掬い上げられた出会い
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明け方のファミレス。少年探偵団は飲み物を飲みながら、ぐったりとテーブルに伏していた。蓮はそんな子供たちの頭を撫で、ふわりと頬笑む。
「ふぁぁ…」
「ふふっ皆夜通し頑張ったからねぇ…歩美ちゃん、ちょっとお休みしたら?」
「うん…」
蓮はぽんぽんと自分の膝を叩く。素直に横になる歩美に膝枕をして、体に自分のカーディガンをかけてやる。あら、吉田さんには優しいのね?と目を細める哀に、一番辛そうだったから…順番ね、と髪を撫でる。
実に聖母のような、微笑ましくて慈愛に満ちた空間。
……ちなみに、これ
「っ俺も子供になれば…!!」
「…………………」
「変ね…この予告状だと野球場にも探しに来るのは分かるのに、何もないなんて…ってあんたたち聞いてるの!?」
外で改めて操作状況を確認していた刑事組のうち、萩原と松田がべったり窓ガラスに張り付いて、ギリィッと奥歯を噛み締めていたりするのだが、そんなこと蓮たちは知るよしもない。
「ま、まぁまぁ佐藤さん…(にしても本当に、蓮くんが絡むとポンコツになるんだな…この二人)ふぁぁ…きっと来ないと思ったんですよ。シーズンオフで人も来ませんし…」
「そうかしら…警察をおちょくるためなら、偽物を置くくらいのことはしてもおかしくないのに…」
「置く必要ねーだろ、これは暗号文だ。そのまま読むわけがない」
「そーそー。っつーか、それよりもあの子達何とかしてやんないとヤバくない?蓮くんは今日全国模試なんだろ?このまま俺達が護衛につくとして、子供たちは返してやらないと」
萩原の言葉に、そうなのよ…と佐藤は息をつく。白鳥は手術が成功し、今は意識が戻るのを待っている状態だ。
「俺が車まわす。高木はとりあえずガキ共連れて送ってこい」
「んじゃ、俺は蓮くんとこに行くわ。高木もあんたも、一旦警視庁に戻って報告するなり仮眠とるなりしてきたらいいんじゃね?」
寝不足でふらついてる刑事なんて捜査の邪魔だぜ?とウィンクする萩原は、軽い口調だが目は真剣だ。一人で捜査してる訳じゃない。優秀な刑事は他にもたくさんいる。何も必ず佐藤や高木が犯人をあげないと死ぬ訳じゃないんだから。
「いや、私も捜査を…」
「そう?ま、どっちでもいいけど」
意外とあっさりひいた萩原に、困惑したように佐藤は首をかしげる。眠いからってパフォーマンス落とすなよ?とひらひら手を振ると、萩原は店のなかに消えていく。
(俺は蓮くんを守れればそれでいいから。捜査の方はあんたらに任せたぜ、お二人さん)
蓮くんは、起こしてあげるから、少し休みなさいと子供たちを休ませていた。蓮くん、と声をかけると変わらず可愛らしい笑顔で迎えてくれる。自分もだいぶ疲れているだろうに。
「蓮くん、一度警視庁の寮のシャワールームでシャワー浴びて、それから高校でいいか?」
「はい。あの、高校には…」
「今日は保健室受験って連絡いれてある。私服登校になる旨も伝えてあるよ。…はい、これ着替えな」
中身は下着と、足のラインのでるパンツ、クリーム色のシャツと、桜色の大きめのカーディガン。いや、完全に蓮くんが着たら可愛いだろうなぁってコーデだ。
「あ、ありがとうございますっ」
可愛らしくはにかんだ笑顔をみせる蓮くん。そろそろ起きようか、と子供たちを優しく起こしている姿に庇護欲がかきたてられる。
(ここまで人に守りたいと思わせるのは、もはや才能だよな)
萩原はふっと頬を緩めた。
所変わって、帝丹高校。
「あーぁ、お正月明けにテストなんて、灰色の受験生って感じよね~」
「だよね…」
終了した模試の問題を睨み付けながら吐き捨てる園子に、蘭は小さく息をつきながら返事をする。大体、お正月は楽しむものよ!と拳を握る園子に、で、楽しんだわけね?と視線を向ける。
「だって後悔したくないもーん」
