バラティエ編(連載中)
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ドーンドーンと大砲の音が響き、船が揺れる。船室で新聞を繰っていたルークはついと顔をあげた。今度は何を騒いでいるんだろうか。
つい先日再会した幼馴染が率いている海賊団は、なかなか愉快で騒がしい者たちばかりだ。類は友を呼ぶなんてよく言ったものである。磨けば光る原石揃いで、これからの成長が楽しみなのだが…如何せん落ち着きがない。
「…今度は大砲の練習か」
ルークはひとつ瞬くと、新聞を置いて船室を出ていく。別に大きな音が苦手なわけではないが、こうも騒がしいとおちおち新聞も読めやしない。
「ルーク?何してたの」
「…新聞を読んでいた」
ナミは、そっけ無くそう言ってルフィたちに歩み寄るルークの背中を見つめた。ルークは表情が変わりにくい上に口下手だ。だから冷たく見えてしまう。最近気づいたのは、実は凄く面倒見が良いことと、素っ気ない返事をしつつ構って貰えないのは嫌な寂しがり屋だと言うこと。
(完全に自覚無いみたいだけどー…)
成る程、数多の海賊や海軍がルークの尻を追いかけ回す理由がわかってきたかもしれない。…心を開いてくれると、本当に可愛らしい1面が見られるものだ。
そんなことを思われているなんて露知らず。ルークはひょこっとルフィ達のところに顔を出した。
「……何をしてるんだ?」
「ルーク!大砲の練習だ!ウソップがなー、スゲーんだ!」
「ほぅ…流石、うちの狙撃手は有能だな」
腕になついてくるルフィの頭をそっと撫で、手放しの賛辞にそわそわしながらこちらに近寄ってくるウソップの頭もポンポンと撫でてやる。
「出てこい!!海賊どもォ!!」
突然船に怒声が轟いた。甲板に置いてあった樽は蹴り飛ばされ、破壊される。ルークは名もない海賊風情が、俺の相棒を殺す気かァア!!とルフィに斬りかかる青年を見つめた。
浅黒い肌にサングラス。短髪で、頬には海の文字。…はて、何処かで特徴を聞いた気もするが、思い出せない。帯刀しているところを見ると、恐らく賞金稼ぎか。
船を壊すんじゃねぇ!!と呆気なくルフィに沈められ、青年は鼻血を出して大の字に倒れた。肩で息をしながら、実に悔しそうな声を漏らす。
「か…紙一重かぁ…」
「……紙一重の意味、辞書で引き直してこい」
ルークはアホが一人増えたなと一人ため息をついていた。
騒ぎを聞いて船室から出てきたゾロは、倒れている青年を見て目を丸くした。アイツは…
「なんだお前、ジョニーじゃねぇか!」
「あ、ぞ、ゾロの兄貴!!こ、こんな海賊船に!?兄貴!?何でぇ???」
(あれはゾロの知り合いだったのか…。…もう一人、気配がするな)
ルークは一人船縁へ飛んだ。下を見れば、一隻の小舟で一人の青年が青ざめた顔で口と腹から血を流している。…成る程、それで先の青年は気が立っていたわけか。
「ヨサクのヤツ…!あっ!?だ、誰だテメー!!」
「…この船の副船長だ。"甲板へ"」
ルークはさっさとヨサクを甲板へと運んだ。風を操り、体に負担をかけないようにそっと降ろしてやると、ウソップにライムをあるだけ持ってくるように頼む。
「数日前までピンピンしてたのに、急に青ざめて気絶を繰り返すようになって…っしまいには歯も抜け出すわ、古傷が開いて血ぃ噴き出すわで…俺ァもう、どうしたら良いか分かんなくなって…っ」
一先ず岩山で安静を保っていたところに、この船からの砲弾が直撃したのだ。ぐすぐす泣き出すジョニーに、驚愕の表情でごめんなさいと頭を下げるルフィとウソップ。ルークは、良いから早くライムをくれ…と疲れたように肩を落とした。
「兄貴…っコイツ、死ぬのかなぁ…っ?」
「……馬鹿を言うな。これぐらいで死なれてたまるか」
「アンタ!!相棒の死を愚弄する気か!?」
「…………落ち着け。…ナミ。この船にライムかオレンジは無いのか?」
「あるわよ。倉庫にいっぱい。…ほらルフィ!!ウソップ!!さっさと持ってくんのよ!!」
ルークも能力使えば良いじゃない!!と腕組をするナミに、仮にも船長に使いたくないだろうとルークは僅かに柳眉を寄せた。ナイフを操ってライムを片っ端から真っ二つにしつつ、汁を口に流し込んでやれとルフィたちに押し付ける。
「壊血病だ。手遅れじゃなきゃ、数日で治る」
壊血病?と首をかしげる男どもに、ルークはめんどくさそうにふいっとそっぽを向いた。解説は頼む、と言葉無く丸投げされたナミは、はーっとため息をついて額に手を当てる。
「一昔前までは航海につきものの絶望的な病とされていたけれど、原因はただの植物性の栄養の欠乏。昔の船は、保存のきかない新鮮な野菜とかは積んでなかったから。ライム食べて安静にしてれば二、三日で治るわよ」
「ルフィ、ウソップ。そろそろ良いだろう。…こら、口に押し込むな」
搾り滓をヨサクの口に詰め込もうとするルフィたちの手を止める。…まったく、油断の隙もない。腹の包帯をほどき、開いた古傷の具合を見てふむ、と独り言ちる。この程度なら、大丈夫そうだ。
「……ほら、相棒のためにも"早く治してやれ"」
言葉と共にルークがヨサクの体に手を触れると、みるみるうちに血の気は戻り、傷は癒えていった。見ていたものはもう驚愕に顎が外れそうになっている。
「…3日ほどこれの体の時を進めた。もう大丈夫の筈だ」
言われるが早いか、ヨサクはムクッと起き上がった。栄養全快復活だー!と腕を組んでぐるぐる回るヨサクとジョニーに、さっきまで死ぬだのなんだの騒いでいた癖にとナミは呆れたように目を眇めた。ルークは船縁に腰かけ、足を組んで我関せずを気取っている。
「申し遅れました!俺の名はジョニー!」
「あっしはヨサク!」
「「二人仲間の、海賊相手の賞金稼ぎ!!」」
ゾロの兄貴とは同業者。以後、お見知りおきを。ルークは再会を喜ぶ二人とゾロを見やり、ぱたりと一つ瞬いた。いくら全快させたとはいえ、病み上がりにかわりはない。倒れる前に休め…と声をかけようと口を開きかけたとき、ヨサクの体が傾いだ。
「あ、相棒ー!?」
「…お前たちがなぜ今まで無事だったのか、俺には理解できない」
ルークのどこか呆れたような声音に、苦労性な一面を感じてナミは憐れんだような視線を送った。