瞳の中の暗殺者
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それからはいろいろな場所へと引っ張り回された。昼間は隠れる場所がない上、明るいために闇に乗じることもできないから安全かと、半ば警戒しつつも、蓮は楽しそうな皆につられていつのまにか笑っていた。
夜になり、パレードを鑑賞していたとき、前列で見ていた筈の子供たちが悲鳴のような声をあげて戻ってきた。
「蓮お兄さん逃げて!!」
「拳銃が狙ってんぞ!!」
「危ないッ!!」
元太の声が終わるより早く、蓮は阿笠博士に突き飛ばされた。
ドシュッと音をたてて発射された弾丸が、博士の肩を掠める。
「くっ!!」
「博士!!!!」
哀は博士を庇うように手を広げた。蓮の頭のなかが真っ白になる。
(僕が、僕がいると皆が…)
蓮は弾かれたように走り出した。人混みを避け、兎に角隠れられそうな物陰までひた走る。犯人が狙うのは自分。それ以外の人を見境なく撃つなら、誰もいないところの方がいい。目撃者が必要なら防犯カメラにでも写る位置にいればいい。
暫く走り続け、壁を背に立ち止まって息を整える。後ろを警戒しながら、再び走り出そうとしたとき、何者かにぱしっと手をとられて蓮は息を飲んだ。
「ッ!?」
ばっと見れば、コナンがホッとした顔で立っていた。蓮の繊細な美貌に驚きの色が閃く。何故此処に。今日彼は此処に自分達がいることを知らないはずではなかったか。また、巻き込んでしまうのか。
「こ、コナンくん!?」
「もう大丈夫だよ、蓮兄ちゃん…!ここは人が多いし、この人混みに紛れて外に出れば…」
パァンッと突然近くにいた子供の風船が割れた。
「こっちへ!!」
(くそッ!!蓮を殺せれば、誰がどーなってもいいってワケか!!)
野生と太古の島にある、クルーズ体験施設。駆け込む二人に怪訝な顔を向けるスタッフに、コナンは声を張り上げた。
「助けてー!!変な人がー!!」
「ボートに飛び乗れ!!」
「え!?」
困惑しながらも、言われるがままにボートに飛び乗る。君たち!?と制止する声を振り切って、コナンは素早くエンジンをかけて発進した。ボートは速度をあげてすいすい進んでいく。
「コナンくん、一体どこで操縦を…!?」
「ハワイで親父に教わったんだ!!」
「えぇ…!?」
困惑しきりの様子の蓮に、コナンはふっと笑みをこぼした。動揺してるときの表情は、いつもと変わらない。くるくる表情が変わるのが可愛らしい。記憶を失ってからは憂い気な顔が増えたので、なおのこと。
「…ボートのエンジン音がする。っ隣だ!」
「っヤツだ!!」
二本の水路の合流地点。其処でもう一方から来たボートに、コナンは舌打ちした。
ドシュッドシュッ
器用に、左右に蛇行することで銃弾を避ける。と、その中の一発がリュックに入れたコーラの缶を直撃した。
「あっ!コーラが!」
「!?(コーラ?)」
コナンは操縦しながら片手で時計を確認する。時間は9時になる20分前。蓮は目の前に迫ってきた滝に、声にならない悲鳴をあげた。
「コナンくん!た、滝が!!」
「掴まれ!!」
「っっーーー!!!!」
ふわりと浮遊感が体を襲い、ついで二、三度跳ねながら着水する。転覆しないようにバランスを保って、上手いこと操縦して波止場に止める。ばっと二人はボートを降りると再び駆け出した。
「急ごう!!」
「はぁ、っは…」
「蓮兄ちゃん、大丈夫?」
「っ、ん、平気…。早く隠れなきゃ…っ」
元々、蓮は体が弱い。そんなに走らせたくは無かったのだが…と心配そうな面持ちで見つめるコナンに、蓮は気丈に笑ってみせる。と、その蓮の顔のわきに再び銃弾が撃ち込まれた。
「くそっ!もう追い付いて来やがった!!兎に角、登りきって岩影に隠れるんだ!!急いで!!」
だっと二人は思いきり駆け出し、頂上の岩壁に身を隠した。コナンは一人、一段高くなった場所に立ち上がる。姿を見せた獲物に、犯人は動揺に息を飲んだ。
「…!?」
「こ、コナンくん…!?」
「ここ、夜はクローズで誰もいないんだ!!姿を見せても大丈夫だよ…」
蓮も困惑気味に声をあげるが、コナンのやることなら間違いはないかと思い直し、ふっと呼吸を楽にする。コナンは姿を見せない犯人に、ふんと鼻をならした。
「随分用心深いんだな…でも、もう隠れたってムダさ。奈良沢刑事のメッセージの、本当の意味がわかったからね。」
彼が死に際に左胸をつかんだのは警察手帳を示したんじゃない。心を指したんだ!!