「あはははは!」
楽しく談笑していると、教室に生徒が雪崩れ込んでくる。
「会長がいない!!!!」
「毛利!今日会長は!?」
「え?さ、さぁ…なんか色々あって別室で試験受けるって言ってたけど…」
「保健室受験ってことか!?」
「保健室だな!?」
会長に会えないとこんな模試なんか頑張れねぇ!!!!と大騒ぎする生徒たちに、蘭と園子は目が点になる。常日頃から実は影で隠し撮りされた蓮の写真がブロマイドとして取り引きされてたり、姿を拝みたいと教室に人が殺到したりはしていたが、まさかここまでの騒ぎになるとは。
確かに、皆大嫌いな模試を切り抜けるのに、癒しがほしいのだろう。ばたばた戻ってきた生徒たち曰く、今日の蓮は私服登校だったらしい。
「私服姿も可愛いよなぁ!」
「あのカーディガン萌え袖だぜ!?恥ずかしそうに笑って手ぇ振ってくれた時のあのちまっと出てる指がまた…」
いやあのシャツから見える鎖骨がとか、ぴったりしたパンツでわかるすらりとした足のラインがとか、この学校には変態しかいないのかと辟易させられる。
ちなみに、戻ってきた生徒たちは皆口を揃えて「一緒にいた謎の男二人が滅茶苦茶怖かった」と言っていたらしいが。
「すごい騒ぎだな」
「あ、はは…すいません…///」
蓮は恥ずかしそうに袖口で顔を隠した。松田は校内に危険物がないか確認しに行っているのだが、こうも騒がしいと仕事にならないだろう。苛つきながら邪魔だ!!!!と壁を蹴りつけていた姿を思い出し、萩原は頭をかいた。
蓮が全国模試でこの学校に来ることは、わかりきっていること。ということは、十中八九この学校の何処かに爆弾が仕掛けられている可能性は大いにある。蓮曰く、最近卓球の大会のために、大きな荷物を大量に運び込んだらしい。
(見覚えのないドラム缶が置いてあるって、さっき確認したときに言っていたから、十中八九あれだろうが)
「っぁ、非通知着信が…」
蓮の声に萩原は我にかえる。蓮は小さく深呼吸をすると、携帯を手に取った。スピーカーモードにして通話に応じる。
「もしもし…」
《気分はどうだ、憐れみの天使》
「……何のようです」
氷のような冷たい声。電話の向こうで機械を通したような音声は、そんな蓮の態度を気にすることなく、低く笑った。
《お前のお友達な刑事とガキが、マウンドに登ってきた》
「―――――っっ!!!!」
ぎり、と繊手が握りしめられた。お友達の刑事とガキ…恐らく子供たちと一緒にいたであろう高木刑事と子供たちの誰か…新一の可能性が高いか。
《おや、可愛い悲鳴のひとつでもあげてくれるかと思ったが》
「…貴方ごときにそんな声聞かせるほど、僕は安くない」
《ほぅ…気高さは一級品か》
あくまで毅然とした態度。不安を欠片も見せようとはしない強さに、萩原は舌を巻いた。とんだ役者だ。握りしめられた白い手に、決意が秘められている。
《その綺麗な顔が歪むまで、あと少しだろう》
「…………………」
《マウンドへ登った勇気を称して、二つ目の爆弾の在りかのヒントを伝えることにした》
ピクリと蓮の指が動いた。ヒントをだす時間は爆発3秒前。前は途中でコードを切って爆弾を止めた。だが、今回もそれが上手く行くとは限らない。一歩でも間違えばドカンだ。
《お前はヒントの途中で爆弾を止め、それでもヒントを読み解くことができた。だが、今回は無能な警官とガキ一人だ。…お前の美しい顔が絶望に歪むのが楽しみだ》
通話が切れる。蓮は辺りを見回し、保健室に備え付けられていたTVの電源をつける。パッと写し出された画面は、東都タワーに設置された爆弾を、エレベーターに閉じ込められた少年と警察官が解除している、というニュースの中継。
(大丈夫。きっと新一だから。…絶対に大丈夫)
萩原はそっとその細い肩を抱いた。連続爆弾犯に狙われ、周囲から多大な期待を押し付けられる天才の双肩は、まるで折れそうな程に、ずっとずっと細くて華奢だった。