はじまりは…
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あの日から十余年…………
懐かしい匂いのする海
世界で最も弱く、最も平和な海、東の海(イースト・ブルー)
巨大な鳥の背に乗り、肩口までの白銀の髪を風に靡かせた麗人は、見知った気配を感じ視線を巡らせた。
「麦わらのマーク。…そうか、あれが…」
視線の先には一隻のキャラベル船。船首はどこか可愛らしい羊が象られ、帆には麦わら帽子をかぶった海賊の髑髏が。同じ柄の描かれた海賊旗もあるところを見ると、ただの破落戸ではなくきちんとした海賊らしい。
「乗せてくれて助かった。何処へなりと行くがいい」
最後に鳥の頭を一撫ですると、麗人は…ルークはを飛び降りた。当の鳥が焦ったように首を伸ばすが、ルークは風を操りふわりと浮かぶとその頬を優しく撫で、船へと降りていった。
「お、おい!ちょっと見てくれよ皆!人が空を飛んでるぞ!?」
「なんですって!?」
見張り台のウソップの声に、甲板のナミたちが驚愕の声をあげて望遠鏡を覗きこむ。確かに人だ。遠目で詳しくはわからないが、白銀の肩口までの髪に、白いワイシャツと黒いぴったりとしたパンツ。着崩されたラフな恰好に、腰にキラリと光るのは鉄扇か。
「麦わら海賊団とお見受けする。船長はいるか?」
涼やかな声に、絶世の美貌。毛ぶるような睫毛に彩られた涼やかな目元に、スッと通った鼻筋。黒い服によってより際立つ雪のように白い肌。形のよい桜色の唇。ほっそりとした華奢だが均整のとれた体躯。冷たく氷のような無表情が、近づき難いほどの美しさを際立たせている。
「誰だテメェ…喧嘩か?なんなら買うぞ」
「お、おおぉ俺達の船長に何のようだ!」
「いや…期待しているところ申し訳ないが、俺はただ船長に会いたいだけだ。…いないのか?麦藁のルフィ」
絶世の美青年は、好戦的なゾロと怯えながらもパチンコを構えるウソップに若干困ったような声音で戦う意思がないことをのべた。表情は相変わらずの無表情だが。
一方、ナミは麗人を見つめてガタガタと震えていた。白銀の髪に桜の瞳。氷のような冷たさを感じさせる美しい青年。桜の透かし模様の入った鉄扇。
「あ、ぁあああんた…もしかして、華皇のルーク…!?」
「………そうだが。…あぁ、名乗り忘れたな。俺はフリージア・ルーク。別にこの船を襲う気はない。船長との約束を守りに来ただけだ」
「華皇だと…!?」
華皇なんていったら、賞金72億4000万ベリーのとんでもねぇやつじゃねぇか!と一層がくがく震えるウソップと、その賞金額に驚きつつも楽しめそうだと舌なめずりをして刀に手をかけるゾロ。
「……俺は戦う気はないと言わなかったか?」
呆れたように呟く。…どうしても戦わないといけないのだろうか。その時、微かに聞こえてきたイビキにルークは僅かに目を眇めた。
「…もしかしなくても、あの馬鹿寝ているな?」
ルークはついと手を伸ばした。船室の方へと手を伸ばすと、来いと命じながら引き寄せた。途端にバンッと音をたてて扉が開き、グースカ眠りこけているルフィが風にのせられてすっ飛んでくる。ルークの目の前でピタリと止まるも、未だ眠りこけるルフィにルークは心のそこから呆れたようにため息をついた。
「…起きろ馬鹿ルフィ」
パチッ
音をたてて目を開く。ルフィは目の前で憮然と佇む麗人を見つめて目を白黒させたあと、あー!と大きな声をあげた。ついでニコニコしながら間髪入れずに飛び付いた。
「ルーク!ルークじゃねぇか!来てくれたんだな!」
「…お前が言ったんだろう。俺は約束を反故にする趣味はない」
重い、と静かに主張するルークと、やったーやったーときゃんきゃん騒ぐルフィ。対照的だが仲の良さげな二人に、皆の目は点になった。どういうことだ?
