マテールの亡霊編
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(すっかり遅くなった)
あーでもないこうでもない。今の技術ではこれがこうで、いや、理論ではこっちの方が…なんて白熱していたら大分時間がたっていた。ユウはもう食事を終えた頃だろうか。
(……何か腹にいれないとダメか)
元々食が細いのだが、食べないでいると口煩く言ってくる厨房の面々を思いだし、面倒臭そうに歯噛みする。…正直、紅茶さえあれば別に生きていける気がする。駄目だけれど。
「あら~♡レイちゃんっ♡昨日は新入りちゃんとお話したんだって聞いたわよ♡後でどんな子か教えてねン♡で、何食べたい?」
「そんなに量は要らない。サラダだけでいい」
「アラ!ダメよ♡だからそんなに軽いのよ~!サンドイッチ作ったげるから、しっかりパンも食べなさい!あ、お肉もね!」
「…………………俺の意思は無視か」
「紅茶に合うのにしてあげるから我慢して♡」
むぅ…と唇を尖らせる。あからさまに不満ですといった表情だが、ジェリーの言うことに素直に従う所がまた可愛いのだと厨房の面々は語る。
「…いただきます」
食堂の隅でそっと手を合わせ、黙々とサンドイッチを食べていく。…うまい。旨いが……
「やっぱりこんなに量は要らない」
げんなりと呟く。遠くから「それ食パンの薄切り2枚よ!それくらい食べなきゃダメでしょ!」とか聞こえてくるが聞こえないふりをする。出されたものは残さず食べるが、顎が疲れた。
「………ごちそうさま」
綺麗に片付いた皿を返却口に返すと、ひょこっと奥からジェリーが顔を出した。
「よし!ちゃんと食べられるじゃなァい♡はい、食後の紅茶♡」
「………旨かった。だが、やっぱり多い」
紅茶を受け取った直後、後ろで怒号が響いた。どうやらファインダーたちとユウがもめているらしい。
「テメェ!!それが殉職した同志に言う台詞か!!俺達探索部隊は!お前らエクソシストの下で命懸けでサポートしてやってんのに、それを…っそれを…っ!!」
探索部隊の大男は拳を握りしめ、怒りに任せて神田に殴りかかった。レイはため息を一つつくとカップとポットを持ってさっさと席につく。アホらしくて見ていられない。
「飯が不味くなるだァア!?っぐ!?」
神田は振り向き様に拳をかわすと、大男の首を片手で引っ付かんでギリギリと持ち上げた。周囲の者は真っ青になって見つめていることしかできない。
「サポートしてやってるだ?!違ェだろ。サポートしかできねぇんだろ。お前らはエクソシストになれなかった、イノセンスに選ばれなかった外れものだ。探索部隊位代わりはいくらでもいる。死ぬのが嫌なら出てけ」
神田のあまりの言い様に、探索部隊の男たちは一斉に飛びかかろうとする。と、アレンが止めにはいった。
「ストップ。関係ないとこ悪いですけど、そういう言い方はないと思いますよ」
(嗚呼、喧しい)
レイは苛立ったように頬杖をついて行く末を見つめる。周りの「お願いだから神田を止めてこい」と言わんばかりの視線が痛い。……餓鬼か。喰ってかかるのも、場所を弁えてないのも、止めるどころか騒ぎが大きくなっているのも。
「ここにいるのは揃いも揃ってへたれと意気地無しと馬鹿ばっかりか」
がつんっ
「お前たち、此処を何処だと思っているんだ?」
ブーツの踵が床を打つ音が大きく響く。いつもは甘く心地よい、涼やかな声のレイ。そんな彼の怒りに満ちた地を這うような声音に、周りの者は皆びくりと肩が跳ね上がる。
「―――…手を離せ二人とも」
「「っっ!?」」
レイの声にざっと人の波が道を開く。かつかつと踵をならして近づくレイは神田に容赦なくでこぴんしてやった。
その瞬間に凍りつくギャラリーの空気
「ぃ…っ!!てめぇ…(怒)」
