この思いは胸に秘めていたいの

ハートのシールで封をしてある、桜の柄の手紙。それをるりねは手に取った。
そのさまを、私は、呆然とただ見ていた。

「わぁっ、ラブレターだなんて久しぶりだよ」

親からプレゼントをもらった子どものように無邪気に笑いながら、彼女はそれを私に見せた。
そんなもの1秒だって見ていたくない、というのが率直な感想ではあったけれど、私はそれをどうしても言うことが出来なかった。喉の奥で煮えたぎる言葉たちを無理やりに飲み込むと、胸の奥が少しだけ詰まるような心地がした。こんなの、慣れたものだ。こんなの、慣れたものだ。こんなの、慣れたものだ…おまじないのように三度心のなかで唱えてみたけれど、特段期待した効果は得られずに、むしろ虚無感だけが残った。
馬鹿だ。そうやって誰かさんによく言う私だけれど、一番馬鹿なのは私だった。いつだってそうだった。

「ん?ほのちゃん、どうしたんだい?」

心からの思いやりが乗った、底抜けに優しい声に耳を貫かれた。けれど今は優しくしないでほしかった。
少し棘のある言葉で貴方を刺してしまおうか。それともお茶を濁して逃げてしまおうか。それとも…素直になってみようか。ふっとそんな考えがよぎり、私は首を振った。だってそんなことできっこないもの。

「別に。貴方みたいな気持ち悪い女たらしがモテるなんて、世の中には酔狂な娘もいるものね」
「僕、これでもモテるほうなんだけどな…」

ぴくりと、うざいほどに大きく、耳が反応してしまう。一挙手一投足に変な力が入ってしまう。
いま、私は貴方の目にどう映っているのかしらね。不自然に映っているのか、普通に映っているのか。気付いて欲しいような、気づかないで欲しいような、どちらとも言えない私は欲張りね。
こんな、こんなことを言いたくないのに、と頭では分かっているけど、口から出る言葉はすべて刺々しさを帯びたものばかりだった。

「モテる?貴方が?」
「最近はナンパの噂が広まっちゃったからか減っちゃったけど、昔はバレンタインとなると下駄箱からチョコが溢れて溢れて…」

ぷつん。
私の中で、何かが途切れてしまう音がした。

「…ほのちゃん?」

そのまま私は振り返らずに、走り出した。行き先もわからないのに。行く場はないのに。

ーーー

「ほのちゃん、やっと追いついた」

にこっ。今はもう見るが嫌になってしまうくらいのキラキラした笑顔で、追いかけてきたるりねは私を見た。

「さっきのあれ、ラブレターじゃなかったよ。僕の先輩が、テニス部に入って欲しいっていう内容の手紙を、ふざけてラブレターっぽい封筒に入れただけだったんだ。…ところで、どうして逃げてしまったんだい?もしかして、ショックだった?」

全身の筋肉がひゅっと緩むのを感じた。そんな自分に気付いてしまって、また苦しさを感じたけれど、さっきよりずっとずっと軽い苦しさだった。るりね、貴方の言動に一喜一憂してしまう私は、きっと貴方のことが好きなのね。だけれど、この思いは、まだ心のうちに秘めておきたいの。だから、きっと誰とも結ばれないでいなさいね?
私も、いつだって隣には、狐1匹分の余白を残しておいてあげると約束するから。

…なんて、うざったいほどに自分に酔った独り言を心のなかで呟いて、私は貴方を見た。

「そんなわけがないでしょう」

いつも通りの虚勢を顔に貼り付けて。
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