沈黙の15分
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一方、外に連れ出された蓮は、コナンの意図が読めずにしゅんと柳眉を下げていた。一体何なんだ…?コナンは無言でぐいぐい手を引いて、ロッジの階段を降りバルコニーの下辺りまでつれてくる。
「新一、手が痛いよ…」
「……オメー、わざとか?」
「へ?ふわ!?」
突然強い力で押され、ぼすんと雪の中に尻餅をつく。状況が飲み込めずに不安げな顔をする蓮に、コナンは眼鏡をはずすとその細い肩に手を置いた。覆い被さるような体勢で顔を近づけるのは、小学一年生の江戸川コナンではなく、幼馴染の工藤新一で。
「煽んな、バーロー」
「!!??」
がぶりと噛みつくように唇が重ねられる。キスとは名ばかりの乱暴に唇を重ねるだけのそれに、蓮は驚きのあまり目を瞠り、ピシリと固まった。
(煽るな…って、僕いつ新一に喧嘩売ったんだろ…?)
混乱しすぎて一周回って冷静になってしまった脳内では、なんともすっとんきょうなことを考えていたけれど。
妙なところで天然ボケを発揮してしまう蓮。まぁ彼がその手の言葉をよく知らないのは、周りが過保護過ぎるほどに純粋培養して汚い言葉が耳に入らないよう徹底排除していた為であり、ぶっちゃけその筆頭だった新一のせいなのだが、そのお陰でスレ違ってしまっているのだから目も当てられない。
「蓮ー?どこ行ったのー?」
((!!蘭))
蘭の気配に、コナンはばっと蓮から離れた。赤くなった頬を誤魔化すように舌打ちすると、ばっと何処かへ走っていってしまった。蓮は呆然と己の唇に白魚のような細い指を這わせる。
(っっ―――!!!!//////)
何で、どうしてこんなことに…?煽るなって、無意識に喧嘩売っちゃってたって…でも、キス…なんで…?
ぐるぐる悩みに悩んで訳がわからなくなってきた。と、蘭はバルコニーからひょこっと下をのぞきこみ、尻餅をついたまま固まっている蓮に、あー!と声をあげた。
「もう!蓮どうしたの!?風邪引いちゃうよ!!」
「あ、え…あ、足が滑っちゃって…」
蘭に引っ張り起こされる。混乱もひとしおな様子で泣きそうに瞳を揺らす蓮に、蘭は血相を変える。誰に何されたの!?と声を荒らげる蘭に、何でもないから大きい声出さないで…と宥める。
雪を払いながらロッジへ戻っていく二人を看板の影で見送りながら、コナンは己の余裕のない行動に嘆息した。避けられるだろうか…いや、蓮のことだから不自然に見えるような行動はしないはず。後でちゃんと謝って、宥めて甘やかしてやらないとな…と心に決めて、コナンはどこぞへと走り去った歩美たちを追いかけた。
《じゃあ、じきに帰るから、皆に心配しないように言っといて!》
「分かったよ、気を付けてね!」
コナンからの電話をピッと切りながら、蓮はホッと息をついた。実は、先から姿が見えなくなっていた子供たちが、スノーモービルを悪戯して行方が分からなくなっていたのだが、無事にロッジへ向かう車の人に保護されたようなのだ。
(子供だからと行動力をなめていたな…良かった。雪崩に巻き込まれたり車に跳ねられたりする事もなく見つかって…)
迎えにいってくれたコナンと哀ちゃん、そして車の方に感謝だなと内心独り言ちながら、蓮は怒り狂う小五郎をまぁまぁとなだめていた。…のだが
「「「ごめんなさい!!!!」」」
「お前らぁ~~~!!!!」
いざ帰ってきた子供たちを目にすると、小五郎の怒りは爆発した。それもそうだ。人様から預かっている子供だもの、怪我やら、はたまた命の危機に晒しましたなんて責任問題になってしまう。
「まぁまぁ、毛利くん…3人も反省してるようじゃし…」
阿笠がそっととりなしてくれる。蓮はそんな父たちを尻目に、子供たちを送ってくれた男性に深々と頭を下げた。
「本当にありがとうございました。わざわざ送っていただいて…」
「いや、ちょうどこのロッジに用があったもんでね」
