瞳の中の暗殺者
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翌朝、いってきまーすと元気よく飛び出していったコナンを見送った蓮は、ホッとしたように息をついた。あの子は敏いから、嘘をついてもすぐに見抜かれてしまう気がして気が抜けない。園子はよっしゃ、とガッツポーズをきめた。
「行った行った!!何も知らないで…」
「さぁ、俺たちも出掛けるか!」
高木刑事の運転する車に乗り込む。蓮は小さく「すいません、よろしくお願いいたします」と高木に囁くと、高木は暫し瞠目したあと、にこっと人好きのする笑みを浮かべた。
「大丈夫だよ。君はそんなこと気にしなくていいんだ」
わしゃわしゃと髪を撫でられる。小五郎がなにしてんだと突っ込み、蘭と園子がずるい!私もと蓮の髪を撫でる。一気に騒がしくなった車内で、蓮は楽しそうにくすくすと小さく笑った。
トロピカルランドへ到着し、ランドのシンボル的なお城の前で、蓮はぱたりと静かに瞬いた。
「僕、ここ覚えてる…」
「確か新一のヤツ、お前と来たとき、ジェットコースター殺人事件を解決したんだったな…」
まただ、新一君。みんなの口からよく出てくる、彼の名前。ここでは、彼が僕にとって大きな鍵になるんだろうか…
「じゃあ私たちも乗ってみようよ!!もっと何か思い出すかもしれない!!」
「そうね!行きましょっ蓮!」
園子に肩を抱かれ、蘭に手を引かれる。そのパワフルさにたじたじになりながらも、蓮ははい、と声を弾ませた。
「えーと…ミステリーコースターは…隣の「怪奇と幻想の島」ですね!」
高木刑事の案内で、ミステリーコースターへと向かう。
「蓮たちは前だ!」
小五郎に言われるがままに、蓮は一番前の席に座った。隣には蘭が乗り込む。がちゃんっとバーを下ろしたとき、不思議な青年の声がした。
『わかるか…?』
「え?」
『コナン・ドイルはきっと、こう言いたかったんだ!』
「!」
写真で見たあの青年がこちらを見てにこりと微笑んだ。はっと息を飲む蓮に、隣に乗り込んだ蘭はきょとんとする。
「ん?」
「っぁ、!?ううん。何でもないよ」
今のは、何だったんだろう。過去の記憶…?
(気にしないことにしよう)
がちゃがちゃと音をたててジェットコースターが動き出す。風をきって進むコースター。後ろから小五郎の悲鳴が聞こえてくる。タンマー!!!!なんて言っている声に、端から見ていた阿笠ははて…と小首を傾げた。
「毛利くんは高いところが苦手じゃなかったかの」
ジェットコースターを降りた一行は、ベンチに座り休憩していた。
「ハァハァハァ…」
「あの、大丈夫ですか…?」
青い顔で肩で息をする小五郎に、蓮は心配そうに背中をさする。蘭と園子は気にした風もなく、蓮の顔をのぞきこんだ。
「蓮、喉乾いてない?」
「コーラ飲もうよ!」
「はい。あ、あの、よければお水も一本買ってもらえませんか?」
はーい!と返事をしてたたた…と自販機に向かって走っていく二人。それを見送り、蓮はふと辺りを見渡した。あまり、見覚えはない。でも、何となくここに来たことがあるような気がする。なんだろう…もどかしい。
考え込む蓮の頬に、冷たいコーラの缶が押し当てられた。
「ひゃ!?」
『ほら、喉乾いたろ?』
「っ!?」
また、あの青年。澄んだ宝石のような空色の瞳が、溢れんばかりに瞠られる。でも、それも一瞬。
「はいよ!コーラ!」
「あ、ありがとう」
笑顔でコーラを手渡す園子に、ぎこちなく笑って礼を言う。彼が、工藤新一?でも、まだ思い出せない…
「蓮、はい!お水も買ってきたよ!」
「ありがとう、蘭」
蓮は蘭から水を受けとると、未だに青い顔で憔悴しきった様子の小五郎に向き直った。
「あの、お水飲めますか?少しでも水分をとって、気分落ち着かせてください」
「あぁ…サンキュ」
ガシガシと大きな手が蓮の頭を無造作に撫でた。撫でられた方の蓮は驚いたようにきょとんとしながら固まる。…びっくりした。まさか撫でてもらえるとは思わなかった。
高木はソワソワと小五郎に声をかけた。
「あの、毛利さん…ちょっとトイレへ行ってきます…」
トイレへと小走りで向かう高木を見送り、蓮は子供たちに風船を配るリスを何気なく見つめた。風船をもらった子供たちは皆嬉しそうにきゃっきゃと笑っている。…と、突然リスは風船を手放し、のそのそとこちらへと歩き始めた。
「あっ!風船飛んでっちゃったよ!」
子供たちの声が聞こえる。近づいてくる巨大なリスの着ぐるみ。…どうしたんだろう?蓮は不思議そうにそのリスを見つめた。
その時、緊迫した子供たちの声が響いた。
「蓮さん!!危ない!!」
「!?」
「こ、こら!君たち、よさんか!」
驚いたリスは動きにくそうなその体でのっそのっそと走っていく。
「逃がしません!!…ありゃ?」
光彦が投げたブーメランはリスを通り越し、前方にいた男性のボストンバッグを弾きおとした。落としたバッグに躓き、派手に転ぶリス。その口に、元太は容赦なく唐辛子水をぶちこんだ。
「唐辛子入り水鉄砲!!くらえー!」
「うげぇーー!!!!ゴホゴホッ!!!!」
のたうち回って咳き込むリス。その隙に歩美が近寄り、がちゃりと足に手錠をかける。
小五郎はゲホゲホと咳き込むリスの被り物を取った。中にいたのは、指名手配されていた友成真。しかもリスのポケットからはサバイバルナイフが出てきて、皆の顔色がさっと変わった。
「友成真!!殺人未遂の現行犯で逮捕する!!」
ガチャッと手錠がかけられる。蓮は少し離れたところから、一連の流れを心配そうに見つめていた。危ないことはやめなさいと止めようとしたのだが、展開が早くて追い付かなかったのである。
そんな蓮の気持ちを知ってか知らずか、子供たちは無邪気に声をあげた。
「やったぁ!」
「「「『蓮兄ちゃんを守り隊』の大勝利~~~~っ!!!!」」」
高木は友成を引き起こした。未だに唐辛子水で苦しめられている友成は、何か言いたげにあうあうと口を開いたが必要ないと判断されたのか、高木と小五郎はそれを無視した。
「毛利さん、このまま本庁へ連行します!」
「待て!俺も行く!」
小五郎は蓮の前で立ち止まった。
「もう狙われる心配はないし、俺がいねぇ方が新一のことを思い出しやすいだろ?」
「…お、おとう…さ…」
ぎこちなく呼びかけて、口をつぐむ。そんな蓮に、小五郎は軽く頭を撫でるとふっと優しく微笑んだ。
「いいんだ…すべて思い出したときに、そう呼んでくれ」
去り際に、探偵団に軽く手をあげ、声をかける。
「探偵団のお陰で助かった!!今回は大手柄だったな!!」
誉められた子供たちはきゃっきゃとはしゃぎ回る。夜までいていいかという子供たちに、博士は新一と蓮くんも夜までいたんだからいいだろうと答えた。一人、哀は妙な胸騒ぎを覚えていたけれど。