異次元の狙撃手(連載中)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
とあるビルの屋上…安室は蓮の腰を抱きながら、彼にくっついてきた黒髪の青年を忌々しげに見つめた。
「僕は蓮くんにデートを申し込んだ筈なんですが、何故貴方までいるんですかねぇ」
「俺は蓮くんの保護者だからな」
「あ、あの…ごめんなさい…」
「「蓮くんが謝ることじゃないからな」」
蓮は困惑したようにため息をついた。警察へ連絡は済んでいるために、森山さんの周囲は警官で固められている。遠くからその姿を確認するというだけなのだが、どうしてこうも面倒なことになってしまうのか。
たたっと屋上の手すりに駆け寄ると、そこから下を見る。ここは森山邸の真横であり、丁度正面入り口が見える位置。この高さからなら地下の駐車場から出てくる森山さんの車も見れる。
「狙うならどこからだと思いますか?」
「そうだな…平地は狙いにくいし、やはり高所からがいいんじゃないか?」
「麻生さんに賛成だよ。森山さんは毎日同じ時間に奥さんを迎えに行く。それならあの地下駐車場から出てくる瞬間なんかが一番狙いやすいんじゃないかな」
丁度ライトが当たって見やすいしな、と安室はライフルを構える真似をする。もっとも、彼は狙撃が本職ではないため一般論だが。
「あ、バイク……?あれって真澄ちゃんとコナンくんですよね?」
「本当だ。何してるんだあの子達?」
成実はついと目を細めた。恐らく彼等もこちらと同じ理由なんだろうが。
その時、一発の銃声が宵闇を切り裂いた。
パシュッッ
「っ!!」
「見るな!!」
成実は蓮を庇うように抱き締めた。安室は遺体が前に倒れアクセルを踏み込んだ為に、公園に突っ込んだ車に舌打ちする。まさに一撃。警察の威信もなにもあったもんじゃない。折角情報をリークされ、警官を配備していたにも関わらずこれか。
蓮は瞬時に思考を巡らせる。守れなかったものは仕方がない。だがそれは犯人を取り逃がしていい理由になどなりはしないのだ。
狙撃場所として考えられるのは2ヵ所。森山邸正面にあるビルは2つ。手前の低いビルはフェイク。フロントガラスと森山さんの弾痕の位置を直線で結ぶと、手前の低いビルは狙撃ポイントになるが、あの時まだ車は地下駐車場の途中にあった。
「つまり、坂道の角度を加算した入射角が本当の弾道ということになる。そして、該当する高層ビルはただ一つ…」
「あのビルか…っ」
大人二人は蓮の言葉に眉根を寄せた。ここからは少し遠い。今からここを降りて向かったとしても意味はないだろう。一方##NAME1##は冷静で、颯爽と携帯を取り出すと何人かと連絡を取り合っている。
完全な外国語で何をいっているのかは分からないが、真面目な口調から折弾んだ声で何かを言っているのを見ると、どうやらおねだりが成功したかなんかなのだろう。
二人は若干拗ねたように眉根を寄せた。………こんなにも目の前に大人がいるのに目もくれず、「お友達」に助けを求める所が気にくわない。
「とりあえず、今日のところは帰りましょう。捜査状況は今日の未明にも分かるようですし」
「捜査会議を盗聴でもするのか?」
「ふふっまさか。ジェイムズさんが捜査会議の様子を見せてくれるんですよ。僕のパソコンで見ようかと思うんですが、お二人もいらっしゃいますか?」
安室と成実は思わず頬をひきつらせた。FBIすら手玉にとるとは、なんとも末恐ろしい。可愛らしい笑顔で当然のように言っているが、こんなの全くもって例外中の例外だ。
「今日母さんは出張でいないので、大丈夫ですよ?」
「……………蓮くん、何の他意も無いことは分かっているけれど、その誘い方は誤解を生むからやめた方がいい」
「…認めたくないが、そうだな」
「?」
蓮はきょとんとした顔で小首を傾げる。あれは一切分かっていない顔だ。勿論ご一緒するよと言いつつも、どこまでも無防備で純粋な想い人に、二人の青年はため息をついた。
吾妻橋の近くのとある古いアパート。一人の痩せた外国人の男が、日記のようなものに何やら書き付けていた。側には愛する妻と妹の写真。…そう、今巷で連続射殺事件の犯人として追われているハンターという男である。
ハンターはコンコンと部屋をノックする音に、ふと顔をあげた。誰だ。こんな時間に。この場所を訪ねてくる者などそういないというのに。
「誰だ!?」
「久しぶりだな、ハンター」
「お前…次元大介か!」
ハンターはよく知った旧友の顔にホッとしたような色を浮かべた。自分も狙撃の名手だと持て囃されたが、彼には一度たりとも敵わなかった。憧れであり、好敵手であった男。
「よくここが分かったな」
「まぁな、お前にひと言言っときたいと思ってよ」
怪訝そうに片眉を上げるハンターに、次元は手土産の酒瓶を軽く振る。飲むか?とグラス棚を指差せば、すぐに帰るからと瓶だけ押し付けられた。なかなか上物のウォッカだ。
「お前の狙撃した野郎はどうだっていい。そいつの隣に俺の嫁さんがいたようでな。殺すのを止めろなんて野暮なこたぁ言わねぇ。…ただ、あいつにだけは怪我をさせるな」
「嫁?なんだお前、女がいたのか!?」
「まだ17のガキだけどな」
「おまっガキに手ぇ出したのかよ!?…まさか、妃蓮か?」
妃蓮。17歳にして超絶美人で博識多才。裏世界にも繋がりは多く、彼が一声かければ世界中の情報が集うなんて話で有名だ。本当かどうかは知らないが。
普通のガキに、ならともかく、妃蓮にいれあげているならわかる。まだ会ったことはないが、それこそ彼は有名人。それだけの魅力があるんだろう。
「今後、気を付けるさ。――あれにも言っておく」
「あ?」
「次元。…ありがとうよ」
最後にお前と話せて良かった、という言葉をのみこみ、受け取った酒瓶を揺らす。 次元は何かに感づいた様子だが、何も言わずにふっと笑うと、後ろ手に手を振って暗闇の中へと消えていった。
(ハンターの野郎、様子がおかしかったな)
いつぞや死にたいともらしていた苦しみにもがく表情はなく、どこか穏やかな表情だった。それに、先程言っていた「あれ」とは。狙撃したのは彼ではないのか。いや、確かに彼だろう。共犯者がいるのか。
彼が誰を殺そうが、そんなことはどうでもいい。蓮を傷つけなければ、それで。
その時、三発の銃声がアパートの方から聞こえてきた。ハッとしてハンターの部屋へと飛び込むと、脳天を撃ち抜かれて即死しているハンターの遺体が床へ崩れ落ちていた。
「…あばよ、ハンター」
その死に顔は酷く安らかで。旧友の死に帽子を外して暫し黙祷すると、次元は逃げるようにその場を後にした。
現場には、誰が呼んだのか、遠くからパトカーのサイレンが近づいていた。
7/7ページ