沈黙の15分
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コナンと蓮は北ノ沢村役場に向かった。入り口にはでかでかと「祝 開村5周年」という横断幕が掲げられている。
「北ノ沢村の地図?」
「うん!それと、ダムのガイドをください!」
「わかった…ちょっと待っててね」
蓮は何気なく隣の男性二人組を見た。眼鏡をかけたやせ形で少しウェーブがかった黒髪の男性と、山尾と呼ばれた浅黒い肌に髪を逆立てた男性。雪崩が続いてつぶれたスキー場の話などをしている様子から見て、恐らく里帰りか何かで漸く帰ってきた元村民と言ったところだろうか。
二人は役場職員から北ノ沢湖の図面と、それと同じ縮尺の元の北ノ沢村の地図を受け取った。山尾は二枚を見比べ、重ねて透かしたりしてしげしげと眺める。片方の男は、訝しげな目を向ける職員に、こいつがどうしても自分の生まれた家がダム湖のどの辺に沈んでんのか知りたいって言ってね…と説明する。
さ、行こうぜ!と二人が踵を返したとき、からんと服から何かが転げ落ちた。スタンガンだ。 マズイマズイなんて軽くおどけながら拾う男。
「ねぇ、おじさん…それって、スタンガンだよね?」
「お、よく知ってんな、ボウズ」
護身用ですよ、と微笑む。蓮はふっと目を細めた。護身用、ではそれなりに人から恨みを買いそうな仕事をしていると言うわけか。
「東京で保険の調査員なんかやってると、結構危ない目にも遭うんでね。外出するときはいつも持って出るんです。じゃ、お世話様」
軽く手をあげて去っていく男。妙な違和感を感じて暫しその背中を見つめていると、ポケットの中の携帯に着信があった。…蘭だ。蓮はコナンに短く断りを入れて外に出る。
「はい、もしもし…え、元太君が?」
調子にのって食べ過ぎちゃったせいで、お腹を壊したのだという。臨時診療所に居るわね、と言う蘭に分かったよと蓮は苦笑した。
「どうした?」
「元太君がお腹壊して、今臨時診療所にいるみたい」
あのバカ…とあきれ顔のコナンに、蓮は困ったように笑った。
夕食後、お土産をみたいと皆は売店に居た。子供たちは、担任の小林先生へのお土産を買うのに頭を悩ませている。
熊の饅頭、木彫りの梟、アイラブ白鳥と書かれたマグカップ…
(可愛いなぁ…あ、僕も生徒会のみんなに買わないと)
うーん、と小首を傾げる蓮と蘭の目の前に、園子はゆきんこの人形をばっと取り出した。心なしか、顔が園子ににてる気がする。
「ねぇ二人とも!これなんかどうかな?」
「え、っと…誰宛なの?」
「んもう、蓮ったら…真さんへのお土産よ!」
「あぁ~、良いんじゃない?可愛くて」
「うん。ちょっと園子に似てるしね」
「そぉ?」
似てると言われた園子は怪訝な顔でそれを見つめた。ついで生徒会の皆にあげるならどれが良いかなー?なんて蘭に相談している蓮にちらりと視線を送る。
「蓮は良いの?」
「え?良いのって、何が?」
「だから、新一くんへのお・み・や・げ!」
「あ!そうよ、蓮!買わなきゃ!」
「いや、いいよ…ほら、どうせ買って帰っても事件の調査で居ないんだから…(っていうか、今ここに来てるし…)」
コナンは会話の内容に苦笑した。今ここにいるんだから何ともな…。園子は曖昧に頬笑む蓮に目を眇めた。
「そうやって首輪もつけずにフラフラさせてたら、どこぞの女に代わりに首輪つけられちゃうかもよ?」
(首輪って、俺は犬かよ…)
「首輪…」
わんっ♡
蓮はこてんと小首を傾げ、はにかんだような笑顔で顔の横で軽く手を握る。所謂子犬を意識したポーズだ。それを直視した蘭、園子、コナンはピシリと固まった。園子に至っては手に持っていた土産物をポトッと土産物の山の中に落としてしまう。
(あれ、スベった…)
微動だにしない三人に、妙なやっちまった感を感じながら蓮はおずおずと手を下げた。だんだん恥ずかしさが勝ってきて、蓮はぴゃっと袖で顔を隠す。忘れて…と小さく呟く蓮に、蘭は録画したいからもう一回!とカメラを構え、園子は顔を押さえてはーっと息をつく。可愛い。声もなく内心悶えている園子を尻目に、コナンはぐいっと蓮のカーディガンの裾を引っ張った。
「蓮兄ちゃん。ちょっとこっち来て」
「え?」
「ほら、早く!!」
蓮はコナンに引きずられるようにしてロッジの外へ出ていった。二人と入れ替わるようにして、成実が蓮君は?と聞きながら歩み寄ってくる。
「蓮なら今ガキンチョに連れてかれたわよ…」
「へぇ…。…なんで顔を押さえてるんだ?」
「天使がいたからよ…」
心底意味がわからないという顔をする成実に、気にしないでくださいと蘭はそそくさとカメラをしまう。納得がいかなそうな顔だが、成実はそうかと呟くとそれ以上は詮索してこなかった。
「でも、まさか成実さんが蓮と一緒にいるなんて…」
「意外だった?」
「成実さんは蓮の事どう思ってるんですか?」
蘭の言葉に、成実はふっと目を細めた。どう思っている、か。
「蓮君は…オレの全てかな」
惚れている。あの優しさに、強さに、自由なところに。過保護だと言われるが、本当は真綿でくるんで誰にも見つからない場所に閉じ込めてひたすら危険のない安全なところで愛でてあげたいと思う自分がいる。
だが、持てるスキルをフル活用して交遊関係を広げ、情報戦を征すと言われたその能力も、大切なものを護りたいと願い、諦めない強さも時には無茶をしてしまうその危うさも、すべてが好き。
だから…
「オレは、妃 蓮って人間そのものを愛しているんだろうな」
っか~~!と園子が妙に親父臭い声をあげた。甘い、甘すぎる。砂糖吐きそうな位甘ったるい話だ。なんだか一瞬怖いことを言ってた気もするが、そんなこともどうでもよくなるくらい甘い。
「勝算はあるんですか?」
蘭は無邪気に質問した。蓮を狙うのは成実ばかりではない。新一、白馬、キッド、服部…FBIや公安、警察関係者、はたまた外国人まで、所謂「お友だち」にも狙われているのだ。まぁ、最大の壁は蓮の恋慕が自分に向けられたときに途端に鈍感さを発揮するところと、この蓮大好きな片割れだろう。成実は蘭の言葉に軽く笑った。
「勝算か…生憎とそんなものを考えている時間はないな」
ただでさえ引く手数多な、年下の可愛い想い人だ。考えている余裕なんてない。カッコ悪いかもしれないが、本気で好きだからこそ、なりふり構っていられないのだ。
「大人の恋愛は、子供が首突っ込むには少し早いな」
ぱちんとウインクして見せる成実に、蘭と園子は困ったように笑って肩をすくめた。