異次元の狙撃手(連載中)
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手当てを終え、礼もそこそこに脱兎のごとく工藤邸を飛び出した蓮を、なにも知らない子供たちは笑顔で迎え入れた。
「蓮お兄さん!!」
「やっと来たのかよ~」
「もう花火終わっちゃいますよ!」
子供たちの声にホッとする。実は追加で買ってきたんだよ~と袋を持ち上げれば、子供たちの顔がぱぁっと明るくなった。それでもいつもの元気がないのは、やはり目の前で人が撃たれたからだろう。
「ねーねー蓮お兄さん、聞いて!せっかくとった写真、取られちゃったんだよ…!」
「デジカメもぜーんぶです!」
「そうだったんだ…でも、預かっただけだよ。きっとすぐに返してくれる。それに、もしかしたら皆が撮った写真の中に、犯人を捕まえられる大事な手がかりがあるかもしれないでしょ?」
ぎゅーっと足に抱きつく子供たちの背中を、ぽんぽんとあやすように叩く。蓮は昔から本当に面倒見がいい。コナンは目線にあわせてきちんと膝を折り、一人一人の頭を撫でて励ましている蓮に目を細めた。
(ったく…かわんねーな、アイツ)
「ちょっと。いつまでもだらしのない顔するのやめてくれる?」
哀の冷たい声に、コナンは弾かれたように振り返った。蓮を想っているのはコナンだけではない。言わずもがな、哀もだ。二人は無言で火花を散らす。実はこの二人、タッグを組むと中々に阿吽の呼吸を見せるのだが、蓮が絡むと途端にこの調子なのである。
だが、バチバチ火花を散らす二人も何のその。
「ふぉっふぉっふぉ!実は気分転換にこんなものを用意しておいたんじゃ!」
博士は自身の腹に巻いたボール射出ベルトを見せた。なんでも、ニューバージョンらしい。なるべく高く蹴るんじゃぞ!と注文をつける博士に、コナンはわかったから早くしろと呆れたように返す。
「よしっ!タイマーをセットしてっと…いくぞ!」
パシュッという音とともに繰り出されたボールを、コナンが思いきり蹴りあげる。ゴォッとすさまじい勢いで周囲の空気を巻き上げて打ち上げられたボールに、子供たちも目を輝かせる。
「うわぁ!高ぁい!」
「よっしゃ!!いいぞ!!!」
ドォン!!!
夜空に大輪の花が咲き誇った。闇夜に美しい光の軌跡が広がる。
「うぉぉぉぉ!!!すげぇぇぇ!!!」
「想定外です!!!」
「名付けて、花火ボールじゃ!」
子供たちの歓声に、博士は得意気にふふんと鼻を鳴らす。一緒になって目を輝かせていた蓮は、ふとあることに気づいてはたと目を瞠った。
(これ、許可もらってるの?)
「でもこれ、近所から苦情来るわよ…」
「うぉっ!それはいかん!!哀くん、どうしよう…」
「はぁ~~~ったく……」
「ふふっ僕もクレーム対応手伝うよ」
蓮はクスクスと小さく笑う。確かに、顔馴染みが多く蓮を可愛がっている人の多いこの住宅街では、彼が「花火をしたくてつい…」なんてしょげて見せれば一発だろう。本人にそんな下心は勿論無いが。
きゃあきゃあ騒ぐ面々に囲まれて、蓮は実に楽しそうに微笑んでいる。そんな姿を、少し離れた工藤邸の窓から、沖矢昴はじっと見つめていた。
米花町にある、小さな小洒落たカフェ。そこのテラス席でアイスコーヒーを飲みながら、蓮はとある人物を待っていた。
程無くして現れた一人の男を見て、パッと表情を明らめる。可憐な唇から溢れ落ちるのは流暢なイタリア語。……一般人には何を話しているのかわかるまい。
<こんにちは、ルパンさん。何かわかったんですか?>
<久しぶりだな~可愛い仔猫ちゃん♡もっちろん、可愛いおねだりには全力で応えなきゃ男が廃るだろ?オジさん頑張っちゃったよ~♡はいこれ、ハンターが連絡をとる可能性が高い人物リスト>
手渡されたのは書類の束。顔写真から経歴、現住所に至るまで事細かく記されている。ざっと目を通した蓮は、目の前で此方を見てデレデレと相好を崩すルパンをまっすぐに見つめた。真剣な表情もまた美しいとルパンは妖しく目を細める。
<出どころは>
<FBI本部。今回はちーっと骨が折れたぜ>
<ふふっどうもありがとうございます**>
蓮はふわりと花が咲くような笑みを浮かべた。FBI本部からか、ならば信用度は高い。
一人目はスコット・グリーン、43歳。元海軍兵曹長で、現在は趣味と実益をかねて町田でバイク店を経営している。SEALS時代、狙撃スクールの教官で、ハンターは彼の教え子だったという。
二人目はケビン吉野、32歳。元海兵隊2等軍曹で、現在は福生でミリタリーショップを経営。独自のルートで米軍の払い下げの品を調達し、販売しているらしい。
三人目はマーク・スペンサー。ハンターとの直接的な関わりはないが、日本在住の米軍兵のよき相談相手となっている元司令官であり、交友関係の狭いハンターが頼ってもおかしくない人物だ。
ライフルやバイクの入手経路を考える限り、この三人の中に協力者がいると見ていいだろう。
<気になるやつはいた?仔猫ちゃん>
<…ん~、今ハンターの過去まで遡って、この事件の前…まぁご家族を亡くされたあとから今までの間、どこで誰と暮らしてたかを調べてもらってるんですけど、もしかしたらこの三人のうち誰かとその期間何か接触があったのかもしれないなぁって>
今回の事件を引き起こすにあたり、もし人を頼りたいならあらかじめ目星をつけて接触をしておかなければうまく事は進まない。あれほどの正確な射撃の腕、緻密な計画をたてられる頭脳がある人間なのだ、それくらい分かりきっていることだろう。
マーク・スペンサーは生真面目で少し難しいところのある人物と聞いている。社会的地位も高く、会うことが叶わない可能性もあるから彼が協力者である可能性は低い。となると、残るはケビン吉野とスコット・グリーンの二人。
<な~るほど。さぁっすが情報戦のwinner。てゆーか、俺以外にも頼ってたの…>
<ふふっ多ければ多い方がいいんですよ、情報と人手は。でも、一番信頼して、会えるのを楽しみにしていたのは貴方だけですよ、ルパンさん**>
<れ、蓮ちゅわ~ん♡♡>
んじゃ、お約束のちゅー♡なんて言いながら顔を寄せるルパンに、恥じらうように頬を染めてその顔に手を添える。と、その時。
ヒュッッ
二人の間を一本のペンが飛んできた。ペンはそのまま物凄い勢いで二人の席のパラソルの柄に突き刺さる。え、と呆気に取られたのも束の間。
「ルパーン!!!逮捕だー!!!」
「げっ!!!とっつぁん!?」
何でここに!?と思わず目を剥く。まさか目の前の彼が、なんて考えてみるが、目をぱちくりさせて固まっているところを見ると彼ではなかったらしい。いや、そもそも不二子なら兎も角、優しくて純朴なこの少年がそんなことをするはずがない。
となると、一体誰が――――?