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街で騒ぎが起こっている頃、ギルド・テゾーロを取り囲むように配置された軍艦の甲板では、下された命令に対してのどよめきが起きていた。
「待ってください!いくら今回の天上金護衛作戦の指揮権がそちらにあるとはいえ、いきなり一斉砲撃なんて!これでは民間人に被害が!!」
「…だから?」
ルッチは冷たく部下を一瞥した。手元の電伝虫からは天竜人の金切り声にも近いような耳障りな声が聞こえている。
《急ぐアマス!!テゾーロが暴れて!!わちきらの身が危険アマス!!!!あぁっ!?》
《貸せ!!何をしてるんだぇ~!!どんな手をつかってもいい~!!早く助けるんだぇ~!!》
そこまで聞いたところで、ルッチはがちゃりと受話器を置いた。「どんな手を使ってでも助けろ」、その命令遂行のための一言があれば、もうそのあとにどんな言葉が続こうと関係ない。
「全艦に命令を。任務遂行のため…テゾーロを潰せ」
「く…っ全艦砲撃用意!!!!目標!!ギルド・テゾーロ!!」
撃て!!!!という声に合わせ、全艦一斉に砲撃する。その時、美しい炎が砲弾とギルド・テゾーロの間に滑り込んできた。
「“火拳”!!!!」
一瞬にして砲弾は爆発し、辺りに爆風が吹き荒れる。ルッチは面白くなさそうに鼻をならした。一体何の用だ?革命軍…!
一方、砲弾をおじゃんにした張本人であるサボは、悪びれもせずにこれを見過ごせってのか?と軽口を叩く。民間人がいるなか、一斉砲撃なんてムダな犠牲を増やすだけだ。まったく迷惑きわまりない。
「それに、これは弟と俺の嫁が受けた喧嘩だ。邪魔しないでもらおうか」
「うちの船長の邪魔をするな」
ゴォッ
突然、何処からか涼やかな美しい声が響いた。ハッと気づいたときには、ルークの覇王色の覇気にあてられた海兵やテゾーロの部下たちは皆泡を吹いて倒れてしまっている。
「返すぞ」
ふわふわと風に乗って宙に浮かんでいるルークは、無造作にスパンダムを放り投げた。へぶ!?なんて妙ちくりんな声をあげながら甲板に激突するスパンダムなんて、今のルークには欠片も興味がない。ただ見知った顔についと目を細め、めんどくさそうに息をつくのみ。
「ルッチとサボか」
ルッチはこの際まぁいい。サボ、なぜお前がそこにいる?
革命軍の話を聞かないと思えば、こんなところにいたのか…とルークは思考を巡らせる。下ではサボがルーク!!!!なんて呼びながらばんばんハートを飛ばしているが、完全無視だ。いや、無視するにかぎる。
でないとこのシリアスな場面でどんなセクハラをされるかわかったものではない。
「ルーク、お前がいるのならなおのこと手出ししないわけにはいかないな」
「…今は忙しい。お前たちの相手をしている暇はない」
ちら、と街の中心部を一瞥する。相も変わらず爆音と衝撃が響き渡っている。……ふむ、助太刀は要らなそうか。ナミたち戦闘が比較的得意じゃない組も、この2年で十分に強くなった。今しばらくは放っておいても大丈夫だろう。
「…テゾーロはうちの船長が叩きのめす。民間人が多数いるなか、天竜人の為だけに砲弾を集中砲火させるなんて、馬鹿なことをしてくれるな」
「これは命令だ。仕方がない。―――なぜそれほどまでに天竜人を嫌う?」
「あれだけ生かしておいても生産性がないからだ」
ルークはずばっと言い切った。人々は成長し、商売なりなんなりの経済活動を経て島を発展させ、子を作り、そうして世界の営みは繋がれていく。だが、天竜人はこの世に何人いる?沢山の人々を犠牲にしてふんぞり返る役立たずを数人拾うなんて、馬鹿馬鹿しいにもほどがあるだろう。
見ているものの広さに、聞いていた面々ははたと目を瞠った。ルークは、突然訪れた沈黙にことりと小首をかしげる。なんだ、この間は。まさか俺が個人的に大嫌いだから始末したいと考えているなんて言うわけないだろうに。
呆けている面々を残して、ルークはさっさとどこかへ飛んでいく。
「惚れてくれるなよ、あれは俺のだ」
「ハ…ッ手遅れだな」
どれだけ深く惚れていようと、何度でも惚れ直すとはこの事か、なんてどこかすっとんきょうなことを考えながら、サボとルッチは再び対峙した。
ルークが海軍を伸している頃、ルフィはテゾーロに再び殴り飛ばされていた。ナミはテゾーロが操る黄金の巨人に無造作に握られ、今にも握りつぶされようとしている。
