くでアルフィーがつらそうに走って、メタトンが並走している。こっちに来るみたい! あれっ、今日ってパーティの日だっけ? でも、お祭り騒ぎはいつだって大歓迎!
「その……こないだアルっちと棒倒しをしたんだ……」
「ぼーたおし? アンダイン、それってどんな遊び?」
オレさまは聞き返しながら、器用に思い出を振り返る。棒と聞いて真っ先に浮かぶのは、初めて会ったときのフリスクの手に握られていたあの棒切れ。茶色くて良い硬さがあって、適度な長さで魅力的なフォルム、イヌたちはすっかりメロメロだった。……もしかして、オレさまはホネの代わりに棒をたくさん用意しておけば良かったのかな?
「ああ! 倒したほうが勝ちというゲームだ!」
「でもここにあったのはホネだよ?」
アンダインが蹴飛ばしたのは棒じゃないけど、これって誰が勝ったことになるの?
「ボーン倒し、ってことだな」
「さむっ。兄ちゃん! ちょっと静かにしててッ!!」
フリスクが何か言いたげな顔でオレさまを見てるけど、それよりもアンダインが気がかりだった。
「それで思い出して……、つい……蹴飛ばしてしまった……」
いつも自信に満ちたアンダインが、ほんの少し縮こまってるように見える。だから、オレさまは話題を変えることにした! スケルトンのオレさまは寒さを感じないけど、アンダインはきっと寒いに違いないからね! だって、ぽっぺたが真っ赤だったから!
「えーと、アンダインは、オレさまのホネを飛ばすために来たの?」
「いや。アズゴアからホームパーティーのお誘いを預かってきた」
「えっ、パーティーのお誘い!? ……ねえ、どうしてこんなに厳重なのッ?」
手渡された招待状を開けようとしたけど、びくともしない。前にアンダインがフリスクに託した手紙よりも頑丈で、オレさまは眉をしかめる。
「だって、途中でイヌが持っていくかもしれないだろ!? トリエルもフリスクも、イヌに電話や宝を持っていかれたって言ってたからな。簡単には開けられないようにしたんだ」
「でも、これじゃあ中身が確認できないよ?」
「あ……、あ、安心して、パピルス! ラボに行けば、その手紙も開封できるよ!」
いつの間にかアンダインの隣で呼吸を荒らげていたアルフィーが、代わりに答えてくれた。そう言えば、フリスクから聞いたことがあるかも! ラボってすごい!
「らぼ?」
その言葉に興味を示したのは、フリスクと遊んでいたブラン。ラボには馴染みがないみたいだ。おめめがお星さまみたいに輝いてる。地上ではラボじゃなくて、ホスピタル……病院って言うんだって!
「あ、あ、あのね! ラボは地底にあるんだ」
「ちてー! おホネがおちてるとこ!」
「オレさまの話聞いてッ! ホネは落ちてないよ!」
そうだ、兄ちゃんに説明してもらおうと思ってたのに忘れてた。振り返って兄ちゃんを探すと、ホットドッグスタンドにら『ほねやすみ中』の立て看板がある。兄ちゃんの姿はどこにもない。もう! また仕事をサボって!
「わたしも、ちてー、いってみたい!」
オレさまたちが地上に夢を見ていたように、オレさまたちを見たニンゲンも地底に興味を持ったらしい。うむッ、たしかに実際に地底を見たら、ホネが落ちてるっていうのは誤解ってわかるかも! 道案内したほうがいいかなッ?
「おホネをひろってね、パパとママにおくるの!」
その言葉を聞いたイヌ夫婦は、目頭をおさえて震えてる。ちょっと! オレさまのホネを勝手に持っていこうとしないでッ!
「それで……ホネはいまどこに行ったんだ?」
アンダインの質問に指差して答えたのはフリスク。その先をゆっくり辿ると、そこにいたのはあのウザいイヌ! 咥えているのは……、オレさまのホネッ!!
「つまり! ホネを取ったら優勝なんだな?」
再開したゲームで真っ先に動いたのはアンダイン。誰よりもリード! その後をイヌッスとイヌッサが追いかける! 風が唸り声をあげて、オレさまの胸も弾む。こんな特等席で見られるなんてッ!
オレさまがワクワクしながら観戦する近くで、アルフィーは慌てて、その場でくるくる回ってる。新しい踊りかな? アルフィーのダンスを間近で見ていたメタトンは、指先を二回往復させると、お手本みたいに華麗なダンスを踊ってくれたよ! これってもしかして生放送!? カメラ回ってるッ?
