沈黙の15分
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ロッジに戻り、一行は朝食に舌鼓を打っていた。おかわり!なんて声を弾ませる父に、蓮は恥ずかしそうに肩を竦める。…もう。子供っぽいというか、落ち着きがないと言うか…。我が父ながら恥ずかしい…。
「ねぇ、彼が思いだしかけたのって…」
「あぁ、8年前崖から落ちたときの記憶の一片じゃねぇかなと思って…」
「それ、僕も気になって調べてみたんだけど、8年前のあの日は未明から雪が降っていて、ダイヤモンドダストは見られなかったみたいだよ?」
だったら、彼がみたものはなんだったのか…
(雪…ダイヤモンドダスト…雪に光があたればそれらしく見えるかな…?)
光…そう、いっそ車のライトのような。…今は考えるのをやめよう。食後の珈琲を飲んでいたカップを置き、ふぅと息をつく。ちょっと脳が疲れてるみたいだ。わからないことだらけなのに、憶測で推理しても仕方がない。
疲れたように目を伏せる蓮の頬に、ひんやりした手が添えられた。蓮は思わず肩を跳ねあげる。
「ひゃあ!?」
「オメー、また考え込んでただろ」
「ぇ、うぅん、そんなことないよ」
「嘘つけ。…何年オメーのこと見てると思ってんだよ、バーロー」
コナンはテーブル越しに身を乗り出して、俯く蓮の頬を撫でた。この幼馴染は、考え込んで考え込んで坩堝に填まってしまうと、元々体が弱いこともあって体調を崩しやすい。とても頭が切れ、博識な為に、推理も難なくこなしてすぐに真相にたどり着くが、こういった込み入った事情の時、悩ませ過ぎるのは良くない。
(過保護なんだからなぁ…むぅ)
小さく唇を尖らせてむくれる。拗ねたような可愛らしい仕草に、コナンはギクッと固まった。まさに青春まっただ中。阿笠はそんな二人…主に新一に苦笑し、哀は面白くなさそうに目を眇めた。
「蓮さん」
「ふぇ?っわ…!?」
てて…と蓮のそばに歩み寄ると、思わずかがんだ蓮の頭をわしゃわしゃっと撫で回す。柔らかな栗色の髪は柔らかく、するりと指を抜けていく。心地よい感触から名残惜しげに離れると、哀は頭の周りに???を飛ばす蓮に満足げな笑みを浮かべた。
「ガキンチョ達によく好かれるわねー、あんた」
「え、えへへ…**」
二人とも中身は大人なんだけどね…と心のなかで呟いて、蓮は乾いた笑いを浮かべた。
ロッジを出ながら、阿笠は子供たちはどこへ行ったんだと首を捻る。園子はキャンプ場の方じゃない?とあっけらかんと言った。
「そこで記念式典やるんだよね!」
園子の声に、蓮は時間を確認する。…現在は8:54。10時からの式典にはあと1時間とちょっとだ。
「危ないことしてないと良いけど…」
「オレからしてみれば、蓮くんもとっても危なっかしいけどな」
「え?どこがです?」
心底心外だとばかりに蓮は柳眉を寄せる。美人は怒っても美人なんだな、と何処かすっとんきょうなことを考えながら、成実は苦笑した。…この自覚していないところが質が悪い。
ばっと視線を巡らせてみれば、皆がうんうんと頷いていた。蓮は面白くなさそうに唇を尖らせて、つんとそっぽを向く。小五郎と蘭はその仕草が英理にそっくりだと思わず吹き出し、コナンは昔から変わらぬそんな仕草にふっと口許を緩める。
「…あ、ダムの方じゃない?」
蓮はふと前からやって来る二人の男に目を瞬かせた。園子は中々な声のトーンでダムをほったらかしにして大丈夫なの?と嘯く。
「ご心配なく」
「ちゃーんと留守番が二人、いますっけ」
「あはっ!聞こえちゃいましたー?」
無邪気な園子に、蓮はくすくすと笑う。ここの珈琲くらい飲ませてくださいよー!ご心配かけまーす!なんて気さくなダムの職員達に皆は小さく笑った。
ふと、コナンと蓮は前方に視線を送り、あ。と呟いた。僕後から行くから先行ってて!と駆け出すコナンに、コナン君は僕が見てるから、と蓮も後を追いかける。
「すいませーん!」
「こんにちは、お嬢さん」
冬馬に会いに来たと言う同級生の少女は、突然話しかけに来た少年と麗人に、驚いた様子で動きを止めた。蓮はそれを察して、困ったように微笑みながら、突然ごめんねと小首を傾げる。
「8年前の写真だね」
「丁度、今の君くらいかな」
写っていたのは、校門の前で笑顔でポーズをきめる5人の少年少女。首から下げた双眼鏡を大事そうに握り、カメラに向かって笑顔を見せる真ん中の少年が、冬馬くんか。
「あれ、この双眼鏡…ここ、学校だよね?」
「えぇ」
「学校に行くときも下げてたんですか?」
「そう。冬馬くんのトレードマークだから、外に出るときはいつもね」
と言うことは、必ずしも白鳥を見に行ったとは限らないのか…
蓮はふむ、と心のなかで独り言ちる。コナンは写真とは別の四つ折りにされた紙を広げた。クロ、とかかれたクレヨン塗りの犬の絵である。
「これは、私が冬馬くんに貰ったの。彼、本当にクロのこと可愛がってたから、その絵と写真を見せて、冬馬くんと話をしようと思ったんだけど…」
少女はぱっと頬を赤らめた。余計苦しめちゃうかな…?と困ったように笑う少女に、蓮はふわりと微笑む。焦らないでゆっくり寄り添ってあげれば、きっと彼の助けになれると思うよと話せば、少女ははいっ!と声を弾ませた。
(…!まてよ?)
あの時、氷川さんは四つ折りにした印刷物の外側を俺たちに見せた。だけど、普通は汚れるのを防ぐために印刷面を内側に畳むんじゃないか?
(…そうか、あの時の違和感はこれか…!)
コナンの発見に、蓮も気づいたようで顔を見合わせて小さく頷く。そっと紙を封筒にしまって少女に返すと、二人はロッジに戻らなきゃ!と走り出した。
「走ったら転ぶわよー!」
「大丈夫ー!っわ!?」
「ふふっ派手に転んだねぇ…たんこぶは?痛くない?」
蓮は傍らにそっと膝をついてコナンの頭に指を這わせた。みた限り少し赤くなっているだけで、まだ腫れてはいなそうだ。ばつが悪そうな顔をする幼馴染に苦笑すると、蓮はすっと立ち上がってスマートに手を差しのべた。
「はい。お手をどうぞ**」
「っ~~~!!////」
反射的に出してしまった手をすっと繋がれて、指をからめられる。えへへと可愛らしく笑う蓮にあ゙~!!と意味もなく声をあげてガシガシと頭をかいた。いつまでたっても蓮には勝てる気がしない。
まぁ、蓮に負けるなら本望か…なんてどこかぼんやり考えながら、二人は仲良く手を繋いでロッジへと戻っていった