異次元の狙撃手(連載中)
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「蓮くん!!!」
焦ったように声をあげ、駆け寄ってくる中性的な面差しの青年。…成る程、こいつか。
「せ、成実さ…っわぷ!?」
蓮は成実に腕を引かれ、彼の胸の中に飛び込んだ。守るように蓮を抱き込み、此方を見据える瞳にあるのは紛れもない敵意。まるで愛し子を守る獣のようだ。…そんな姿を見せないように、蓮の視界を奪っているのか。成る程、面白い。
「ちぇ~っ!折角イイトコだったのに。とっつぁんそーゆーの今KYってーのよ?」
「っるせー!!!民間人の、しかも未成年のいたいけな少年にまで手を出すとは!!!逮捕だー!!!」
バタバタと逃げるルパンと追う一行。ぽけっとその背中を見つめていた蓮は、強く腰を抱かれ顔を上向かされた。ハッと気がつけば真剣な顔をした成実と目が合ってどきりとする。
「何か、申し開きはあるかな」
「……な、ナイデス…」
冷や汗がだらだら流れる。怒っている。明らかに怒っている。成実はじっと蓮を見つめたあと、その細い手をとって歩き始めた。強引に車の助手席に座らせると、無言で車を出す。
(………ち、沈黙が気まずい…っっ)
蓮は俯いたまま、ちらりと上目使いに成実を見やった。此方に視線一つくれず無言で運転している。
「あの、…ごめんなさい…」
「…………」
成実は無言で車を止めた。ふぅ…と深いため息をつくと、徐にシートベルトを外す。
「君は少し無防備が過ぎるな」
「成実さ…っきゃぅ!?」
シートが倒され、そのまま押し倒される。不意に近づいた端正な顔に蓮は目を見開いた。思考がストップしてなにも考えられないが、今がとてもまずい状況なのは確かだ。
「お礼はキス?――それともどこまで許すつもりだったんだ」
「ほ、ほっぺにキスを…でも、ほんとにそれだけで…っ」
「男がそれだけで止まるって本当に思ってる?こら、目をそらすな。――蓮」
いつも優しく微笑んでる人が真顔になると怖い。長い指が耳を擽る。触れる手つきは優しいのに、目は笑っていない。離して欲しくて胸を押せばぎゅう、と強く抱き締められる。やだ、と拒絶すれば、痛いくらい抱き締められ、首筋に顔を埋められる。
「……ごめん、守りきれなくてちょっと気が立ってるみたいだ」
しゅんとした声音に蓮は目を見開いた。そろそろと手を背中にまわすと、ぽんぽんと宥めるように優しく撫でる。
「…心配をかけてすいません」
「頼むから、手の届かないところに行くのはやめてくれ。…いや、君にそれは無理か」
「むぅ…無理って何ですか無理って」
蓮は不満げにぷくっと膨れた。成実は額をコツンと合わせて視線を絡める。その顔は本当に愛しくてたまらないと言わんばかりで。
「自由に生きる君が好きだから、俺が勝手に君を守ることにするよ」
「!……そういうこと恥ずかしげもなく言うんですから…///」
「恥ずかしいことなんて何もないだろう、本心なんだから」
にこっと笑う成実はいつもの成実に戻っていて。額に小さくキスを落とすと、成実は蓮を解放した。
「さて、何処に向かいますか?お姫様」
「…阿笠博士のお宅で子供たちが待っているので、博士の家にお願いします」
座席を戻し、ふいっとそっぽを向く蓮の小さな耳は薄紅色に染まっていて。様々な人に愛されながらも未だこうしたことに不馴れで照れ屋な可愛らしい想い人に、成実はふっと微笑んだ。
「こんにちはー!」
「蓮お兄さんっ」
子供たちは笑顔で蓮に飛び付いた。膝を折ってそれを受け止め、宿題やろっか!と明るく声をかける。成実は面倒見のいい蓮にふっと微笑んだ。
「じゃあまずは机に地図を広げて、製作範囲を決めよっか」
「はーい!」
「成実お兄さんも手伝ってください!」
「!俺もか。はいはい」
はいはい、なんて言っているけれど本人はなかなか楽しそうだ。元々子供が好きなんだろう。
あんまり広すぎてもいけないし、範囲が狭すぎても面白味はない。主要な建物をあげて、それがある程度はいるこの辺りはどうか、なんて子供たちと議論をしていると、阿笠がひょっこりと顔をだした。
「おっ、早速宿題を始めているようじゃな?」
「あったりめーだろ!」
「偉いのぅ!そんな偉い子たちにはご褒美をやらんと」
阿笠の声に子供たちは揃って目を輝かせる。花火ベルトか?と声を弾ませる子供たちに、阿笠が出してきたのは新しくなった探偵バッジだった。
「一部改良して通信感度をよくしておいた!」
「誰かさんにオンボロって言われてすごく気にしてたものね」
なんか前のと変わんないね、と肩を落とす子供たちに、十分すごいと思うよ~?と蓮は苦笑する。それだけではないぞ!と咳払いをした阿笠は探偵バッジを一つ手にとって設定を変えた。
途端に光りだすLEDランプと響き渡る高く細い音。
「前のよりかっけー!」
「でも…なんかこれ、変な音しない?」
「音?なーんも聞こえんが…」
「モスキート音だよ」
高周波の音は、年齢と共に聞こえにくくなるから大人には聞こえないんだ、と蓮は頬笑む。そういえば、成実さんは聞こえたんですか?なんていたずらっ子のように笑って振り返る蓮に、成実は頬をひきつらせた。
「こら、どういう意味かな」