じゃ、俺はこれで。と軽く手をあげて去っていく男性に、蓮は再びありがとうございましたと礼をした。みんなもお礼を言いなさい、と成実に促され、子供たちも心底申し訳なさそうな声で、ありがとうございましたとお礼を言う。
もう皆に心配かけるなよ、と笑う男性に、ハーイ!!と元気よく返事をする子供たち。蓮は皆も早く中に入ろうか!と笑顔で促した。寒かったでしょ?と優しく頭を撫でると、歩美はうん…としょんぼりしたように俯きながら蓮の腕にきゅっとしがみついた。どうやら相当怖かったらしい。
中にはいると、子供たちはロビーに居た人影に、昼間の看護師さんだ!と駆け寄っていった。こんばんは!お腹の具合はどう?と笑顔で返事をする女性に、元太は全然大丈夫!と腹をさする。蓮とコナンは、昼間村役場で出会った二人組の男に目を細めた。あの二人は…
「あのぉ…もしかして、名探偵の毛利小五郎さんじゃ…」
「え?あ、オホンッ…いかにも私は、名探偵の毛利小五郎です」
事件の調査ですか?と言う山尾に、小五郎はいやぁ…と頭をかいた。阿笠も、子連れで仕事には来んよ…と苦笑する。スノーフェスティバルに来たんだと説明すると、そうですよね…と僅かに山尾の表情が和らいだ。
昼に見かけた眼鏡の男、氷川尚吾は紹介を始めた。彼のとなりに座る浅黒い肌の男が、山尾渓介。その向かい側に座るショートカットの女性が立原冬美で、その隣の髪をアップにした眼鏡の女性が遠野みずき。そして、先程子供たちを送ってきてくれたがたいのよい男性が武藤岳彦と言うらしい。
なんでも、皆元の北ノ沢村の出身で、氷川と山尾は記念式典に出席するために東京から出てきたのだと言う。
「じゃあ、皆さん幼馴染なんですか?」
「そう、小学校の同級生…」
「と言っても、村の分校なんで、同級生は俺達5人だけだけどな!」
武藤の言葉に、たった5人だけ!?と子供たちは目を丸くする。5人揃うのは8年ぶりだと言う氷川に、光彦は感動の再会ですねと声を弾ませた。
(…何故、8年間も会わなかったんだ?)
疑問を素直に声に出すと、氷川は一枚の新聞の切りぬきを取り出した。北ノ沢村でひき逃げ、という記事を。途端にみずきの顔が険しくなった。
8年前、東京で暮らしていた山尾は、おばあさんが一人で住む元の村へ向かう途中、村の入り口の山道で女性をはねてしまったのだ。怖くなった彼は、そのまま彼女の遺体を置いて村に逃げ帰ったのだ。そして、その数時間後、車がだいぶ壊れていた事もあって、逃げ切れないと思い自首したのだという。
「その頃こいつ、ギャンブルでサラ金に借金つくって、生活がめっちゃ荒れててな…。裁判じゃ、スピード違反に飲酒運転にひき逃げ…おまけにその時免停中だったもんで、モロモロプラスされて、今年の夏やっと出てこられたってわけ…」
「それじゃ、山尾さんが刑務所にいる間に…」
「ダム建設の話が起こって、村はダムに沈んだんだ」
最悪なのは、こいつが死なせちまった相手ってのが、当時18歳のみずきの妹のなつきだったんだよ。
辺りに重苦しい静寂が広がった。武藤は、氷川に視線を向けると、お前のことも許せねぇと声を荒らげる。ダム建設の話が起こったとき、真っ先に賛成して代替地を高く売って、さっさと東京へ出ていったお前の一家が許せないのだと。
自分達の大事なふるさとを売った氷川が許せない武藤と、世の中利口に立ち回らなきゃダメだと鼻を鳴らす氷川。子供たちの顔が悲しげに歪んでいく。蓮はもういいでしょう、とそっと声をかけた。子供たちに聞かせて良い話ではない。
阿笠もそうじゃな、とうなずいた。これ以上みなさんの邪魔をしては…みんな部屋へ戻ろう。と優しく促す。
「お邪魔しました」
流れるように綺麗なお辞儀をしてその場を後にする。蓮は最後にその場にいた大人たちの顔を見て、冬美の表情に目を細めた。…彼女にも、何か理由がありそうだ。
ふるさとを売った氷川にたいして激昂していた武藤。彼は先の爆破事件と何か関係があるのだろうか?そして、あの同級生たちは…
色々と込み入った事情のありそうな面々を思い浮かべ、蓮はそっと目を伏せた。