ロビンはタナカさんに人質にとられ、バカラとの戦いを前にウソップは逃走。ゾロはダイスに刀を盗られ、テゾーロはもう笑いが止まらない。あァ、なんて様だ。
ルークさえいなければ、俺の前ではこいつらも虫けら同然。何故彼がこんなものに入れ込んでいるのかは知らないが、所詮はこの程度。神たる自分の前では何も敵いはしない。
『俺は生憎と今が幸せなんだ』
幸せ?こんな虫けらといて幸せだと?己を守りきれもしない輩といることが幸せ?わからない。わからないわからない。何故だ?奴等にあって俺に足りないものは何だというんだ。
「人の“幸せ”を信じてやれない男は、他人はおろか自分のことだって幸せにしてやることは出来ない」
「ッ!?ルーク!?」
やけに鮮明に耳に入ってきた声に、テゾーロはばっと辺りを見回した。…ルークの姿はどこにもない。能力を使って、直接声を届けているのか。気がつけば、辺りの時は止まったようにして妙な静けさが満ちている。
「何故人を信じない。仲間も。部下も。友人も。これだけ多くの人間がいる街で、有能な部下を手元において、それでもまだ誰も心から信用することが出来ないのは何故だ?」
「五月蠅い!!!!お前に何がわかる!!!!」
「人から裏切りを受けたからか?違うだろう。――お前が今周りにいる者全てを欺いているからだ」
自分が暗にその者を欺いているからこそ、相手も同じではと錯覚し何も信じられなくなる。裏切られるのが怖い。だから、やたらと上に立って力でねじ伏せてしまいたくなる。部下も友人もこの町の人々も、そして生涯の伴侶でさえも。
「お前…隣を歩かれるのは苦手だろう?」
「嫁の隣を歩いて、同じものを見て、隣を歩く人間の価値観をわかってやることがどれだけ難しいのか、まだわかっていないだろう」
「愛していても逃げられるのかと不安に思ったら、また首輪をつけるのか?お前のそれは愛を超えた執着だ」
黙れ!!!!
テゾーロは頭を抱えた。人は…否、命あるものは裏切る、そうだろう!だから引き留めるには首輪を着けておくしかない。逃げ出せないように篭のなかに閉じ込めて、可愛がってやればそれでいいだろう。
それともお前は、俺の「愛」を否定するのか!!??
「――お前に愛されたこと、俺は後悔はしていない」
ただ、酷く悲しいだけだ
テゾーロの目の前にある建物の屋根に、ルークはいた。ふわりと悲しげに微笑んでいたのは、幻か、それとも…
「俺が本当に悲しいのはな」
お前が、愛している奴から愛情すらもらえないものだと思い込んでいるところだよ
テゾーロはかっと顔に熱が上るのを感じた。この俺を惨めに思うのか。なんという屈辱。だが、とふと冷静に思い返してみる。今回は、彼の言うように方法が、俺の考え方がおかしかったのだとすれば。正攻法で攻めて、お前を信じて愛していたのなら、お前は俺に愛を返してくれたのか…?
「テゾーロォオ!!!!」
ルフィの声に、テゾーロははっと我にかえる。気づいたときには、もうすでにそこにルークの姿はない。その手を離せ!!!!と傷だらけで吠えるルフィが眼下に見える。
「笑えよ麦わら…こいつはまだ、お前を信じてる」
テゾーロは動揺を誤魔化すように、ナミを握る手に力を込めた。お前たちは俺とのギャンブルに負けたクズ…!!お前らの命は俺に買われたんだ!!
この船にいる敗者たち!そのすべてが俺の所有物なんだよ!
ルフィは肩で息をつきながら、無言で拳に力を込めた。握りしめた手元のコンクリートがメキィと音をたてて罅割れる。
「お前は…俺の大嫌いな奴等にそっくりだ…その手を離せ!!!!」
「!?」
一瞬脳裏をよぎる、過去の自分。惚れた女性が天竜人に買われていくのを、なすすべもなく見送るしかなかった力ない自分。
「……フン。笑えと言ったら笑え!!俺のモノをどうしようと!!自由だ!!!!」
テゾーロはナミを思いきり振りかぶってぶん投げた。悲鳴をあげて駆け寄るカリーナだが、間に合わない。ルフィは俊足で飛ぶと、二人を腕に抱えて飛び出した。後ろからはテゾーロの拳が迫ってくる。
「ロビーン!!!!」
「“蜘蛛の華(スパイダーネット)”」
ルフィが放り投げた二人を、ロビンが能力で作り出した網で受け止める。テゾーロの拳はそのままルフィを押し潰したものの、ナミとカリーナは辛くも難を逃れた形となった。
「チッ…!?」
地面にめり込んだ拳に、ビキビキとヒビが入っていく。
「俺の仲間は、モノじゃねぇ!!!!」
黄金の拳に入ったヒビは、腕全体へと広がり、やがて音をたてて崩れ去る。そこにいたのは、ギア4を解放し、バウンドマン状態となったルフィの姿であった。