心療科の文字のひとつの、「心」をね!!
「そうだろ?風戸京介先生!!」
「っ!?」
すっと暗がりから姿を現した風戸に、蓮は驚きに目を瞠った。あの、風戸先生が犯人だったのか…!
「いつ私だとわかった?」
「最初におやって思ったのは、電話のことを思い出したときさ。右利きの人間は、まず左手でボタンを押さない。そう…アンタの利き腕は左だったんだ!!」
「なるほど、そいつは迂闊だった」
7年前、東都大学附属病院で若手ナンバーワンの外科医として活躍していた風戸は、有るとき仁野さんと共同で執刀した手術で、仁野さんが誤って風戸の左手首をメスで切ってしまった。その事故により、黄金の左腕と呼ばれた風戸の腕は落ちてしまう。プライドの高い彼はメスを捨て、外科から心療科へ転向することにした…
「以来これもプライドのためか、左手を封じ、右利きとして過ごしてきたんだろ?」
「その通りだ…まさか電話のボタンを押しただけで気づかれるとは思わなかったよ」
ふっと小馬鹿にしたような笑みを浮かべる風戸に構わず、コナンは続けた。
「心療科医師として米花薬師野病院に移ったあんたに、1年前、仁野さんとの間に何かがあった」
「再会したんだ。偶然にな!!」
誘われるままヤツのマンションで飲んだ…酔った私は、6年間ずっと心の隅でずっと感じていた疑問をヤツにぶつけた!!あの事故はわざとだったんじゃないかと。
『ふ…お人好しなんだよ。オマエは…』
『!!!!』
やはりあの事故はわざとだった!!その時だ…私に殺意が芽生えたのは…ヤツは丁度手術ミスで訴えられていて、自殺の動機は十分だった。
「案の定、捜査は自殺ということで終結したよ。」
「だがあんたはその事件が再捜査されることを知った筈だ」
「米花署に移動になった奈良沢刑事からね!!」
彼は同僚の友成警部が亡くなったことに精神的ショックを受け、カウンセリングに来たんだ。治療を通じて友成真が警察を恨んでいることも知った。
「それで、再捜査により警察の手が自分に及ぶ前に三人の刑事を撃ったのか?友成真さんに罪を着せるため、現場に呼び寄せて…」
(なんてことを…っ)
これが連続殺人鬼というものか、と蓮は悲しげに目を伏せた。そんな身勝手な理由で二人の刑事は殺され、一人は昏睡状態なのか。それと同時に、そんな恐ろしい人物になにも知らずにカウンセリングを受け、命を狙われている事実にゾッとする。
ふと、蓮は視線をあげるとコナンが下を指差しているのが見えた。下…?よく見ると落とし穴のようなものがある。…滑り台、なのか?
自分の声と女性患者の声を編集して友成真に電話し、奈良沢刑事が胸の手帳を掴んでなくなったことを白鳥警部から聞いた。そして刑事の息子である友成真に罪を着せるため、倒れている芝刑事にわざわざ警察手帳を持たせた。
次々と解明していくコナンに、風戸はニヒルに笑った。たとえそれだけわかったとしても、まだ警察も解けていない最大の謎がある。そう、硝煙反応だ。だが、コナンも冷たい笑みを浮かべた。
「そのトリック、聞きたいんなら説明してあげるよ」
「何ッ!?」
「あんたが警察に捕まった後でな!!」
蓮はコナンの言葉が終わると同時に穴に飛び込んだ。長い滑り台をシャァァァアと滑り落ちていく。滑り台から降り、出口へ向かおうとする蓮をコナンは呼び止める。
「こっちだ!」
「えっ?」
「その出口はヤツが待ち伏せしてる!」
立ち入り禁止の札がかけられたトンネルの様なところに二人は飛び込んだ。暗がりをひた走り、階段を抜けると、荒々しい岩肌の剥き出しなエリアに出た。