掬い上げられた出会い
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「それより、この刑事さんが乗ってきてそれを確認して爆弾を止めたということは、犯人はまだこの近くにいる筈ですよ。…この人混みでは、ハッキリとこの人と確定することは、難しいかもしれませんが」
「そんなことより、今はもう一つの爆弾だ」
もう一つの爆弾の在処は、見当がついている。ファックスにかいてあった、「戦友の首」。円卓の騎士は中世ヨーロッパ。あの頃の騎士は大抵十字がデザインされた面を被っている。つまり…
《病院の地図記号…!》
「そうだ。それがどこの病院かは、ヒントを見たら連絡する」
《あ、ちょっ…》
顔をあげると、面白くなさそうに頬を膨らませた蓮がこちらを見ていた。
「ヒント、最後まで見るつもりですか」
「なんだ、死ぬ覚悟があってここにいるんじゃねーのかよ」
「そんな覚悟、もし貰ったとしても溝に捨てます。…僕は、絶対に生きるって覚悟で今ここにいるんです」
蓮の目は真剣だった。その言葉が冗談なんかではないことは明白で。
「…僕は、四年前の爆弾事件で、今回と同じく人質になりました」
「っお前、あのときのガキか!」
会ったことはないが、話には聞いていた。何でもたまたまその場に居合わせ、犯人の顔を見てしまったがために人質にされたのだと。世の中にはとんだ不幸者もいるもんだと思ったが、そうか、コイツだったのか。
「きっと、今回も僕を選んだのは一度犯人の顔を見ているから。消し飛んだら万万歳だと思ってるでしょう。もし、爆発する前に爆弾を解除すれば二つ目のものが分からず、怖じ気づいた警察の醜態を晒す。爆発すれば、人質も助けられなかった無能な警察のラベルを貼られる」
どっちにしろ、警察を吊し上げられればいい、なんてはた迷惑な犯人に、何で命まで差し出さなくちゃいけないんですか。
毅然とした態度。可愛らしさの多く残る美しい面差しは、強い意思を示す気迫に満ちている。…っとに、可愛いのは顔だけで中身は中々に負けず嫌いな坊っちゃんか。
「策はあんのか?」
「一秒でいいんでヒントを見せてください。残り2秒あれば残りのコード、切れますか?」
「…ま、いけるな」
ヒントの欠片だけで見つけられんのか?と言うと、蓮は自信を滲ませて笑った。推理するのはお手のものですよ、と茶目っ気たっぷりに片目を閉じる。まったく、これから爆発に巻き込まれるかもしれない少年とは思えないくらい緊張感がない。
「あ、もう…禁煙って書いてありますよ。No smoking」
「こんなときくらい、大目に見てくれよ」
流暢な英語の発音に一瞬あっけにとられるが、肩をすくめて煙草を燻らせる。蓮もそれ以上はなにも言わず、ディスプレイが見えるように、ゆっくりと体勢を変えた。
残り時間はあと1分。ヒントが出される3秒前まであと57秒。約50秒後には生きるか死ぬかの明暗が別れている訳だ。大丈夫。出来る。目の前のガキが腹くくってんのに大人がいつまでもウジウジしてる訳にはいかねーよな。
あと20秒。蓮は静かにパネルを見つめている。俺も煙草を咥えたまま、コードを手に取った。切らなくてはいけないコードは残り2本。
爆発まであと5秒、4秒、3…
「―――切って!!」
「っ…」
言われるがままに2本のコードを切る。液晶画面の電源が落ち、ヒントもタイマーも見えなくなる。………止まった。
「場所は、米花中央病院です」
「わかった」
すかさず佐藤にメールを入れる。即座に鬼のように着信があったがマナーモードにし、見なかったことにする。…それより、今は疲れた。
「よ、良かったぁ…」
蓮はぺたりと椅子の上で座り込んだ。さっきまでの気迫が嘘のように、ふにゃりと無防備に笑っている。本当にくるくる表情が変わって見ていて飽きない。
「……ま、よく頑張ったな」
「!えへへ…////」
思わず手を伸ばしてその柔らかな髪を撫でてしまってから、言い訳のようにそう付け加える。蓮は一瞬きょと、と目を丸くして此方を見つめていたが、俺の手に手を添えてはにかんだような笑みを浮かべた。
下に降ろされた蓮は、あっという間に警察関係者に囲まれた。俺はまだ日が浅いのもあり知らなかったが、前々から幼馴染みの探偵と共に事件現場で的確な推理をして捜査を手助けしたり、父親が元警察官なこともあり、沢山の警察関係者から可愛がられていたらしい。
すっかり終わった気でいる面々をすり抜け、現場に向かおうと歩き出す。今回怪我人は出なかったが、まだ米花中央病院に仕掛けられた爆弾の解除が残っている。
此方は恐らく萩原が出るだろうなと思案を巡らせ、運転席のドアを開けたとき、後ろからくんっと袖を引かれた。……##NAME1##だ。走って追いかけてきたのか、息が軽く上がっている。
「お兄さん、松田さんでしょう?」
「あ?何で知ってんだ」
「ふふっ**僕の命の恩人が、よく親友だって話してくれるから」
貴方が来れば、絶対に大丈夫って、助けてくれるって信じてたから、全然怖くなかったですよっ
(んのやろ……)
文句のつけようの無い、花が咲くような可愛らしい笑顔を浮かべて、今日はありがとうございましたと頭を下げると、此方の返事も聞かずに腕をすり抜けていった。
顔が熱い。動機がして、胸が苦しい。…認めたくない感情に気づいてしまった自分が憎い。
『恋に落ちるかなんて、運命なんだって。運命に知り合った時間も性別も年齢も関係ねぇよ』
親友の言葉を思いだし、アイツを笑えねぇなとガシガシ頭をかく。
危なっかしくて、目を離したら何をするかわからない。無意識に人を惹き付けて翻弄して…天使どころか小悪魔もいいところだ。…守ってやりたい。目の届くところに置いておきたい。
「大人を本気にさせたらおっかねーんだって、思い知らせてやる」
大人気ない?上等だ。本気にさせたやつが悪い。
さぁ、どうしてくれようか。松田はかの少年を思い、実に楽しそうにくつりと笑みをこぼした。
【松田編 完】→【現代編】