異次元の狙撃手(連載中)
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その夜、蓮は一人夜道を歩いていた。阿笠邸で子供たちが花火をやるというので、一緒にどうかと誘われたのだ。折角ならと追加の花火を見繕い、夜道を急ぐ。
暗い道で一人というのは、流石の武道の達人と言えど怖いものは怖い。その上蓮は怪談系の話が苦手なのでなおのこと。
(なんか、尾行けられてる…?)
人の気配を感じて、立ち止まってキョロキョロとあたりを見回すも、暗く静かな住宅街を歩く人影はどこにも見つからない。薄気味悪さを感じて小走りで駆け出すと、不意に何者かに腕を捕まれた。
「っひ!?」
「お、っと。そう警戒しなくても俺は幽霊でも暴漢でもねぇ」
咄嗟に放った回蹴りを軽々と避け、久しぶりだな、と帽子のつばを少しあげて笑うのは、自分のことを嫁だと豪語する大泥棒の片腕。次元さん…とホッとしたように肩の力を抜く蓮に、次元はわしわしと髪を撫でた。
「迎えに来たぜ」
「?迎えに…?」
「電話で言ったろ。迎えに行くって」
ベルツリータワーでしていた会話を思いだし、蓮はぎょっとした。え、どこから来たのこの人。日本にいるなんて話聞いてないし、十中八九海外にいたんだろうけど、え、来た?わざわざ?
「えっと…でも僕これから子供たちと花火の約束してるんです。お迎え嬉しいですけど、今はちょっと…すいません、次元さん」
「花火ねぇ…目の前で人がおっ死んでるってのに、随分と呑気なもんだな」
「人が亡くなって落ち込んでるからこそ、花火で元気付けようって博士が一生懸命考えたんです。いくら次元さんでも、あんまりそういった言い方は…」
鼻で笑うような言い方にムッとして、控えてくれと言おうとしたところで、次元はおもむろに蓮の唇に指を押し当てた。黙れ、の意か。大人しく口をつぐむと、次元はそうじゃねぇよと帽子をかぶり直した。
「お前は良くも悪くも人を惹き付けすぎる。こんな夜の人目の無い住宅街を一人で無防備に歩ってるなんざ、襲ってくださいって言ってるようなもんだ。」
ましてや、射殺事件が起きた直後で、その犯人が捕まっていない今、一人でふらふらしているのは危険すぎる。蓮が強いのは重々承知だが、それでも不測の事態に100%対応できると保証されているわけではないのだから。
「……はい、すいません…」
「分かりゃぁいい。それと、俺の名前は次元じゃねぇ」
「え?」
次元大介さんですよね?と小首を傾げた蓮に、俺だけ名前呼びじゃねぇのは何故だと面白くなさそうに唇を歪める。すねた子供のような言い草に、蓮ははたっと目を瞠った。
「……大介さん?」
「合格だ」
満足げに笑って蓮の後頭部を引き寄せて額にキスを落とす。気恥ずかしくなって、蓮ははにかんだように笑う。帽子からちらりと見えた静かな瞳が愛しいものを見るような甘く優しい光を湛えていて、ドキッとする。
と、その時。不意に後ろから伸びてきた腕が、蓮の体を庇うように抱き締める。
「蓮君は私がお預かりします」
「す、昴さん!?っひゃぁ!?」
何故ここに、と聞く間もなく片腕にのせられるような形で抱き上げられる。夜道は危険ですよ、なんて目の前の次元をまるで居ないもののように蓮ににこりと微笑む。
「FBI、か」
昴は次元の言葉についと目を細めた。この男、何故こちらの正体を知っている?いや、天下の大泥棒ルパン三世の右腕に、そのような質問は野暮と言うものか。むしろ、知られているならば隠さなくてすむ。
「今ここでやりあう気はない。―――失せろ」
「え、あの、昴さん…っ」
じたばたと抵抗する蓮は、流石に落とされるのは怖いのか力が入っていない。遠慮なく連れていかれる蓮を見送りながら、次元は煙草の火を踏み消した。
「猟犬か…また面倒なのに好かれやがって」
俺は敵が多い方が余計に燃える質だから関係ねぇが
ニヒルに笑う次元の瞳は、獲物を狙う狼のような危険な光を宿していた。
「あ、あの…昴さん…」
「………………」
「しゅ、いちさ…」
「なんだ」
蓮は恐る恐る昴の顔を覗きこんだ。抱き上げられたままの体は不安定で心許ない。ぴりぴりと肌で感じる怒りの空気に、##NAME1##は不安げに瞳を揺らした。
「ごめんなさい…」
「それは何に関してだ?」
まっすぐに見つめられ、蓮はびくりと肩を揺らした。全てを見透かすような視線が怖い。声が喉の奥に引っ込んで出てこない。しゅんと肩を落とす蓮に、赤井はふっと目元を和らげた。
「君はつるむなと言ってもまたあの男と連絡をとるのを止めないんだろうな」
「っ……そ、れは」
「非合法なのもいいが、たまには警察関係者(こちらがわ)を利用してくれないか?」
君に利用されるなら本望だ
まるでお伽の話の王子のように、ついと手をとるとその指にキスを落とす。願わくば、彼が闇の世界へと引きずり込まれないように。先の拳銃使いやら怪盗やらには絶対に渡さない。
「…表の大人の人はズルい」
「だが、裏の大人をなめてかかると痛い目を見るぞ」
例え“お友達”だとしても。そう呟くと昴は蓮の後頭部に手を当てて引き寄せ、首筋に噛みついた。がり、と鋭い痛みに肩を揺らせば、労るように傷口に舌を這わせられる。
「ぃ…っ!?なにするんですか!」
薄闇に見える彼は血を拭うがごとく舌舐りをしていて。王子なんてとんでもない。まるで吸血鬼のようだ。
「虫除け、とでも言おうか。こうでもしないと君は悪い虫に狙われやすい」
虫除け、の意味を察してかぁっと赤くなる。ついでぺしぺしと昴の肩口を叩いて抗議した。もっとも、子猫がじゃれているようなそんな力では可愛いだけなのだが。
「こ、こんなところに痕つけて…っどうやって隠すんですか!///」
「隠さなくて良いだろう。虫除けなんだから」
「だめですっ!絆創膏とか責任もって貼ってくださいっ」
まぁ噛み痕は多少血が出てしまっていたし、絆創膏を貼るのは構わないんだが、なんとも詰めが甘い。むしろその絆創膏でここに痕をつけられましたと言っているようなものなのだが。しっかりしているようで、こうした色事に慣れていないのが可愛らしい。
「では、我が家に絆創膏がありますから手当てをしましょうか」
沖矢スマイルを顔に張り付ければ、そこで話はおしまいだという意味を察したのか蓮は大人しくなる。痛かったんですからね、と小さくむくれて顔を隠してしまった彼の機嫌をとらなくては。
腕に抱いた愛しくてたまらない少年の温もりに、昴はフッと笑みを浮かべた。