「やりすぎだ。考え方としては的を得ているとも思うが、その言い方では無闇にお前の敵を増やすだけ。それに、サポートしか出来ないのでは無いだろう。各々やるべきことを命懸けで全うして、同じ目標に進んでいるんだろうが。俺は何か間違っているか?」
「っち…」
「アレン。貴様もそんなに喧嘩腰になるな。駄犬のようにきゃんきゃん騒いで喧しい。ここは食堂。人が多く集まる公共の場だ。あまり騒ぎを起こすな」
「はぃ…すいません…」
「分かればいい。…それと、探索部隊」
「「「っっ!!!」」」
「同胞を亡くして悲しむ気持ちは分かる。悲しむなとは言わないが、場所を考えろ。ここは食堂であって礼拝堂ではない。これから任務に行くやつもいるだろう。それはお前たちが言ったように命懸けだ。それなのに出立前にそんな話を否応なしに聞かされる側にもなってみろ。……あまりいい気持ちはしないだろう?」
「悪かったよ…レイさん…」
「すまない…」
「わかってもらえればそれでいい。話は以上だ。さぁ、楽しく食事を再開してくれ」
ぱんぱんと手をならすと元のざわめきが戻ってくる。レイを見つめる数多の視線が熱いのは気のせいでは無いだろう。レイはアレンの隣に座った。
「お前は…そのからだの何処にそんなに入るんだかな…」
「んぐっ普通ですよー、レイさんは食べないんですか?」
お腹すきません??と小首を傾げて麻婆豆腐の乗ったスプーンを差し出すアレンに、レイは呆れたような顔でいらんと一言告げた。寄生型同士でも食事の量にはここまで差が出るものなのか。
「俺も寄生型だが貴様ほど燃費が悪くはないようだからな。…ん?」
「あ、の…っレイさんっ///こ、これっよろしければどうぞ!!甘いものお好きでしたよねっ?」
気配にそちらを振り向けば、若いファインダーの男が、そのでかい図体に似合わず可愛らしいプリンを手に顔を朱に染めて立っていた。ばっとつき出されたものと男の顔を交互にみやり、数度瞬くと、レイは短い礼と共に受け取った。
それはそれは華のような笑みを浮かべて。
鼻血を出してその場を走り去るファインダーと、気にせずうっすらご機嫌な様子でプリンを口に運ぶレイ。そしてそれに見とれる周囲の老若男女ども。唇についた白い生クリームを赤い舌が嘗めとる仕種さえも、上品だが大変色っぽい。
「あ、甘いものお好きなんですね////(可愛い////////)」
「ん……柄にないとか思ってるだろう。悪いか」
「そんなことないですよ!!///ただ凄く可愛いなって…あ」
「な゙っ!?………馬鹿者////」
可愛いという言葉に白磁の肌を朱に染め上げるとじとっとアレンをみやった。食べるスピードをあげ、素早く食べ終えると食器を戻し、神田に歩み寄る。
「額、まだ少し赤いな。…痛いか」
「別に。あの程度いてぇとか言ってられねぇだろ」
「それでもお前にでこぴんしたのは事実だからな。まぁ、大丈夫ならいい」
そう言ってレイは神田の隣に腰かける。ちらりと麗人をみやり、神田は視線を蕎麦に戻した。
「……おい。」
「?なんだ?」
「お前あのモヤシに惚れてんじゃねェだろうな」
想定外だと言うようにレイは瞬く。こてっと小首を傾げると、レイは神田の不満げな顔を訝しげに見つめた。
「……………どうした。いきなり」
「どうなんだ」
「興味ない。仮に今惚れてたとしたら、原因は一目惚れとやらか?……お前には俺がそんなに惚れっぽく見えるのか」
「…惚れてねぇならそれでいい」
「?あぁ」
まるで猫を撫でるようにわしゃわしゃと頭を撫でられたかと思うと、そのまま手は頬を撫でる。どうやら機嫌が直ったらしい神田にされるがままになりながら、レイは気持ち良さそうに目を細め、鼻をならした。
その数分後、科学班長リーバーに呼ばれ、二人は任務に赴くこととなる