「隊長! あのさきっぽが赤いホネが当たりッス!」
「(アンダインはもう隊長じゃないのサ)」
「そうだったッス……」
「気にするな! 私も気にしていない!」
「(すがすがしいのサ)」
「勝負なら、負けないッス!」
「待ってッ! 持ってかないでッ、オレさまのホネ!」
オレさまがメタトンのダンスに目を奪われている間に、アンダインたちはどんどんゲームを進めていく。みんなの頭上や足元すれすれをオレさまのホネがあちらこちらと吹き飛んで、思わず汗が滲んじゃう。オレさまのホネは一体どうなるの!
「このゲームの優勝は……」
長かったホネ取りゲームも、ついにおわりを迎えるときが来た……。
イヌッスの言葉に、誰もがドキドキしてる。本で見たことある! 犯人はこの中にいるんだ!
最後に当たりホネを掴んでいたのが誰か、ゆっくりとひとりひとりを確認していく。優勝は、アンダインでもなく、イヌ夫婦でもなく、あのウザいイヌでもなく……、ニンゲンでもなかった!
「ほねっこジャーキーのにおいを嗅ぎつけてやって来た……レッサードッグッス!」
勝ち取ったレッサードッグはホネを口に咥えて、アンダインが強く引っ張っても離さないッ!
「二ェーッ? それはジャーキーじゃないぞ……?」
カルシウムはたしかにたっぷりだけどね! あッ、もしかして、オレさまのスパゲティはジャーキーによく似たにおいなのかな……?
「そのホネを離せ、レッサードッグ!」
「ええと……かわいがると……離してくれる…………、かも……?」
「本当か、アルフィー! よし、全員でかわいがるぞ!!」
アンダインの号令を受けて、みんなはレッサードッグを猫可愛がる作戦に出た! うん? オレさまは参加してないよッ! だって、フリスクのナデナデはとてもすごくて、レッサードッグはあっという間にホネを離しちゃった! オレさまの出番はナシッ!
「よし! これで私の勝利だな!!」
でも、落っこちるホネを掴んだのはアンダイン! つまり、最終的な優勝はアンダインになった!
「アンダインなら、オレさまのホネを任せられるよ……。大切にしてね…………」
「ん? あー…………。パピルス、ホネは返すよ」
「えッ? アンダインが優勝したのに? オレさまにホネを返してくれるのッ?」
手渡されたホネは、いつもの何倍も煌めいて見えた! オレさまは世界で一番幸せなスケルトンだ!
「ありがとう、アンダイン! 友情を再確認できて、オレさま、すっごくうれしいッ!」
感動したオレさまは、イヌたちにホネを持っていかれないように大事に握り締める。至って普通のホネが特別に見えてきた。今日はこのホネと一緒にベッドで寝よう!
「え、ええと、話は変わるけど……。無事に終わったみたいだし……、みんなでラボに行く……?」
そう言えば! ホネで忘れてたけど、招待状の話があったんだったッ!
「はーい!」
元気良く返事をしたのはブランで、勢いよく手を挙げたのはフリスク。そう、横しまシャツのふたり!
道がわからないベッカのために、アルフィーとフリスクが先導してくれてる。そのうしろをイヌの夫婦が歩いて、オレさまたちは最後尾。
王さまからの招待状には、一体なにが書いてあるんだろう!
「やれやれ、まるで遠足だねえ」
メタトンはどんなセリフでも格好良いッ! でも、アンダインはちょっと不機嫌そう。ホットランドは暑いから行きたくないってよく話してるもんね。それでも付き合ってくれるなんて、アンダインは本当に面倒見がいいッ。そんなアンダインとトモダチになれて、オレさまは最高に幸せものだ!
「ホネのおにーちゃん! はやくはやくー!!」
「お、オレさまが……にーちゃん……!!」
さらに追い打ちを掛けるようにベッカはオレさまを兄と呼ぶ。オレさまの幸せゲージが限界を突破しちゃいそう! でも、間違ってるってことは早めに伝えないといけないよね?
「すまない、ブラン……。呼んでくれるのはうれしいけど、オレさまはキサマの兄にはなれないのだ……」
「ホネのおにーちゃんは、おにーちゃんじゃないの?」
「うん。オレさまは弟だからねッ」
「じゃあ……、ほねの…………おとーとちゃん?」
「それなら合ってる!」
アルフィーとアンダイン、それからフリスクが顔を突き合せて何か言ってたみたいだけど、よく聞こえなかったのだ……。オレさまが素早く訂正したことを褒めてくれてるのかなッ?
「それじゃあ改めて、みんなでラボに行こうッ!」
「おーっ!!」
鮮やかな晴天は、なんかい見上げても気持ちがいい。その話をすると、フリスクもブランも頷いてくれる。話のわかるトモダチがいるって幸せだね! かわりばんこに肩車をしながら、オレさまたちは招待状の謎を解きに、ラボへと向かったのだった!