「大人は聞こえなくなることが多いですから、成実さんはどうなのかなって」
先程いじめた意趣がえしか。聞こえなければオジン確定で、聞こえていればまだ子供なんですね、なんて意地悪な言い方をされるだろう聞き方。
(この子は本当に負けず嫌いだな)
そんなところも可愛くて仕方がないのだから、自分も大分溺れているんだけれど。どう反応しようか逡巡する成実をよそに、蓮は着信に気づいて立ち上がった。
「すいません、僕ちょっと席をはずしますね」
ぱたぱたと家の外に出れば、そこにはたった今自分に電話をかけてきた男がいた。……安室透だ。
「透さん、あの、僕に何か…?」
「用事がないと会いに来ちゃダメなのかい?」
安室はそう言って甘く微笑んだ。道端で話し込んでいるのは目立つ。とりあえず庭を歩きながら話そうかと言われ、蓮は渋々了承した。
「忙しい?」
「忙しい、というか…今日は子供たちの宿題をお手伝いする予定だったので。あまり長話はできません」
ごめんなさい…と柳眉を下げる様子もまた可愛らしい。それは残念、と嘯く安室は蓮には見えないように忌々しげに阿笠邸の前に停まる一台の車を睨めつけた。
あれは恐らく彼を溺愛しているかの青年の車。…こうも傍についていられるとどうにも動きにくくて仕方がない。彼を独占したいのはこちらとて同じ。…あぁ、本当に敵がおおい。
「森山仁について、ちょっと掴んだことがあるんだけど…どうする?」
「!教えてくれるんですか?」
目を輝かせる蓮は、全くと言っていいほどこちらを警戒してはいないらしい。これほどまでに無防備なのは、こちらを味方だと捉えて心を許してくれているからだろうか。他の人間とは違う、小さなこんな反応の変化がとても嬉しくて堪らない。
「安原仁、旧姓は森山仁。4年前から個人輸入ビジネスを始めた起業家。婦人はカリスマ料理研究家の安原奈美。墨田区本所に料理教室を構え、行き帰りは夫の安原仁が送迎していたらしい」
「女性婚で名字が変わっていたんですね。道理でなかなか見つからない訳ですね…」
これで森山仁の居所は掴めた。これに関しては、FBIと警察に連絡をして彼の周辺を固めてもらえばいい。恐らくハンターは妹との婚約を破棄し、別な女性と結婚した彼が許せなかったんだろう。十中八九狙いに来るはず。
「実は自宅も突き止めてあるんだけど、よかったらドライブデートしないか?」
「!はい!あ、でも子供たちの終わってからでも良いですか?」
「勿論」
やったぁ、なんて花が咲くような笑みを浮かべる蓮に頬が緩む。と、不意に蓮の携帯に着信があった。電話の相手は…峰不二子。
≪ハァ~イ♡蓮ちゃん♡≫
「不二子さんっ!」
テレビ電話で話す不二子は何処か楽しそうだ。相変わらずきれいな人だな~なんてぼんやり思っていると、不二子は蕩けるような笑顔でこちらを見つめる。
≪はぁぁ♡蓮ちゃん今日も可愛い♡ねぇん♡電話じゃなくて直接会って抱き締めたいわ♡≫
「僕が可愛い…?ふふっんー、僕は不二子さんの方が綺麗で可愛いと思いますよ」
あとかっこいい♡
にっこにこ笑顔で楽しそうに話す蓮に、不二子は鼻の辺りを押さえて仰け反る。天使のようだと常日頃から思っている愛しい少年が天使のようなことを言っている。
お気づきとは思うが、ルパン一味は既に結構壊れてきている。
≪んもぉ~可愛い♡あ、そうそう!蓮ちゃんが欲しがってた森山仁の情報、手に入ったわよ♡≫
「!調べてくださってありがとうございます**」
笑顔で可愛いだのかっこいいだのと手放しで不二子を褒める蓮が面白くない安室は、引ったくるように携帯をとって電話を代わった。
「残念ながら貴女の出番はありませんよ」
≪あら、イイオトコ♡でも勝手に横取りしないでくれる?ボウヤ≫
「いえいえ、お年を召された方にお仕事の負担なんてかけられませんから」
≪あら、言ってくれるじゃない💢≫
目の前でバチバチと繰り広げられる静かな喧嘩に、蓮はきょとんとしながら小首を傾げる。今の一連の流れでどうしてこうなってしまったのか。
安室は容赦なく通話を終える。ポカンとする蓮にあんまりあぁいった人達に頼りすぎるのはよくないと叱る。人がよく見えても、裏社会の人間なんだから。
(んー…それを言ったら透さんも組織に入ってるし…というか、秀一さんとおんなじこと言ってるなぁ…)
実は案外似た者同士なのかもしれないな、と蓮は心のなかで結論付け、へにゃんと笑った。こんな風に守ってくれる人がいるから、自分は安心して動くことができるのだ。
「心配してくださってありがとうございます**」
「っ、またそんな可愛い顔をして…蓮君」
「はい?っひゃ!?」
照れ隠しのようにガシガシと頭をかいた安室は、蓮の腕を引いて抱き寄せると、うなじにチュッと音をたててキスを落とした。白い肌に赤い華がよく映える。
これは、この想い人を狙う者への牽制
「?透さん?」
「終わったら連絡して。すぐ迎えに行くから」
額に軽くキスをすると、ヒラヒラと手を振って行ってしまう。変なの…と腑に落ちない様子で蓮は暫くその場に立っていたが、子供たちのことを思い出して急いで部屋のなかにかけていくのだった。
ちなみに、
(安室透…だったかしら。あんの男、絶対に許さないんだから!)
ぎりっと悔しげに奥歯を噛み締める不二子がいたことは、二人は知るよしもない。