独り言小ネタ
-Pave-
「イヌカシ、あなたもお菓子を作ってみない?」
「はぁ?」
イヌカシが火藍の営むパン屋に顔を出し、紫苑と良く似た笑顔で迎えられ、休憩がてらにお茶をしながら近況を話した後の雑談で、数日後バレンタインデーなるものがあると火藍から告げられた。
市販でも手作りでも、最初は女から男へ愛の告白と共にチョコレートを贈る、そんな日だったのが、今では男女関係なく家族、友人同士、世話になった相手に贈ったりと幅広いらしい。
だがだからといって、なぜおれがお菓子を作るという話になるのか。贈るにしても売りもんでいいじゃねぇか。
頭お花畑なおめでたい風習だと、鼻で笑う事も出来ず間抜けな声が出た。
「何言ってんだ、おれに菓子なんて作れるわけ「作れるわ!」なぃ」
「勿論私がしっかり教えるし、イヌカシは器用だもの。それに、あなたにだって、気持ちを伝えたい、贈りたい相手がいるんじゃない?」
「贈りたい、相手・・・」
そんなのいねぇ、とすぐに出てこなかったのは、浮かんだ顔があるからで。それにどうにも、紫苑といいその母親といい、裏の無い真っ直ぐな瞳で言われると言葉に詰まる。
「上げたくないなら、自分で食べてもいいのよ。どう、イヌカシ。挑戦してみない?」
「〜〜、ちっ。わかった、やってやるよ!」
「ありがとうイヌカシ。美味しいお菓子を作りましょうね」
応えれば、礼なんて言う必要もないだろうに、火藍が本当に嬉しそうに笑うもんだから力が抜ける。
バレンタインの前日、パン屋を閉めた後でと日程を決めて、その日は帰った。
そして当日、始まった菓子作り。
失敗もあったが火藍の教え方が良かったのと、おれ自身の才能ってやつか、多少不格好ながらも美味い菓子が出来上がった。味見として自分で食ってみて、思わず「うまい」と言っちまうくらいには良い出来だ。
贈る相手はまずはシオンと、火藍にもやったら、火藍からも貰った。
なんつーか、くすぐったいが嬉しいもんだな。
今日は泊まり込みだっていうあいつには明日、渡してやろう。
バレンタインデー。そんなもん興味なんて無いのは変わらない。
だけど、おれに気付いたあいつが、花でも咲いたように笑うから。
「イヌカシ!」
「よぉ紫苑」
たまになら、悪くない。
ありがたく受け取れよ?
終わり。
火藍さんもイヌカシちゃんも、キャラ違う、口調違う、と感じてもスルーでお願いします。自分でも思うので。
ネズミさん?帰還前ということで。
帰ってたらなんだかんだ言いつつも渡すだろうし。
入らなかったけど、チョコは犬は駄目とはちゃんと教えられてるし、犬でも食べられるお菓子もあると聞いてるから、いつか作るかもしれない。イヌカシちゃんのお手製お菓子。いいよね。
火藍ママとほのぼのしてるのも、いいよね。
肝心のお料理中のシーンをスパッとカットする暴挙。
だって長くなりすぎそうだったんだもん。私お菓子作れないし。
んで紫苑さんならバレンタインのもっと詳しい起源についても知ってるんでしょうね。聞いてはいけない。長くなる。
そもそもバレンタインなんて無いんじゃね?てのもスルーでお願いします。
タイトルはちーさんがつけてくれました、感謝!素敵!
『Pave』パヴェ→石畳み、パヴェ・ドゥ・ショコラとは、道に敷きつめられた石畳(タイル)をイメージしたチョコレート。だそうです。
旧題『私、歌はお菓子作れない』