掬い上げられた出会い
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コナンは爆発3秒前にでるというヒントを待つ決断を下し、高木と共にエレベーターでその時を待っていた。
暗号にあったメジャーリーガーとは、英語で考えろという犯人からのメッセージ。それをもとに考えていくと、延長戦とはextra inning game。できのいいストッパーとは、防御率が高い投手のことで、防御率は略してERA。EXTRAからERAをのぞくと、残りはXT。
XTを縦に書き、逆転させると「文」という文字になる。学校を示す地図記号だ。
「でも、そこに該当する場所は、東京には400以上あるんじゃ…」
「うん。今から爆弾犯にバレないように探し回ったとしてもまず無理だし、その400以上ある場所にいる人たちを、一斉に避難させようとしたら、犯人の性格からして爆弾のスイッチを押しかねない」
つまり、全員を確実に助けるには、ヒントを見て、ピンポイントでその場所を調べ、爆弾を解除するしかない。…松田刑事と蓮がやったように。
「いるかもしれないんだ、その場所に。この世で一番死なせたくない、大切な奴が」
コナンはふっと遠くを見つめた。脳裏に浮かぶのは、誰よりも優しくて強い、大切な大切な幼馴染。
『お願いだから、僕の前から居なくならないで…っ』
もう、アイツに悲しい顔はさせたくないから。
「ごめんね、高木刑事」
「あ、いや…」
高木はばつが悪そうな顔で目を逸らした。今のコナンは、すべてを見透かしているような、そんな瞳で。……到底、小学1年生のものとは思えない。
「なぁ、コナンくん。ついでだから、もうひとつ教えてくれよ。き、君は一体…何者なんだい?」
静かにこちらを見下ろす瞳。妙な緊張に苛まれる。聞いてしまっては、何か良くないことが起きるような、妙な胸騒ぎ。まるでパンドラの箱を開けてしまうような…
「あぁ、知りたいのなら教えてあげるよ」
――あの世でね
歌うように告げたコナンは、どこか大人びていて。それはかの高校生探偵を連想させるような、そんな表情。高木は思わず息を飲んだ。
「爆発まであと15秒。高木刑事、用意できた?」
「…あぁ、君の推理はすべてメールに打ち込んだよ。…あとは君が読み上げるヒントを打ち込んで、送信するだけだ」
刻一刻と時間は迫っていく。妙な不安と焦燥、そして逆境に高揚する気持ちが大きくなっていく。そろそろヒントが表示される。
最初の文字は、アルファベットのE
V、I、T…
(逃げろ。逃げろ…!逃げてくれ、蓮…!!)
「蓮…っ」
小さく呟かれたその名前は、誰に聞かれることもなく、暗闇のなかに溶けていった。
東都タワーの中継。予定時刻を過ぎているが、爆弾が爆発する気配はない。
「爆発…してない…?」
爆弾の解除に成功したのか…
蓮はその場にぺたんと座り込んだ。良かった。…良かった。放心状態の蓮をそっと抱き上げて椅子に座らせると、萩原は優しくその目元を拭って抱き締めた。
「今、松田がもうひとつの爆弾を解除してる。もう少しで、すべてが終わるんだ。もう蓮くんが苦しむ必要なんてないよ」
幼子をあやすように、額を合わせて優しく頭をなで、涙の後を辿るようにキスを落とす。この涙が、事件解決に自身が解放されたと喜ぶ涙なのか、無事にコナンと高木が帰ってきたことに対する安堵の涙なのかは、蓮自身にもわからなかった。
「迎えに、行かせてください…っ」
「…わかった」
萩原は松田に連絡を取った。爆弾解体中だったからか、苛立った様子の松田は、萩原に蓮の様子と少年を迎えに行く旨を伝えられると、急に静かになった。
《お前は警部たちと合流か?》
「んー、まぁそうだな。さっさと終わらせてお前も来いよ」
《…殺すんじゃねーぞ》
「は…っま、善処はしますよ、オニーサンはまだ蓮くんの側に居たいしな」
萩原は蓮を裏門からこっそりと脱出させる。蓮は高木と佐藤に保護されていたコナンに駆け寄った。
「コナンくん…っ」
蓮は小さな体をかき抱いた。本当に、消えてしまうかと思った。ずっと、巻き込んでしまったと後悔していた。信じていたと同時に、最悪の想像が脳裏に浮かんで消えることはなかった。
「…言ったろ、オメーのことを一人にはしねーって」
「ん…っ。本当に良かった…っ」
小声でそう言って頬を撫でるコナンに、蓮は心底安心したようにふわりと笑った。ぽろぽろと零れ落ちる涙に、思わず見惚れる。
「――今日の蓮兄ちゃん、泣き虫だね」