「ちょっとルフィ!?どういうことだか説明しなさいよ!」
「お、そうだな!よく聞け野郎共!副船長のルークだ!」
「馬鹿。そうじゃないだろう」
スパンと小気味いい音をたててルフィの頭をひっぱたく。ルフィは気にしたようすもなく、そうか!と元気よく言うと、ニコニコしながら説明し出した。
「ルークはな!俺のよm「幼馴染みだ。フーシャ村に一時期いた時のな」むー。ま、そうだな!で、そんときに約束したんだ。俺が海賊になったら、どこにいたって帰ってきて、副船長になってくれるって!」
「……じゃないとお前がぎゃんぎゃん泣いて離そうとしなかったからな」
当時ルークは海軍の保護下にあった。ただ、昔からルークの全てを操る声の能力や類い希なる美貌等は誰もが欲しがったので、色んな海賊やら海軍やらに保護と言う名の下で連れ回されていた。
そのなかで、祖父代わりの一人だったガープに連れられて、フーシャ村へと来たのだ。ちなみに、赤髪海賊団や白髭海賊団にいた経験もある。いずれも七つや八つ……十歳位の話だけれど。
そんなとき、ルフィと出会って幼馴染みとして時をすごし、いざ海軍本部に戻らねばならないときに、ルフィが行くなと散々泣いて駄々をこねたのだ。で、必ず帰ると約束をするに至るのである。
余談だが、保護下にあるはずのルークが何故72億4000万なんて巨額の懸賞金をかけられているかと言うと、幼少期さまざまな人に連れ回されるなかで得た人脈が、ルークの放浪癖をものの見事に開花させてしまったのだ。
よって、海軍が目を離した隙にふらっといなくなり、ふらっとどこぞの海賊船にいたり、ふらっと別な国にいたり、はたまた戻ってきたり。海軍としてはルークの能力は独占したいのに、家出状態な"皇"を「体に一切傷をつけず、言うなればルークを説得して連れてくれば賞金を与える」というなんとも無茶苦茶な条件付きで懸賞金をかけて追いかけているのである。
まぁルークも、世界政府からも求められる身故、戻りたくないのが本音だろう。因みに懸賞金がかけられた背景には、天竜人との結婚をすっぽかして逃げたなんて事件もあったりするのだが。因みに、嫁にとられるところだった、と言えばお分かりかもしれないが、相手の天竜人は男だ。
「…俺がこの船に乗っても良いのか?」
「いいぞ!」
「お前に聞いたんじゃない。お前の船員に聞いたんだ。…俺が怖いか?」
正直怖いと、ナミは言った。ウソップもコクコク頷く。ゾロはただ無言でその目を見据えた。
「今は怖いけど、でも仲間になったのなら別よ!全然怖くないわ。自分の仲間怖がって、海賊なんて出来ないでしょ!」
「そうだそうだ!そりゃ、仲間じゃねぇ華皇なら、殺されちまうのかもしれねぇとか思うけどよ。今俺の前にいるルークとかいう男は船員にそんなことするやつに見えねぇし!強ぇし!文句なし!」
「時々手合わせはしてみてぇけどな。俺も強ぇやつなら文句はねぇ」
「…………いい、のか?」
想像より遥かにあっさり受け入れられてしまった。ルークは僅かに視線をさ迷わせた。ルフィはがっと手を繋いで逃がすまいとしながら、ニシシと笑った。
「良いに決まってんだろ!今日は新しい仲間のための宴だ!」
「そうか。…改めて、俺はフリージア・ルーク。海軍からは"皇"という地位につけられていて、現在は多額の懸賞金をかけられて追い回されている。出来ることはきちんとした医療以外なら何でも。……その、これからよろしく頼む」
「おう!」
「よろしくな!」
「頼りにしてるわよ、副キャプテン!」
「へへっよろしくな!ルーク!」
馴れない人の優しさに、ルークははにかんだようにふっと目を細めて、僅かに微笑んだ。