「っ、ふふ、ぅん…。止まんなくなっちゃった…高木刑事、佐藤刑事。子供たちをありがとうございます…っ」
泣き笑いを浮かべる蓮は、本当に美しくて。他人を思う涙が、本当に可憐で清らかで、胸にあたたかいものが広がっていく。人を癒す才能がこの子にはあるのかもしれない。
「佐藤、高木。あと蓮くんたち頼むな」
「えっ!?わ、わかりました!」
「ん~、じゃ、蓮くん。またな」
「はい…っありがとうございました!」
うん。やっぱりこの子は笑顔が似合う。…大丈夫。冷静になれた。これなら捜査に加わっても冷静に対処できるだろう。
(―――って、思ってたんだけどな~)
目の前で、完全に怯えきった表情で壁を背に張り付く爆弾犯に、萩原は心の中で嘆息した。
「ま、待て!お、俺じゃ、ないんだ…!ほ、ほら、よくあるだろ…?頭のなかで、子供の声がしたんだよ。け、警察を殺せって!や、誰でもいいから殺せって…な、だから、俺のせいじゃ…っ」
どこかで何かが切れる音がした。目の前の男に対する憎しみが溢れる。
『僕が…いるから…?』
嗚呼、殺してやりたい。あの子を散々苦しめておいてこの態度か。癒えない心の傷を負わせておいて、何年も何年もつけ回して、挙げ句の果てに俺じゃないとは。
地獄を見せて嬲り殺しにしてやらないと
「っっ――――…!!!!」
「萩原!」
振り上げた拳は、男の横にめり込んだ。パラパラとコンクリートが剥がれて落ちてくる。松田は此方に駆け寄ってくると、そっと俺の腕を引き剥がした。ぬるりとする感触。しまった、血が出てる。
「落ち着け。…お前が手を汚す程の事もねぇ」
「……チッ」
まさか松田に取りなされるとは思わなかった。まぁ、松田も犯人の股間すれすれに蹴りをきめて、コンクリートにヒビいれてるんだが。
「大丈夫か!?萩原くん!松田くん!」
「あー、大丈夫っすよ、警部さん。ちっと脅しで壁ぶん殴っただけです」
犯人は目を見開いたまま気絶していた。あっけない幕切れ。連行される男を呆然と見送っていたら、後ろから誰かに抱きつかれた。腹にまわされているのは、ピンクのカーディガンに包まれた細くて白い美しい手。
「お疲れ様でしたっ」
「……え?蓮くん?なんで???」
ぎゅぅっと抱き着いた蓮くんは、いっこうに俺の背中から動こうとしない。ぐりぐりと背中に顔を埋めるしぐさをするのが可愛らしい。
「…ちゃんと、お礼言ってませんでしたから」
血だらけじゃない方の手で指を絡めて手を握る。するりと腕のなかに滑り込んできた蓮くんは、はにかんだ様子で可愛らしい笑みを浮かべた。
「研二さんがいてくれて良かったです。本当にありがとうございました**」
「――――っっ////」
あーあーもう、何度この子は俺を恋に落としたら気がすむんだろう。松田は不満げにぶーたれている。ふん、良いだろう。見ろ、この可愛い蓮くんを!デレ100%だぞ。
「おい、俺にはねぇのかよ」
「陣平さんもありがとうございましたー」
「お前…」
可愛くねぇな!と吠える松田に、俺の背中にさっと隠れた蓮くんは、ひょこっと顔を出しべーと舌を出して見せた。うん、可愛い。
「陣平さんって、意外と可愛いもの好きです?」
「お、前…それは自覚があって言ってんのか」
「?」
不思議そうな顔で小首を傾げた蓮くんに、松田はひくりと頬をひきつらせた。可愛いのが好きっつーか蓮くんが好きなんだけどな?この天然っ子は。
「蓮くん、松田にはなんか素直じゃないよな?」
「…だって、なんか改めて陣平さんに言うの、恥ずかしいから…」
そろそろと俺のそばから離れて、松田の前に立った蓮くんは、耳までピンクに染めて視線を彷徨わせた。
「その、本当にありがとうございました…っ///」
えへへと笑いながらも、ぴゃっと袖で顔を隠してしまう。そのまま警部たちの方へと駆けていってしまう背中を見送る。どうしてあぁも可愛いんだろうか。
「…………」
「……わー、お前顔真っ赤」
素直じゃ無いのはお互い様じゃねーか
だが、親友と言えど、彼だけは譲れない。今、蓮くんは自分にいつだってデレ100%で来てくれる。…油断はできないが、まだ俺の方が一歩リードしていると見てもいいかもしれない。
(俺は、守らせてくれとは言わない。…ただ、絶対に蓮くんのそばから黙っていなくなったりはしない)
『お願いだから、僕の前からいなくならないで…っ』
二度と、あんな悲しげな顔はさせない。
静かな決意を秘め、萩原はかの魅力的な想い人を追いかけた。
【現代編 完】